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超絶コラボ対戦 -異世界の戦士達-  作者: 超絶暇人
真里VS夢姫
4/11

第4話 薔薇夢の姫は苦無で遊ぶ

 第三回戦! 夢姫と真里の対決! 女ってのはいつ如何なる時でも恐いよねぇ

 前回までのあらすじ────



 気が付けば『オリキャラコラボ対戦』も既に三戦目に突入!

 前回は究極の無酸素運動の激闘の末、先に体力切れを起こした優一の戦闘不能に依る海斗の勝利に終わった。今回の闘いは女の対決! 果たして、勝利を飾るのは『眠り姫』か? それとも『微笑む福神』か?



────────────



【補正結果】

真里→苦無使用時の運用性自由化

夢姫→能力レベル上昇

・真理、八式等の全力禁止(例外有り)

・夢姫、一定毎に技の使用不可

・両者のステータス変更


 真理

攻撃力=100%→110%

防御力=100%→80%


 夢姫

攻撃力=100%→90%

防御力=100%→120%



────────────



 優一と海斗の時、それは一種の宇宙だった空間が、この二人の場合、それは深紅へと染まり、同時に血生臭くもあった。場所はとても立派な城の中、城内の宴会場、強いて"ダンスホール"と言うべきか?


 映画等でよく見る貴族達が派手に着飾って互いに踊るような場所だ。そんな場所で、何故鉄同士の擦り合う音や指の骨を鳴らす音が聴こえるのか……


 答えはこの二人が知っている(・・・・・・・・・・)、夢姫と真里の二人が。


「よし、では伊薔薇 夢姫VS大丈 真里、よーい始めッ!」


 早速瀧沢の合図で何処からともなくゴングが鳴り響く。ゴング音と同時に何か"鋭い一閃"が夢姫の立つ場所までを電光石火で飛翔する。それは脊髄反射(むいしき)を逸脱する速さを誇る真里の苦無(クナイ)だった。


 そう、文字通り反応は疎か、反射すらも出来ない速さ、つまりはこれで死亡(つみ)。まさか、まさかと思われていたまさかが今正に展開され、夢姫の額に苦無が刹那に、残り数ミリで突き刺さる。



 ────その筈だった……



 直後、夢姫が動いてないのにも限らず苦無が一人でに真横に逸れて金属音を立てつつ地面に落ちた。その一部始終を見ていた実況者の瀧沢は、その場の光景と雰囲気に対して不思議そうに口を開いた。


『おいおい、コレは今能力が働いてるよな? 何も起こってないけどどうやら二人の間では"何か"が起こってるみたいだ』


 瀧沢にはどうやら何の影響も無く、勿論観覧モニターにも夢姫と真里の二人は動いていない。つまり、これは何を意味するのか、結果を察する事が出来るだろうか?



「────無駄です、貴女の苦無なんて私には届きません(・・・・・・・・)よ、大丈 真里さん」


 真里の目に映るのは実に信じ難い光景だった。脊髄反射を上回る速さをで繰り出した苦無がいとも簡単に弾かれた、しかも触れてすらいないにも関わらず払い除けられてしまったのだ、驚かない筈が無い。


「零式……」


 この夢姫なる相手、只者では無いと感じた真里は服の袖から飛び出す苦無を素早く持って構える。苦無を装備した瞬間に"八艘跳び"のように超高速で8回ほど左右に跳ねつつ前進する。


 跳躍8回目で真里は夢姫の目前まで一気に距離を詰めるのだが、同時に対象である夢姫の膝から下が忽然と消失した。何が何だかわからない真里は夢姫の膝を見ようと真下を覗いた時、突然喀血した。


 喀血した真里の喉には、真里の手では無い指が奥深く肉を突き破り、刺さっていた。自身の首に突き刺さる指が引き抜かれると同時に、真里の喉の中にあるホース上の器官、つまり"気管"も引っこ抜き、そこから更に喉が血を排出した。


