最終話 はじまり
大変長らくお待たせ致しました。
超絶コラボ対戦 -異世界の戦士達-
最終回です、どうぞ
『説明の前に紹介する。園岾 晃太だ』
「初めまして。俺は園岾 晃太。あんたのこれから手に入れる力の元……って言ったら良いかな、優さん」
『あぁ違いない。お前が今から受け取る力、それはな────────"世界を終わらせる力"だ』
一瞬、いや、数秒、否……ずっとわからなかった。その力、存在は疎か、その意味すらも、今の海斗には遥か遠い知識だろう。だが、いずれにせよ解らなければならない。
彼は正式に選ばれたのだ。正式に導かれ、正式に誘われ、その覚醒を【力】そのものに望まれた。
受け入れる受け入れないでは無い、受けて当たり前なのだ。
『ワケがわからないようだから、これから説明するぞ。ちと長いが、それは頑張って認知してくれ。
大前提の事から話す。世界は、"二つの力"に依って誕生した。一つは『創造』……世界そのものを形作り、生命を生み出した【原初】の力、いわゆる"はじまり"の力だ。
そしてもう一つ、『破壊』……世界そのものを滅し、創造の土台を担った【終焉】の力、いわゆる"おわり"の力だ。
世は"最初と最後"で出来ている。まぁだが、コレには矛盾があってな、〈創造の前に破壊あり〉って名言でな? 実際の通り、世界の土台を担ったのは破壊、つまり【終焉】なんだ。だがよ、それはそれで納得出来る理由があるんだ。
それは、何かの終わりとは、何かの始まり。何かの始まりとは、何かの終わり。新しく始める時、以前の状態が終わる事でやっと始められる。逆も然り、古いモノを終わらせるには、新しいモノが必要。これを用いて、初めてソレは終わる。
つまりな、世界ってのは、【最後と最初と最後】なんだ。終わって始まり、また終わる。繰り返しみたいだろ? その通りだ。
ある程度わかったか? そうでは無いか? まぁ良い。取り敢えず何となくで良いから聞いてな。
この具合でな、二つの力の内、創造、つまり【原初】は、非常に曖昧な属性となっている。純粋であるが、純粋で無く、穢れていると同時に全く穢れていない。この曖昧な属性故にな、【原初】を扱えるのは世界で唯一人と限定されている。何故かって? んなもんは簡単だ、この力は、一度宿ったところからは二度と離れないからだ。
わかったか、そうだ。つまり俺は一生【創造人】なんだ。あいや、一生じゃないな……未来永劫、例え世界が死に絶え、全てが無になったとしてもな。
が、破壊、つまり『終焉』は代々変わっている。世界を探るとな、如何やら何人か存在していたらしい。その一人が晃太だ。だがこいつは不幸な事に、力が体に馴染み切る前に死んじまった。唯一こいつだけが、『終焉』の持つ"無双"を開眼出来たってのにな。
この力は『原初』と違い、完全に"純粋"だ。純粋故に強力、その力は世界を終わらせる。何せ俺達、お前達、全てが生きる世界は汚れと穢れに満ちている。『終焉』とは完全なる純粋を持ち、何にも穢されず、何も穢さない。しかし、不浄は容赦無く消し飛ばす。この力を邪魔する者、穢そうとする者は、直ちに『終焉』に殺される。
例え不浄で無くとも、その膂力はもはや世界を逸脱している。そう、無数有る世界を全て超えている。故に、『終焉』に干渉出来るのは『原初』である俺だけだ。
だが反対に『終焉』は『原初』に干渉出来ない。反則だって? 残念だったな、俺は矛盾そのものなんだよ、もうお前等のルールとやらから抜けちまった。俺は、"あいつ"をも楽に消せちまうからな……
と、まぁ、そんなこんなで、新たに『終焉』を継承するに相応しい奴を探してたってワケだ。『終焉』は別名、"無双"とも言い、その比類無き力は現代比喩の無双と例えられる程、こいつの力の及ぶ範囲は俺の原初の次に広い。
ちなみに言うとな、晃太は力の境界を開いただけで『終焉』にも"無双"にも開眼した男だ。本来"無双"ってのは純粋な終焉を迎えさせる究極の域だ、歴代継承者でも会得を可能としたのは晃太だけだったのさ。つまり、今から渡す力は、そんな恵まれた終焉の力だ。『終焉』の力の七光りだなんて面白いだろ?
