不思議なルームメイトのアリス
そう、俺は学生生活の一歩目、自分の部屋に入った瞬間に地雷を踏んでしまった。俺の教材が入った箱と制服が入った箱を勝手に開封している奴がいる。容疑者は目の前の少女で間違いないんだろうが・・・迷子か?迷子でもココの部屋に置いておく訳にはいかない。
寮長!寮長を呼ぼう!
「寮長ぉぉぉぉぉ!!!ちょっと!!!」
「なっ!何ですの!?」
驚かせてしまったがそれどころではない!幸運にも近くにいた寮長一行。さっき別れたばっかで少し気まずいが、渋々来てくれた。
「俺の部屋に知らない迷子が!」
「あなた、何を言ってますの?・・・この子はっ!」
俺の部屋をのぞき込むと、やはり迷子がいる。寮長はかなり驚いた顔をしている。そして俺に向き直り神妙な顔をして一言。
「あなたのルームメイトですわ。」
そう言い残すと、複雑そうな顔をして去っていった。去り際にリリーが「可哀想に・・」と、止めをさすようにレベッカが「死なないといいな」と不敵に笑い、去って行った。
なんなんだよ。まったく頼りにならねえじゃん。いるよねーそういう上司とか先輩、ないわー。
ボヤきながら部屋へと入る。迷子の少女がテーブルに向かって夢中で何かを書いている。落書きに夢中なのね。にしても、この子がルームメイトかな?だとしたら友達候補か!無下にできんな。なんせ俺の命がかかってるんだから。魔王の命を意のままとは、恐ろしい子!!あ、今ただの学生だ。
そんなルームメイトは白みがかった金髪を伸ばし澄んだブルーの瞳をしている。可愛らしいリボンを付けてるのも印象的だな。
部屋は2人部屋で、2段ベッドが置いてある。部屋はいい感じだ。 真ん中に低いテーブルが置かれている。土足で部屋に上がらないスタイルで、床には布が敷かれており、ソファーが置いてある。なかなかいい部屋だな。東の方にある国のスタイルを用いているみたいだ。
文句を言うのであるなら、ぬいぐるみがそこら辺に落ちてるって事だな。
何かを黙々と書いている少女が気になる・・・自己紹介しとく?
「あの・・俺はディル。よろしくね」
「うん」
「君の名前は?」
「アリス」
うぅ、しばらく誰とも会話してなかった。コミュ障になってしまったのか俺!!あぁ、面倒くさ、俺は魔王だ、肩の力抜こ・・勝手でマイペースが俺じゃないか。にしても、この子の白っぽい金髪見覚えあるなー。まぁいいか
「アリスそれ何書いてんの?」
「まほー」
まほー・・・魔法か。魔法の絵って何だ?
「見てもいい?」
「うん」
ほー、これは魔法式だな。魔法式ってのは魔法を解明する時に用いられる式だ。魔法は全て魔法陣でも発動できる。魔法陣は魔法を表しており、魔法文字という記号と、線で構成される。それを分解し線の向きや長さを数字に置き換える。すると魔法式になるのだが、正確に魔法を理解し、魔法文字についても知らなくては魔法式を書くことはできない。これが書けると魔法を作り出す事ができる。
ここ400年新しい魔法は出てきてないからてっきり書ける奴が少ないのかと思っていたが・・・子供でも書けるのかよ。ちょっと凹むな・・・俺ってばちょっと苦労したんだけどな~。
さてさて、アリスが書いた魔法式だが・・・ほー、なるほど。空中浮遊か。これ俺の出した本の理論が使われてるな。すでに皆使えると思って、適当に書いたオマケ要素なんだけど。魔法式に起こされてないってことは使える人いないのかな?
