恋かもしれない…恋愛偏差値ゼロ 第2部 11
…透さんが、コンプレックス?…」
言いながら、さもありなんと、思った…
水野透は、この水野良平の実子であるが、良平の妻の子ではない…
この良平が、外に作った愛人の子供…
良平が、正妻との間に、子供が生まれないので、引き取り、正式に、水野の跡取りとなった…
だから、透は、周囲に、気を遣って、生きてきた…
物心が、ついてから、水野本家に養子として、入った…
それは、ちょうど、子供で、いえば、学校が変わったようなもの…
転校したようなものだ…
大人になっても、初めて、就職した会社や、職場は、緊張する…
いや、
大人でなくても、高校生でも、初めて、バイトに入った職場は、緊張するに違いない…
それと、同じだ…
まして、透は、もっと、子供の頃に、水野本家に、養子に入った…
だから、きっと、とんでもなく、緊張したはずだ…
大人になれば、なるほど、鈍感力というか、図々しくなる(笑)…
ある意味、雑草というか…
周囲の雑音を、気にしなくなる…
これは、意識するとか、しないとかの問題ではない(笑)…
街で、ときどき、見かける、図々しいオバサン…
あのオバサンたちも、自分が、中学生や高校生のときには、できない言動が、オバサンになったら、できるようになったというのが、真相だ…
人間は、歳を取れば、取るほど、ある意味、図々しくなる…
若い頃には、言えなかった言葉も、抵抗なく言えるようになる…
そういうことだ…
下ネタなど、その最たる例だろう…
話が、少しばかり、脱線したが、いつものことだ(笑)…
要するに、透は、物心ついてから、まもなく、水野本家に養子として、入った…
そして、それは、おそらく異世界…
幼い透にとって、それまで、過ごしてきた世界とは、別世界だったに違いない…
それゆえ、幼い透は、ひょうきん者というか…
ピエロを演じるようになった…
その方が、周囲に馴染みやすいからだ…
いわば、自分で、キャラを作ったというか…
キャラを演じて、生きてきた…
が、
それは、同時に、コンプレックスを作るものだったのかも、しれない…
本当の自分は、こんな人間では、ない!
そう、内心、絶叫したかも、しれない…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、隣の水野良平が、
「…透のコンプレックスの原因は、もしかしたら、高見さんかも、しれない…」
と、ビックリすることを、言った…
驚くべきことを、言った…
思わず、
「…私が、原因? …どうして、ですか?…」
と、言わずには、いられなかった…
と、聞かずには、いられなかった…
すると、水野良平は、笑いながら、
「…高見さんは、いつも、堂々としている…」
と、言った…
「…堂々としている? …私が?…」
「…そうです…」
水野良平が、楽しそうに、笑う…
「…ずっと、以前、透が、高見さんのことを、私に話しました…透が、女性のことを、話すのは、珍しい…それまで、透が、女性のことを話したのは、好子さんぐらいでした…」
「…好子さんですか?…」
「…ハイ…」
「…ですが、透が、あれほど、好子さんを好きだとは、思わなかった…たしかに、好子さんは、高見さん同様、美人です…が、透が、あれほど、憧れているとは、思わなかった…子供の頃に、よく平造の家に、透を連れて、遊びに行って、そこで、透が、好子さんを、好きなのは、父親の私でも、わかりました…でも、それは、あくまで、子供の頃の話…大人になれば、普通は、変わるものと、思ってました…」
水野良平が、しんみりとした口調で、語る…
それから、本来の話から、外れたのに、気付いたのか、
「…スイマセン…いささか、話が脱線しました…」
と、私に詫びた…
「…いえ…」
「…高見さんのことでした…透が、何度も、私に高見さんのことを、話すので、私は、俄然、高見さんに興味が湧いてきました…それまで、透から、女性の話を聞いたことは、なかった…だから、余計に、高見さんに興味が湧いた…」
「…」
「…そして、高見さんに会って、一目で、そういうことか? …と、納得しました…」
「…そういうことって、どういうことですか?…」
遠慮なく、聞いた…
当初は、身分の違いから、遠慮していたが、それもなくなった…
それも、これも、もしかしたら、私が、オバサンになったから、かもしれない…
オバサンになって、図々しくなったから、かもしれない…
少し話している間に、身分の違いを忘れる…
そういうことだ(笑)…
「…要するに、高見さんは、透がないものを、持っている…」
「…私が、なにを、持っていると言うんですか?…」
「…さっきも言った堂々とした態度です…透は、気が弱い…だから、強い高見さんに、憧れた…」
「…強い私に憧れた?…」
なんということだ!
まさに、まさか、だ!
強い私に憧れた?