何代続いたのかわからないが、晃太が継ぐまで空きのままだった『終焉』が再び埋まり、晃太が死んだ事でまた空になる。たった数ヶ月程度しか引き継がれなかった力を、今度はお前が引き継げ。無茶振りだと思うか? 如何であれ、お前はこれから"そう"生きる事になる。
さぁ、長話は終わりだ。そろそろ渡すぞ』
長々と色々な事を話し終えた優は、左手に白く眩い光を浮かばせて、それを投げ渡すが如く軽く放った。しかし見た目に反し、優の手から離れた瞬間光は有無言う暇無く海斗の胸に飛び込み、強い衝撃を伴って体内に一瞬で溶け込んだ。
「う゛ぅぅッ!? ガァァァッッ! ングッくっぬ゛ぅぅぅぅぅ!!?」
これまた予想外の威力。光は体内で暴れ回り、海斗の体ごと力を食らおうとしている。
『おいおい如何したぁ? その程度の痛みも耐えられないのかぁ? それはお前が御世辞にも綺麗とは言えない所為だからだ、暴れ回ってるとか言う比喩は間違ってるぜぇ? 能力は食われるんじゃない、お前の攻撃、行使する能力すらも『終焉』が付与される。
継承し一体になるってのは、つまりそう言う事だ』
徐々に体が『終焉』とやらに食い潰されて行く感覚、それが段々と薄れていき、次第には何も感じなくなった。何が起こったのか海斗は自身の体を確かめようとした時、突如全身から力が溢れ出し、迸り始めた。
業風を伴って発せられる力の流動は止め処なく、果てし無く、自分の持つエネルギーはこれ程多かったのかと確信出来る一瞬。そして力を出し切り、空っぽになった体は、否、『終焉』は流れて失った分のエネルギーを周囲から取り込もうとする。
が、その量は余りにも少なく、豆粒程度のエネルギーを貯蔵するのに何時間掛かるかのレベルだった。
『お、悪ぃ。この空間は何も無いからな。今から会場に戻るぞ』
優が指を弾き鳴らすと同時に元の観覧モニター前に戻ってきた。すると直後、海斗の全身が周囲から途轍もない勢いで空気と共にエネルギーを吸収し始めた。それは優、龍神、瀧沢の三人を除いた全員をその場から吸い取ってしまうのでは、と畏怖する程。
その内本当に吸い込まれそうになる者が一人飛んで来た。それは伊薔薇 夢姫……彼女は悲鳴を上げながら海斗に体に向かって強い力で引き込まれる。その時、突然風が止み、海斗が夢姫の体を掌で受け止めた。
『如何だ気分は?』
「スーーーーーーッ……何か空気が美味い気がする」
『終焉が持つ"完全なる純粋"で空気の不浄のみを取り除いてるからだな。ともあれ、おめでとう。今日からお前が新たな"無双人"だ』
瞬間、再び場所が移動し、水と空で構成された優の心象世界にやってきた。だが今回は何か違う、ふと違和感を覚えた時、海斗は真下の水から驚異の景色が広がってるのを見て驚いた。
『またまた悪いな。アレは俺が実際に再現した世界で、此処が本当の心象世界だ』
まさか、あの時の世界が心象じゃない? だが、それも直ぐに納得出来てしまった。真下の水面は何の淀みも無く、澄んだ水の景色と無数の武器を写していた。この異様な光景、この有り余る無数の武器は一体何なのだ?
『こいつはなぁ、俺が創り出した伝説上の武具、架空の武具の全てだ。オリジナル製作もあるぞぉ。それはさておき、取り敢えずまず晃太と闘え。おーい! 撮影頼むわぁ!』
瞬間、瀧沢が瞬間移動で現れ、即座にその場から優と共に消えた。たった二人、海斗と晃太を残して……
「じゃあまず"無双"を解放してみてくれ」
「……いきなり解放しろって言われても」
「感覚で掴むしか無い。俺の感覚で言ったところで、結局同じ人間じゃないんだ、違いが有れば引き出せないさ」
なるほど……と、渋々納得した海斗は目蓋を閉じて瞑想に入った。意識の闇に、無数の星と思しき光が其処彼処に瞬いている。いや、違う……これは、自分だけが闇に居るのでは無いか?
