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妙薬はホムンクルス  作者: 滝田利宇
第一章
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閑話 大きすぎる母の愛と

 顔面注意!

 息が止まる息抜きタイム。閑話とは、むだばなしのことです。

 ゼノンの一人称でお送りします。


 それはぼくたちが王都を出発して三日目の夜に起こった。

 ぼくは突然の息苦しさに目を覚ました。

 確かに目を覚ました。なのに、目が開けられない。真っ暗な世界に放り込まれたまま、息すらできない。口も鼻もふさがれている。頭を動かそうにも、信じられないくらい強い力で頭が押さえつけられている。


 もう、だめだ、と思った。今度こそ死んだ。


 ――いや、あきらめちゃいけない。


 ふと、寝る前に父さん――心の中ではまだロイドさんって呼んでるけど、ロイドさんが話してくれた聖人伝説を思い出した。ロイドさんのお話は難しいけど、ためになる気がした。その物語の中では、ぜったいにあきらめない心の持ち主ががんばっていた。

 ぼくはがむしゃらに全身で暴れた。やっぱりものすごい力だ。それだけじゃない。頭のまわりにぐにぐにとくっつくもののせいで、抜けだせない。それでもなんとか口にすき間ができた。必死になって目の前の柔らかいものに歯を立てた。


「うぃたっ!」


 ヘンな叫び声が聞こえた。母さん――ミレーネさんが起きた。

 自由になった。ほっと息をついた。本当に死ぬかと思った。

 ぼくを殺しかけたのはミレーネさんだった。正確にはミレーネさんのばかみたいに大きい胸とばか力の二つが原因だった。ばかとかいってごめんなさい。かんだのもごめんなさい。でも、ばかっていってやらなきゃ気が済まない。


 まずミレーネさんの胸は大きすぎる。うでとかおなかとかは細いのに、そこだけ大きいのは不自然だ。おかしい。気になる。あんまりじろじろ見ちゃいけないのはわかっているけど、目に入るんだからしょうがない。歩いていても、荷車がガタゴト揺れても、一緒に揺れる。見ていて飽きない。

 それだけなら、たぶんぼくは死にかけなかった。


 二つ目に、ばか力。ふだんはふつうの女の人と同じくらいの力しかないように見える。

 だけど、寝ているときとか寝ぼけたときの力がおかしい。

 きっと、ロイドさんより強い。ロイドさんが弱いわけじゃない。それこそ「そういうとき」のミレーネさんは大きな動物みたいな力で抱きしめてくることがある。クマとか馬の力が出せるの? って聞いても、変身しなければむりらしい。じゃあ、あれは何なのか。あれはなぞの力だ。今のところぼくしか知らない、なぞの怪力だ。寝ぼけたミレーネさんに勝てる人はきっといない。起きてるときのミレーネさんに勝てる人もぼくは知らない。


 ともかく、おかげでぼくは寝不足になった。

 そして寝るときは必ずミレーネさんに背を向けることにした。

「照れてるのー?」とか、楽しそうな声でぼくの背中をつついてくるけど、無視した。本当に危なかったって信じてもらえるまで、無視した。そう、あれはキョウキだ。

 ――あ、くっつかないで!

 背中にあたる「それ」がこわい。


「ゼノンふるえてるよ? 寒いの?」

「ううん……」


 それでも、背中は暖くて、気持ちよくて、すぐに寝てしまった。



 閑話とは、むだばなしのことです。

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