山田君のお話。(前編)
前回までやっていた今野さんのお話、山田君視点です。たまには、こういうのもね?
そのとき、俺はお茶を飲んでいるだけだったんだ。
ここにいると異世界にいると言うことをついつい忘れてしまう。魔法が基本のこの世界で科学の恩恵を受けられるのは本当にうれしい。それがこれっ!
「ペットボトルのようなものにはいったお茶~」
ふふんっ。この街でお茶が取れている気配もないし、ペットボトルを作っているところもある気配が全くないのにある、このペットボトルのようなものに入ったお茶。自販機もどきもあり、ここにいるだけで日本に帰って来られたような気がする。それがとてもうれしいんだ。
しかし、この出来事で俺のかすかな幸せの時間も一瞬で崩れ去ってしった。
手からお茶が滑り落ちていく。しかも、完成間近の大切な設計図の上に。これが運良くたてばいいとかそんな余裕のある考えは思いつかなかった。一目散に反対の手で取りに行く。
“パシッ”
手がお茶に追いつく。しかし、この行動がさらなる悲劇を生んでしまった。
きりぎり間に合ったと思った手はお茶の入った容器の下にぶつかってしまった。その結果、容器を握ることもできず、容器からお茶がばらまかれてしまった。すぐに容器を持つ。
これは俺でもわかる。やばい。どうにかしないと。とりあえず、水気を取るために近くにあった布をとり、図面を拭く。
俺の悲劇はさらに起こる。
「山田先輩…。なに、しているんですか?」
必死に拭いている俺に向かって誰かが話しかけてくる。っべ、見つかっちまったか。そう思いながら恐る恐る声の聞こえる方を向く。
「こ、今野じゃねーか!! 急にどうしたんだよ」
こいつ、見てやがったのか。しかも、何も知りませんオーラを全開に出しつつも全力で事故現場を見ているじゃねーか。こいつ、やっぱり性格悪いわ。余計なことを思いつつ、見られていたと思うと冷や汗が止まらない。
「偶然通りかかったら山田先輩がいたので声、掛けちゃいましたっ」
なにが偶然だよ。そのかわいい子ぶってるおまえここに来てからはじめてしただろ。ぜんっぜん自然にできてねーよ。だがな、今野。おまえがその気ならこっちだってしらを切ってやる。
「そ、そうか。佐藤がいないと俺たちなにも出来ねーからな。ちょっと肩身が狭いぜ」
ふっ、どうだこの俺の鮮やかな返しは。
「そうですね。つくづく佐藤先輩に私たち引っ張られていたんだなって感じます。でも山田先輩はすごく汗かいてますけどなにかしていたんですか?」
なんで裏切るの君っ!! ここは二人とも知らずで終わるところじゃん。言葉が出ねえ。
「…。」
「…。」
どうすればうまく、会話が成立する。そして、穏便に済むんだ。考えろ俺えええええっ!!!!!
「そうだっ! さっき走られたましたもんね。お茶も持ってる…あっ」
なんだこいつ、先制攻撃をしてきたと思えば急所を狙ってきやがった。もう俺は…おれはああああああ!!!!!
「あああっネモ君が呼んでいたんでした! ちょっとお話の途中なのにごめんなさい、失礼しま…」
荒らすだけ荒らして逃げるのか。それだけはさせねえ、巻き込んでやる。
「気づいているんだろ? 逃げなくていい。ごまかされる方は俺がきつい」
「すいませんでした」
やっぱり気づいてたのかよ! 気づいていたとわかるとそれはそれで恥ずかしい。が、ほかの奴らにバレるまでは口止め、バレたらバレたで巻き込む。そうしよう。
「まあい いい。とりあえず、ばれるまでは黙っておいてくれ。いいな?」
「はい」
なんで、急におとなしくなったんだ。やっぱり無視しようとした罪悪感は一応あるのだろうか。
「誰かに知っていると聞かれても、見てないって答えるなよ?」
「はい」
よし、どうにかなるだろう。とりあえず、人目につかないところに隠れるとしよう。
「とりあえず俺は街のはずれで隠れているからどこに行ったか聞かれたら知らないって答えてくれよ?」
「はい」
「よし、じゃあ解散」
なにか、間違えたような気もするがまあいい。とりあえず、逃げよう。
後半の山田君、癖強いですよね。ふざけすぎました。