"無双"、終焉とは、清らかさそのもの。つまり、それは暗では無く明、撃では無く滅、光で覆うのでは無く光で削り、抉り、何もかもを『空』にするモノ。海斗はそう理解して、自分以外の光に、己を滅するよう意識を駆使する。
瞬間、周囲の光が一瞬で全てと繋がり、景色が純白と化した。瞑想から戻ると、体が驚く程軽くなっているのが最初にわかった。次に、全身から白い闘気のような奔流が現れ、足場の水面が飛沫を上げた。
奔流は非常に静かだ。しかし、触れれば触れた先から根元まで丸ごと千切れ飛ぶであろう。純粋、余りにも純粋。故に。恐ろしい、余りにも恐ろしい。
世界はこうやって滅ぶ、いとも容易く一瞬で。そう連想するに、必要な光景など幾許も要らない。
束の間、溢れ出る『無双』は奔流を鎮めてしまった。当人の意思に関係無く流れは止み、間も無く体は空間から失った分の体力を補い始めた。疲労感は皆無なものの、回復中は無双を解放出来ないようだ。
「失敗かな……」
「いや成功だ。最初の解放はそんなもん、本来なら一瞬でも使えれば十分過ぎる程だ。無双の速さは光を遥かに彼方凌駕する。後は、解放と同時に動けば良い」
言葉の後、晃太は言わずに構えた。如何やら実戦で早々に確かめるつもりらしい。晃太の持っていた『終焉』、"無双"が最初から付随されている恵まれた力だからと言ってしまえば、それでお終いだが。それはあくまでも建前。
本音。だが、恵まれてるとは言え、無双を解放する感覚を既に掴んでいる。『終焉』が早くも彼に馴染み始めているのだろう。
待ったか? あぁ、そうだろう、それはそれは当然だ。何せ、『終焉』はずっと待っていた。世界を守りたいんだよな? わかってる、だからこそ、『終焉』を選んだ。
先程の感覚を頼りに、海斗は静かに無双を解き放つ。これだ、この奔流。この、白波すら立てぬ静寂の闘気。無双が閉じてしまう前に動こう、そう意識した瞬間だった────
「おっ……?」
突如全身を浮遊感が襲う。水面は遥かに真下、自身は遥か真上、海斗は自分でも気付かぬ内に跳躍していた。そして更に全身へ訪れる驚異の軽さ。
天衣無縫、一身軽舟。自然と体は躍動し、空を蹴り、晃太へと突進していた。
「よし、上出来だ」
一瞬を上回って繰り出される海斗の億単位の攻撃を捌かず全て躱し、表情すら全く変えずに軽く口を開いて呟く。晃太は"無双解放"に対し、全くの無手、全くの無強化で、それ以上の速さを発揮している。
まさか、世界を置き去りする速さでも、未だ先代には及ばないと言う事だろうか? 否、そうだ。先代、園岾 晃太は体に『終焉』が馴染み切る前に死んでしまった為に、今がある。
それは世界を、誰か一人を救う為に命を使い尽くしたが故。人間の身で『終焉』を酷使し、"無双"を乱解し、命全てを使い尽くして尚、守りたい誰かの為に動き、そして死んだ。
これが、彼の短くも永い一生。体に『終焉』が完全に馴染んでいれば、人を超えた肉体を得て死ぬ事など無かった事だろう。では、今は? と問われると、それはまた別の話になる。
一方で、海斗は事前に到達者、覇者と段階を踏んで『終焉』を得ている為、馴染むのが早い。肉体も過程を通して頑丈になっているので、比べて測るなら海斗の方が強い、と、言っていいのだろう。
「だがまだ遅い。そろそろエキシビションを始めるし、俺があんたを倒しても意味は無いから、取り敢えずこれだけは教えておくよ」
途端、海斗は動きを止められた。世界を上回って尚、海斗の目に晃太の動きは全く映らず、止める事など敵わない筈の膂力と速度の海斗を、赤子の手を捻るように容易く止めて動く。
「一瞬を以って打ち込む速さ、せめて〔京〕まで上げておく事。今のままじゃ1点もやれない。ついでに問題、今俺があんたに打ち込んだ数は幾つでしょう?」
「────は?」
「答えは1不可説転。これでもまだまだ遅い。大丈夫、指で触れた程度だからダメージは無い。んで、早速エキシビションだが、あんたは誰を選ぶ。
・『原初』を持つ優さん、
・龍の最高位の龍神さん、
・未だ底知れぬ瀧沢さん、
あんたは、この三人の中から、誰を選ぶ?」
海斗は唐突だらけで頭が混乱するが、面倒くさい事は放り投げて思考を整える。エキシビションに選ぶ相手……きっとどれも強いのだろう。詳細がまるで知れないのは全員だが、特にわからないのは優と瀧沢だ。