 喉の気道器官を引き抜かれ、真里の首の中身が見窄らしい空洞を作り上げた。真里が仰天の最中に目をひん剥いて見詰めたのは、膝を曲げて背面反り(マトリックス)状態で右手に真里の喉から引き抜かれたであろう血に塗れた気管を握り締め、優しく微笑む夢姫だった。


 その際の笑みが真里には恐ろしく見えたのは言うまでも無いだろう。高速で動作する世界故なのか、喀血してから自らの体も、夢姫の体も動かず、また痛みも次第に消えていく。


 真里は自身の感覚が徐々に薄れつつあるのだろうと思ったその時、口周りから血が消え、喉の穴、喉から失くなった気管が元に戻っていた。同時に、自らの位置も変わり────否、正しくは元に戻った(・・・・・)


「んッ……早速倒してしまおうと思ったのですが、ダメですか。厄介な補正ですね、妥当と言えば妥当ですがね」


「────ま、まさか……今迄の全てが、まさか……」


「時間は凡そ2分、短いスパンですね」


 御察しの通り、真里の今迄に見ていた光景、体験した全ての現象が『幻想(まぼろし)』だったのだ。いつの間に幻術に掛かっていたのか定かでは無いが、この力は夢姫の持つ能力が齎した効果だ。


 その名は『頭顱冒涜(スプリース)』、この世から失われたであろう魔法の一つ、相手の脳、神経等を刺激する事を可能とし、使い方次第では人を"人"で無くする事も容易い。恐らくは……否、確実にこのスプリースに真里は掛かっていた。


 本来幻覚とは、実際には外界からの入力が無い感覚を体験してしまう症状、詰まるところ『病』と同義。このスプリースは、どうやら真里の脳に直接の刺激を与えて無理矢理な器質疾患を引き起こし、同時に五感神経を狂わせると言った事を成したのだ。


 補正としてある『能力レベルの上昇』はスプリース等の魔法精度を底上げしているのだろう。そしてスプリースの行った無理矢理な脳刺激は図らずも真里に深刻なダメージを与える事になる。


 そんな強力になってしまった力の反動として、マイナス補正、『一定毎に技の使用不可』がある。この補正効果は、一定時間経過毎に20秒間のみ如何なる技や魔法や力を使えなくなり、その間は完全な徒手空拳状態となる。



『何の為の補正だと思ってるんだ夢姫さんよぉ。プラスにはマイナスが働く、引け劣る部分に長所が生まれる、優れた力には代償が要る、それだけの話だぜ?』



 なるほど、と優は誰もがそう言える程の納得の行く意見を述べた。


 短所を活かすも長所を殺すも己自身、使い手次第、全ては今その場に立つ本人に委ねられている。つまりはそう言う事、それが全て、ならばそれは真里にも同じ事が言えてる筈である。


 夢姫の徒手空拳時間である今、真里は苦無を二本持って顔ごと姿勢を低くして突進する構えを執る。そっと緩やかに呟く言葉は、ただの宣言でしか無いのに、真里の口から出た言葉はドス黒く、僅かに見上げた顔からは"微笑みなんて呼べない形相"が有った。


「零式。貴女には少々、痛い目(臓物ぶち撒けて)に遭って(脳漿撒き散らして)頂きましょうか……」


 微笑む福神とは何だったのか? いや、寧ろ真里の現状を見たからこそ、そう呼ばれるだけの由縁が伺い知れる。笑顔の由来は、本来獣の威嚇の表情から来ているのを皆は御存知だろうか?


 原点は森等で視認出来ない相手に対し、牙を剥いて威嚇をしたところ、それが危害を加える相手で無かったり、自身の仲間だったりした時に、敵意が無い事を示す為に牙を剥いた状態から口角を上げ、親和性を示した笑顔に転じさせた事が始まりだ。さて、ここで話を振り返ろう────


 ────笑顔の意味とは友好性の示しとなっているが、原点回帰の事実とは、即ち『笑顔の奥』、隠された"殺意"である。その真意、真里の言葉の奥底(ルビ)から垣間見得る筈である。


