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恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部  作者: トモサン


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64/106

恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 64

「…退職を強要したことはない? ウソォ!…」


 つい、叫んで、しまった…


 「…ウソでは、ありません…」


 と、これも、田上が、冷静に返した…


 「…人事部として、高見さん…アナタに、退職を勧奨したことは、一度もありません…」


 私は、その言葉を聞いて、落ち着いたというか…


 ようやく冷静になった…


 この田上は、一度も、退職を強要と言っていない…


勧奨と言ったことに、気付いた…


 強要と、勧奨とは、違う…


 どう違うかと問われれば、強要は、無理やり…


 勧奨は、あくまで、勧める、だ…


 無理やりではない、ということだ…


 つまり、人事部としては、退職を強要するとは、言わない…


 あるいは、


 言えない…


 退職を強要するのは、ご法度だからだ…


 これも、この日本では、当たり前…


 この日本では、個人に退職を強要することは、事実上、不可能に近い…


 過剰なまでに、法律に守られているからだ…


 どうしても、その個人を退職させたいのならば、なぜ、その個人を退職させたいのか?


 詳細な理由を、裁判所等で、明らかにしなければ、ならない…


 あるいは、会社が、倒産寸前だから、仕方なく、社員を退職させるなど、合理的な理由を上げなければ、ならない…


 そして、それは、簡単ではない…


 だから、退職を勧奨する…


 退職を強要するのではない…


 あくまで、退職を勧奨するのだ…


 が、


 それは、名目だけ…


 実態は、誰が、見ても、強要だ…


 よく上げられる例が、追い出し部屋とか…


 あるいは、音を上げるまで、日本中をたらい回しに、転勤させるとか…


 とにかく、本人が、自分から、辞めるというまで、陰湿なイジメを繰り返す…


 大人のイジメだ…


 これが、退職の実態だ…


 が、


 人事の人間が、その実態を認めることは、断じて、できない…


 これも、当たり前だ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…高見さん…アナタの退職の勧奨は、松嶋が、独断で、勧めたことです…」


 と、電話の向こう側から、田上が、言った…


 「…独断ですか?…」


 「…そうです…」


 「…ウソォ?…」


 「…ウソでは、ありません…」


 漫才のような、やりとりになった…


 一方が、ウソだと言い、もう一方が、ウソではないと、否定する…


 しかも、それを何度も、繰り返す…


 これが、漫才でなくて、一体、なんだろうか?


 私は、そんな漫才のようなやりとりを続けながら、考えた…


 この田上の言うことが、どこまで、本当か、考えたのだ…


 だから、


 「…ということは、私への退職の勧奨は、撤回ですか?…」


 と、聞いた…


 直球に聞いた…


 「…もちろんです…」


 「…だったら、極端な話、明日から、また出社しても、構いませんか?…」


 「…明日からと、いうわけにはいきません…高見さんは、今、一年間の休職ということに、なっています…ですから、正式に、休職を撤回して頂いた上であれば、出社は、可能です…」


 回りくどい言い方だが、それが、正論と思った…


 私も、子供では、ない…


 現在、休職中と会社に、届けているのに、いきなり、明日から、出社できるはずもない…


 たしかに、今、この田上と電話で、話しているから、私が、休職をただちに撤回すると言えば、田上も、了承するだろう…


 が、


 それでは、ただの口約束というか…


 やはり、日本の会社だ…


 正式に、書類を提出する必要があると、いうことだ…


 私が、勤務する、営業所に、私が出向いて、書類にサインするか?


 あるいは、金崎実業の本社に、出向いて、書類にサインするか?


 そのどちらかの手続きが、必要になると、いうことだ…


 私は、思った…


 そして、考えた…


 松嶋のことだ…


 この田上は、今、私の退職勧奨は、松嶋の一存だと、言った…


 が、


 本当に、そうだろうか?


 たしかに、松嶋は、あの秋穂に、そそのかされて、私に退職を強要した…


 それは、あの米倉正造から、聞いた…


 が、


 本当に、それは、あの松嶋だけの仕業なんだろうか?


 松嶋のほかにも、誰か、いなかったのだろうか?


 例えば、この電話をしている最中の田上という人物だ…


 最悪、この田上も、松嶋とグルだった可能性もある…


 マンガみたいな展開かも、しれないが、まさかということも、あるからだ…


 だから、とりあえず、田上の身分を聞くことにした…


 「…あの…失礼ですが?…」


 「…なんでしょうか?…」


 「…田上さんの役職は?…」


 「…人事部で、部長をしています…」


 「…部長ですか?…」


 「…ハイ…」


 「…これは、失礼しました…」


 田上から、すれば、私の姿が、見えないにも、かかわらず、私は、頭を下げて、謝っていた…


 我ながら、実に、日本人的な対応だった(笑)…


 相手の姿が、見えずとも、つい、頭を下げてしまう…


 私も、例外では、なかった…


 そして、考えた…


 この電話が、来たタイミングを、だ…


 この電話が、来たのは、あの水野透(とおる)と、電話をしてから、やって来た…


 そして、あの透(とおる)は、水野の御曹司…


 この私が、勤務する、金崎実業の親会社の水野の社長の御曹司だ…


 だから、この電話が、あったのは、偶然か?