素性を明かさない優は当然だが、素性を明かして尚不明瞭なのが瀧沢。彼は、どうにもよくわからない。何がわからない、と問われても、わからないモノがわからないので、どうしようもない。
知ってわからぬは一番怖い。知らずわからずもまた怖いが、まだマシだ。知って解るのは、それもそれで怖い。出来るならどれも選びたくは無いもの、それでも選べと言うのなら、この人しか居ないよな……
「優を頼む」
名を告げて静かに、晃太がわかったと言いながら歩き、海斗と擦れ違う。その際、何か言った。
「おめでとう、一番の大当たりだ」
あぁぁ。なるほど。こう言う時のくじ運最悪なの忘れてた。しかもあの先代が一番の当たりと言うんだ……恐らく、彼は優を誰より知っている。解るからこそ言えるのだろう。
「……あ、そうだった」
くじ運なんて話じゃない、大凶も大凶、一生を何万回何億回何兆回繰り返した分だけ得た不幸を丸々現在にぶち込まれるようなもの。最初から当たりなんて無いんだ。
『悪かったな、意味の無い選択で。でも一緒くたに貰うより一つずつ、何だって一個だけってのが一番良い。そして単一、選ばれたのは俺でしたってな』
海斗が声を聞き、捉えたのが背後で、体ごと振り向く。世界は、再び切り替わった。
其処は、元は自分を除く参加者全員が居た"会場"と、呼んでいた場所。今は皆を投げ出し、黄昏色に染まる心象世界で優と自分を含めた全員が立ち尽くしていた。
『瀧沢、龍神。観覧者全員の保護を頼む』
『わかった』
『うん』
全員は瞬く間に瀧沢と龍神に依って突然現れたドーム状のエネルギーに仕舞い込まれた。危険が及ばないように、と言う配慮。ならば、あのドーム状のエネルギーは優が形成したものだろう。
『待たせて悪かった。これからエキシビションを始める。補正は無し、正真正銘の正々堂々だ。ちなみに晃太が一番の大当たりと言ったのは、俺が三人の中で一番手加減が上手いからなんだぜ。
強くも弱くもどこまでも出来る。まずは手始めだ、かかって来いよ』
かかって来いって……何と簡易な始め方だ。もう号令も無い、撮影される事も無い、補正も無い、なら、それならば────
「遠慮も要らないよなッ!」
即感覚のまま無双を解放し、超光速移動で優の背後に回り、渾身の一撃を叩き込む。『遠慮』と言う枷を外し、全力で打ち込む『流天の無双』────今の海斗が持つ最強の技だ。
瞬時に優の背中に右手の拳が背の心臓に突き立てられる。移動と攻撃は全くの同時、動いた時には攻撃を既に終えている。直撃で発する衝撃波は、世界の足場である水面を目一杯に揺らした。
とても良い手応えだ、この一撃、覇者へと上り詰めた渾身の必殺。もう達した。
『────ん? 今なんかやったか?』
────────何だって……?
『眠っちまいそうな動き、そして触れたのかどうかもわからないか弱き攻撃。自信に満ち溢れた一撃だったみたいだなぁ? 心が焦燥に満ちてるぜぇ?』
な、何だ……何だ……何だ……何だ…………何だ……何なんだ…………
海斗は一撃の後、一瞬数える間も無く今まで味わった事の無い恐慌へと陥った。一撃が効いてない事よりも目前の恐れが優先され、数え切れない程何だと繰り返し、その度に体を動かそうとして、出来ないを繰り返した。
一撃を当て、仄かな優越を手にした時、優が直後に顔を後ろへゆらりと振る動作の最中、一瞬だけだったと言うのに、なのに、あの一瞬で見た優の表情、目、吐息、口、輪郭……全てが恐ろしくなった。
一生の中で、もうこれ以上の恐怖は無い、ハッキリ断言しよう。かの閻魔を統制する十王でさえ、彼には、優には恐れ慄く。一瞬だけで、ドーム状エネルギーの中に居る瀧沢と龍神を除いた全員が海斗と同じ状態に陥り、何人かは発狂し、何人かは笑い出し、何人かは吐瀉物を口から撒き散らした。
何もしていない。当然だ、優は何もしてない。ただ、そうだ、強いて言うなら、多少の笑顔を作ってみせたくらい。だが、その程度の形容に収まる領域では無い、明らかに観覧者はこの世ならざる何かを目にし、精神を抉り取られた様を晒しているではないか。
こうなっては、もう勝負どころでは無い。
『これ、優ヤバい顔したな』
『そうだね、間違い無く』
『おい優! お前の表情の所為でみんなダメになっちまったぞ』
『確か、SAN値ピンチだっけ?』
