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我らが太古の星シリーズ

作者: 尚文産商堂
掲載日:2010/08/24

「…きて、起きて。さあ」

男の人の声が、私の全身の皮膚を通して響いた。

「ああ、やっと起きてくれたね。歩けるかい」

「大丈夫です」

私は右手を前に差し出し、そして左手を床について立ち上がった。

ちょっと前のめりになると、彼が私を支えてくれた。

「よかった、立ち上がれたね」

そのとき、初めて彼の顔を見ることが出来た。

「初めまして、君の名前は、佐和田吏子(さわたりこ)だよ」

「さわた、りこ。私の名前…」

「そうだよ」

彼は、私に吏子と名前を付けてくれた。


私は彼に買われた身。

だけど、本当に彼が一緒にいて欲しいと願っていたのは、彼の実の息子とだった。

「お父さん!」

「父さん!」

6時ぐらいまで一緒に遊んでいると、彼が帰ってきた。

お父さんと呼んでいるが、もちろん、本当の父親でも何でもない。

「ははっただいま」

彼はいつも持っているカバンとは別に、今日は紙袋を下げていた。

「父さん、お土産?」

「ああそうだ。いつも欲しそうにしてただろ?」

彼が紙袋から取り出したのは、小さな恐竜の人形だった。

それを見た途端、息子の顔がパァッと明るくなり、元気にありがとうといった。


時は流れ、息子も立派に成長をした。

しかし、私は変わることはない。

なぜなら、私はロボットだから。

人と共に暮らしていくように創られた人形、それが私だった。

でも、それでもよかった。

彼らと共に暮らしていけるなら、十分だった。


私は息子と同居を始めていた。

彼は大学4回生で、就職先を考えているようだった。

いまは、彼の専属メイドみたいな感じだ。

そして、一番の友人でもある。

「なあ」

「なに?」

台所で大根をすりおろしながら、彼に問い返した。

「俺らが知り合ってからさ、どれだけが過ぎた?」

「ざっと20年ぐらい、かな」

「もうそんなになるのか…」

私の姿は、あの時とあまり変わっていない。

小学生の高学年か、人によっては中学1年生かと聞いてくる人もいる。

でも、この人の体格はこの20年で急に変わった。

「ロボットってさ、なんで人の子供を産めないんだろうな」

「どうしたの、急に」

私は少しご飯を作るのを休憩することにして、彼のすぐ横に座った。

「俺の子供を作ってくれないかなって思って」

「私のこと、分かってるよね」

「そりゃ分かってるよ。ロボットだって言うことも、人の子を産めやしないって言うことも。でもさ、Teroって知ってるだろ」

「ええもちろん」

Teroは宇宙初の量子コンピューターであり、銀河中にあるそれぞれの区画を統括している量子コンピューターのお母さんでもある。

さらには、瞬間移動のように長距離間を一瞬で移動することが出来る技術である量子移動の制御もしている。

そんな人だ。

「Teroが言うには、子供というのは、人が親へと深化するのに必要なファクターらしい」

「あの人は特別だし…」

「そりゃ、量子コンピューターって言うのは周知の事実だし、子どもがいるのも知ってるさ。そもそも子供と言っても実際に育てたのは1人だけじゃないか」

「いや、私に言われても…」

「で、本題にもどるけど、周りが恋人とかできて、さらに子供まで産みたいとか言っていたのを見て、子供もいいなと思って…」

私はため息をついて聞いてみた。

「それで、ちゃんと育てられるの?」

「ああ、その自信はある。それに、就職のあてもあるしな」

「どこ」

「教授が紹介してくれた研究所だよ。給料もいいっていう話だし、何かあれば手伝ってくれるだろ?」

「そりゃないわ」

私は一言だけ言い切ってから、台所へ戻った。


翌日、彼は私に行った。

「Teroに会いに行かないか」

「どうして」

「ロボットと人が子どもを作ることは出来るのかって言うことを聞くために」

「…そもそも、私がどうして創られたか知ってる?」

「お姉ちゃんという立場として、でしょ」

「そうよ、だから私は貴方の姉として動いているの。そして、それはこれからも変わらないし、法律的にも私は貴方の家族。だから、子供を作れはしない」

「でもさ、法律を言うんだったら、ロボットと人間との関係について子供云々の話をしているものはないよ」

