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超絶コラボ対戦 -異世界の戦士達-  作者: 超絶暇人
白夜VSゆぅ
2/11

第2話 一撃とは何か?

誰が誰と闘うかは章管理でわかりやすく何とかします


今回人数が多く表現方法など色々迷った為、話が向かいたい方向を見失い掛けてるかもしれません、御注意を

 時及び場所変わりまして、地下駐車場らしき空間にて……



 コンクリートのみで形作られた、まさに地下駐車場のような空間だが、車は一つとして停まっていない。コンクリートの床に付いた僅かな亀裂、天井や壁面に設置された古臭いライトも、また『ソレ』らしさを放つ。


 そんな古びた地下空間に佇む二つの人影、それは『霧島 白夜』と『ゆぅ』だ。二人の経歴を辿れば、その実力差は明確になり、"今のところ"では白夜の方が圧倒的に強い。


 ────と、そこへ、実況者の瀧沢と司会者の優が二人の前へ突如現れた。


「早速今から闘いを始めてもらいたい……ところだが、先ずは補正を掛ける。今から掛ける補正はメインパラメータとなる数値以外の能力などは、ある程度秘密にする」


「なぁ、補正を掛けられたら、何か急激に疲れたり、突然脱力したりするのか?」


「あぁ、その点は気にするな白夜。補正は表にも内面にも出はしない。ただ"やってみなければわからない"だけだ」


「じゃあ、能力とか技もそんな感じで、やってみなければ使えるのかもわからないと言うの?」


「あぁそうだ、ゆぅ。物は試し、先ずは体感してから闘うのも良いだろうな。今から掛ける補正を言う────


 先ず、白夜。お前はバーチャル世界の時の状態にする。これなら最高の状態で闘えるだろう……


 次に、ゆぅ。お前は全体的に通常状態よりもスピードアップさせる。お前は銃よりも拳だ、積極的に使っていけ。


 そして、二人共の攻撃力と防御力を変える。なぁに、対した事は無い、お前等の実力差が10cmだとすれば、俺はそれを3cmまで縮める程度さ。


そして補正内容は、以下の通りだ」



────────────


【補正結果】

白夜→バーチャル世界と同じ状態

ゆぅ→通常よりスピードアップ

・白夜、武器禁止

・ゆぅ、全部使用OK

・両者のステータス変更


 白夜

攻撃力=100% →60%

防御力=100% →50%


 ゆぅ

攻撃力=100% →120%

防御力=100% →120%


────────────


 尚、補正内容は基本変えられませんが、ステータスのみは何らかの条件が揃えば……? 上手く扱って良い具合に立ち回り、有利な状況を作り出しましょう。


「うわっちょッ俺の攻防半分ほどしか無いんですけど……!?」


「それに比べてアタシは両方共リミットオーバー。何コレ、アタシの勝ちがほぼ確定じゃん」


 自身の補正の具合に仰天する白夜、無理も無く、攻撃力と防御力が両方共半分程しか発揮されないのだから。対してゆぅはローテンションのまま補正内容を見て自身の勝利を想像する。


 すると優は『それはどうかな?』と呟き、二人の注目を自分に集めた。そう、最初を思い返して欲しい──この補正はあくまで"チート以外の方でも有意義に楽しむ為の配慮"と言う程度の補正であり、その逆も有るのだ。


 要は、これ等の要素をどうプラスにして活かすかが勝機に繋がるのだ。マイナスしか無くとも、先ほど追記した補正内容を活かせば何とでもなり得る、可能性は幾らでも存在すると言う事だ。


「まぁ良い。後は任せたぜ、瀧沢 優」


「あぁ、任された。さぁ二人共、一応問うが、準備は良いよな?」


「大丈夫だ。緊張するけど、準備は整った!」


「問題無い、存分に愉しませてもらうわ……」


「ではこれより、霧島 白夜VSゆぅの闘いを開始する。用意、始め!」


 瀧沢の号令に合わせて何処からかゴングのような金属音が鳴り響き、それが勝負開始の合図だった。白夜が金属音に気を取られている隙に『ゆぅ』が疾風の如く迫って来た。


 速さでは白夜とほぼ互角、いやそれ以上か……1秒が経過した頃にはゆぅの左拳が下方向から振り上がろうと構えている。動体視力は何とか追いつく様子で、白夜はゆぅの動きをよく見て、ゆぅの拳が自身の顎を捉えようとしている事を察知した。



