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別段、恋愛に興味がないわけじゃなかった。恋愛ドラマは好んで観たし、恋愛小説や恋愛漫画だって好んで読んだ。所詮はフィクションじゃないか、と無下にする価値観を抱いたりしない。どころか、男女が抱擁し、キスをするシーンを見て「私もこんな恋愛経験をしてみたい」と感想を述べることの方が多いくらいだ。

 だけど現実問題、今日から24歳になってしまった私は、一度も彼氏が出来たことがない。貞操観念を保ち続け、24年間生きて来た。年齢=処女歴である。この事実を、今どきの高校生が聞けば、腹を抱えて笑いの的にして来るにちがいない。

 いっそのこと思う存分、笑うがいいさ。

 ここまでの話だけでは、私が、二次元に夢見て三次元をカスだと蔑視しているオタク処女(24)と命名したくなるだろうが、その判断は少し待って欲しい。

 まあ確かに、彼氏が居ない事実だけでも、同情の視線を浴びせられても仕方ないのだが……、私は何も、モテないというわけではないのだ。

 過去に36人ほどの男性から告白をされてはいる。それを私は全てお断りしたのだ。

 交際関係を自ら断ち切ったのである。

 中には顔が整っていて聡明、その上年収は1000万を超える、まるで完全無欠を具現化したような男性から告白を受けた事があるけれど、「無理。」の一言だけ残して、私は踵を返した。

またあらぬ誤解を招いてしまっているのなら先に断っておくが、決して私のハードルが高いというわけじゃないのだ。

 私からすれば、整った顔も、ブスも、勤勉も、怠惰も、熱血も、冷血も、正直者も、嘘吐きも、美声も、音痴も、運動神経の優れていても、運動神経が劣っていても、そんなことはどうでもいいのだ。見てくれや内面、性質など一切興味ない。

 私が一番大事にしているのは――心だ。

 思いやり。気遣い。そして、愛。

 人の気持ちを重視している。

 軽すぎず重すぎず、限りのない「ちょうどいい」と心地の良い好意が、私は欲しい。それはもう、喉から手がでるほど。

 愛に飢えていると言ってもいい。

 今まで私の気を引かんとばかりに寄せてきた好意は、つくづく私の求めているそれとは的を外れていた。私を巧妙な口説き文句で落とそうとする男は「私の気持ちを置いていくな」と呆れたし、私を不快な気持ちにさせまいと要望を確認しながら機嫌をうかがう男には「こっちも気を遣わなくちゃいけないじゃないか」と肩が重く感じたし、友達だと思っていた幼馴染の男から好意的な目で見てしまうようになったと告げられた時も「図々しいだろ」と苛立ちを覚えた。

 他の32人も似たり寄ったりだ。エトセトラエトセトラ。

 ここまで話してしまえば、今度は10人中が10人、私のことを「図々しいのはお前の方じゃないか」と言い出すのだろう。

 結局、色恋沙汰に一番高望みをしているのは、私なのだと。

 分かってはいる。そんなのは自分が一番分かっているのだ。

 でも、おこがましく言い訳をさせてもらうが、仕方ないじゃないか。

 惹かれないものは惹かれないのだ。傲慢だろうが、強欲だろうが、それが私の、心から欲しいものなのだから。嘘を付いているわけでもないのに、どうして咎められなければいけないというのだ。周りだって自分の欲に任せて、恋愛をしているというのに。

 童貞や処女、恋人いない歴=年齢というレッテルを貼られるのをおそれ、大して好きだと思っていない異性と付き合う人間がいれば、最初から結婚を前提とした素敵なお付き合いをしたいと思っている人間だって存在してもいいだろう。

 恋愛は自由ってよく言うくせに、なんで文句を言うんだ。

 そのくせ、まだ結婚しないのかと言ってくるのだから、内心穏やかにはいられない。

 私にはそんなことを言うけれど、それじゃあ、あなたの家庭は円満だと胸を張って言えることができるんですか?

 許されるのであれば、そう言ってやりたい。

 実際、夫婦だって家族だって、誰かが不満を抱いて生きているのが大半なはずなのだ――それをあたかも幸せそうに演じるのは、周りに対する見栄だとか、そもそも既に始まってしまった関係をゼロまで崩壊させる過程そのものが面倒だと思っているだろう。

 いや、この際は恋愛に限っての話じゃない。友達だってそうだ。

 関係を決裂すること自体は容易い。けれど、そこにはリスクを伴うことになる。

 第三者の人間関係のリスクだ。

 これはなにも色恋沙汰だけじゃない。友達関係だって同じことが言える。

 誰かと関係を断つことは、即ち、他の人との繋がりも切れてしまう可能性を高めるリスクに繋がることと同義なのだ。

 もしかすると、一番親友だと思っていた人とも不仲になるかもしれないリスクを背負うことになる。

 そんな周りを犠牲にしてまで、今の状態から脱出しようとは思わない。多少、自分が我慢をすれば、良い事も嫌な事もすべて、幸せだと言い切ることができる。

 家庭なんて、そんなものだろう――私はそう思う。

 だからこそ、私はそれを拒んでいるのだ。

 誰かがピリピリしているような空間にいたくない。

 いつまでたっても不幸から解放されない人生に、いつか私は耐えられなくなる。

 人格が崩壊してしまうかもしれない状況下に置かれたくないし、周りから可哀想な人だとも思われたくない(それより未婚だと哀れに思われるほうがよっぽどマシだ)。

 この人になら一生付き添っても構わない、むしろ付き添ってあげたい――そういう人と私は人生を共に歩みたい。

 怒ったり、哀しんだりしたくない。

 喜んだり、楽しんだりしたいのだ。

 理想が高すぎるなんて言われても、それが私の意識なのだから、別に良いじゃないか。

 むしろ、非難をする暇があったら、その家庭の雰囲気を良い方向に持っていく努力をすればいいのに。他人の幸せより自分の幸せを願ってろ。

 いますぐだなんて望んでいないし、いつまで時間が掛かってもかまわない。

 ただ、自分が納得のいく恋愛を、結婚を、人生を掴みたい。

 それが私の、心から望んでいるものだ。


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