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世界と学校

今日は朝からキノコの授業。


キノコの担当は魔界史と人界史、そして人魔界史。


世界の狭間で生まれたキノコにしか出来ない授業だ。


広い教室、キノコ一つに生徒は一人。


「今の世界に勇者は六人。

神様がそうした、らしい」


神様はどこかへ行ってしまったそうだよ、と生徒に告げる。


キノコは続ける。人魔界を語る。


「今の世界は最近できた。人と魔の二つの世界はくっついて、この世界になった。なってしまった」


目の前で頭がふんふん頷いている。


「どちらかの世界が消滅し、どちらかは助かると当時は思われていた。結果は違った」


想定していた終焉とは違うものが現れた。


それが、そいつらが『終焉』。備えを怠った。


しかし、世界は終わらなかった。一つになって続いている。


「原因は勇者とも魔王とも言われているが、そこはまた今度。聖王国との関係もある」


当時はそれぞれの世界に勇者がいた。


しかし光の勇者は、三十年前の魔王との戦いで姿を消した。


魔王はその現在を知る。


「もちろんキノコも知っている」


光、闇、火、風、水、地の六人の勇者。


そして現在、私立勇者学校には勇者がいる。


生徒として、大地の勇者が通っている。


「君のことだ、勇者ヨルズ・オロトラ」


唐突に呼ばれた勇者は、とりあえずはにかんだ。


「照れる」


「何に?」


そもそも勇者は、世界の終焉を前にして生まれた強い力を持つ者達。


終焉に対峙できる稀有な存在である。


誰が何を教えられる。学校など不要。


風と水、二人の勇者を擁した国は魔王に言い放った。


「力だけでなんとかなるならそれも良かった」


しかし、現実はそうならなかった。


勇者と魔王の戦いで、世界は狂った。


魔王は誰よりそれを知っていた。


「やはりキノコも知っている。人の世と、人魔の世界を私たちは知っていく必要があることも、だ」


生徒に語りかける。また頷きが返ってきた。


そして魔王は旧魔界に学校を建て始めた。


配下の魔将にも指導方法を教育した。


「憤怒、怠惰、傲慢、強欲の四魔将。魔王直臣というのもあるのだろうが、彼らは人間に対して不思議と理解が深い」


大地の勇者が口を開いた。不思議じゃないよ、と。


「せんせぃ、優しいもん」


嬉しそうに言った。


大地の勇者は彼の者だけをせんせぃ、と呼ぶ。


他の者は呼び捨てなのに。


「そう? まあ憤怒のは人間。魔王軍ただ一人の人間というのもあるか。勇者ヨルズ?」


「はい?」


「私の名を言ってみよう」


「ルニハ!」


「せめて先生をつけて欲しい」


火を支配する憤怒の魔将スルト。


キノコは彼が恐ろしい。


現魔王軍最強の男。


彼は、元奴隷。人に売られ、魔物と育った。


世界融合の戦争で多くを殺し、魔将に成り上がった男。


炊事洗濯家事育児、一人で何でもこなす男。


目の奥に火を宿す男。


油断すると調理される。


ソテーにされる自信がある。


キノコは不死身だが、そういう問題でもない。


キノコは彼が本当に恐ろしかった。


「ルニハだったよね?」


「あ、うん。あってる」


目の前の勇者にとっては、彼の者こそが勇者。


だからキノコはそれを口に出さず話を変えた。


「ま、そんなこんなで準備は進んだ」


相互理解を深め、来るべく終焉に備える。


「力を失った魔王は、何かを残したかったのだろう。気持ちは分かる」


今、ようやく形になってきた。


「ここからはもう、本当に昨日今日の出来事だ」


「うん! ボクがここに入学した!」


「そ。憤怒のに、君、大地の勇者ヨルズが保護された」



それは去年のこと。


旧魔界と旧人界の混ざった不安定な地域にその村はあった。


水の勇者がいる国へ交渉に向かう途中、憤怒の魔将は視察がてら補給に寄った。


不安定な地域にあり、治安面が心配だった。


一方で、彼にとっては民間人と触れられる少ない機会。逃したくないというのもあった。


始まりの記憶は戦場。人と触れ合えるのは争乱。


憤怒の魔将スルトは、ずっと人の情に飢えていた。


「ああ、楽しみだ」


どんな野菜が植えられているのか、家畜の数は、人口は、全てを頭に入れてきた。


牧歌的で穏やかな村、オロトラ。


知れる限りではそれだけだったが。


「ああ、く、ふ、楽しみだ」


二十余年生きて初めて、喜びが胸から溢れていく。


急ぐために荷を減らし、先行して一人発った。


自身が出来なかった、或いは出来たかも知れない暮らし。


憧れていた。


しかし、そこで地獄が口を開けていた。


終焉の使者と言われる無数の『蛇』が村を襲い、村人達は喰われていた。

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