《よし、身体も目も追いつくな。当たらなければどうと言う事は……》



 白夜は余裕だった。だが、余裕故に肝心な"先読み"が欠けていた。顎を少し上げて身を後方に引いてゆぅの拳を躱すのだが、振り上がった拳と共にゆぅは少しジャンプしていたのだ。


 ゆぅの拳を白夜は躱したが、二人の距離は一気に縮まって20cm、白夜から見れば世界はゆっくり動いて見えたが、それはゆぅにも同じ。動きは進行していき、ゆぅは振り上げた拳の勢いで少し跳躍した事で体が浮いた為、勢いを出来る限り殺さぬよう回転に変えた。


 するとどうだろう、体を横向きにして左拳を振り上げていたゆぅの体は後ろ側に回転を始め、ゆぅも回転の方向に合わせて正面を向く。そうすると白夜にはゆぅの背が見える状態になり、滞空は持続したまま、回転で右足の踵が振り上がる。


 拳を躱した白夜の顎は機転の利いた攻撃によって衝撃を受け、蹴り上げられた故に少しだけ体が浮いた。顎から通じる痛み、及び脳に届く衝撃に白夜の目は一瞬だけ白くなった。



《ぐぅッ……(いて)ぇ、何だこれ? マジで体の頑丈さがどっかに飛んでったみたいだ。本当に"補正"が掛かってるみたいだな……》



 自身の補正を再認識したところで白夜は前方に向き直ろうと後ろに反った顔を起こしかけた時、顎に再び衝撃が現れた。今度の衝撃は先の蹴り上げと同じだが、威力が倍以上にまで跳ね上がってる。


 それもその筈、ゆぅは回転の勢いによる蹴り上げを白夜の顎に与えた後、回転し切って着地した直後に右足のみで後ろに跳び、前にしていた右足を後ろにまで一気に振り上げた事で顔を起こしてる途中の白夜の顎に見事命中(クリーンヒット)したのだ。


 再び蹴られた白夜は顎から瞬間に脳へと伝わる振動で目の前が明暗を繰り返していた。今までにも味わったであろう痛み、だが今回のは補正で弱くなった体への鞭だ。


 なら、こんな理不尽にも感じられる補正など超えられる筈。白夜は先ほどよりも早く意識を明確にして今度は前では無く後ろに反り切ってバック転とバック宙を行ってゆぅから離れた。


「────チッ」


 距離が開いた事で白夜には少しだけ余裕が生まれたのと同時に、ゆぅは舌打ちをした。恐らく、白夜がまた前に動いていたら先ほどと同じような追撃をしていただろう。


「また同じように痛い目に遭うのは御免だ。防御しても痛そうだし、こっからは『ゆぅ』、お前の攻撃は全て回避してやる」


「へぇ、スピードアップした私の攻撃を全て回避する? 出来んの? 今のアンタに」


 ゆぅの挑発じみた言葉に白夜の目つきが変わった。今までの普通の青年らしさは何処へやら、彼本来の"魔王"の呼び名に相応しい刃物の如く切れ味鋭い目へと変化した。


「侮るんじゃねぇよ、俺はこれでも『魔王』と呼ばれる存在だ。何なら捻り潰してやっても良い……ここでは殺しても良いんだしな」


「ソイツは良い、魔王様直々にやってくれるなら、本望だねェ!」


 白夜は右掌(みぎてのひら)に力を込めて、まるで動物の鉤爪を表すかのように五本指を少し曲げた。力を込めた白夜の右手の甲に血管が奔っている時、ゆぅは小さく笑い、素早く身を屈めて低い姿勢のまま駆け出す。


 ゆぅの駆ける脚は神速、ほぼ一瞬の速さで白夜に迫ると、低い姿勢から一気に跳躍、同時に左膝を白夜の顔面目掛けて突き出した。決まった、そう確信したゆぅは口元を緩ませた。


