表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話 リク

「なぁ、―――は、俺を助けに来たのか?」

「うん。だって、君は自分の子同然だからね。

居なくなって、本当に心配したんだ。

まさかこんなところにいるなんて思いもしなかったけど」






リシャナが出ていってから少ししたあと、少年は目を覚ました。

「夢、か」

白衣を着た、優しい声の女性の夢。

顔はぼやけていて、誰だかはわからない…。

寝返りをうつと、テーブルの上にカップが2つ置いてあることに彼は気づいた。

起き上がり、キョロキョロと周りを見回すが、リシャナの姿が見えないことに少年は気づかなかった。


ひた、と床に足を付ける。

ひんやりとした冷たさに、記憶の奥底で何かが蠢くが、静寂を突き破る音に負け、それはふわりと消えた。


ドタドタ、という階段を登る音に、ここが2階であることを知る。

近くにあった箒を手に取ると、少年は構えた。

誰が来ても構わないように、もしも自分を連れ去るような奴だったら―――

しかし、それは杞憂だった。

「フィオ!!」

現れたのは、リシャナだったからだ。


リシャナは箒を持ち、突っ立っている少年の両肩をつかむ。

その手には力が込められており、痛みが走る。

突然のことに、ただただ呆然としている少年を、彼女は涙ぐんだ目で見つめ、こう言った。


「フィオ、なの?」


フィオ。

その言葉には、聞き覚えがあった。

遥か彼方の遠いどこかで、と、いうような感じだった。

でもそんなやつは知らない、でも何か。

そう考えていると、リシャナの目からは涙が溢れ、少年にすがりつくようになりながらずるずると力が抜けていき、ついには床に崩れ落ちてしまった。


ふっと力が抜け、手から箒が滑り落ちる。

カランカラン、その音に我に返った少年は、はっきりとした声で、

「俺は、フィオじゃない、フィオと言う奴は知らない…」

と言った。


それを聞くと、リシャナはそのまま顔をあげ、涙を浮かべ微笑んだ。

「そ、だよね。えへへ、変なこと言っちゃってごめんね。

スープできてるよ。飲もう?」

スッと立ち上がり、寂しそうな表情を浮かべる彼女に、少年は何故か胸が締め付けられた。


部屋の中心に置かれたテーブルの上に、微かな湯気を上げるカップが2つ。

対になるように置かれた椅子が2つ。

それに座る、少年とリシャナ。

「ありあわせで作ったオニオンスープで…ごめんね?」

「いや…ありがとう。おいしい…」

ぽつりぽつりと交わされる会話。

しかし、少し前の気まずさが漂うようなものではなかった。


「あのさ」

リシャナは少年の目を見て、言った。

「君は、どこから来たの?」

少年は首を横に振り、答えた。

「何もわからないんだ。

どこから来たのか、なんて名前かも」

するとリシャナは言った。

「君の名前ね、考えてたの。

もしも何も思い出せなかったらどうしようって思って」

「名前を?」

「うん。

だって、名前がないと呼びにくいもん」

少し困ったような顔をしたリシャナ。

席を立つと、1階へ降りて、紙とペンを持ってきた。

何をはじめるのかと少年が見つめていると、サラサラと文字を書き始めた。

そこには、「Riku」と書かれていた。


「君の名前…リク、で、どうかな」

「…何でリク?」

少年は思ったことを口にした。

すると、リシャナは少し恥ずかしそうに答えた。

「昔、世界には陸というものがいっぱいあったんだって。

今はほんの少ししか無いらしいんだけど。

本でしか見たことないけど、なんていうのかな、優しそうな気がしたから…」

そこで突然言葉を切り、リシャナは俯いた。

「…って、理由です」

少年はくすりと笑って言った。

「そんな大層なものから…ははは、俺の事、どういう風に見てるんだよ」

笑い出した少年につられて、彼女も笑い出す。

「ふふ、優しそうって感じだよ」

穏やかな空気が2人を包み込んだ。

しばらくの間、笑っていたが、リシャナはあることに気づき、言った。


「で、君の名前…リクでいい?」


少年は微笑み、言った。

「ああ。俺は、今日から…リクだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