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アンヘル  作者: トレト
4/12

    母と兄 2

 屋根に覆われた広い駅。リオテネ国最大の都市、バッシュに着いた。

 スレイブ達は荷物を持ち、列車の中から出る。大勢の人が駅の中を歩いている。その中でも、長身のスレイブは目立っていた。スレイブを横切る人達が、通り過ぎ様にスレイブを横目で見るが、当の本人は全くそれを気にしていなかった。


「あ……スレイブごめん。教団より先に行きたい所があるんだ」


「別にかまわんぞ。すぐに教団へ帰らなきゃいかん訳でもないんだろう?」


「うん。じゃあ」

 

 そう言うと、ミロは手を振りながら、人ごみの中に消えて行った。


(ああ……あの花は姉へのか)

 

 ミロに突き付けられた花束、それが姉の墓標に添える物だったことにスレイブは気付く。

 そして歩き始め、駅を出た。

 街に出ても、人は多い。スレイブはその中を進む。スレイブは、歩くことが嫌いではなかった。乗り物に乗るよりも、歩く方が良いというくらいだが。

 

 教団は、本拠地と言える場所が無い。あえてつくらないようにしている。もし、悪魔達に嗅ぎ付けられ、そこを襲撃されると、全滅してしまう危険があるからだ。そのため、依頼や情報を知るのはロズ達幹部のみで、そこから伝えられる情報しかスレイブ達は知らない。ロズや他を仲介しているのだ。

 たまに場所を指定して、教団員全員で集まる事があるが、それも数年に一度あるかないかで、緊急の時しかその招集は無い。

 教団員は世界各地にいる。その数はそれほど多くは無い。スレイブもよく知らないが、せいぜい百人程度だろう。教団は非正式にその存在を認められているため、堂々と人員募集が出来ないのだ。しかし、例え公式だったとしても、己の身を守る第一条件として魔力を使えなければならないため、どのみち多くは得られない。

 


 大通りを抜けて路地に入り、少し狭い通路に出る。そこを右に曲がり、歩き続ける。普通は車で行く距離なのだが、あえてスレイブは徒歩で行く。すると郊外に出て、住宅街になる。スレイブはそこの一角にある、大きな家にノックなしで入って行った。

 薄暗く、静かな家の中。スレイブは丸い形のテーブルに荷物を置き、上着を椅子に掛けた。

 白と黒の中着も、上着の染みが付いたのか少し赤くなっていた。そのまま階段を上がって、何部屋かある内の、一番奥の部屋の扉をノックする。

 そして返事を待つことなく、部屋の中へ入った。

 部屋は書斎になっていた。本棚には隙間なく分厚い本が詰められていて、その題名は悪魔関連の物ばかりだ。そして、部屋の隅に、ロズがいた。ロズはスレイブに気付くと笑顔で椅子から立った。

 銀に近い白髪に、暗い紫の瞳。背丈はスレイブほどではないが、平均よりも高い。黒いシャツに、ジーパンを履いていて、少ししわが刻まれている顔は優しく微笑んでいる。


「帰ったか、ご苦労様。早速だが、報告を聞こうか?」


「ああ」

 

 スレイブはおおまかに、報告を済ませた。


「お前にとっては、楽な仕事だったろう? ギートは悪魔の中でも立場が無いからな」


「楽な仕事なんかないさ。いつも命懸けだ。ロズ、あんた長らく前線に立ってないせいで平和ボケしてないだろうな」

 

 スレイブがからかうように言う。これは電話でのお返しだ、とでもいうように嫌な笑みを見せている。

 しかしロズは枯れた声で笑い、それはないと断言する。


「スレイブ、私はお前よりも長く悪魔と付き合ってるんだ、奴らのおぞましさは忘れたくても忘れられん」

 

 そのままロズは椅子に座り、スレイブも腰かけるよう促す。スレイブは赤い絨毯の上に座った。

 ついさっきまで笑っていたロズだが、急に真剣な面持ちになり、手を組み、膝の上に肘を置いた。これから話す内容が面白いものではないとスレイブも分かる。

 

 そしてロズは話し始めた。


「ヴィデッドを近くで確認した」


「!?」

 

 ヴィデッドという言葉を聞いた瞬間に、スレイブは立ち上がり、ロズを見下ろした。その顔は驚きと怒りが満ちている。


「落ち着け、場所は分かっているが、堂々と行っても殺されるだけだ。……今はシェイルが動向を確認してくれている」


「ふざけるな! 奴は……ヴィデッドは両親を殺したんだぞ!」

 

 アークとシェリーを殺した強大な悪魔。それの名がヴィデッドと言った。教団が最も警戒し、恐れる存在だ。人を殺すことに快感を覚えているらしく、ヴィデッドに狙いを付けられた人間はみな凄惨な死に方をしている。