「フッ────」


 その鼻笑いは一体誰のだったか、ゆぅの左膝は白夜の血管が奔った右手に掴まれ、直後に押し返されて姿勢が崩れる。スカイダイビングのような姿勢になった瞬間、"自分の左膝では無い膝蹴り"をゆぅは顎に受けた。


 その膝蹴りはゆぅを空中に吹き飛ばし、一撃を受けた勢いのままに後方に回転しつつ顔面から落下して鈍い音を鳴り響かせた。膝の一撃は紛れも無く『白夜』のものである。


「……ッつ」


 顔面から落下したゆぅは鼻の骨を折り、ついでに口の中も切った為、鼻と口から流血していた。両手を付いてゆっくりと起き上がるが、白夜から受けた膝の一撃が後を引いて残っているのか、脚が(もつ)れて立ち上がれない。


 また驚く事に、先程に受けたゆぅの蹴り以前と以降、白夜は全くに等しいくらいその場から動いていない。ゆぅは足の縺れを抑えて何とか立ち上がりつつ、口の中に溜まった血を吐き飛ばした。


「良いじゃん、ならそろそろ(コレ)、使っても良いよね」


 カツッと靴がコンクリートを突く音で片膝を付いた状態になったゆぅは、直後に両手を背中に回し、流れる動きで腰から二丁銃を取り出した。取り出して暫く静止後、銃を手元で回転させてから交差させて水平に構える。


『おっと? ついに得物が登場だ。先ほどまで行われた打撃戦とは打って変わって今度は銃撃か? しかし白夜は武器が使えない、どうする?』


 先まで静かだった実況が状況の進展に目を光らせて口を開き出した。確かに、それまで"打撃"一色だったバトルに漸く見えて来た"違い"、だがモニター越しに優は微笑を浮かべた。何故なら優は二人を知っているから────


「接近戦だけで無く遠距離戦も出来るのか? 何となくそれっぽいとは思ってたけど、不釣り合いだな、そんな装備で大丈夫か?」


 白夜のイメージではゆぅは明らかに"殴り専門"と言うような意識が強い。そのイメージに似合わない武器は白夜からしてみれば"不相応"でしか無いのだが、それは本人からしてみれば────


「大丈夫、問題無い!」


 ゆぅは『お決まり』の返答をした後、最速で駆ける。そう、本人からしてみれば結局"不相応"、だがしかし、本人に合う使い方、自身にとって正しい使用方法ならば……



 ────"不相応"は"相応"へと成り変わる。



「なに!?」



《銃を持ったまま接近して来た!? 普通なら遠目から射撃で翻弄する筈ッ。一体何を考えている、ゆぅ(こいつ)は!》



 瞬き程度の時間でゆぅは白夜の目前まで迫った。そして振り抜いた右手で目の前の白夜を攻撃しようと前へ前へと右拳を押し出す。ここで白夜は片足を引き、上半身で退く。


 右拳の回避に成功した途端、上半身の退きで回避出来ていた筈の白夜の左頬の唇付近が擦れた。動体視力を最大活用して白夜がゆぅの右手を垣間見ると、その手にはあり得ない"モノ"が握られていた。


 "銃"だ────普通、銃は銃把(グリップ)を握り、照星(フロントサイト)照門(リアサイト)を対象に合わせ、引金(トリガー)を引いて弾丸を発射する。だが、ゆぅが右手で持つ銃は何だ? 銃身(バレル)を掴み、銃口(マズル)が内側、銃把が外側に且つ弾倉(マガジン)下部が前方に向いた状態。


 それは『銃器』と言うよりも『鈍器』であったのは、言うまでも無い。そんな『鈍器』の如き『銃器』を見て白夜は自身の思考速度で超低速化する世界で分析を開始した。



《この銃、妙だ、銃把が大きい……こんなタイプは初めて見たぞ、改造でもしたのか? だが射撃に活かした改造では無い、だったら普通に考えてみれば銃把を大きくするなど握りにくさを増大させるだけじゃないか、意味が無い。しかし意味がある改造、ならやはり巨大な銃把、これしか無いか》



