00.ドーキンスの悪魔事件
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『動物園に隕石落下か? 爆発音の後、穴が見つかる』
20XX年4月25日。愛知県名古屋市東区にある「南山動植物園」に、隕石と思われるものが落下。同園内の南東に位置する植物園に穴が生まれた。
午前九時頃。爆発音がして現場周辺に従業員が駆けつけると、木がなぎ倒されているのを発見。その中心に穴が見つかった。調べによると、穴の大きさは直径十五メートル、深さ六メートルほどになるという。
空から飛来する物体の目撃情報や、隕石のかけらと思われるものが現場から多数見つかったことから、専門家は隕石の落下によるものとみている。
尚、開園前の時間帯であったため、幸いけが人は出ていない。「南山動植物園」は26日、27日を臨時休業とし、28日より平常通り営業を行う予定。
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20XX年4月。隕石と思われるものが名古屋市に落下した際、事件は以上のように報道された。後に日本国政府は、「専門家の協力を得て詳細を調査した結果、地球付近を通過中の小惑星から分離した、比較的小さな隕石が落下した模様」と発表。
「隕石落下」のニュースは、一時的にメディアやSNSを騒がすことになる。
だが多くのニュースがそうであるように、隕石落下の報道も直ぐに消費され、日常の中に埋没し、やがて人々から忘れ去られていった。
――しかし、公式発表と事実は異なっていた。
その日、空から飛来した物体の落下地点に駆けつけた人間は、地球外生命体の遺伝子と接触を果たした。以降、名古屋市を中心に発生する一連の事件、
「ドーキンスの悪魔事件」の発端となる出来事である。
地球外からやってきた未知の遺伝子。ウイルスに似た特性を持ったそれは、人間を異形の“ 怪物 ”に変化させる力を持つことが、研究で明らかになった。
宿主となった人間は人としての意識を奪われ、怪物の生存・増殖原理に則って行動を取る。関係者が彼らを指して、怪物遺伝子の乗り物――「ドーキンスの悪魔」と呼ぶことになる、一つの由縁である。
人類との接触後、ドーキンスの悪魔は増え続けた。結果、合計二十五体の姿が確認されることとなるも、ある特殊な変化をした個体との同族争いの果てに、約一年後にはその全てが地球上から姿を消した。
これは「ドーキンスの悪魔二号」と呼ばれ、地球外生命体の遺伝子に侵されながらも戦い続けた青年と、その関係者の質疑応答を纏めた記録である。