『ピンチどころかマイナスだわ。ともかく戻せー!』
正気を保つ者は、優を除いて二人だけ。一体どんな表情だったか、今は筆舌に尽くしがたい。状況を戻す為、優が指を弾き鳴らした瞬間、海斗と観覧者全員は恐慌をきたす前の状態に戻った。
無論、記憶干渉も有る為、記憶の部分消去も欠かせない。
「……あれ? 俺は一体、何を」
『如何した? その程度か?』
海斗の記憶は、一撃を当てた直後まで戻り、その際に見た光景や執った行動を全て忘れた。とは言え、一時に受けたショックの違和感は残る、自らの行動にそれが現れているからだ。
然れど、今には些末事。目の前の相手、優に当てた己の最強の一撃が、剰え完璧なまでの無防備に打ち込んでおいて、何も変化無しは精神に痛い。一応にも技としては最強なのだ、心が折れそうになるのは、わからぬでもないだろう。
徐に優は背を向けた状態から振り向いて正面を向き、海斗に対して人差し指を立てながら言葉を発する。
『流天の無双はな、確かに到達者、覇者にとって最強の技だ。でもよぉ、俺にとっちゃぁそれは、"この下無く最弱の技"なんだよなぁ』
「……な、何!?」
「そんな!? 私達の技が、最弱!?」
驚いたのは海斗だけでは無かった。同じ高みに達し、同じ技を放った者同士、真里はその一撃がどれだけ身に誇れる威力か解る故に、優の言葉が信じられない。だが事実は事実、彼の言葉に嘘など皆無だった。
『お前等、これからは流天の無双以外の技を身につけろ。流天の無双ってのは、アーサー王の話に出て来る選定の剣と同じでな、装飾華美で華奢な物だ。真の聖剣とは違うんだよ。それと、お前まだ実力差を理解し切れて無いだろ海斗くんよぉ! 丁度良いから試せや、これが俺の持ち得る限りの手加減、"最弱"だ────』
一瞬、と言える部分、まだ優は見える速さで動いてくれていた。しかし次の瞬間、彼の突き出した右拳が海斗の鳩尾に沈み込み、同時に体が円形に消し飛び、残った頭と手と足だけが無様に転がり落ちた。
観覧者は驚きを通り越して、最早冷静だった。人間の、否、覇者となった男の体が、刹那に頭と手と足を残して消えたのだ。血液すら出ない、もうあの一撃で血液ごと持って行かれている。
騒然とする事など出来はしない。しても現実は変わらない。今起こった事が、今の現象を起こした男が、目の前に拳を突き出して立っているのに変わりはない。嗚呼、世界よ、お前は何と無力か……
見るからに普通の人間に、目の前の男に、いとも容易く負けたのか。いや、違う────お前は自ら進んで白旗を上げたのだな。
この世を成した"あいつ"すら、彼には勝てない。それは、本人が一番わかっている。なら、世界が勝てないのは道理、世界が殺されるのも道理、海斗が勝てないのは道理。否、それは少し違うか。
道理や事実と言うのなら、海斗もいずれ辿り着けると言う事。だが違う、それは断じて違う。
もし、仮にも海斗が、その一生を万度、億度、兆度、京度繰り返して鍛錬に捧げても……
────到達する事、叶わず。
『あぁら、俺の最大限の手加減でもダメか。まぁ、そんなもんかいねぇ』
まぁそうなるよな、と言わんばかりの口調で優は指を弾き鳴らし、海斗を元に戻した。記憶もそのままに……
「ぁぁぁ……あッ…………あぁ」
一瞬とは言え死んだ身、体が元に戻っても、先程まで消し飛んでいた体の空虚感が拭えない。夢である事を願った、今の一撃は『流天の無双』を無限の束にしても、無限ごと押し負ける。
あれほど勝ちを喜んでおいて、その位置する場所が明かりすら見えない遥か真下の奥底だとは。遠過ぎる、余りにも、対するものが、止め処なく、果てしなく────
『おらかかって来いよぉ、100万回蘇生させてやる。それまで精々頑張れ、そして愉しませろよ?』
望んだのは自分だ、成すのも自分だ。なら、終わらせるのも自ぶ────
『おいおい、拍子抜けなんざ誰も許さねぇぞぉ?』
言葉と共に、海斗の体は再び消し飛んだ。今度は腰元から上、片手だけを残して上半身が消えて無くなった。優は海斗の目の前で右足を斜めに振り上げただけ、それだけで、この有様だ。
再び体が戻り、残り蘇生回数……99万9998回────
諦めても意味が無い事を知った海斗は優に攻撃をする事にした。自分の技を全て使ってみる事にしたところ、こうなった。