そんなことを、言われるとは、思わなかった…
と、同時に、おかしくなった…
思わず、吹き出しそうになった…
だから、思わず、
「…逆じゃ、ありませんか? 会長…」
と、言った…
「…逆?…」
「…そうです…弱い女が、強い男に憧れる…それが、当たり前じゃないですか?…」
「…高見さんが、おっしゃる通りです…ですが、現実は…」
「…現実は?…」
「…奥さんに尻を叩かれている男が、大半です…」
水野良平が、真顔で言う…
私は、それを聞いて、思わず、
「…プッ!…」
と、吹き出して、しまった…
それから、慌てて、
「…スイマセン…」
と、詫びた…
「…いえ、高見さんが、吹き出すのは、わかります…でも、これが、現実です…」
「…現実…」
「…透は、強い高見さんに憧れた…それが、真実です…」
「…真実…」
「…そうです…」
そう言われると、なにも、言えなかった…
たしかに、この水野良平の言うことは、わかる…
誰もが、自分にないものを、欲しがる…
こんなことを、言っては、まずいかも、しれないが、男女とも、ルックスが、良くない人間ほど、美人や、イケメンに憧れるものだ(笑)…
要するに、自分が、持ってないから、憧れるのだろう…
ひどく単純な図式だ…
自分が、美人やイケメンでないことが、わかっているから、美人やイケメンに憧れる…
そういうことだ…
そして、真逆に、美人やイケメンであれば、ルックスにこだわらないものも、一定数は、いる…
なぜなら、自分は、美人や、イケメンに生まれたから、相手に、ルックスを求めないのだろう…
自分が、すでに、持っているから、相手にそれを求めない…
そういうことだろう…
もちろん、それは、一定数であり、全員ではない…
真逆に、自分は、美人だったり、イケメンだったりすれば、
「…オレ(アタシ)が、イケメン(美人)なんだから、連れて歩く相手は、美人じゃないと、釣り合わないだろ!…」
と、主張するものも、いるだろう…
が、
大抵は、自分にないものを、相手に求めるものだ…
例えば、背が、低い男が、モデルのような背の高い女に、憧れたり、真逆に、私のように背の低い女が、背の高い男に、憧れるものだ…
それが、普通だ…
いわゆる、ないものねだり…
自分にないものを、相手が、持っているから、それを欲しがるのだ…
だから、たしかに、あの水野が、私に憧れたのは、わかる…
私自身は、よくわからないが、私は、周囲から見れば、堂々としていると、見えるらしい…
自分には、まるで、自覚がないが、そう見えるらしい(笑)…
そして、それは、個性…
極論すれば、私、高見ちづるという人間の個性に過ぎない…
私も、若いときには、わからなかったが、歳をとってくると、わかって来たことが、いくつか、ある…
例えば、リーダーシップ…
リーダーシップとは、なにかと、問われれば、ひとをまとめることだが、これは、あまり、当人の頭の出来とは、関係ないことが、多い(笑)…
つまり、なにを言いたいかと、言われれば、生まれつき、リーダーシップがある人間は、あり、ない人間はないということだ…
会社でも、学校でも、周囲の人間を、うまくまとめられる人間は、まとめられるし、まとめられない人間は、まとめられない…
それは、会社や学校で、言えば、中途で、入って来たもの…
転校生や中途入社の者でも、周囲をまとめられるものは、まとめられる…
そういうことだ…
単純にいえば、
「…コイツ、なんとなく、頼れる!…」
それだけだ…
だから、なんとなく、周囲の人間も、その人間に頼るから、その人間が、その集団の中心になる…
それだけだ…
が、
だからといって、その人間が、優れているわけでは、絶対ない(笑)…
大抵は、なんとなく、堂々としているから、頼られているに過ぎない…
だから、それは、会社に入れば、メッキが剥げるというか…
大きな会社に入れば、大方は、出世とは、無縁の人生を送る…
そういうものだ…
なぜなら、頭が、良くないことが、バレるからだ…
リーダーシップ=頭がいいではない…
だから、上に進めない…
そういうことだ…
そして、そういう事実は、誰もが、歳を取れば、なんとなく、わかってくるものだ…
以前、何度も例に挙げた、昔、バイトした会社で、知り合った女性社員などは、リーダーシップ=頭がいいと、考えていた…
心の底から、思っていた…
例え、高卒でも、その集団をまとめられれば、身近な大卒よりも優れている…
そう、心の底から、思っていた…
事実、そう口にしていた…
彼女は、歳をとって、そうではないことが、わかって来たのだろうか?
甚だ、疑問だ…
ふと、そう思った…
そして、そんなことを、考えていると、
「…ないものねだり…」
ふと、水野良平が、呟いた…
「…透は、高見さんに、自分にないものを、見つけた…だから、高見さんに、憧れた…」
「…」
「…でも、これは、私も同じ…」
「…同じ…」
意外なことを、水野良平が、言った…
「…水野一族の末端に生まれ、本家のお嬢様と、結婚した…いわば、お嬢様は、私にとって、憧れだった…手の届かない花だった…しかし、それが、自分のものになった…いわば、ないものねだりが、叶った…それゆえ、私は、お嬢様に、頭が上がらなかった…だから、外に女を作って、その結果、透が、生まれた…」
懺悔する口調だった…
「…だから、すべての発端は、私…私なんだ…」
水野良平が、力なく呟いた…
そこには、世間に知られた、米倉・水野グループ総帥の姿は、なかった…
ただ、くたびれ果て、疲れた、初老の男の姿があった…




