新たな一面
結局部屋から今野を追い出した僕はすぐに着替えを済ませる。急ぎだというのに無駄に戯れてしまった分をどこかで取り返さないといけないと勝手に感じているからだ。
「ほら、急ぎなんだろ? 早く行くぞ。要件は歩きながら聞くから」
「あ、そういえばそうでしたね!…ってそうですよ! 早く急ぎますよ」
切り替えると行動が早いのは彼女の特徴だし、いいとは思うのだが切り替えてしまうと前にしていたことをほっぽってしまう。しかし、いつもより活発でこちらの処理が大変である。どこに行くのかすら分かっていない僕を置いて行かれては困ると必死に追いかける。
結構な距離を走っただろうか。そんなに大きい集落ではないのになぜこんなに走らされるのかと思いながらひたすらに彼女を追いかける。息が切れかけたところで止まった。
「ここです! 静かにしないといけないところなのでそこだけはお願いしますね」
「はあ、はあ。今野ってもう少しおっとりかわいい系キャラだったよな。いつからこんなキャラになったんだ?」
何かを思い出したかのようにはっとした顔をしている。
「そうですよ! 私はおっとり超かわいい系キャラなんです! 忘れてください!」
髪を掻きむしりながらも顔が赤くなっておりとても忙しそうである。
「そういう一面もあるんだって覚えておくよ」
「むーっ。そういう意地悪はいらないんですよ?」
さっきまでの焦りきっているのとは対照的にしっかりと頬を膨らませて怒っている。もちろん可愛いくだが。
「その怒り方で何人の男を落としてきたんだ?」
「ほんっとうに佐藤先輩は連れない人ですね。そういう言い方はよくないですよ? 私だって乙女なんですから…」
「はいはい、話は終わってから聞きますから早く僕を目的の場所に連れて行ってくださいな」
「もー! 先輩はせっかくなんでもできるのに大切なことが下手すぎるというか…! はいはい、行きますよ!!」
あきれるような表情をしながら彼女は建物の中へと入っていく。なにか変なことを言ったのだろうか。しかし、たまには彼女と話すのも楽しいな。忙しいやつではあるが。
僕たちが入った建物は聖堂のような建物で周りには現代風の建物が建ち並ぶ中一つだけ異様な見た目をしている。ドラゴンですら入れてしまうような大きな扉をくぐり吹き抜けのエントランスを進む。終わりが見えない廊下をひたすら歩くとやっと人間サイズの扉が出てくる。
「先輩、今日の目的地はここですね、さっきも言いましたが静かにしないといけない場所なのでそこだけは本当にお願いしますよ!」
「はいはい、今野よりは静かにしていられるから」
「またすぐにそういうこと言う! もう!! 行きますよ!」
怒りの勢いに任せて扉を強く開く彼女。
「お待たせしました!」
えーっと静かにじゃなかったのかい?
今野君は遊び甲斐があるよ