恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 6
結局、米倉正造とは、それ以上、話さなかった…
いくら、会話を続けても、仕方がなかったからだ…
だから、正造が、
「…では、今日は、これで…」
と言って、電話を切った…
私は、
「…ハイ…また、今度、お会いしましょう…」
と、返した…
いわば、社交辞令というか…
この後、ホントに、米倉正造と会うか、どうかは、わからない…
いや、
会わない可能性の方が、高い…
そして、もし、これから、米倉正造が、私に会うとしたら、私を利用できるから…
おそらく、私に利用価値があるから、会おうとするのだろう…
そう、思った…
米倉正造というのは、そういう男だ(笑)…
以前は、実父の平造に、私を与えるべく、私を利用した…
血の繋がってない妹の好子さんを守るためだ…
正造は、実父の平造が、好子さんを狙っていると誤解した…
その結果、好子と外見が、瓜二つとまでは、言わないが、姉妹と呼んでも、おかしくないくらい似ている私を見つけると、好子さんの代わりに、私を平造に与えるべく、接触した…
すべては、米倉正造の一方的な思い込みであり、誤解だった…
が、
目的のためには、手段を択ばない男であることは、わかった…
要するに、血の繋がってない妹の好子さんを守るためには、なんでもする男だった…
そして、そんな米倉正造のことを、考えると複雑というか…
考え込んだ…
一方では、この私を妹の好子さんの代わりに、実父に与えようとする…
その一方では、ただ純粋に、なんの見返りもなく、好子さんを守ろうとする…
見返りがないというのは、正造は、最初から、好子さんと結婚する気は、まったくなかったからだ…
だから、米倉の後継者に、もしかしたら、なれるかもしれない立ち位置にいるにも、かかわらず、その気は、まったくなかった…
好子は、幼馴染の透と、結婚した…
そして、それを、見届けて、正造は、米倉から、去ったと、思っていた…
いわば、自分の役割が、終わったからだ…
実父の平造同様、正造の目的もまた、好子を守ることだった…
好子を守り、米倉を守る…
米倉のただ一人の正統後継者である、米倉好子を守る…
それが、平造、正造、父子の願いで、あり、目的だった…
が、
それを思えば、実に、矛盾する…
一人の人間の中に、善人と悪人を、見るようだ…
が、
それが、人間なのかも、しれない…
ふと、思った…
絶対的な善は、存在しないし、絶対的な悪もまた、存在しない…
どんな善人にも、悪いところは、あるし、その逆もしかり…
昔の時代劇で、見るような、見るからに悪人は、存在しない…
金や暴力にあかして、女を欲望のまま、抱くような人間は、当然、いるが、それが、その人間のすべてではない…
会社を経営していれば、そこで、働く従業員にも、気を遣わなければ、ならない…
さもないと、皆、辞めてしまうからだ…
自分勝手な言動はできない…
だから、さっきも言ったように、金や暴力にあかせて、女を漁ったとしても、それは、一面に過ぎない…
他に良い面がある…
これは、ヤクザ=暴力団とて、同じだろう…
なんでも、自分勝手に生きる人間に付いてゆく人間は、皆無だからだ…
また、人間は、絶対的な善や絶対的な悪には、なれない気がする…
頭が、おかしくない限り、なれない気がする…
誰もが、心の中で、無意識にバランスをとるからだ…
善悪のバランスをとるからだ…
私は、思った…
私は、考えた…
数日経った…
私は、暇…
暇だった…
なにしろ、つい最近まで、金崎実業に勤めていた…
22歳で、大学を卒業して、まもなく、34歳になるであろう、最近まで、勤めていた…
つまり、12年超、勤めていたわけだ…
だから、することがなかったというか…
正直、戸惑った…
まるで、長い、夏休みや冬休みを、もらったかの、ようだった…
いや、
ずっと、以前、大学のときは、こんな休みがあった…
夏休みは、2か月あったし、冬休みも、春休みも、長かった…
そして、一体、私は、そのとき、なにをしていたんだろ? と、思った…
答えは、バイトだった…
家で、なにもせず、ゴロゴロしているときもあったが、基本は、バイトで、汗を流したというか…
暇を潰した(笑)…
平凡な家庭に生まれた私だから、私が少しでも、働けば、学費の足しになったし、また、家で、なにも、しないで、ゴロゴロしているのは、性に合わなかった…
また、その長い休みを利用して、友人と、どこかに、旅行に行くこともなかった…
それは、私が、変わっているというか…
あまり、友人と、旅行に、行きたいとは、思わなかった…
学校では、仲のいい友人は、数人いたが、いっしょに、旅行に、行きたいと思うほどでは、なかった…
やはり、これは、私が、少々変わっているのかも、しれない…
そんなことをするぐらいなら、バイトでもして、お金を貯めた方が、良かった…
そして、そんなことを、考えると、今さらながら、だから、かもしれないと、思った…
だから、この歳まで、独身なのかも、しれないと、考えた…
旅行をしないのと、今、現在、独身でいるのとは、全然、関係がないかも、しれない…
が、
私は、気安く、友人と、旅行に行くタイプでは、なかった…
そして、それを言えば、何事も、そう…
気安く、行うタイプではない…
が、
それでは、結婚や恋人はできないのではないか?