『素敵な蟻地獄ってのはよぉ、触れた者の力を奪うもんだが、俺の力は吸えないみたいだなぁ? 仮に吸えて、保つかねぇ?』
水面に配置された黒渦は優に踏まれた直後、踏まれてない黒渦すらもその形状を保てなくなり、問答無用で破裂した。無論、海斗もまた体を消し飛ばされた。
『迫り来る回転はもう少し応用を利かせないとこれから先辛いぜぇ?』
右手をズボンのポケットに入れたまま1000発以上もの螺旋弾を全て掴み、容赦無く握り潰しながら左の貫手で払い、直前で渦符『縦向きの渦潮』を展開していた海斗の胴体を離れた位置から掻っ攫った。
蘇生直後、離れた場所から近づいて海斗に話掛けながら踵落としを頭上に叩き込む。
『その縦向きの渦潮ってさ、攻撃に転用しないの? 技は使ってこそ技だ、使い方くらいしっかりしろよなぁ』
両腕と両足を残して海斗の体がまた消し飛ぶ。再び蘇生し、また技を使った。
『その鎧と槍、改良が必要だな。何でって? こう言う事だから』
魔装『ロンギヌス -鎧-』と魔槍『ロンギヌス -紅-』を装備した海斗に躊躇い無く掌を前に出し、そこから途轍もない気の圧を発して足以外を消し飛ばした。何度も体が消し飛ぶ感覚で、少し調子が狂い出してきたようで、次に蘇生した直後に腰を抜かしてしまった。
『おら如何した、来いよ』
仁王立ちで挑発して来る優に対し、僅かながらの憤慨を覚え、ある一つの技を出す。
「極符『全てを無視する体』ッ!!!」
それは10秒間ありとあらゆる攻撃を無効化する無敵技。如何なる攻撃を繰り出そうと、海斗を傷付ける事は叶わない……その筈なのだ、その筈……
『俺から言わせれば無敵技なんて有って無いもんだなぁぁ、えぇ? そこら辺どう思うよ海斗くぅん??』
駆け抜けた海斗の体は優の右足の振りに顎から打ち上げられ、そのまま首からブチブチと生々しい音を立てながら千切れ、頭部は遥か彼方へと飛んで行った。全てを無視する体は、優の攻撃を無視出来なかった。
すると、海斗が蘇生して優は溜め息を吐き、吐く息に紛れて『やれやれ』と口にした。その様子を見るに、如何やら飽きてきてしまったらしい。まだまともに相手もされず、ただ消し飛ぶ程の拳圧や蹴圧で簡単にあしらわれてるだけの海斗としては、虚しい以外の何物でも無かった。
だが、それで終わらすだけで済ます優では無い。
『予定変更だ。今から頑張って動け、かなり減らすぞぉ!』
優が言葉を言い終えた次の瞬間、ポケットに手を入れたままの優から迸る衝撃が有り、それに触れた直後彼は、海斗は体感し、実感した。あの一回だけで、50万回以上殺された────
依って、残り蘇生回数……34万4167回────
「ははっ……マジ死ぬわ、俺」
ハッキリ言って馬鹿げている。だが、そんな言葉で比喩出来る程優の力は優しくないし、弱々しくない。それでも誤解をしてはいけない。彼はあくまで遠慮をしている、最弱の力のみを出している、箸より重いものを持てないと自負する程手加減している。
それで尚、優はこれよりまだ力を弱めようとしている。海斗の実力に合わせる為だ。
『ソラソラァ! 躍れ躍れぇ!』
空中へ跳び上がり、今度は両の拳を見える速さで連続乱打を海斗に放つ。だがまだ光の速さからは落ちないくらいなので、当然海斗は苦戦する。辛うじて体が反応してくれはするものの、更に蘇生回数を削られた。
遂に、残り蘇生回数……1回────
やってしまった。減るところまで減らしたゲームの残機の如く、それ以上にラスト一回と言う風前の灯火、背水の重圧。次の一打で終わってしまう緊張は、海斗をより一層苦しめた。
その時、優から『よし』と言う声が聞こえた。
『やっと調整完了だ、わざと弱くなるのは本当大変だわ。よぉ海斗、今から披露してやる、俺の格闘ってのをな』
「うわッマジ!?」
言葉の終わりと同時に海斗に向かって駆け出す優。その速さは、先程のような衝撃が迸る面影は無く、かなり強烈な風圧が生じる程度。そう、今の海斗の速さと同じくらい。遠慮を無くした海斗なら光以上の速さを発揮出来るが、それも織り込み済みと言って良いだろう。
接近してまず第一、優は右足を膝から振り上げた。膝蹴りが来ると身構えた海斗の様子を見て右足を下ろして海斗の左足を踏み付ける。海斗が意表を突かれた様子を見せた瞬間、下ろした筈の右足を即座に振り上げ、海斗の無防備な鳩尾へ膝蹴りが減り込む。
