第三話 敗者は愁い
スレイブが見たカイルの最後はもがき、苦しむ様だった。異臭が鼻を突き、吐き気を煽る。
ソリ―は驚きの顔でカイルを見つめると、その表情が悲痛に変わった。わめき、ヴィデッドにありったけの魔力をぶつける。しかし、ヴィデッドは両腕で防ぎながら迫る魔力の波にぶつかった。力で魔力をかきわけ、ソリ―に手を伸ばす。それに反応しきれなかったソリ―は逃げようとするが、服を掴まれ、地面に叩き付けられた。
大量の血が口から溢れ、骨が軋む。
「ヴォンクよ。あそこでのびている男をやろう。自由にするが良い」
主人の言葉にヴォンクは嬉しそうに吠え、褒美に向かって走って行く。
スレイブは髪の毛を掴まれ、持ち上げられているソリ―を見ると、カーターの方へと走った。
ソリ―は助からないだろう。それが分かっての行動だ。死が確定している者よりも、助かる見込みのある者を取るのは当たり前だ。並大抵の悪魔なら迷わずスレイブはソリ―を助けようとするが、今戦っている悪魔は並大抵ではない。
スレイブは屈辱の選択を選んだ。
カーターの頭に喰いかかろうとしていたヴォンクに体当たりすると、右手の指を全て鋭く尖らせ、腹めがけて振り上げ、肉を抉った。
男性の頭は顎が無いため苦痛に目を開くばかりだが、狼の頭の叫びは耳から血が出る程うるさかった。鼓膜が破れ、耳から血が出る。スレイブはすぐさま鼓膜を再生するとヴォンクの内臓ごと手を引き抜いた。
スレイブの手には不規則に動く内臓が握られている。それを投げ捨てると、狼の耳を鷲掴み、口を近づけ、割れんばかりの大声を出した。
狼の目や鼻、口といった穴から血が噴きだし、流れると、狼の頭はぐったりと垂れ、動かなくなった。
スレイブがカーターの腕を首に回し、体を支えると、窓から飛び出した。魔力で身を守り、着地の際の若干の衝撃に呻きつつ、その場から逃げる。ヴォンクを殺したわけではない。悪魔は体を引き裂かない限りまた再生して戻ってくる。
スレイブは五階に目をやっている。ヴォンクが追いかけて来ないかと警戒しているのだ。だが、不思議な事に追手は無かった。
カーターを引きずり、表に回る。そこにはシェイルがいた。何事かと言う顔でみつめ、駆け寄ってくる。その傍にあった白い車から何人かが降りてきて、慌ててスレイブ達に手当てしようとした。そこで、スレイブの意識は途絶えた。まどろんだ脳を締めようとしたが、魔力を使い疲れ果てた体にそんな体力は残っていなかった。
静かな白い部屋。スレイブはそこで目覚めた。
目立った外傷はないため、変わっていることと言えば服装ぐらいか。青い患者用の服になっている。窓の外は明るい。まだ昼だ。風が部屋の中に入り込み、カーテンを揺らす。しばらくぼう然としていたスレイブ。しかし、ヴィデッドの事を思い出し、意味の無い焦りを見せた。
「……死後の世界、ではないか。ふふっ、ここが死後の世界なら喜んでいくが……」
自分をあざける笑いを見せる。
「カーターは……?」
その時、横のベッドからうめきごえが聞こえた。スレイブは相部屋だったことに今気づき、ピンクのカーテンを少しだけ開けた。
そこにいたのはカーターだった。頭に包帯を巻き付け、苦しげな顔で眠っている。悪夢でも見ているのか、それともただの痛みか。どちらにせよ、良い状態には見えない。
立ち上がるために体を起こそうとしたが、全身に針を刺したような鋭い痛みが走り、スレイブはゆっくりと体を戻した。
魔力の副作用だ。少量ならば影響はないが、大量に使用すると人体に影響をもたらす。麻薬のように、一時の強い力のために、自らの体を傷つける。まさに諸刃の剣だ。
しかし、悪魔の血が通うスレイブは、他の者より魔力の耐性がある。そのスレイブが体を動かせくなるほどに魔力を使い、体を酷使したのだから、カーターはもっと酷いだろう。生きているだけ有り難いというものだ。
天井を見つめ、ヴィデッドの事を考える。自分を責めているのだ。自惚れているわけではないが、スレイブは自分がカーター達より強いという自覚があった。なのに、自分の復讐にのめりこみ、任務を忘れてしまった。撃退で良かったのだ、殺すのは無理だとロズが言っていた。いつでも逃げられるよう配慮していれば、二人を助けることが出来た――。
と、自責の念に駆られ、鬱になっていると、扉がノックされ、二人の男が入って来た。
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