 振り上がった右手に続いて同じく銃が握られた左手の斜めに降ろす打突が白夜に迫る。丁度上半身が反っていた為、白夜は自身の状態を派生させたバック転を行う。


 すると、ゆぅの斜めに降ろす左手の打突はバック転をする白夜の右膝が手首に当たった。白夜の右膝が手首に当たって阻んだ事でゆぅは左手を弾かれ、攻撃を中断してしまった。


 攻撃を躱し躱された両者、白夜はバック宙で後方に大きく飛び退き、ゆぅは次の踏み込みの為に足元を整える。互いに互いを睨み合う中、ゆぅの銃が気になった白夜が口を開いた。


「その銃、普通じゃないよな。性能とか火力とかじゃない、外見の面でだ」


「へぇ、気付いてたんだ? 実はコレ、ただ単にグリップをデカくしただけなんだよね。しかも頑丈にもしたから、アンタみたいな硬そうな相手でも壊れず殴れる仕様。まだ当たって無いけどきっと、痛いよ多分」


 2〜3回ほどゆぅは跳躍を行い、靴でコンクリートの地面を突つく。3回目の音がなった直後に強く踏み出し、再び"疾風と化した"か如き速さで白夜の目前まで接近する。


 右手のみに銃を掴み、左手は空拳状態にしたゆぅは先ずは銃側の右手で右から左へと大きく振るう。銃を持っているからと言ってもゆぅの速さは出場キャラクターの中でもトップクラス。


 だと言うのにも関わらず、白夜はその速さで振るわれる速さを軽々では無いが危な気でも無く、たった数センチほど後退して躱す。そこでゆぅは右足を前に出して踏み込み、リーチを伸ばした状態で振るった右手を先ほど振るった軌道に沿って振り戻す。


 一度振るった右手をまた振るう攻撃に白夜はまた右足の一歩だけ退いて避けるが、避けた直後に左拳が白夜の腹部に迫った。実は右手の振り戻しの際、ゆぅは一緒に左手もやや手前から追従させていたのだ。


 だが白夜は右手の振りや戻しにも"軽く"しか動いていないので回避に苦は無く、無理なく左に体を逸らす。そこから右膝で左拳を蹴り上げ、その勢いでゆぅは後ろに仰け反った。


 更に白夜は仰け反ったゆぅ目掛けて蹴り上げで振り上がった右脚を左横に振るった。ところが振るった右脚はゆぅには後少し届かずのところで空を蹴った。


「この距離なら完全直撃(ジャストインパクト)って事だな────」


 しかし白夜は笑みを浮かべ、振るった右脚を少しだけ引くと、右足をゆぅの顔面に向かって一気に突き出した。白夜は右脚を振るう事で計っていたのだ、完全直撃の距離を。


 パンチにしてもキックにしても、威力が一番高くなるのは『動き』が伸び切った瞬間だ。それを密かに図った右脚の振るいは少しだけ膝を曲げて敢えて外し、一番威力の高い直撃を狙っていた。


 だがゆぅは繰り出された白夜の右足に何か良からぬ脅威を察知し、咄嗟に顔を真上に上げて間一髪で白夜の蹴りがゆぅ首の寸前でリーチが限界に達し、回避に成功した。


 危な気だったゆぅは即座に姿勢を低くし、白夜の右脚を避けた形で白夜の顔面に左足の蹴りを跳び上がりつつ真上にまで振り上げる。ゆぅの左足の振り上げに反射反応をした白夜は体を僅かに後ろに傾けて蹴りを躱し、左手の掌打をゆぅに向けて繰り出す。