僅かに前のめりになった直後、軸の左足を上手く退いてから右脚を開き、無防備の顎へ爪先に依る蹴り上げ。そこからまた左足を退き、振り上がった右足を若干引いてから海斗の顔面を爪先と足底で何度か往復ビンタをし、踵で顎を押し蹴り、左足を上手く進めて右足の底で頭を踏み付けるように地面へ蹴り落とした。
一回の攻撃だけで2〜3度以上は当てている。更に攻撃そのものの幅広さに加えて蹴りに依る駆け引きまで用いて来るとは。一度攻撃を食らえば最後、無限コンボの実現を目の当たりにするだろう。
「う゛ッズ……くか、あ……ぁ……」
『おら立て! 暇潰しにもならねぇぞ!』
両手を腰に当てて溜め息を吐こうとするところへ海斗が隙を突き、渾身の右拳を優に見舞おうと動いた時、目の前から消え失せ、かと思いきや足払いを後ろから食らって仰向けになる寸前、右手で後頭部を支えられて直立まで戻される。
瞬間、海斗の右脇を掻き分けるように下から左肘が顔面の中心を激突。鼻血を出す間も無く左肘の勢いのまま右拳が鳩尾の下を潰し、前のめりになるところを右拳から体に沿うように透かさず右肘で打ち上げ、更に腰の回転を利用して肘を直角にして放つノータイムの左フックが海斗の右頬を抉る。歯が何本か飛ぶが、気にも留めず回転を戻すように右ストレートを壇中に見舞い、再び回転を戻し、今度は左足を弧を描くように振り上げ、一気に海斗の顔面へ打ち下ろす。
顔が必然的に下がるところへ蹴り足の左で水面に着地し、更に蹴る事で少し跳び上がり、右足の踵を後ろ回し蹴りで顔面に当て、更に更に回転の勢いのまま左足の爪先を右足で蹴った同じ場所へ連打。
続けて身体の回転を維持、滑りを活かす為に左脚を畳み、水面にしゃがみ込む姿勢になった瞬間右足の底で押すように海斗の脛目掛けて足払いを掛ける。
脛を蹴りで押されて空中でうつ伏せになるところ、優はそれを待っていたとばかりに足払いで使った右脚を即座に畳んで背面を海斗に向け、力一杯両手で水面を掌打して更に左手の五指で強く水面を押しつつ畳んだ右脚を思い切り解放し、海斗の顎へ溜めの込もった右足の後ろ蹴りが炸裂した。顎を蹴り飛ばした事で頭を支点に体が反り、隙だらけの腹部を晒す。
更に待っていたとばかりに突き出した右足を下ろし、両足を水面に付けると、座った状態から伸び切った右足の力みだけで上体を上げ、全体重を乗せた左拳を海斗の腹部に叩き込む。そこから内側に捻る事で衝撃が海斗の背中を突き抜けて行き、トドメに左足を一歩大股で踏み込んでからの右掌の顔面鷲掴みで力強く水面に叩き付けられた。
この動作全てを行うに、実に0.1秒。動きの全てが丹念に柔軟運動を行ったアスリートでも筋や関節をお故障し、復帰不可になる無茶な運動ばかりで、これを実現するには多関節が必要不可欠となる。また、自身の体重を瞬時に即座に支える瞬発的な筋力も並みでは無く、特に、驚くべきは彼の握力にある。
優は物を掴む事は別に大した事など無く実に一般的。だが、事この場のような荒事では、手や足の握力は途方も無く、先程の座った状態から伸び切った右足の力みだけで体を引き上げる術、足の握力だけで地面を引っこ抜いて投げる事も可能な程だ。
霊はこの優と格闘で並ぶらしいが、勘違いをしてはいけない。それには条件が要り、それは霊が全力であって、優が手抜きである事。本気でやりあうなら霊は筋と関節をボロボロにする覚悟が必要になる。例え世界を超えたものでも、それをも遥かに上回る別の何かには特例となるのだ。
『どうだ、お前が老衰で死ぬほど時間が経過して動き続けたとしても今よりずっといい動きでやれるぞ。ウォーミングアップで十分とはよく言ったものだが、反撃くらいしても良かったんだぜ?』
無茶を言う。何せ今まで何をされたかすらわからないくらい速い動きが目に映らず、気づいた時には水面に仰向けで倒れて、口と鼻から大量の血、明滅し歪む視界、血混じりの呼吸、内臓の破れた実感。其れ等が今、一緒くたに海斗に訪れた。
「ッッッ────…………!!?? ッッッ、ッッッッッッッッツ!!!!!」
あれだけ吹き飛ばされる攻撃を受けておきながら飛ばず食らい続けたと言う事は、優の手際と敏捷が海斗の反射神経すらも遥かに後方へ置き去りにしたが故。同じ領域へと力を加減しても、海斗は全く敵わなかった。
否、それは違うだろう。話は最初からだ、彼が優を選んだ瞬間から敗北は決まっていた。
