一話「影の者」
俺の名は、ヘルオス。上級妖精だ。詳しく言うと影と氷からできた3050年~3200年まで王宮に仕えていた妖精だ。俺を人間界に召喚できるのは、強い魔力を持った魔術師だけだ。
だが、俺の前に立っているのは大魔術師ではなく手足ヒョロヒョロのガキ。こいつが俺を召喚できるはずがない………
「俺を呼んだのは、貴様か? 小僧。」
俺は、出来るだけ威厳のある声で言った。
すると、やつは頭を小さく前に振った。
ウソだ!
そこで俺は確かめることにした。いきなり氷の刃をやつに飛ばした。
次の瞬間、やつの体に穴があく……はずだった。
氷の刃はやつに届く前に燃え散り、俺の体は上に吹き飛んだ。地面に叩きつけられた自分に神様は、一つ教えてくれた。
やつは、強い。
やつは、強力な「魔力の囲い」の中に俺を閉じ込め、更に「灼熱の拳」を俺に放った。
二つとも、こんなガキにできるはずのない魔法だが、俺は、ひとまず落ち着くことにした。
「お前が俺に何のようだ?」
普通のガキなら、「空を飛びだい」とか「お金がいっぱい欲しい」などの子供っぽいことを言ってくる。下級妖精だった頃は、そういうことで呼び出されたことは何度かある。その時俺は飛行機のチケットや宝くじの券を渡してあげたよ。
だが、目の前のガキは、またしても俺の想定外のことをいいやがったのだ。
「召喚者として、貴様に命じる。 イグラントを探し出し、持ってこい。」
俺はやつを氷づけにしてやろうかと思った。
イグラントだって?こいつが知ってるかはわからないがイグラントは伝説の大魔術師であるラウズ・ルベリックが持っていた究極の魔法武器の一つでどんな強力な妖精や悪魔でも一振りで塵にできる剣だ。だが、これは、子供が振り回して遊ぶものではない。
どうしてこいつが?
「何故お前が知っているのかは、知らんが無理だ。おそらくイグラントは政府の厳重な警備によって密かに守られて………」
「政府は関係ない。僕は隠されている場所を知っている。」
この言葉を聞いて、俺は本当にこいつを氷づけにしようかと思った。こんなヒョロヒョロがそんな情報つかめるはずがない。
やつは、続けた。
「イグラントは、ユシル大帝国のライト・ブリッジの柱のどこかに隠されている。」
俺は混乱しながらもやつに聞いた。
「ここはどこだ?」
「ユシル大帝国のライト・ブリッジ通りだよ。場所がわかったなら早くいけ!!!」
俺はやつに聞きたいことが山ほどあったが、やつが二発目の「灼熱の拳」を放とうとしていることに気づいた俺は、しぶしぶ薄暗い部屋の窓から黒い影となって出て行ったのだった。