 ゆぅも白夜の掌打に合わせて右手の掌打を打ち、互いの掌打がぶつかる。その反動で白夜とゆぅの両者は同時に吹き飛び、数十メートル引き離されたところで二人共制止した。


「やるね、頭脳も明晰な方か。さすがは魔王様だ」


 ゆぅは顔の位置まで銃を上げると手元で回し始め、数回転させた後に銃の回転を止めつつ"如何にも拳打をする構え"を執った。すると白夜は目を瞑って含み笑う。


「漸く全力ってところか? ゆぅ……」


「いや? 全力じゃないよ? 全力出すと、知り合いにまた殺されかねないし……。あー、ストレス────」


「なら"今"だけ全力で来い。知り合いがどうこう言うなら、俺が代わりに謝る、それで良いだろ」


「ほぉ……なら御言葉に甘えて、全力で殴りに行くよ」


 白夜の誘いで完全に"スイッチ"が入ったゆぅ、同時に誘った本人である白夜にも"スイッチ"が入った。振り下ろされた"撃鉄"は恐らく、この闘いの勝敗が決するまで、元には戻らない。



《俺の誘いに乗ったなら、次は締めの殴り合い、拳と拳の衝突、蹴と蹴の激突────》


《アタシに全力出せって事は、恐らく次は原点に戻って殴り合いか……》



《それを果たしたなら────》


《その果てにあるトドメは……》




《《一撃で決めるッ!!!》》




 ついに両者は決着の体勢に突入した。直線上の互いの目を合わせ、白夜はゆぅをゆぅは白夜を見据えている。両者の間の距離は20m程、少し走れば届く距離だ。


 暫しの静寂の後、モニター越しで優が指を弾き鳴らす。その音がハッキリ聴こえたのか、"合図"と受け取った白夜とゆぅの二人は互いに向かって一心不乱に駆け出した。


 互いに相手に目掛けて走る、踏み込む、駆け抜ける、それは本人達の『最速』では無く、普通の『走行』だった。唯の人間が必死に走るのと同じ、100mを10秒で走るのと同じ、地に足を付け、一歩一歩に重きを置いて地を蹴るのと同じだった。


 数秒の程を数えてやっと二人は互いの攻撃が届く範囲にまで近づいた。そして両者共に拳を構え、右拳同士を突き出したが、拳同士が交差した後、互いの顔面の真横で拳は止まった。


 その瞬間に二人の『決着』の火蓋が切って落とされた。二人が右拳を引くと、一瞬発生した風圧と共に二人の衣服の彼方此方(あちこち)が切れた。そこからはギリギリ視認可能な超高速の戦闘が開始された。


 白夜の右拳の突き出しに対して右脚の振りを白夜の腹部辺りに繰り出す。これを白夜は右拳の打突を中断して膝を曲げて姿勢をほぼ最低位置にまで下げ、打突の勢いで前方へスライドする。


 膝でのスライドでゆぅの直ぐ真後ろにまで移動した白夜は両手の平を地面に付けて倒れている体を足から起こし、ゆぅの顔面に向かって振り上げる。


 背部から振り上がった白夜の足にゆぅは一度正面に向き直り、やや高度が有るバック宙で白夜をやり過ごし、白夜は振り上げた足の勢いで後方に回転して立ち上がり、ゆぅも白夜を真正面で捉えたので疾風の如く駆け出す。


 再接近したゆぅは右拳を白夜の顔面に突き出す。しかし右拳は白夜の右手で顔の左に流され、今度は白夜がゆぅの顔面に左拳を突き出す。だがゆぅも首を左に傾けて左拳を避け、左足を振り上げた。


 白夜の顎を捉えた左足だったが、顔を真上に上げた白夜によって空を蹴るに留まり、そこから二人は口元を緩め、正面に向き直った直後にまるで機関銃(マシンガン)が如き、それでいて機関銃より遥かに速い激突音が鳴り響く。


 互いが互いの拳を拳で受け、蹴を蹴で返す。頭突き、肘打ち、膝蹴り、踵、指先……次第に衝突音に"血の音"が混じり始め、二人の攻撃にも少量ながら『赤い飛沫』が飛び交う。


 一方、観覧モニターの前には他の者達が白夜とゆぅの闘いを眺めていた。出血しつつも戦闘行為を止めない『二人』の光景に女性陣は口元を覆ったり、下唇を噛んだりしているのに対し、男性陣は酷く落ち着いていた。


 腕を組んで目を瞑り、二人が響かせる『音』を聴いて武者震いを起こす者、互いの血が飛び交う中で尚激しさを増す風景に含み笑う者。二人の動きを1ミリ1マイクロ1ナノ足りとも見逃さない者、モニターなど目もくれず、唯静かに佇む者など、様々だ。