 スレイブの両親も、その中に入っている。

 姿形は知らないが、名だけはロズに教えてもらっていた。二十歳になったスレイブに、ロズは説明できると判断し、両親の本当の死因と、ヴィデッドについて伝えたのだ。


「それでもだ。奴に家族を殺された教団員も大勢いる。なのにお前だけひいきして行動を許す事は出来ん。……それに、今のお前では、ヴィデッドには勝てないだろう」


 納得のいかない表情をしていたが、スレイブは押さえつけるように我慢し、座り直す。

 それにロズは微笑んだ。と同時に、申し訳なさそうに眉をひそめた。

 そして少し沈黙が続いた後、ロズが切り出した。


「スレイブ、お前にも、ヴィデッドに関しての任務についてもらう。これは依頼じゃない、命令だ。ヴィデッドはバッシュにいる教団員総出で監視し、タイミングがあれば始末する。…………まあ、無理だろうがな。奴を弱らせて、撃退することを目的にしよう。

 本当ならば、リオテネ国内総てで当たりたいのだが、ヴィデッドに時間を与えると、大量の死人が出る」


「なら、俺はどうすればいい?」

 

 段々愚痴臭くなってきたロズの話を断ち切るように、スレイブは自分の役割を聞く。


「スレイブ、お前にはある三人と合流してもらう。都市内のブロウズと言う喫茶店で落ち合うんだ。そこからは三人に話してある」

 

 そこまで聞くと、スレイブは書斎を出た。そして上着を着て、家を出た。




 

 喫茶店ブロウズはすぐに見つかった。派手な看板とは打って変わって中は綺麗で、観葉植物が置いてある。落ち着いた音楽が流れ、全体的にゆったりとした雰囲気だ。

 辺りを見渡すと、レジに一番近い席にいる、緑色の髪をした男がスレイブの肘をつついた。


「あんたロズが言ってた人?」

 

 スレイブはその言葉に頷き、男の向かいの席に腰を下ろした。

 よく見ると男はスーツを着ていて、体格もしっかりしている。鼻にピアスを開け、両方の指にゴツゴツした指輪をはめているが、全くスーツと合っていない。


「初めまして、俺はソリ―って言うんだ。よろしく、ええと……」


「スレイブだ」


「スレイブさん!」


 明るい声で、屈託のない笑顔を見せるソリ―。テーブルの上に置いていたスレイブの手を取り、力強く握手する。そんなソリ―を、スレイブは冷ややかな目で見ていた。


「ロズからここで待っているのは三人だと聞いたが?」

 

 ソリ―以外この席にはおらず、スレイブは他の二人はまだ来ていないのだと思っていた。


「一人はトイレに行ってて、もう一人は吐きに行ってるよ」


「……吐いてるのか」


「気が弱い奴なんだ。これからヴィデッドと接触するって考えたら、緊張してきたんじゃないかな? ロズからすげえ恐ろしい悪魔だって聞いてたから」

 

 ソリ―は軽く笑う。そして頭の後ろで手を組み、体重を背もたれに預けた。


「奴と接触するのか?」

 

 聞き逃せない言葉を聞いたスレイブは、少し前のめりになってソリ―に尋ねる。スレイブの顔を見たソリ―は、真剣な顔になって任務の内容を頭に思い浮かべ、確認するように話し始めた。


「今から俺達は車でとあるビルへ向かう。情報によれば、そこにヴィデッドの存在を確認したらしいからな。

 そんでそこでヴィデッドを視認したら、仲間の到着を待ち、ビルを包囲する。恐らく奴は手下を引き連れているだろうから、一匹も街に出さないためだな。包囲が完了したら……」


「奴と戦うのか」

 

 ソリ―は何度も頷いた。目線を泳がせ、今の説明が間違っていなかったかもう一度確認している。

 作戦を聞いて、スレイブは興奮していた。ロズが言うような撃退では無く、ヴィデッドを殺せるチャンスだと考えていたのだ。知らず知らずに魔力が流れ出ていたため、テーブルが震え、ひびが入る。その様子を、ソリ―はチラチラと横目で見ていた。



 それから間もなく、トイレに行っていた一人が帰ってきた。男はスレイブにジョン・カーターと名乗り、ソリ―を押しのけ、豪快に座る。黒い革のジャケットを着ていて、中に白いタンクトップを着ている。剃り込みの入った坊主頭で、顎にひげを蓄えており、その黒い髭は肌の色と同じだ。

 カーターは席に着くなり次々と注文しだし、来た商品を軽く平らげていた。行動の全てが豪快だ。

 

 スレイブは、そんなカーターも冷たい目で見ていた。


お疲れ様です。

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