序章
「ぎー!」
某特撮モノに出てきそうな戦闘員の鳴き声を甲高く上げながら、黒スーツに歪な仮面を付けた怪物が暴れまわる。
ある者は足で蹴り飛ばし、またある者は手に握る棒状の武器を振り下ろす。
そんな戦闘員の中に一際注意を奪う存在があった。
全身剛毛に覆われ、むき出しの二対の犬歯が特徴の狼を思わせる頭――怪人だ。
「ふはははは、俺様の手にかかれば世界征服など容易いことよ」
灰色一色の曇り空を仰ぎ、怪人は高らかに哄笑する。
「そろそろ次の場所へ向かうと――」
「待てっ!」
怪人が戦闘員に撤退を命じようと手を上げた直後、第三者の声が響く。同時に颯爽と現れる三つの人影。
「なにもんだ!」
怪人がお約束の言葉を投げる。
「我ら自由な放浪者」
太陽のような情熱を帯びた稚い声。
「されど悪は言語道断」
吹雪の如く周囲を凍らせるような冷ややかな声。
「汝に鉄槌を下す者なり」
力強く、しかし愛敬のある高い声。
「ブライレッド」
「ブライブルー」
「ブライエロー」
「「「放浪戦隊ブライジャー!!」」」
赤、青、黄のそれぞれのスーツに身を包み、三者三様の決めポーズを取る。
「ぐぬぬぅ、出たなブライジャーめ」
低く呻きながら、怪人の鋭利な爪の伸びる人差し指がブライジャーを指し、「ゆけっ!」っと命じる。数体の戦闘員が「ぎー」と鳴きながら次々と玉砕覚悟の突進をしていった。
「行くぞっ」
ブライレッドの掛け声とともに、ブライジャー三人が戦闘員をを迎え撃つ。
数では三倍近くも怪人側の方が有利ではあったが、個々の力の差は歴然。戦闘員が一撃も攻撃を打ち込むことなく、すべてブライジャーに倒された。
「クソッ、こうなったら俺様が直々に」
両手で握る大斧を軽々と振りまわす。
だが、あまりにも捻られていない単調な攻撃を受けるほどヒーローも馬鹿ではない。後方へと跳び躱し、攻撃へと転じた。レッドは怪人へと向けた掌からバスケットボール程の火球を飛ばし大斧を弾く。次いでブルーが、創り出した氷で怪人の足を止め見動きを封じる。最後にイエローが怪人の懐へと飛び込み、鳩尾へと渾身の一撃を叩きこんだ。
ドゴッ――鈍い音と共に、怪人は悲鳴を上げる間もなく膝を折った。
三人のヒーローは互いに親指を立てガッツポーズをし、
「我らに断てぬ悪はないっ!」
台詞とポーズを決め、去っていった。
『ブライジャーの活躍によって世界は救われましたっ! 観客の皆さん、正義を守ってくれたヒーローたちに盛大な拍手を!』
司会のお姉さんの言葉の後、僅かな観客の子供たちによる少しの拍手が彼らに送られ、こうしてヒーローショーは幕を下ろした。