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その8 世田谷区 丸正浴場さん(2018.07.05)

 下町をそぞろ歩きしておりました『そぞろ鷹樹』ですが、今回は趣向を変えまして、そぼ降る雨の中、やってきましたのは世田谷区の喜多見でありますよ。

 世田谷区銭湯のスタンプラリーに参加しておりまして、その一環なのであります。

 東京世田谷と申しますと、おハイソな住宅街を連想いたしますが、この喜多見、お隣が成城という高級住宅街であります。世田谷崖線という断層が通っておりまして、緑豊かな断層の上が成城、下が喜多見という地形なんでありますね。地価もぐっと安くて、下町の雰囲気なのであります。

 実は、この喜多見という町、相方と新婚生活送った町でありまして、籍もここ。「喜」を「多」く「見」るってな感じで、縁起が良い町なのでありますよ。

 新居を構えるにあたって、いろいろな町を見て回りました。

 ここは、その候補の一つだったのですが、「お家に池があって鯉が泳いでる」系で、下宿どころかアルバイトもしたことがないお嬢さんをお迎えするにあたり、生活利便はもとより、治安は最重要課題でありました。

「昼間の人の流れ」「夜間の人の流れ」「町の構造」「住民の構成」などチェックしましたし、危機管理担当者の知識とコネを使って、色々調べたモノであります。

 特に、犯罪者目線で「ここならタタキかませるか?」「トビかますならどこ?」「ノビコミできそうな死角は?」などと考えながらうろうろ致しました。

「おまわりさ~ん、コイツです!」

 にならなくて、本当によかった。

 こんなこと、一人でやったのは、少々相方とギクシャクしておったからで、マリッジブルーじゃありませんが、結婚式の打合せも、新居の場所も、新婚旅行場所の選定も、相方が急に尻込みしたからで、衝突することが多かったんですね。

 しかも、この時期だけはヤメてくれという時期までずるずる引っ張られて、頭に来ていたんでありますよ。

 当時の私の10月、11月は、かなりの繁忙期でありまして、お偉いさんの随行の出張の下打合せと現地下見、随行本番、新事業を立ち上げたばかりで、その責任者だったので、その打合せと段取り&事務処理。土日は結婚式場の打合せ。デパートに引き出物等の打合せ。新居の家財道具の購入。一人暮らししている場所の引っ越しの手続き。式当日の衣装合わせ。

 加えて、新居の内覧と町の下見。

 相方に選択肢を示して決断してもらわなければならなかった部分で、煮え切らないとイラっとして、ついつい声もあらくなりがち。

「ああ、成田離婚って、これかぁ」

 と、頭を抱えたものでした。

 相方にしてみれば、人生の重大な分岐点。

 夫になる相手は、酒飲みで貧乏でふにゃふにゃな、「ボラボラのマルコ爺さん」みたいな男。不安は大きかったでしょう。

 でも、私には、その不安を解消してやる余裕がなかったのでありますよ。


 相方の拘りは日当たり。そのお眼鏡にかなったのが、喜多見でした。

 閑静な住宅街というイメージの世田谷ですが、実は田畑も多いのであります。で、高い建物がすくなく、日当りがいい。

 相方の住んでいた武蔵野は、田畑と住宅が混在していて、似た雰囲気だったのも良かったのでしょう。

 出張、事業、式を最優先。

 新婚旅行は諦め、結婚休暇に私の部屋の引っ越しと、新居の引っ越しを同時進行させる作戦が建てられました。

 ほんとうに、いつ寝たのかわからんほど、疲労困憊した状態で披露困憊宴。

 適当に選んだ私の結婚衣装は売れないまま芽がでなかったしがないバンドマンみたいでしたが、相方の花嫁衣装はとてもきれいでした。胸大きいと、ドレスは映えますね。

 結婚式が終わると、式場が用意してくれたホテルの部屋に荷物を置いて、一日泥の様に眠り、翌日は調布の私の下宿先に直行。引っ越しの手続きと、汚れに汚れた部屋の清掃。

 ガスコンロは今まで使っていたものと新居のシンクのサイズが合わず、廃棄。

 あたらしく買うまで、山用のホエブスで煮炊きしていました。

 私の段取りがわるく、布団も間に合わず、新居初日は寝袋。

 明かりも2日間は、山用のランプでした。

 湯沸かし器が原因不明の不具合で、お風呂は近所の銭湯。

 完璧で快適な新婚生活スタートの予定だったのが、散々な事に。

 相方も、すっかり考え込んでしまって、申し訳ない気持ちで一杯でした。

 歩いてすぐの丸正浴場さんに、赤い手ぬぐいマフラーにして、二人で行ったのです。

「色々と、ごめんね」

 というと、相方は

「キャンプみたいで楽しいよ。銭湯は久しぶり」

 と笑っていました。

「落ち込んでいたよね?」

「うん、ちょっと悩んでいたの」

「ごめん……」

「これから、鷹樹さんじゃおかしいし、どうやって呼んだらいいかなぁって」

 

 私は、これを一つのミッション・インポッシブルと捉えて、がるるっていたのに、そんな事で悩んでいたのか? と、やっと肩の力が抜けました。

 許された気持ちになって、泣きそうになったのは、内緒です。

「じゃあ、ダーリンとハニーでいこうか」

「やだよ~」

 そんな、ささやかな幸せの記憶が残る、銭湯なのでした。


※今回の画像は 鷹樹烏介ツイッター

 https://twitter.com/takagi_asuke

 をご参照ください。





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