「あら、貴女ってそんなに怖い御方でしたかしら? 笑顔がまるで"人殺し"みたいですよ」


 眼球を引ん剥く程に目蓋を開き、口角を鋭利なまでに釣り上げ、その顔は言葉にするなら"人殺し"より"悪魔"が正しい。真里は夢姫の言葉を意に介す事無く、腕を広げて猛然と駆け抜けた。


 真里の走る速度は目で追える速さ程度だ、しかし走りながら両腕を何回も上に下に広げ、まるで『何か』を展開しているように見えた。その展開の動作で自らの持つ本来の速さを犠牲にしているようにも見えるが、そうでは無い。


「夢姫さん、例え幻覚とは言え、私を殺した事……後悔させてあげましょうッ!!!」


 瞬間、目の前で跳び上がった真里を見上げる夢姫に向かって周囲から6本の苦無が高速で飛来する。何処から飛んで来たのか、それよりもいつの間に苦無が投げられたのか、それは今迄の光景を遡ればわかる事。


 先程の真里の動きは何か変だった。腕を何度も広げたり狭めたり、その動作の際に手元から光の反射を夢姫は見た。つまりは苦無だ、真里は腕の振りで苦無の装填と投擲を繰り返し、その上で夢姫に向かって駆けていた。


 ところが問題はそこでは無く、夢姫に向かって突如周囲に現れた苦無だ。だが優の提示した補正内容を思い出せば事は即座に解決する、それが『苦無使用時の運用性自由化』と言う補正。


 しかし苦無の運用性自由化とは言えども、まさかその運用性の範囲が『苦無の方向操作』にまで及ぶとは誰が思うだろうか? しかも真里はそれをあろう事か難無く使い熟していたのだ。


「やはりこれくらいの事は出来ましたね。この補正、私大好きです」


 真里が自身の補正、そして今現在の夢姫の姿を見下ろして北叟笑む。悪魔だ、そう思った夢姫は視線を下ろし、間も無く突き刺さる距離まで接近している苦無を素早く一回転して6本全てを確認すると、回転の勢いを殺さずに膝を曲げてそのまま屈んだ。


 夢姫の持ち得る身体能力を全て費やして屈んだ事で、間一髪苦無が当たる事無く、6本全てが互いに直撃して弾き合い、夢姫から離れた場所に落下した。しかしまだ真里が残っている、跳び上がった真里は両手に1本ずつ苦無を構え、真っ直ぐに振り下ろす。


「3……」


 額から汗が流れる夢姫は自身の本来有る身体能力を越えての動きとして、頭を、上半身を背後に引く。時間経過は間も無く20秒に達する、それを脳内で計算していた夢姫は、今だけでも、と回避に全神経と全運動を注ぎ込む。


「2……」


 真里の両手から振り下ろされる苦無を夢姫は頬を辛うじて掠めない辺りで躱し切った。しかし真里は回避を既に見越していたのだろう、振り下ろされた両手は即座に動きを変え、今度は下から上へ両手を振り上げ、苦無は夢姫の両眼へと飛んで行く。


「1……」


 残り1秒、後は身を任せて経過を待つだけだが、苦無はやはり想像以上に速く、夢姫の身体能力や今の体勢からで無くても勿論の事ながら回避は不可能。まだか、まだかと待ち侘びる1秒、未だ遠い彼の1秒。


 ────間に合え!


 そう、心で叫ぶ寸前、苦無は角膜に触れようとしていた。時間は残り1秒、しかしこの1秒、研ぎ澄まされた神経の鋭さに比例して恐ろしく永く、夢姫はこの一瞬だけ無限に近い時の流れを堪能する羽目になった。


 早く……


 早く──


 早くッ!!!



