感謝
そして転んだ。いやそりゃね。暗いトンネルの中で段差もあるのに走って転ばないほうが難しい。さっきまでのいい雰囲気を返してほしい。こけた目の前でネモ君が必死に笑いをこらえているのが伝わる。
「し、師匠…だ、大丈夫ですか」
「笑いたいのはわかるんだけども助けて…ほしい。」
「わ、笑うなんてとんでもない! アーネは別として師匠は…!」
「だから僕だけじゃなくてアーネも助けて…」
そう言いながらネモ君の方を向くとそこにはアーネも一緒に立っている。おかしい。一緒に転んだはずでは…?!
「師匠…。助けるも何もアーネは転ばなかったので…。大丈夫ですか? 傷薬あるので使って擦りむいたところに包帯でも巻いておきましょう。これくらいなら、たいしたことないですよ」
彼は慣れた手つきで僕の擦りむいたところを手当てしてくれる。
「あ、ありがとう…」
圧倒的年下にママみを感じてしまったし、擦りむいたくらいで手当てをするなど子供の頃ぶりな気がしてなにか恥ずかしい。
「師匠が褒めてくれたっ!! やたっー!!」
彼は喜びのあまり、慎重に垂らしていた、傷薬が垂れ流しになる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ。。。」
「すみません! 師匠っ!! つい、感謝されたことがうれしくて…っ!!」
「ぼくってそんなに人のこと褒めてないのかな」
「「はい」」
まさかの二人の息がそろっている。これは本気のやつだ。僕としてはなにかをしてもらったら感謝を言うようにしているつもりだったのだが。たしかに、人によってはできてあたり前とか思っている節がある気がする。直していかねば。
「二人ともか…。こんなんで許される…というか適当に感じてしまうかもしれないが本当にいつもありがとうな。」
僕はそう言いながら二人の頭をなでる。どちらも嬉しかったのか二人には、見えないしっぽが犬の様にフリフリしているのが見えた。
「し、師匠…。急にデレるなんてずるいです! こちらこそここまで連れてきてくれてありがとうございます」
「さっきに続いて急にどうしちゃったの? 佐藤らしくないのですよ! ま、まあ受け取っては置くけど…」
どうやら喜んでくれているみたいでよかった。二人はまだ子供だしな。しっかりとほめたりしないと、そう感じたのだった。
こんなことになった原因の手をつなぐが抜け駆けがどうとか、という話はもうどうでもよくなっていた。仲良く三人で手をつないで転ばないようにトンネルを下って行くのであった。
文字数少なくてごめんなさい。