今になってみると、思う…
今になってみると、考える…
尻の軽いといって、しまえば、それまでだが、別に下心がまるでない異性の友人とでも、
「…今度、みんなで、旅行に行かない?…」
と、誘われ、いつも、断れば、そのうちに、誰も誘ってくれなくなる…
すると、当然、異性と付き合うことも、できなくなる…
私は、それで、構わないと、思っていたし、今も、そう思う…
過去にそうした行動をとった自分に後悔はない…
が、
それでは、やはり、結婚は、難しいだろう(爆笑)…
誰もが、ファースト・インプレッションというか…
初対面で、
「…このひとと付き合いたい…」
「…このひとと、結婚したい…」
という人間は、稀だ…
そして、そういった人間は、大抵、男女とも、美男美女…
つまりは、相手のルックスに惹かれる場合が、多い(笑)…
つまりは、相手のルックスや性格等に、こだわっていては、結婚はできないということだ…
だから、あの人事の松嶋が、言った、
「…いい加減、妥協しなよ…」
という言葉は、正しい…
誰もが、自分の能力は、ともかく、相手の能力を見て、選んでいては、結婚はできない…
いや、
そもそも、能力やルックスの高い異性は、基本、誰もが、選び放題になる…
だから、その異性から、選ばれるのは、至難のわざだからだ…
ずっと、以前のことだが、いつも、ひとの悪口ばかり、言っている女性が、いた職場で短期間だが、働いたことがある…
その女性は、いつも、他人の悪口ばかり、言っていた…
だから、当然、その女性といっしょに、いるのは、性格に難のある人物ばかり…
いつも、いっしょになって、他人の悪口や噂話に高じていた…
そして、なにより、その性格に難のある仲間は皆、プライドが高かった…
実際には、まったくの平凡なルックスであり、偏差値の高い大学を出ていないにも、かかわらず、自分が、一番偉いと、心底、思うようなひとたちだった…
だから、当然、同じ職場の人間は、誰一人、本音は、相手にしたくない…
表面だけは、合わせていたが、その女性は、自分が、嫌われていることすら、気付かなかった…
だから、当然、同じ職場の異性は、誰も、その女性と付き合わない…
付き合うのは、その職場とまるっきり、交流のない職場の男…
職場でのその女性の評判を聞けば、誰も、その女性と付き合いたいと思わないからだ…
やがて、その女性は、その男性と結婚したと、風の噂で、聞いた…
が、
それから、かなり経って、偶然、街で、その女性と再会すると、まったくの別の男と歩いていた…
おまけに、子供もいた…
つまりは、離婚して、別の男と再婚したのだろう(笑)…
私は、その女性が、最初に結婚した男と面識はなかったが、その女性が、職場で、皆に、その男性の写真を見せびらかして、いたので、知っていた…
そして、おそらく、その女性は、初めて、男と付き合ったのだろう…
だから、嬉しくて、交際相手を、職場の人間に見せびらかしていたのだろう…
私は、当時、そう思った…
何度もいうが、その女性は、平凡…
実に平凡な人間だった…
ルックスも、頭の中身も平凡…
にもかかわらず、自己評価は、異常なまでに、高かった(笑)…
まるで、自分が、佐々木希さんのように、美人だと、錯覚していたのかも、しれない…
だが、実際に、その女性と付き合う男性は、稀…
普通は、いない…
職場で、いつもひとの悪口ばかり言う姿を見て、付き合いたいと思う男は、皆無…
誰もいない…
だから、自分の職場と接点がない男と付き合った…
が、
その男もまた、その女性と結婚してみて、おのれの間違いに、気付いたのだろう…
離婚した…
当たり前のことだ…
そして、再婚した男もまた、同じというか…
一目見て、職人とか、トラック運転士とか、会社でいえば、現場で、汗水垂らして、働く人間だった…
ハッキリ言って、頭脳労働者に見える人間ではない…
なにより、女性が、職場にいない種類の男だった…
だから、結婚したのだろう…
別に私は、その男を下に見るわけではないが、その女性の普段の言動と、あまりにも、違い過ぎた(笑)…
いかに、普段から、自分で、自分を凄いと言っている姿と違い過ぎた…
一言で、言えば、言っていることと、やっていることが、まるで、違う…
そういうことだ…
まるで、自分が、少し声をかければ、東大卒のイケメンの男でも、自分になびくように言う…
が、
現実は、真逆…
そして、そんな人間は、彼女だけでなく、世間にも、一定数がいるのだろう…
そう思った…
そして、また彼女は、私を嫌っていた…
ハッキリ言えば、美人の私が、気に入らなかった…
一目見て、勝てないと、悟ったからだろう…
だから、私が、近くにいると、わかると、男の自慢は、止めた(笑)…
私が、内心、バカにすると、思ったのだろう…
事実、その通りだった…
私は、彼女が大嫌いであり、バカにしていた…
そして、今、あらためて、考えると、彼女が、反面教師というか…
彼女のように、なりたくないと、思った…
心の底から、思った…
彼女と接したのは、夏休みのバイトのわずかな期間だったが、正直、彼女の存在は、私に鮮烈な印象を残した…
気安く、男友達や、女友達と、旅行に行くこともなかったのは、もしかしたら、彼女の影響かも、しれなかった…
彼女が、どんな人間か、わからず、付き合う…
あるいは、結婚する…
その危険さに、本能的に、気付いたからかも、しれなかった…
男女の友人と旅行に、行って、それを、きっかけに、付き合い…やがて、結婚する…
が、
実は、あまり深く、どんな人間かは、知らない…
だから、私が、もし、彼女と結婚した男と同じ立場になれば、悲劇…
間違いなく、悲劇だからだ…
そんなことは、ゴメンだと、思い、付き合う前にキチンと、相手を見定める…
相手の能力や人柄を見定める…
そして、そんなことを、考えるから、男と付き合えない…
結婚できない…
そう思った…
だから、何度も言うが、あの人事の松嶋が言った…
「…美人だから、相手を選び過ぎているんじゃない?…」
とか、
「…いい加減…妥協したら…」
という言葉は、間違っていない…
少しも、間違ってない…
が、
それ以上に、私は、慎重だった…
自分でも、驚くほど、慎重だった…
あらためて、そう思った…