「0! 『凍檻是獄(アイスプリズン)』ッ!」


 遂に訪れた0秒の告知、張り詰めた神経のまま感覚は働き、詠唱を0.1秒で完了させて宙に浮く二本の苦無を0.1秒で凍結させ、その動きを完全に止める。背後に引いた上半身の勢いを殺さず、バック転に繋げて体勢を整えた。


「氷は創る我が世界、凍るは(なれ)の悪しき世界、"凍ノ檻(とうのおり)是即チ獄門也これすなわちごくもんなり"……」


 アイスプリズンの完全詠唱(フルコンプリート)、純白の冷気が真里の体を凍てつかせんと高速で接近する。しかし真里も黙って夢姫に凍らされるつもりなど無く、後退しながら腿のホルスターから引き抜いた苦無を冷気に向かって投げ、その度に苦無が真白に凍る。


 冷気が強過ぎるのか、凍った苦無は地面に落下すると同時に粉々に砕け散る。その姿は理科の実験でやる液体窒素に薔薇を浸して出し、花弁を握った時の砕け崩れる様によく似ていた。


 そんな苦無の憐れな姿に真里は怯むどころか笑ってみせた。高速で迫る純白の冷気から逃れる事は叶わない、叶わないならば、その純白の冷気を退けられるなら、冷気そのものが退いてくれるなら話は変わるだろう。


「微笑み符『太陽の光』……!」


 次の瞬間、真里の輝きを放つ程の美しく眩い純粋な微笑みと同時に粉々に砕け散った筈の苦無が瞬時に赤みを帯び、纏わり付いた氷を溶かしながら白い光と想像を絶する灼熱を全体に放る。


 すると瞬く間に冷気は真里に追い付く前に消失して周囲に散らばった苦無の破片のみが閃光と高熱を発しながら小刻みに震えていた。苦無の放つ目の移せぬ閃光と近寄れぬ高熱は夢姫の後退を自然と促していた。


「くッ!? (あつ)ッ! まさか太陽熱!?」


 そう、名前を聞いた通り、苦無からは、実際の太陽の表面温度に近い熱を放っている。冷気を消失させられた夢姫は咄嗟に魔力の障壁を目の前に張り、苦無から放たれる太陽熱を辛うじて遮断している。


 しかし真里は目前に揺蕩う太陽熱を物ともせず、微笑みを解くと前傾姿勢で駆け出した。腿のスリットから素早く二本の苦無を抜き取り、高速で走りながら最速で苦無の投擲運動まで移行した。


 一瞬で振り被った苦無が赤みを帯びて白く光を放つと、超音波のような聞き取り難い高い音を発しながら灼熱と化し、真里の手から投げられる。苦無二本の投擲から即座に身を翻し、右回転をしながら流れるようにして苦無を両手に再装填する。


 装填を完了させた真里はそのまま右手を広げるように振るって苦無を投げ、続けて左手も閉じるように振るい、投げると同時に再び駆け出した。計4本の苦無が真里から放たれたワケだが、一方で夢姫は閉眼して両手を動かし、魔力を練り上げる。


 魔力は周囲の熱を急速に奪いながら徐々に会場の半分にまで範囲を広げていく。範囲を広げる魔力は範囲内に侵入した苦無に瞬時に冷気を貼り、長方形直角柱の氷に閉じ込めて4本全ての苦無を止めた。


 身の危険を察知した真里は足を止め、元居た場所よりも後退した。そして氷に閉じ込められた苦無に再び太陽熱を出させようとするも、今度は氷内の苦無が低音に負けてしまい、その形を氷と一体化させられてしまった。


「天の与える我が蒼氷、世界を覆う蒼き果て、地が奪う汝の体、命と共に吸い尽くす! 天蒼零完(アブソリュートゼロ)其即チ(それすなわち)煉獄氷界也(死者の棺なり)!」


 絶対零度(アブソリュートゼロ)を意味する魔法、天蒼零完。先ほどの凍檻是獄を逸した威力を誇る超精度の魔法、任意に設定した範囲の空気ごと凍結させ、その威力故に本来の範囲は半径10mまでが侵食範囲の限度である。


 しかし事この場に於いては補正に依る『能力レベル上昇』でその限界を容易に超える事が出来ている。今この場の夢姫ならば侵食範囲半径80mは楽々で冷気を至らせる事が可能であろう。