まぁ、本当を言うと誰を選んでも海斗が負けるのは決まり事としてあるようなもの。エキシビションの相手の三人は覇者が永遠に辿り着けない場所に居る。座は無い、ある筈が無い。故に辿り着けるとしたら、それは"オリジナル"の分身である必要があるのやもしれぬ。
「………………まいった……もうやめてくれ、これ以上はホントに逝っちまう。マジで百万回殺されるのは、死んでも────勘弁だ」
微かなギャグを織り交ぜて海斗は降参を告げた。心身共に、彼は悉く打ちのめされたのだった。
『まぁ上出来なんじゃねぇのぉ? 取り敢えずは鍛えろや。"無双人"として、これからお前にはやってもらう事がそれなりにある。用がある時は勝手に呼ぶから、それまでにちったぁ上げろよぉ?』
指を弾く音と共に、空間が元の会場へと戻り、皆が観覧席に着いていた。海斗も元通りの無傷へと戻り、しっかりと生きている事を体感して安堵した。
『さて、今回の闘いの場は、力の選定の場だったワケだが、別にこれで終わりじゃないかもしれないし? そうじゃないかもしれない?』
「どっちなんだ……」
『さぁてさて、そいつは知らんなぁ?』
「絶対知ってますね優さん……何か誰かと似た者を感じます」
優が飄々と言葉を放ち、優一と真里が絡んできた。真里が誰かと似ていると揶揄した時、優は嘲笑しながら話し出した。
『おいおい、何処ぞの変態と一緒にすんじゃねぇ。俺の力と支配域を嘗めんなよ? あんた等を知ってる時点で、あんた等の世界や人物に関連を持った連中は既知だ。何ならここの全員の家族構成も晒してやろうかねぇ?』
「……えげつない」
「……何でもアリとは、厳密にこの事なのね。あたし闘うのやめようかな」
ゆぅとルーシィは、何処か遠くを見つめて呟いた。
「ふぅ……やっと帰れる」
「私、また来たいです。きっと開いてくれますよね、対戦」
白夜はやっと家に帰れる事で胸を撫で下ろし、夢姫はいつか絶対また開かれるかもしれない対戦を期待した。それを見て優はどう思ったかはわからないが、それとは別で何かを思い出した。
『そうそう言い忘れた。真里、お前別にあの形態にはまたいつでもなれるぞ』
「────え? そうなんですか?」
『あぁ。刀哉は単純に自ら降りたから二度となれんが、お前は望んだが故に定着した。お前は"到達"してる』
「本当ですか!」
『この場で態々嘘を吐いて得る事なんざ恨み言だけだ、ならば真実をそのまま告げればどちらも嬉しい、だろう?』
真里は歓喜した。自分はあの力を手に入れたままであると、それを夫の優一と共に喜んだ。と、そこへ、優の隣に霊が現れた。霊の両手で力無く凭れるボノワールの姿を見ず、優は察して言う。
『逝ったか』
「はい」
『なら送ってやれ、丁重にな』
「勿論です」
そう告げて、霊はボノワールと共に消えた。優が元の世界に帰したようだ。
その後、終了の挨拶もそこそこに、優は皆を元の世界に戻した。そして最後に残った瀧沢と龍神に再会を誓い、後ろを振り向いて張り切って言葉を放つ────
『さて、次は何が"創まる"かねぇ?』
斯くして、コラボ対戦は幕を閉じた。各々の強さ、弱さ、共に見る事が出来ただろうか? 出来たなら良し、出来てないなら、それはこちらの不足であろう。
だが、まだ終わりでは無い。これはホンの始まりの1ページ目……
これからもまた、この対戦が開かれる事だろう────???
〜完〜
まずは感謝の意をここに……
この駄作に何年も付き合って頂き、コラボしてくれた皆様には御礼申し上げます。誠に有難う御座います。
始めは書くのが苦しく思ったり、途中でやめようかとも思いましたが、キャラを提供してくれた人達の事を考えたら、それは出来ないと思い、踏み止まりながらここまで書き続けました。
無事、このコラボ対戦は終了です。
ですが、まだ終わりではありません。この対戦の終わりは、新たな対戦の始まりの為の儀。
これからもまた、僕とのコラボを是非よろしくお願い致します。
続いて謝罪です。
度重なる駄文に続く駄文、皆様には汚い部分とお見苦しい文章作りを見せてしまいました。ですが、これが僕です。直せるところは直しますが、僕の持ち味は失いたくはありません。
ので、これからもこんな僕の文章で良ければ、また読んでください!
では皆様、またいつか!