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真導士サキと二つ星  作者: 喜三山 木春
愛読お礼小話 日々のかけら・その1
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掘り出しもの

「――これ、どうしたんだ?」

「どうしたって……。夕飯ですけれど」

 夕飯だって?

 軽い気持ちで放った言葉は、目の前にいる娘にとって、そこまで重荷だったのかと反省する。

「……言葉が足らなかったな。何もご馳走でもてなせと言ったつもりはない。こんなに手の込んだものは作らなくてもいい」

 出会ったばかりの娘は、ひどく遠慮がちなところがある。一日の波乱を越えて、ようやく肩の力を抜いたと思ったのに、まだまだ強張りが残っていたようだ。

 どうにも上手くいかん。

 ここまで人に遠慮する奴に初めて会った。これが娘というものか。もっと言葉を選んで話すようにしなければ、気の弱いこの娘を潰してしまいかねん。

「あの、ローグさん」

 恐る恐る話しかけてきた娘は、戸惑った様子で強く布巾を握っている。

「……お気に召しませんでしたか?」

 見やれば瞳が不安げに揺れていた。思わずぎょっとして大慌てで両手を振る。

「違う、違う。豪華過ぎて驚いただけだ」

 返答を受けたサキは、あからさまにほっと息を吐いた。

「森を抜けてきたばかりで、ここまでたいそうな飯を作っていたら大変だろう。簡単な物でよかったんだ。無理をして作る必要はないし、無理強いをしたいとも思っていない。今日みたいな日は食堂でもいいくらいだ」

 適当にパンでも焼いて、肉と野菜を挟んで食えばそれなりに腹も膨れる。

 その程度のことをしてくれれば満足だった。まさかここまで手の込んだ食事を作っているとは考えてもいなかったので、つい慌ててしまった。しかし自分が動揺したことで、相手に余計な負担を与えたようだ。

 娘相手だと勝手がわからない。早めに慣れるようにしよう。さもなければいつか泣かせてしまいそうだ。

「ローグさん」

「あ、ああ。すまんな、ぼうっとして……。何だ」

 もじもじと布巾を擦り合わせているサキは、一呼吸おいてからようやく言葉を発した。

 だが俯き加減での言葉は、いかんせん聞き取りづらかった。

「ん?」

「だから、その……」


 ――駄目だったでしょうか?


 床に視線を落としたまま言ってくる。

「駄目ではない……」

 むしろ大歓迎だと、美味そうな匂いを出して誘っている夕飯を見る。

「だが、大変だろう。もっと普通に作ってくれていいんだ」

 俯いていた娘が、びっくりした様子で顔を上げた。

「どうした?」

「ローグさん、これって……普通ですよね」

 思いがけない返事を出した娘は、茫然と自分の手料理を眺めている。ここにきて初めて、自分は素晴らしい対価を得たのだと理解する。

 神殿で出会った気弱な娘は、なかなかの掘り出しものであったようだ。

 自身にとっては当たり前過ぎて、価値があるとも思っていないのだ。自分の価値も知らぬ様子の娘は、困ったように小首を傾げている。


 ……しめしめ。


 それならば、わざわざ価値を伝えずともいい。

 妥当な結論を出して、罠にかかった憐れな獲物に笑いかけた。

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