 緩やかに、けれども確かに、純白の冷気(魔力)は舞踏場を埋め尽くし、いよいよ場の端まで至ろうとしていた。真里が後退りをし続けるのも限界がある、目前に、直ぐそこまで冷気が迫っているにも関わらず、自身の体は壁に到達し、逃げ場は既に皆無。


 辛うじて生きている呼吸線となる空気の容量も凍結して(死に絶えて)しまい、最早生きているのは自分自身。最後は息を殺し、この緩やかな冷気に身を任せるのみとなってしまった真里は、歯を食い縛って冷気から顔を背けた。



 が、その時────



 純白の冷気は一瞬で夢姫の位置まで収束し、何事も無かったかのように侵攻を中止した。だがその跡は確かに残り、戦闘の場である舞踏場は真里の立っていた壁際を除いて"輝く白"の空間と化していた。


「くッ、時間切れですか……」


 またしても後一歩のところで真里を仕留め損ね、夢姫は悔しそうに顔を歪めた。その時、真里は顔を背けた状態から瞬時に立ち直り、性格が豹変するかのように表情を狂笑へと変えた。


 絶頂にも似た真里の今の感情は、真里そのものを一時的に曖昧な姿にすると、陽炎のように揺らめいて真里自身が二分した。一瞬夢姫は自分の目を疑うが、真里は間違い無くその場に二人立っていた。


「感情符『真実を隠す空間』……!」


 偽と嘘を晒け出し、真実を隠す感情符が、今ここに完成する。


 二分化した真里の体は一方の動きに対称で行動する。そう、それは鏡写しが如く、姿に違いの無い真里と真里(・・)は舞踏場全体を使って円移動のように高速で夢姫に向かって走り出した。


 高速の接近に夢姫は真里を攻撃する術も防御する術も持たず、遠ざける術も、退ける術も無く、逃げる術も、離れる術も有りはせず。今の夢姫に有るのは"発想"────つまり、考える術のみ。


「動いて勝てる相手じゃ無し、攻めても返り討ちは目に見える結果。逃れる事すら敵わないならば、私は動きません」


 何と、夢姫がその場で執った行動はただ動かない事だった。全く微動だにしない夢姫を目にした真里は薄っすらと笑みを溢し、揺るぐ事の無い自身の勝利を確信して高く跳び上がり、苦無を構えた。


「────ですが真里さん……」


 言葉を言い終えた直後の夢姫が再び口を開き、真里に突然問い掛けた。その問い掛けの後に出て来た言葉は何を意味していたのか、当の真里には到底見当が付かなかった。


「ただやられる為に動かないのは、誰だって出来ますよね?」


 直後、真里の真下に真里より巨大な円形の影が現れ、顔ごと視線を頭上に向けると、赤く燃え盛り、紅く煮え滾る巨大な火の岩が浮遊していた。岩と言うよりは隕石(メテオ)の方が遥かに名称としては合致しているそれは、舞踏場の高く広い天井を占領している。


 真里は思う、時間なら自分も数えていた。一分一秒の狂い無く数え、時間切れのタイミングもわかっていた、なのに何故彼女(夢姫)は魔法を行使出来る? 時間は既に、能力使用不可時間に突入している筈だ、と……


「えぇ、貴女が仰りたい事はわかります、不思議ですよね? でも世の中には重ね技(・・・)が存在するのですよ。私がアブソリュートゼロで冷気を放出している中、同時に発動していたのが、私の魔法"劫核灼火(プロミネンス)"です」


 驚く事に、夢姫は仕掛けていた、予備を、秘策を、取って置きの二重攻めを。それは閉眼して魔力を練り上げている時、閉眼に依る集中力の増加をもう一つの魔法に繋げ、脳内で詠唱をしていたのだ。


(集え我が手に焔の奇跡、溶け合え我が手で焔の乱舞、その火その力我が手を離れ、星の破滅を導かん! 劫核灼火、其即チ(それすなわち)破戒ノ定也(天地創造なり)!)