「なーアリス、空飛べる魔法って使える奴いないの?」
「ほとんどいなーい。みんな風で飛んでるだけなの」
「風属性魔法が生み出す上昇気流で飛ぶやつか、アレかっこ悪いと思うんだけど」
「そう!アリスこれ、こーやって飛びたい」
そう言って見せてきたのは絵本だ。空飛ぶウサギ・・・ほーウサギが最後のシーンでぷかぷか浮かんでる。空を泳ぐように飛ぶか。
「そっか・・・よし!いっちょ魔法作るか!」
不思議そうに首をかしげるアリスを他所に、魔法式を生み出す。あ、いや待てよ。魔法式からアリスにやらせた方が魔法の質が上がるな!この子は、魔法式を理解できてるから。もっと詳しく教えたら化けるかもな。
「アリス、このウサギの魔法作ってみな。分からないところあったら教えたる。一緒にやってみるか」
「うん!・・じゃあココ!うんとね、ここ、どうしても風魔法を使わないと重力に負けちゃうの。でもね?方角の数値と属性値がダメになちゃう。」
「なら重力を減らせばいいだろ?ココをこう書き換える。」
「それじゃ、安定しないもん!」
「そうだな、だけど今の時点で既に空間魔法が作れるんだ。これとアリスが組んだ重力魔法を合わせる。すると一定の座標に物体を固定できるね?」
「・・・そっかぁ!!!」
パァっと晴天って感じの顔になる。そこからは早かった。あっという間に式を完成させ魔法陣として組む。本当は周りに何もない空間で実験しないと、魔力が暴走し爆発した時危ないんだが、この子は魔法陣を起動するとどうなるか正確にイメージできてるみたいだ。優秀だ。
「ここで実験していいぞ、結界張ったから。」
そう言って俺がこの部屋に張った結界を表した魔法陣を見せた。この子ならこれで魔法の理解ができるだろ。
「す・・凄い。アリスより上手に魔法組む人初めて見た」
「そうか?ありがとよ」
安心した様子で魔法の実験をするアリス。小さなガラス玉を浮かせる実験をした。上手くいったみたいだな。フワフワと浮き上がるガラス玉を見て嬉しそうにするアリス。なんだかほっこりする。
「アリス、コレで飛ぶ!」
「部屋の中で飛んでみたら?」
「でも、アリスが魔法使うと爆発する。」
なにそれ危ない。一応魔眼を発動する。すると驚きの光景が見えた。薄々感じていたけど、恐ろしく膨大な魔力を持っている。この少女ヤバイ。初めてこんな魔力量の人間見たわ。これから察するに、魔法に流す魔力が多すぎて爆発するんだな。魔力を抑えてやれば問題なさそうだな。
すると、大気中の魔素を操り、魔法を一瞬でくみ上げた。嘘だろぉぉ!魔眼も無しに!?規格外すぎだろ。何この子・・・おもしろすぎ!
魔法発動を見ていると、やはり魔力が多すぎだな。止めようとアリスに魔力霧散の魔法をかけると、逆に俺の魔法を消滅させられてしまった。
この感じは加護だなー。魔法の影響を受けない加護か。加護所持者の保有魔力を超える火力の魔法をぶつけないと打ち破れないヤツだ。アリスの保有魔力的に加護を意識して使えれば無敵じゃん。
今は呪術も使えないし。てかアリスの加護、後で研究させてもらえないかな~。
そんな事をしている間に爆発した。ま、部屋は結界張ってあって平気だし、俺自身は頑丈だから問題ない。アリスは・・・加護あるしな。一番無事かw
「失敗しちゃった。」
悲しそうな、申し訳なさそうな顔で俯くアリス。俺にはいまいちその顔の理由が分からなかった。価値観の違いかなー、なんて思っているとアリスが口を開いた。
「アリスね、呪われてるんだって。だから魔法が使えないの」
「呪い?だって?」
「うん、神様がくれた魔法を使えないの。あと、きかないの。だから呪われてるんだって」
異常に多い魔力量のため魔法を壊してしまい、その稀有な加護により魔法の影響を受けないと。その現象の理由が理解できない人間達にはアリスが呪われて見えてんのか。あ~、それで寮長もあのリアクションね!
「よし、アリス!魔法が使えるように俺が治してやろう!」
「呪いをけせるの?」
首を傾げるアリスの青い瞳は、涙で濡れて宝石のように光っていた。その後、アリスには魔道具を持たせる事にした。魔力にリミッターをかけるものだ。俺も小さい頃はこーやって魔力制御したっけ。ま、もっと強力な魔法を使うのが良いんだけど、それも同時に教えるか。なんか宝石磨くみたいで楽しい。
人間界って案外面白いかもな。