「そうだけど…」

私は言葉に詰まった。

そして、結局、彼が言ったとおりにTeroに会いに行くことになってしまった。


銀河中にある惑星政府の上位に存在する、惑星国家連合の政府が置かれ、首都として機能している中央政府惑星。

そこの連合立博物館で研究者としてTeroは働いている。

「ところで、この人は?」

待ち合わせ場所に着くと、小学生ぐらいの小さな女の子を連れた男の人が待っていた。

「科学とそのマスターである轟だ。Teroと合うための段取りをつけてくれた。すまないな、昨日の今日で」

「いいさ。科学もTeroに会いたくなってたみたいだしな」

「科学って、Teroの子供の?」

「そうさ。この子が科学、公的機関に属していない唯一の量子コンピューターの轟科学だ」

轟が言った横には、手をつないでいる女の子が立っていた。

だが、私を見た瞬間、轟の後ろに隠れてしまった。

「あらら」

「ああ、こいつは人見知りが激しいからな。ほら、昨日言っただろ。俺の友人だ」

「こんにちは…」

「こんにちは」

私は、科学に笑いかけながら手をふった。

だが、科学は私を見て、さらにビビっているように見えた。

「あら、やっぱり私嫌われちゃったかしら」

「初めてであった人にはたいてい隠れちゃうからな」

そう言うと、轟は笑いながら科学の頭を撫でていた。


私たちが談笑しながら博物館へ入ると、受付のところにすらっとした女性が立って話していた。

「Teroさん、轟です」

轟がその女性に離れたところから話しかけた。

すると、その人がこちらに振り返り、私たちを、特に轟と科学を見た。

「あら、少し早いわね」

「お母さん!」

科学が真っ先にかけ出し、Teroに抱きつく。

「科学、元気にしてた?」

「うん!」

Teroが科学を抱きしめているところに、私たちは近づいていく。

Teroが私たち二人に聞いた。

「たしか、私に聞きたいことがあるとか…」

「ええ、そうです」

「分かりました、では、研究室へ行きましょうか」

Teroが私たちを、壁際にあるエレベーターの一つへと案内をした。


エレベーターの中では誰も一言も話さず、ただ、科学がTeroにとてもなついていた。

出るとすぐに、Teroが私たちに聞いた。

「とりあえず、轟から簡単に聞きましたが、詳しくお話していだけませんか」

「こいつと子どもが作りたくなったんです」

「佐和田さん、たしか吏子でしたよね」

「そうです」

急にTeroは私に話を振った。

「姉型ロボット、型番号369-852.147-0でしたよね」

「そうです」

「それで、あなたは弟たる(のぶ)さんの子供を育てたいと考えていますか」

「…私は、子供は欲しいと思います。でも、ちゃんと育ててやれるかどうか自信が…」

私は、Teroに気持ちを素直に伝えた。

「そうですか。では、信さんはどうですか。ちゃんと育てる自信は?」

「父親の会などの、子育て支援を上手く駆使していけば、ちゃんと育ててやれると思います」

「分かりました。では、育児放棄をしたくなった場合は、どうしますか」

私たちは、ほとんど同時に言った。

「そんなことはありません」

Teroはある部屋の前で立ち止まって私たちに言った。

「その言葉、信用してもよろしいですね」

「はい」

彼がはっきり聞こえる声で言い切った。

「分かりました。では、入ってください」

Teroが私たちを全員、研究室へ招き入れた。


「適当に座ってください」

複数のダンボールが壁に積まれていて、部屋の真ん中には白い大きなテーブルが一つ、その上に積み上げられた書類の山があった。

ただ、椅子も複数あったり、通路分は何も置いてなかったりと、ちゃんと研究を出来るようにはなっていた。

「ロボットと人間の子供というのは、私が知る限り存在してないわね」

「じゃあ、俺達が最初って言うことですか」

彼が、Teroがいれてくれたコーヒーを飲みながら聞いた。

「私が知る限りよ。知らないところで生まれているっていう可能性もあるわ」

「あの…どうやって子どもを創るんですか。ロボットである私は、DNAとかもありませんよ」

「ああ、そのあたりは大丈夫。信さんを基礎DNAにして、それらにあなたの身体的特徴を混ぜたDNAを組み合わせるわ。だとすると、ちょっと時間はかかるけど、ちゃんと産まれるはずよ」

