13.大久保悠馬という男
大久保悠馬。ドーキンスの悪魔二号。
ドーキンスの悪魔一号と接触した際、イレギュラーな形で二号と化した彼。彼はそれから先、二十四体のドーキンスの悪魔と一人で戦い続けることとなる。
しかし二十四号との戦闘後、突如として姿を現したゼロ号との戦いの最中、彼はゼロ号と共に忽然と姿を消す。以降、ドーキンスの悪魔は姿を現さなくなる。
それから約一年後、世界は再び彼を観測することとなる。同時に失われていた筈のドーキンスの悪魔と化した人々の記憶も、我々に戻って来たことが確認された。
何故、記憶が突然回復したのか。そこにゼロ号と共に消えた彼が関わっているのか……その原因や因果関係は、今のところ分かっていない。
衛星からの映像では、彼がゼロ号と共に消える直前、ゼロ号が少女の姿に体を変身させていたことが判明している。その姿は彼の幼馴染の一人――
「春澤カナタ」のものと一致していることも、明らかになっている。
ゼロ号が彼のことを学習し、何らかの精神攻撃を加えていたと予想されるが、その詳細は不明のままだ。そして彼からはゼロ号と戦闘を行い、戻って来るまでの記憶が失われており、記憶の喪失に関しては偽りがないことが証明されている。
今後、彼をどのように遇するかについては、この質疑応答書が一つの検討材料となることを質問者としては望む。
尚、彼は現在、大学に復学する傍ら、我々に協力して様々なテストを受けているが、ドーキンスの悪魔としての力は完全に失われていることが確認された。
また、彼が戦ったドーキンスの悪魔二十二号から二十四号、並びにゼロ号に関する情報は、特に秘匿性の高い情報が含まれているため、質疑応答書内では割愛していることを述べておく。
彼と精神的に強い繋がりを持っている藤崎由梨の質疑応答書に関しては、事件当時の彼の行動の全容が明らかになるよう、その一部を適宜配置した。
以上が、私の報告となる。
ドーキンスの悪魔事件に関しては、不明瞭な点が多く残されている。そうした中、ただ一つ言えることがある。それは事件の当事者である彼が今もこの世界に存在し、多くの人間に認識され、生きているということだ。
今日も私たちは、町で、駅で、多くの場面で見知らぬ他人とすれ違う。その見知らぬ他人は誰かにとっての愛しい人かも知れず、しかしその実、我々にとってはやはり単なる他人に過ぎない。その人物を認識しようとしまいと、違いはないのだ。
そんな世界で、彼は確かに存在している。
戦う理由を問われても、個人的な感情の為に戦っているに過ぎないと、そう答えた彼が。その過去故に、人が事故に巻き込まれて死ぬのが嫌だと答えた彼が。
報われぬ世界の最果てで一人、戦い続けた彼が。
大久保悠馬という男は間違いなく、この世界に存在している。
そのことだけは、確かな事実だ。
R.E.A.S.O.N./InterView ――END――