「ただ発動するだけでは私が制限時間を迎えると同時に頭上のプロミネンスも消滅してしまうでしょう。ですが予め発動の設定を組み込んでおきました。時限式で発動し、敵を屠るように」


 舞踏場全体が半径約100mならば、浮遊する巨大隕石はそれを容易に納める大きさ。これほどの隕石を別の魔法の発動中に同時に発動するとは、夢姫の能力レベルは大変増していたに違いない。


「なるほど、これでは私の(つみ)ですね。どこからどう見ても、誰がどう考えても────」


 真里は両手を下げ降ろし、項垂れて自由落下を始めた。同時に真里の頭上の隕石から小型ながらも人基準なら充分に巨大な流星群が隙間無く降り注がれた。


 程無くして真里は流星群の一つに呑み込まれ、床に激突、続けて別の流星の数々が真里の落ちた床目掛けて容赦無く直撃した。数多の流星が真里の落ちた床に激突を繰り返し、その内隕石は形状を保てなくなり、穴空きのようにして消失した。


 気が付けば舞踏場はクレーターだらけの地と化していた。残ったのは勝者ただ一人、そう彼女の名は────



「誰がどう考えても、私の勝ちですね、夢姫さん」



 ────大丈 真里



『だろうな、読めたぜ真里さんよぉ。あんたは流星にぶつかる事で倒されたフリをして、そのまま流星の勢いに掴まった状態で足を地面に触れさせた。これで影踏みが成り立ち、あんたは晴れて無傷で夢姫の背後まで移動できたってワケだ』


 優の言葉の通り、解説をすると真里の影を覆う程の、舞踏場全体を影で覆える程の隕石の降らした流星群の影響を真面に受けた。しかし真里の技には最強の奇襲技、影闇符『影踏み』が有った。


 これは相手の影を踏む事で相手の目前や背後に瞬間移動をする事が出来る並外れた技だ。しかし影は相手の影で無くてはならない、その条件は大して普通に接近して戦うのとほぼ変わりが無い。


 だが影はどうあろうと影、例え別の影と交わろうとその影は"どの影"でもある。ならば、隕石の影だろうと、夢姫の影と繋がっているなら、それは紛れも無く夢姫の影だ。


「最期は呆気無くさせてしまい申し訳ありません、ですが、本当に危なかったです。私も精進が足りませんね」


『決着。勝者、大丈 真里!』


 転がる夢姫の頭部に話し掛けても、帰って来るのは当然静寂のみだ。そこへ突然気配すら発さず優が真里の目の前に現れ、夢姫の立ち尽くす体と無様に転がる頭部を見て真里に対し口を開いた。


「やれやれ、あんたなかなかな真似してくれるねぇ。二つ名変えた方が良いぞ?」


 次の瞬間、真里は巨大な観覧モニターの目の前に立っていた。ふと感じる気配に後ろを振り向くと、夫である大丈 優一と、先ほど真里に断首された伊薔薇 夢姫が出迎えた。


「優一さん……」


「お疲れ様、真里。勝ったのは喜ぶべきだけど、キミあんなだったっけ?」


 優一の問い掛けに真里は長く沈黙を続け、結局忘れてくださいと一言だけ口にした。


「おめでとうございます真里さん、まさかあんな技があったなんて不覚でしたわ。次もまたお互い戦える事を願います」


「えぇ、そうですね夢姫さん」


『さぁ、次はブロック最後の四回戦だ。ボノワール、ルーシィ、出て来な』


「やっとか、少し退屈してたんだ」


「はいはい、私が暇潰しになってやんよ」


『さてさてぇ、遂に後半戦に至ってきたぜ、大詰めは近いってな!』








続く

感想是非是非お願いします




次回予告……




 第三回戦は補正を活かした闘いの末、真里の勝利に終わった。


 第四回戦は謎多き"天猫"ボノワールと一発ドカンと撃砕勝負ルーシィ!


 世紀の異種戦! 魔の猫と猪女、決闘の果てに何がある?



次回、超絶コラボ対戦 -異世界の戦士達-


第5話 白と黒、駆と翔




御楽しみに

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