『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーー!!!』』


 そして丁度『それ』を観られている白夜とゆぅは揃って雄叫びを上げ出した。激しい拳と蹴の激突の最中、白夜は右拳を斜め下に繰り出し、少し突き出した所でほぼ直角を描いて斜めに突き上げた。


 一種のガゼルパンチを放った白夜、これにより、ゆぅの姿勢は後ろに逸れた。だがゆぅはそれを逆手に取って腰に仕舞っていた銃を左手で素早く取り出し、反ろうとする体を何とか右足で耐える。


 耐え切った直後、耐える前まで反った体を引き戻すバネを利用して後ろに回していた右足を前に迫り出し、銃を掴んだ左手で思い切り振り下ろす。だが、白夜はゆぅの行動を先読みし、同じ"左拳"で振り上げる。


 唯一違うのは当人達の『狙い箇所』である。ゆぅは白夜の頭部全体を狙ったのに対し、白夜はゆぅの『左手』を狙って拳を放った。さて、此処で僅かな疑問だ……


 白夜は何故ゆぅの『左手』を狙ったのか、普通なら相手と同じように頭部一点に狙いを澄ました一撃を繰り出せば良い。しかし白夜は敢えて攻撃間にある『左手』を狙った、それは何故か────



 ────ゆぅの『左手』を潰す為。



 それは残酷だが確実な方法、攻撃を迎え討つ事でのカウンターを利用し、相手の『拳』を破壊する事だ。そしてゆぅの"振り下ろす一撃"と白夜の"振り上げる一撃"が直撃を介した瞬間、ゆぅの『左手』が"悲鳴"を上げた。


「うぐッ!?」


 掴んでいた銃諸共左手が破壊され、その悲鳴を当然ながら感じ取るゆぅ、だが痛みは感じず、『そんな事よりも反撃をせねば』と左手の痛覚を無視した。残った右手で残りの一丁の銃を抜き、飛び退きながら前方に乱射した。


 銃から乱れ飛ばされた弾丸は前方の様々な方向に的外れに飛んで行き、どれもこれも白夜には当たらなかったが、一摘みのたった数発が白夜の左肩と左脚の大腿部に当たった。


「くぅッ!?」


 左肩と左脚大腿を撃たれた白夜だが、ゆぅと同様に痛覚を無視し、"次の一撃"が届く距離にまで間合いを詰めた。白夜の行動を察したゆぅは後退を止め、銃を放り捨てた後に踏み込み位置を整える。


 "次の一撃"とは即ち、『決着の一撃』なり。だがゆぅは左手を、白夜は左肩、左脚大腿を負傷、正直使いものにはならないが、幸いにも両者共に右上肢が生きている。



《この距離なら左脚は踏み込むだけだ、耐えられる》


《ここが決め時って事か、アタシもよくここまで頑張れたもんだ。無論、『魔王のアンタ』もね》



 空間が静まり返る────"次で決まる"、それをこの『地下駐車場のような空間』も感じ取っているのだろうか。体格も性別も違う両者は、互いが互いを倒せる一撃に力を込める。


『さぁ、そろそろ幕だ。思いっ切り打ち込めよぉ?』


『良い闘いだったね、漸くピリオドか』


『さて、邪魔にならないよう見届けるか』


 ニヤリと笑み浮かべながら腕を組み、モニターに映る二人に告げる優、椅子に座ってモニターに映る二人を優しい表情で見守る龍神。実際の現場に居て勝敗を見届ける瀧沢。


 優が更ににやけ、龍神が拳を作り、瀧沢が目を鋭くした瞬間、その緊迫に白夜とゆぅの二人がついに動き始めた。まずは左足で強く踏み込み、コンクリートの地面を踏み壊す。


「「はぁぁぁぁぁぁああああーーー!!!」」


 次に力を込めに込めた右拳の握りを強くして溜めた力を解放する手前まで持っていく。そして雄叫びを張り上げつつ、目を見開いて相手の顔面のみに狙いを定めて拳を押し出す。


『決まったな』


『このタイミングで補正が解除されたか』


『顔面が潰れたな、あれ』



 ────その刹那、優は確信を、龍神は悟りを、瀧沢は結果を得た。



 互いに拳を振るっている最中、このまま行けば両者が同時に一撃を当て、同時に一撃を食らうのは必然。だがしかし、白夜はそこで顔と視線を真下に下げ、拳の高度は変えずに姿勢を低くした。


