彼女の気持ち。
結局、二人は僕の提示した条件を飲む。どう見ても渋々ではあったが、まあいいだろう。ここに二人が残って帰ってきたら、街が消えていましたなんてなったら元も子もない。
しかし、さっそくルール破りが起きてしまう。
「師匠…。いつもは山田さんや今野さんが明かりを照らしてくれていたので良かったのですがさすがに師匠一人のライトだと…。あ、師匠がだめってわけじゃなくて心もとないのでて…てをつないでもいいですか?」
彼は照れ臭そうに言う。特段、嫌なわけでもないので
「ん、別にいいけど以外と暗いところ苦手なんだな」
「そ、そういうわけではないのですがたまにはいいのかなって」
「いいんだぞ? まだ子供なんだし甘えたい年ごろなんでしょ?」
今度は頬を膨らませふくれっ面になる。子供っていいね。そう思っていると
「抜け駆けですか!! それはだめとさっき約束したのですよ!」
抜け駆け? 約束? アーネは何を言っているんだ。
「抜け駆けだなんて人聞きが悪いこと言わないでください! 僕は普通に怖いんです!」
「彼は嘘をついているのですよ! 佐藤、騙されないでほしいのです!」
騙されるも普通に怖いでいいだろう。
「騙されるってまさか、アーネ。お前怖いの?」
「な、なにを言うのですか! 我ほどの魔法使いが暗いところごときで怖がるはずがないのですよ!」
「じゃあ、さっきから持っている杖がプルプルしているのはどうしてなんだい?」
今度は彼女がふくれっ面になる。いつもは大人びている…。賢く振舞っている彼女でも子供らしさをみるとどこか安心する。
「ど、どうしてもというのなら佐藤とて…。手をつないでやってもいいのですよ!」
「じゃあ僕はそんなに怖くないし、ネモ君もいるしいいかな?」
なぜか彼は勝ち誇ったような顔をしていたが僕の横はそんなに居心地がいいのだろうか。
「なんでそう、我には意地悪をするのですか! 我だって…、、我だって!!」
彼女は感情的になり、目から涙を流す。いつもは気が強い彼女の弱っているところを僕は初めて見た。ダンジョンでの戦闘やシャープ城での連戦で気が参っていたのかもしれない。ここ最近は彼女に頼りっぱなしだった。戦闘ができるのは彼女だけ。土地勘が一番あるのも彼女だ。しかし、僕たちは感謝の言葉をしっかりと伝えたことがあったのだろうか。気の強い彼女だって人間なのだ。しかもまだ、子供。それなのに僕としたら同列以上の存在として扱っていた。
色々考えているうちに僕はネモ君の手を放し、彼女を抱いていた。
「いつも色々ありがとうな。本当に助けてもらっていると思う。ここまで来れたのは絶対にアーネのおかげだよ。だから泣くなって」
僕の言葉が慰めになるなんて思ってもいない。でも、しっかりと感謝を伝えるべきだ。そう思った僕は考えるよりも先に、口から今の言葉が漏れていた。
「____っ!! 急になんなのですか…。今更遅いのですよ。でも…。」
「でも…?」
「なんでもないのですよ!! そこに少年が一人ぽかんとしていますしさっさと行くのですよ!!」
そう言うと彼女は僕の手を掴んで走り出した。
たまには救われてもいいでしょう。しかし、私に恋愛小説を書く才能がないとだけ断言しておきます。