 はたまた、透(とおる)が、動いたのか?


 考えた…


 いや、


 透(とおる)でなくても、透(とおる)の父親の良平の可能性もある…


 水野の社長の良平の可能性もある…


 が、


 あの良平は、以前、私が、金崎実業を休職に追い込まれたことを、知って、他の水野の会社を紹介すると、私に、言ってくれた…


 水野の内紛に、巻き込まれて、申し訳ないとも、言ってくれた…


 あのときは、気付かなかったが、アレは、一体、どういう意味だろうか?


 私は、あの米倉澄子の娘の秋穂のせいで、金崎実業を、退職に追い込まれたのでは、なかったのか?


 あの秋穂が、松嶋をそそのかして、私を金崎実業から、退職に、追い込もうとしたのでは、なかったのか?


 謎がある…


 が、


 いずれにしろ、この電話の背後には、水野父子が、いると、私は、気付いた…


 だから、


 「…田上部長…」


 と、聞いた…


 「…なんでしょうか?…」


 「…どなたの指示ですか?…」


 私は、直球に聞いた…


 すると、


 「…」


 と、間があった…


 しばし、沈黙した…


 それから、しばらくして、


 「…社長…内山社長からです…」


 と、ぶっちゃけた…


 私は、仰天した…


 まさか、ここで、内山社長の名前が出るとは、思わなかったからだ…


 が、


 考えてみれば、至極、当たり前だった…


 内山社長の娘の内山さんは、私の営業所の同僚…


 隣の席にいる…


 そして、以前、その内山さんに、私が、退職に追い込まれたときに、


 「…高見さん…お父さんに頼んでみる…」


 と、内山さんが、言ってくれた…


 が、


 私は、その申し出を断った…


 退職を強要されたときに、来るべきものが、来たと思ったからだ…


 もうすぐ、34歳にもなる女だ…


 同じ年に入社した同期の女は、皆、退職した…


 残っているのは、私一人だけ…


 だから、あの松嶋に退職を強要されたときは、驚かなかった…


 潮時かも、しれないと、思ったからだ…


 いつまでも、結婚もせず、ただ毎日が、無為に過ぎて行く…


 昇進したいキャリア志向もなければ、結婚願望もない…


 ただ、毎日が、流れてゆくだけ…


 それだけだ…


 こんな毎日を続けていて、いいのか? と、思う自分と、


 だったら、どうすればいい?


 と、悩む自分が、いる…


 会社を辞めるのは、簡単だ…


 が、


 その後、どうするか?


 やはり、どこかに、働きに出なければ、ならない…


 が、


 それでは、今と同じではないのか?


 それに、会社員生活を続けるのならば、今のままの方が良い…


 仮に、金崎実業を辞めれば、私の経歴では、金崎実業以上の会社は、無理…


 転職は、無理…


 できない…


 できるのは、まったくの無名の中小企業か、パートぐらいだろう…


 当然、給与や、その他、諸々の待遇が下がる…


 だったら、今のままが、いい…


 金崎実業に勤めたままの方が、いい…


 それが、私の結論だった…


 一種のモラトリアム…


 ただ、毎日、結論の出ないことを、考え続け、ひと知れず、悶々と悩んでいた…


 今のままで、いいのか?


 それとも、別の生き方を選ぶべきか?


 悩んでいた…


 そんなときに、松嶋から、退職を強要された…


 来るべきものが、来たと思った反面、それに、反発する自分もいた…


 落胆する自分もいた…


 同時に、運命とも、思った…


 ここらが、潮時だとも、思った…


 だから、内山さんが、

 

 「…高見さん…お父さんに頼んでみる…」


 と、言ってくれたときに、


 「…いいのよ…別に…」


 「…もう、どうでもいいの…」


 と、言って、内山さんの言葉を退けた…


 それを、思い出した…


 だから、もしかしたら、内山さんかも、しれない…


 水野父子ではなく、内山さんかも、しれない…


 が、


 いずれにしろ、誰かが、内山社長を動かして、私を救ってくれた…


 そう、思った…


 水野父子かも、しれないし、同僚の内山さんかも、しれない…


 いずれにしろ、誰かが、私を救ってくれたと、思った…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…高見さん…どうしますか?…」


 と、いきなり、田上が、聞いてきた…


 「…どうすると、言うと?…」


 「…金崎実業に、復職しますか? …それとも、このまま、当面、休職しますか?…」


 いきなり、聞かれて、返答に、困った…


 すぐに、


 「…復職します…」


 と、返答したいところだが、背後関係が、見えない…


 本当に、私を休職に、追い込んだのは、松嶋の独断なのか?


 わからない…


 背後に、別の誰かが、いるのではないか?


 わからない…


 松嶋は、澄子の娘の、あの秋穂に、頼まれて、私を、金崎実業から、追い出そうとしたと、考えられるが、本当に、それだけだろうか?


 わからない…


 そして、今、誰が、私を復職させようとしてくれたのか?


 それも、わからない…


 わからないことだらけだ…


 だから、返答に、詰まった…


 どう、答えて、いいか、わからなかった…


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