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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部  作者: トモサン


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71/106

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 71

私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、おそらく、最初、私が、リストラされかけたときと、今とは、状況が、違ったと、思った…


 最初、私が、リストラされかけたのは、あの松嶋のせい…


 松嶋が、澄子さんの娘の秋穂に、頼まれて、私をリストラしようとした…


 が、


 それを、娘の内山さんから、聞いた内山社長が、うまく、動いてくれて、休職にすませてくれた…


 が、


 今回は、違う…


 あの春子が、動いた…


 怒髪天を衝いた状態で、動いた…


 だから、内山社長ですら、手を出すことが、できなかった…


 そういうことだった…


 私は、それを、考えれば、納得した…


 納得せざるを得なかった…


 そして、どうしようと、思った…


 いや、


 これは、どうしようもないと、気付いた…


 私と、あの水野春子とは、社会的地位が違い過ぎる…


 もし、あの春子が、激怒して、私を本気で、金崎実業から、追い出そうとしているというのなら、もはや、太刀打ちのしようがない…


 なにを、やっても、仕方がない…


 そう、思った…


 そして、それが、私の表情に、出たのだろう…


 「…まあ、そういうことだ…」


 原田が、言った…


 「…だから、オレは、アンタに色々、嫌がらせした…」


 ホッとした感じで、言った…


 現実に、原田は、スッキリとした表情だった…


 「…むしろ、コレで、ホッとしたよ…」


 「…ホッとした? …どうして、ですか?…」


 「…他人に、嫌がらせをするのは、好きじゃない…」


 「…」


 「…オレも、善人を気取るつもりは、さらさらない…自分が、イジメられたり、バカにされたりすれば、相手を恨むし、その相手をイジメたくもなる…だが、アンタが、オレになにかを、したわけでも、なんでもない…そのアンタをイジメるのは、オレは、嫌だってことさ…」


 「…で、これから、どうするつもりですか?…」


 「…どうするって?…」


 「…明日からも、今日までのように、営業所全員で、私を無視しますか?…」


 「…それは、わからない…」


 「…わからない?…」


 「…ああ、わからない…とりあえずは、田上さんに、聞いてみてからだ…」


 「…」


 「…田上さんに、オレには、これ以上できないと、報告するつもりだ…それで、田上さんが、どう出るか?…」


 「…」


 「…田上さんが、それでも、営業所全員で、無視し続けろと、言われれば、従うしかないし、オレに、それを、拒否する選択肢はない…」


 「…」


 「…ただ、オレに、言えることは、ただ一つ…」


 「…なんですか?…」


 「…水野会長に、連絡しろ…」


 「…会長に?…」


 「…知り合いなんだろ? 助けてくれるかも、しれない…」


 「…」


 「…自分の置かれた状況を説明すれば、力になってくれるかも、しれない…」


 原田が、意外なことを、言った…


 まさか、それまで、私をイジメていた、原田が、私にアドバイスをくれるとは、夢にも、思わなかった…


 だから、


 「…どうして…どうして、私にそんなアドバイスを?…」


 と、聞いた…


 聞かずには、いられなかった…


 「…アンタが、オレに、なにもしないのに、オレが、アンタをイジメていたからだよ…」


 「…でも、それは、田上さんに、頼まれて、仕方なく…」


 「…それでも、オレは、嫌だった…」


 「…嫌だった?…」


 「…自分が、なにか、されたわけでもないのに、誰かに、なにか、嫌がらせをするのは、大抵の人間は、嫌なものだろ?…」


 「…それは…」


 「…オレも、例外じゃない…それに…」


 「…それに…」


 「…アンタが、美人だということだ…」


 「…私が、美人?…」


 あまりにも、意外な言葉だった…


 これまで、シリアスなことを、話していたのが、突然、ギャグを飛ばした…


 私にとっては、それほど、違和感のある、言葉だった…


 「…意外な顔だな…オレが、冗談でも、言ったと、思ったか?…」


 さすがに、返答に窮した…


 「…だが、事実だ…」


 「…事実…」


 「…オレも、男だ…美人には、弱い…」


 原田が、苦笑する…


 「…そして、オレに、なにも、していない美人をイジメるのは、オレも、心が痛む…男は、誰でも、同じだ…」


 「…」


 「…昔、オレが、アンタにコクって、フラれたりして、逆恨みして、イジメているのなら、まだ、わかる…でも、何度も言うが、アンタは、オレに、なにも、していない…そんなアンタに、オレが、意地悪するのは、どうにも、嫌だ…」


 「…」


 「…よく世間では、人事で、リストラを担当する人間は、リストラが、終わったら、退職する人間が、多いと、聞くが、それが、よくわかった…」


 「…どう、わかったんですか?…」


 「…自分に、なんの恨みもない人間を、クビに追い込むなんて…まともな人間なら、自分も、激しい罪悪感に駆られるものだ…」


 「…」


 「…まともじゃない人間なら、できるかも、しれないが、そもそも、そんな人間なら、切る方じゃなく、切られる方だろ…そして、切られても、誰も、同情しない人間だ…」


 当たり前だった…


 「…わずか、2週間だが、アンタを追い込むのも、嫌だった…だから、今日、アンタとこうして、話すだけで、肩の荷が下りたと言えば、おおげさだが、ホッとした…」


 「…」


 「…とにかく、水野会長に連絡してみろ…オレも、田上さんに、連絡してみる…」


 原田が、言った…


 そして、それを、最後に、まともな会話が、途切れたというか…


 後は、営業所内の、当たり障りのない会話に終始した…


 誰、それが、どうした、こうしたとか?


