ちやほやソーネちゃん
トンネルを出て、僕たちはビバーチェの街へと交渉へ向かっている。道中では喧嘩をすることもなく、順調に町の中へと入っていた。街中ではどの人もアーネを見かけると声を掛けている。さすがビバーチェの街の領主が溺愛している娘なだけある。街中の人から愛されている。しかし、それに対していつもの威勢の良さはどこか影を潜めている。
「おい、いつもこの街に来ると僕のうしろにいるけどしっかりと街の人へと挨拶してやれよ」
「いいのです。きっとみんなは佐藤に手を振っているのです」
「それだけは絶対にないだろう。ぼくなんか最近、来るようになったアーネのお供くらいにしか思われてないよ」
「じゃあお供として我の代わりに愛想を振りまくのですよ。我はお腹いっぱいなのです」
「お腹いっぱいなんて薄情だなぁ。ほら…」
「ビバーチェの街の皆様! 将来の街の領主様のお帰りですぅ!!」
ネモ君が大声で叫んだ。それを全力で止めようとするアーネ。ホントウニナカヨクナッタナア。
彼の掛け声で周りにいた人だけではなく、どこから出てきたのか分からないほどたくさんの人が出てきた。
「ソーネちゃん!! おかえり!!」
「おがえりい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」
「ソーネちゃん! 今回はどんな冒険だったの?! 楽しかった?! ねえ!ねえねえ!!」
彼女の気持ちがよく分かった。多分、一人で帰ると毎回こうなっていたのだろう。だから僕に隠れていたのか。次からは気を付けてあげよう。次からは。
そんな風に囲まれてしまった彼女を遠目に見ていると人だかりの中になにか見覚えのある人がいる。
「ソーネちゃん!! こっち、向いてえええ!!! きゃあああかわいいぞおおお!!」
あのおじさん。まさかと思い人ごみをかき分け中からつまみ出す。
「おぬし、何者だ! この街の領主である我の首根っこを掴むとは何様だ!!」
この喋り方。特徴的な一人称『我』 思い当たるのは一人しかいない。
「お久しぶりです。佐藤です」
とりあえず、つまみ出してみたものの彼の名前を知らないことに気付く。しかも、これでも相手は領主様である。これから交渉する相手の。
「さとう…? はて、我の知り合いにこんな奴がいただろうか…。とりあえず、衛兵!! こ奴を…」
「パパっ!! また佐藤を投獄しようとして!! 本当に今後帰ってこないよ!?」
僕たちがやり取りをしている事に気付いたアーネもこちらにやってきた。
「ああん。ただ、怪しい人を…」
「まだそんなことを言っているのですか! 佐藤は我の大切な仲間だとちょっと前に言ったのをもう忘れたのですか! 本当にもう口ききませんよ!?」
「それだけはやめてっ!!」
「じゃあ佐藤に謝って」
「あやまって!!」
「佐藤よ…。勘違いをしてしまってすまなかった。」
彼はそう言われながらもどこか不貞腐れながら謝ってくれた。というか切り替えのお早いこと。
「で、佐藤とやら、ここに帰って来たということはなにか用事があって来たのだろう? 我とて領主としてそれなりに準備があるでな。少したってから城に来たまえ」
僕のこと、さっきまで忘れていましたよね…。などという無粋なことは言わない。
ソーネちゃん、新キャラだと思った方も多いでしょう。そう! 彼女の本名はアーネ=ソーネ なんですよね。覚えていましたかね。え、もっとかわいい名前を付けてあげてだと…?
そんなこと言うと、ソーネちゃんパパに言いつけるんだからね!
今回もありがとうございます。また次回!