山田君のお話。(後編)
~前回の振り返り~
お茶こぼした! 見つかった! 逃げる! いまここ! 終わり!
内容が一ミリもない、前回の振り返りを横目に後半のスタートが切られる。
そんな悠長なことは言っている余裕はない。俺はとりあえず、出口へ向かって全力で走って逃げる。運がよかったのかすれちがう人はだれもいない。これならバレずに、施設から脱出ができる…!
しかし、そう簡単には出られない。廊下をでて広間に出る。馬鹿な俺でも勢いよく出てばったりというわけに行かないことくらいは理解をしている。そんな俺は広間に出る直前で止まり、こっそりと周りに誰もいないかと確認をする。
「右よし、左よしっと。まあ、ばれても今頃だろうしな。ここからは走らなくてもいっか!」
俺は油断をして、大きな独り言を言ってしまった。
すると、後ろから。
「なにがバレていないんですか?」
そこにいたのは…誰だっけ。
「あ、今。私のこと誰だっけと、なってますよね」
こいつ…人の心が読めるのか?!
「忘れないでくださいね。ったく本当にこんな人たちの計画にのって大丈夫なのかしら」
「何か言いました?」
「さっきのあなたの独り言よりは小さいと思います。私は技術班長で現状本部長も担当している寺田幹葉です。いまのところ佐藤さんもいないので私があなたの上司なんですからね。ったく」
なんだろう、この子。とてもイライラする。多分、俺と馬が合わないやつだ。どうしよう。早くどうにかしてここから離れたい。
「で、何がバレていないのですか? あんな大きな独り言を言うほどの隠し事でもしているのですか」
「そ、そういうわけではないんですよ? ええ、そうとも」
なぜここまでバレているのかとても焦りはするがここで露骨な態度をとるとバレかねない。ここはなんとかせねば。
「露骨に焦って…」
「はははっ! あっ! あっちにUFOが!!」
これは我ながらうまい考え。視線をそらさせてそのうちに逃げる。勝った…!!
「何をしているのですか。それでだませるのは小学生くらいまでかと」
なん…だと?! これに引っかからないだと!?
「なんかしゃべったらどうですか? なにかあるのかと聞いているだけなのですからなけ…」
「ふふふ、我としたことが…。」
なぜか、彼女はため息をつき立ち去っていった。ふふふ、俺の勝ちだ! 勝ったんだ!!! アーネの話し方を真似すればいけるとはなかなかやるな…。
そのまま、施設を後にした俺は街の隅っこの空き家に隠れることにしたのだった。
幹葉が立ち去った理由、あきれただけです。