エピローグ
一回分の薬が入った袋を千切って、用意した水で飲む。一回分といえども中に入ってるのは普通では考えられない数だ。が、これらにより自分は辛うじてこの世に命を繋ぎ止められてる事も充分に理解している。だからこの量を飲む事はもうすでに慣れているし苦痛ではなくなっている。
(他人には見せられないけどな)
空の袋をゴミ箱に入れると、微かな光量の中を半分手ぐさりで移動して薄い布団を身体にかけて横たわる。息をすると軽く喉で音が鳴る。背筋がざわりとして熱のありそうな嫌な感じがした。
入院してた時に会った少女を思い出す。
彼女の言葉はすべて耳にきちんと入っていた訳ではない。途中からは顔のあたりを中心にして炎の中にいるような灼熱感と息苦しさが襲ってきていて、最後の方は実際には耳鳴りしか聞こえなかった。
でも、それでも確かに伝わってきていた。家族の温もり。彼女も、彼女をとりまく何もかもがあたたかで、柔らかくて。こんな薄暗い部屋ですきま風に震えながら眠りにつく自分とは大違いだった。もっとも、今更そんなものに対して羨みのようなものを感じるとは思わなかったが。
彼女の、目映いばかりの母親への愛情と共に浮かんできたのは、同じ輝きを伴った学校生活だった。ハードルを懸命に飛び越える彼女が、ある一人の男性を想っていたのはすぐに分かった。同時に、そんな彼女を優しく包み込むように見つめていた男性がいた事も。
きっと二人の未来は、その明るい光の延長上にあるだろう。そう思ったから、太一郎に伝言を頼んだ。あとは彼女がそれを信じてくれるか、だが……。
(たぶん信じるだろうな)
そんな漠然とした予感もあった。彼女が持ってる花たちが母親との和解のキーになると感じたから尽きかけてた気力を振り絞って言葉をかけ、彼女はそれを素直に受け入れてくれたようだ。そんな素直さのある彼女だからこそ、信じてくれるだろうと思えた。
――たすけて!
ふいに入り込んできた思考によって、硝子が砕け散るように少女の世界がいくつもの破片になった。
次の瞬間には視界が真っ暗になり、徐々に見えてきたのはいつも見慣れている天井と、もう何日も部屋を灯してない小さな蛍光灯。
夢から覚めた気分になって、小さく息をついた。
そういえば、この声の主は結局まだ見つかっていない。今の悲鳴は、少しでもその事を忘れていた自分を責めてでもいるかのようだった。
分かってる。
(探すから)
きっと探すから。
ふわりと身体が浮かび上がるような感覚と同時に、彼は浅い眠りについた。




