ミドルフェイズ1
8年後。成長したエルとアイネは、年長者として施設で子供たちの世話を手伝いながらも、果たすべき目的に対して、準備を進めていた。
旅立ちの日まではあと少し。しかし、なんとなく、そのきっかけを掴みかねていることも事実だった。
GM:あれから8年が経って、2年くらい前にフォードとサーシャはこの街――ヲルガノンを出ていますね。16歳になって、冒険者として旅に出るぜーっと出て行ったわけです。
エル:なるほど。
GM:成人が大体そのくらいのイメージ。その時エルが一緒に旅立たなかったのは、アイネが16歳になるのを待ってたって感じかな。
エル:ああー、なるほど。
アイネ:はい。でも、今年で16歳になりました。
GM:うん。それで、アイネがめでたく16歳になったわけだけど、今のところ、貴方たちはこの街にいる感じですね。今エルたちのしている仕事は……えっと、何してるの?(笑)
エル:邪神とか復讐とか色々あるけど……。
とはいえ、施設に世話になっている身で、迂闊な行動はできない。
2人は、ありふれた仕事をしつつ、時には修行をしたりしながら、来るべき時を待つ。
そんな生活を続けている。
GM:とりあえず、今のところは普通に生活してる感じで。2人とも良い歳なんで、仕事して他の子供たちを養ってると思って下さい。
アイネ:施設の子たちですね。
GM:はい。で、イルカさんが……あ、イルカさんは、子供たちを見てくれる施設のお姉さんです。フォードを含めて、皆さんたちにも、昔からよくしてくれた人。
エル:あー、施設のお姉さん。
GM:そんなイルカさんにエルたちは呼ばれています。
アイネ:きっとイルカはこんなことを言ってます。「○○くんはようやく里親になってくれる子が見つかったからこれでお別れよ、お別れ会をみんなでしましょう」(笑)
GM:あ、そうですね。本題ではないんですが、その話を先にしておきましょうか。
アイネ:(イルカに扮して)「その為にもみんなでどうにかしてお金を集めて、大きなパーティにしましょう」
GM:そうそう。
アイネ:まぁ別に施設なんで大したものはないでしょうけど……。
エル:その準備を手伝って欲しいわけだね。
アイネ:じゃあ私はゴミを拾ったり色々なことをしながら集めてきた少ないお金でどうにか豪勢に料理でも作るとしよう。
エル:なるほど。
GM:それで、この施設では、比較的こういったパーティをよくしていることを2人は思い出すよ。
良い形で施設を出ることが出来れば、それに越したことは無い。
しかしながら、出ていく子供たちの数も、入ってくる子供たちの数もいささか多い気がしていた。
少なくとも、ヲルガノンにはそれほど子供の引き取り手がいるようには思えない。
10年近い日をここで過ごしてきたエルたちであれば、簡単に理解できることだった。
エル:何だか怪しいなぁ……。
GM:これについては、なんとなく心の片隅に留めておいてもらえれば。次回への伏線ってやつだね。
アイネ:なんでこんなところにいるんだろう、私たち。
GM:シナリオの都合ってことでひとつ(笑)。
GM:気を取り直して本題に移ろう。イルカが二人に向かって言うよ。
GM:(イルカに扮して)「ありがとう、二人とも。フォードとサーシャはお金を送ってはくれるけど、それでもここには大人の手が足りないから……本当に二人がいて助かってるわ」
GM:フォードとサーシャは冒険者やって手にれたお金を仕送りしてる感じですね。
エル:ふむ。
GM:(イルカに扮して)「そう言えば、アイネも16歳よね。アイネが16歳になるまではここにいるつもりだってエルは言っていたけど、どうするつもり?」
GM:(イルカに扮して)「ああ、勿論、出て行けって意味じゃないのよ。私としては、まだまだいてくれて良いんだけど。手がかかる子も多いしね」
アイネ:それはごめんだよ。
GM:(イルカに扮して)「何か目的があるの?フォードたちのように、冒険者にでもなるの?」
アイネ:それはキミには関係ないだろう、と言って睨みつけます。
エル:そうだな、んー……じゃあ嗜めるようにアイネ、と名前を呼ぶよ。それから……
GM:じゃあ、困ったようにアイネを見ていたイルカは、エルのほうに目線を向ける。
エル:この街にいても俺たちがこの施設に出来ることは少ないでしょう。俺たちも外に出てこの施設の為に旅をして見聞を広めながら、仕送りをしようと思います。
GM:(イルカに扮して)「でも、心配だわ」アイネのほうを見ながら。
エル:ありがとうございます。ですが、俺たちももう子供ではありません。
GM:(イルカに扮して)「そうね。貴方たちが来た頃はこんなにちっちゃかったものね」
GM:ちなみに、イルカは皆さんより年上で、25歳くらい。
アイネ:ああ、はい。
GM:(イルカに扮して)「大きくなったものね……相変わらずアイネは貴方にしか懐かないけれど」
アイネ:懐くとか懐かないとか、そういう動物の扱いみたいな言い方はやめてくれないかな。毎回毎回キミは人を人とも思っていないところがあって、僕は正直嫌いだったよ。
アイネの一言に、イルカは目を顰める。少し、周囲の温度が下がったような気がした。
イルカは誰にでも優しいし、物腰も柔らかい。彼女のことを悪く言う人は、ヲルガノンにも殆どいないだろう。
しかし、アイネは彼女の何かが気に食わなかった。
人のことは言えないが、アイネはイルカの施設の子供たちへの接し方に対して、どこか違和感を覚えている。
エル:アイネ。イルカさんは俺たちの世話をしてくれた恩人なんだ。そういう態度は取るものじゃない。すみませんイルカさん。
そう、エルが割って入る。イルカは気を取り直したように笑顔を浮かべて2人に向き直った。
GM:(イルカに扮して)「いいえ、気にしてないわ。とりあえず、今日もそろそろ夜も遅いし休みましょうか」
アイネ:……。
GM:そう言い残して、イルカさんは去っていく感じかな。
アイネ:私は、全くキミはいつもイルカの肩を持つんだな、とブーたれています。
エル:……そうじゃないさ。俺はアイネが周りから悪意を向けられるのが嫌なんだ。
アイネはひとつ、溜息を付く。
すっかり気が削がれてしまった。それと同時に、イルカへの疑念も薄れていく。
アイネ:キミは全く奇特な奴だよと言いながらも、後ろを向いて、そっとエルの元に寄り添います。
エル:その手のことは今までにもよく言われてきたが……どうしてだろうな。アイネから言われると、悪くないと思えるよ。と言って、少し微笑むよ。
アイネ:フンッと毎度のごとくそっぽを向きながらもですね、少し頬を赤らめて距離だけは近付きます。
エルは、アイネの頭に手を置きながら、考えていた。
この街を離れない理由は、アイネの歳のこともあったが、イルカに対して、どこか後ろ髪を引かれる思いを感じていたからだ。
それをアイネに言ったら、また不機嫌になるんだろうな、と心の中で苦笑する。
とりあえず、イルカのことは置いておこう。それがいい。
エルは、なんとなくそう思った。
GM:はい、じゃあそんなところでいったんシーンを切って次の日にしましょうか。
エル・アイネ:はーい。