 白夜の姿が拳だけを残して消えた、ゆぅにはそのように見えた。そのまま行動は進行して行き、ゆぅの拳は空振り、白夜の拳だけがゆぅの顔面を、しかも"中心"へ()り込んだ。


 「お前に、一撃ってのが何なのか、身を以て教えてやるッ!!!」


 白夜は右拳に纏わり付く直撃の感触だけを頼りに拳を更に強く、更に重く、更に硬く握り、押し出し、放つ。ゆぅの顔面に減り込んだ拳は更に深く減り込んでいき、『漸く』と言える時間が経過してからゆぅは"全身ごと"吹き飛んだ。


 それは"凄まじい"と言う表現がチャチに感じてしまうほどの威力であり、その余波は白夜が拳を振るった前方200mの地面が放射状に抉られ、深さ1m程の破壊の爪跡を残していった。一方で殴り飛ばされたゆぅは破壊の爪痕から更に100m先で横向きに倒れている。


『決着。勝者、霧島 白夜』


 すると白夜の目の前に司会者である優が突然姿を現し、白夜の右肩を優しく叩くと倒れているゆぅの所へ瞬時に移動した。優はゆぅの状態を見ながら白夜から300mは離れた距離で色々と喋る。


「あららぁ、これはひでぇ。顔面丸潰れじゃねぇのぉ。左手は複雑骨折、これは所謂(いわゆる)R-18になっちゃうようなグロテスク状態だなぁ。さて、とりあえず連れていくかね」


 勿論、距離300mからの声など白夜には聞こえず、何か喋ってる事だけは理解出来た。白夜は全身の緊張を(ほど)き、力を抜いて卒倒へと至った。


 ゆぅを担いで消えたと思ったら数秒もしない内に再び優が白夜の前に現れた。そして今度は白夜の体の状態を観察し始め、それが数えるくらいの秒数で終わった。


「全身の裂傷、弾丸傷、顎などの打撲以外は特に無し。良かったな、お前の勝ちだ」


 その言葉と共に優は指を弾き鳴らし、すると一瞬で観覧モニターの前に優と白夜が居た。白夜は優が起こしたであろう『現象』に驚いて体を起こすと、今度はまた別の事で驚いた。


「おめでとう、アタシの負けだよ、魔王様」


 白夜が仰天しながらその目で見たのは傷一つ無くピンピンしたゆぅの姿だった。仰天ついでに自身の体にも視線を移すとゆぅとの戦闘で全身の所々に出来た傷が消失しており、衣服も新品同様に無傷だった。


「えっちょっ、何が一体……?」


「俺が全部元に戻したんだよ、ゆぅの傷も、お前の傷も、瞬間移動もな」


 優は白夜に現象の理由をわかりやすく、だがあくまで詳細は述べずに話した。それから優は観覧モニター空間を明るくし、手を2回叩いて場の注目を自分に集めた。


「さて、次は博麗 海斗、それと大丈 優一。お前達二人だ、準備しな」


 優の言葉で二人は向かい合って歩み寄り、拳を合わせた。


「正々堂々、全力でな、優一」


「あぁ、無論だ。決まってる」






「さぁ、第2回戦だ────」







続く

感想是非是非お願いします




次回予告……






第1回戦、白夜VSゆぅ、闘いは白夜の勝利で幕を下ろした。


次は『博麗』の名を持つ少年、海斗。対するは『世界の終世者』の二つ名を持つ優一。


3話から漸くスペル宣言! その闘いはより壮絶に、より凄惨に……!?


更に今回で大抵の説明は済ませたので次からそんな説明などでの文章の無駄使いは無くなる……かもしれない。



次回、超絶コラボ対戦 -異世界の戦士達-


第3話 次元と回転



お楽しみに

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