 そういう話題だ…


 ひとの悪口とまでは、いかない、ただの噂話…


 それに、終始した…


 すると、原田は、これまで、見たことのないくらい饒舌だった…


 それまでの、いやいや、私をリストラしようとした重圧から、解放されたのか、ハイテンションで、語った…


 もう、寡黙な原田は、そこには、いなかった…


 おそらく、それが、原田の真の姿なのかも、しれなかった…


 私は、この原田のことを、まったく、知らなかった…


 半年ちょっと前までは、営業所長は、亀沢だった…


 お世辞にも、出世街道とは、無縁の男だった…


 ただ、真面目を絵に描いたような男…


 が、


 金崎実業が、水野グループの傘下に入ったことで、金崎実業の体制も、大幅に変わった…


 水野グループの傘下に入って、数か月もすると、亀沢は、移動した…


 そして、代わりに、やって来たのが、この原田だった…


 だから、この原田にしても、私は、まだ一か月ちょっと…


 二か月も、知りあって、経たない…


 まして、こうして、二人きりで、会話をしたことなど、一度もなかった…


 だから、素顔の原田を知って、驚いたというか…


 こんなにも、饒舌で、陽気な男なのかと、思った…


 営業所では、どちらかというと、寡黙な男だったからだ…


 そして、それを、考えると、どこでも、同じと言うか…


 合併や統合した会社は、どこも、同じだと、思った…


 小が大を飲む、吸収合併が、良い例だが、合併した側が、合併された側の雇用は、保証すると、啖呵を切っても、それは、大抵、紙切れに過ぎないというか…


 守られない場合が、多い…


 要するに、吸収合併した側から、管理職が、吸収合併された側に、やって来る場合が、多い…


 そして、吸収合併された側の人間は、いつのまにか、どこかに飛ばされる…


 辞めろと正式に言われたわけではないが、似たようなもの…


 いつのまにか、会社からいなくなっている場合が、多い…


 だから、それに、比べれば、まだマシというか…


 少なくとも、この原田は、金崎実業の社員だった…


 水野からの出向ではない…


 だから、マシだった…


 私は、そう思った…


 私は、そう考えた…


 が、


 甘かったというか…


 その日を境に、この原田の姿を、この営業所で、見ることは、なかった…


 噂では、休職とのことだった…


 詳しいことは、わからなかった…


 おそらく、あの後、人事部の田上部長に連絡して、なにか、あったに違いなかった…


 それは、私にも、容易に、想像できた…


 だが、それを、口にすることは、できない…


 が、


 なんとなく、私が、原因なのでは?


 と、営業所中の誰もが、思った…


 私が、休職から、復職して、すぐに、原田が、休職した…


 まるで、私と入れ替わるように、休職した…


 だから、なにか、あったと、思って、当たり前だった…


 だから、原田が、いなくなったにも、かかわらず、営業所内の誰もが、私を避ける事態は、同じだった…


 変化は、なにも、なかった…


 むしろ、真逆に、気味悪がられたというか…


 営業所長の原田が、休職して、休職から復職した女子社員が、そのままいる…


 これは、誰が、どう考えても、おかしかった…


 普通は逆だろう…


 営業所長ではなく、私が、休職するのが、普通だからだ…


 これでは、まるで、私が、営業所長よりも、偉いように、思える…


 だから、余計に、周囲から、見れば、不気味だったのかも、しれない…


 だから、以前にもまして、周囲の人間は、私を避けるようになった…


 だから、以前よりも、かえって、営業所内の居心地は悪くなった…


 当たり前だった…


 が、


 仕事は、与えられた…


 とりあえず、営業所長の席は、空席で、他の営業所の古株の男が、営業所長の代理を務めた…


 そして、その男は、私を以前と同じく、普通に扱った…


 つまりは、営業所内の一戦力として、扱ったわけだ…


 これで、私は、退屈からは、解放された…


 まさか、これまでと同じく、営業所にやって来て、日がな一日、考え事をしているのは、さすがに、辛かったからだ…


 が、


 人間関係は、同じだった…


 誰もが、私を腫れ物に扱うように、接した…


 業務以外は、一切、私に接触を試みる人間は、いなかった…


 皆無だった…


 あの内山さんですら、私に話しかけなかった…


 だから、私は、孤独だった…


 が、


 それを、嘆いても、仕方がなかった…


 とりあえずは、仕事が与えられたことで、退屈からは、解放された…


 だから、それを感謝するしかなかった…


 たしかに、この営業所内で、孤立して、孤独ではあるが、とりあえず、仕事を与えられたことで、やることができた…


 だから、嬉しかった…


 先のことを、考えても、仕方がない…


 とりあえずは、目の前のこと…


 今ある目の前のことが、改善できて、良かった…


 私は、心の底から、そう、思った…


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