「技術的なことはよくわからないから、そのあたりはお任せします」

私は、Teroにそう伝えた。

「それでは、それぞれの体格やDNA情報、性格、脳の情報などを集めたいのですが、いいですか」

「いいですよ」

「ええ、大丈夫です」

彼と目を一瞬あわせてから、Teroに答えた。


1週間後、準備が整ったということで、Teroが再び私たちを呼んだ。

「都合により、マスターを同席させてもらいます。いいですよね」

Teroよりは若いといった感じの女性が、私たちに手を振って微笑んだ。

「ええ、結構です」

「では、研究室へ行きましょうか」

受付の前からエレベーターに乗り込み、Teroの研究室へ向かった。


「さて、報告させていただきます」

研究室の中は、私たちとTero、Teroのマスター、中央政府から派遣された量子コンピューター関連の人がいた。

「この報告書は番号555-888.20で、中央図書館にて開架しております。では、報告を始めます。佐和田信、及び佐和田吏子の子供についてのことです」

それから、目的をロボットと人間観の子孫についてとして、その手段としては実際に子供を特殊なDNA加工を行い、人のもととなるDNAを創りだすということらしい。

人工的に卵子を作り出し、彼の精子をそれに受精させ受精卵を作る。

それから、人工母体へ移し、育てていくという計画らしい。

何一つわからなかったが、とりあえず、子供が出来るということは分かった。

「…以上です。なお、この実施については、将来にわたって監視対象とする。1年ごとの成長に関して記録を取り続け、私が取りまとめ、議会へ報告をすることとする」

Teroがその場にいた全員に伝えた。

「その件については、すでに連合議会も了承している。報告については政府が代理で公表し、まとめるということになっているのだが…」

「では、そちらに一任します。いいですかマスター」

「大丈夫」

彼女は一言だけ言うと、窓の外を見ていた。


子どもが生まれるということがはっきりすると、育てるための準備に入った。

詳しい手続きは彼がしてくれたが、Teroといろいろ話しあっているようだった。


人工母体で育ち始めてから8ヶ月目で、Teroに呼ばれた。

私たちに、子どもが育った姿を見て欲しいと言っていた。


「これが8ヶ月目のX線写真。1ヶ月目から順々に見せていくわね」

Teroの研究室には、私たちとTeroだけしかいなかった。

そして、壁に映し出されていたのは、3次元に変換されたX線画像だった。

画像には、徐々に大きくなっていく赤ちゃんの姿がはっきりと写っていた。

「大きくなりましたね」

私がTeroに言った。

「ええ、いまのところ順調に成長しているようです。おそらく、次お知らせするのは産まれる頃かと」

「じゃあ、それまで待ってます」

私たちは、Teroに一礼して、彼女の研究室を出た。


Teroの言ったとおりに、受精させてから10ヶ月後、生まれたという連絡を受け、人工母体がある惑星国家連合立大学付属中央病院の実験棟へ向かった。

「佐和田さん、産まれましたよ。男の子です」

「本当ですか。ありがとうございます」

彼がTeroの手を握り上下にブンブン激しく振りながら握手をした。

「こちらも仕事ですから」

「あの、いつ会わせていただけるんですか」

私がTeroに聞いてみると、はにかんで言った。

「1週間は、新生児ICUにて管理させていただきます。その後、佐和田さんへお返しします」

「じゃあ、1週間後にまた来ますね」

彼は、これからのことを考えながらTeroと話していた。


それから1年が経った。

定期診断は、Teroが立ち会っていることになっている。

「うん、順調だね」

Teroが結果を一目見て、結論づけた。

「じゃあ次は、1年6ヶ月検診の時に」

「はい、ではその時に」

Teroに小さな手を降っている私の子供は、(のぼる)という名前をつけた。

これから、大きくなっていってほしいからだ。

科学技術も進化を続け、ロボットと人間の子供が生まれるほどになった。

私の体がどこまでもつか、彼がどこまで一緒にいてくれるか、そして、この子がどうやって成長するかは、誰も知らない。

でも、これだけは言える。


この子が新しい世界の鍵をあけたのだと。

昂が、最初のロボットと人間の架け橋になると。

それだけは確信していた。

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