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「狩りに行こうぜ」と冒険者について行った追放王女、結果的に祖国が傾いた

作者: 福嶋莉佳
掲載日:2026/04/07

アルフェリア王国、国境地帯。

魔物が出るこの荒れ地を、好んで歩くのは冒険者くらいのものだった。


その日、冒険者ガイルは一人で街道を進んでいた。 

日が落ちる前に、隣国側の宿場へ着きたい――そんなことを考えていた、その時だった。


「キャー!」


悲鳴が響いた。


見ると、街道脇の岩場で、ひとりの女が魔物に追い詰められている。


ガイルは頭をかいた。


「……目の前で死なれるのは、寝覚めが悪いな」


ため息混じりに剣を抜く。

次の瞬間、魔物の喉を一閃した。


鈍い音を立てて、魔物が地面に倒れる。


――とたん。


「キャー! すごいですわ!」


女は目を輝かせて駆け寄ってきた。


「初めて見ましたわ! お強いのですね!」


魔物に襲われた直後とは思えないほど元気だった。



「ほら。飲め」


ガイルは水袋を差し出した。


「まあ、ありがとうございますわ」


女はそれを受け取り、水をひと口飲んだ。


助けたのは、どうにも妙な女だった。

名をリゼットという。そして、なんと王女らしい。


「正確には、元ですわ。追放されましたので」


さらりと言い切られ、ガイルは眉をひそめる。


「なんでまた」

「姉を毒殺しようとした疑いですわ」

「疑い?」

「ええ。便秘薬を調合してほしいと頼まれて、渡しただけですの」

「便秘薬……」

「効果は抜群ですのよ。三日以上悩んだ便秘でも――」

「言わんでいい」

「今思えば、わたくしに姉が頼むのも、おかしな話でしたわね」

「嵌められたんだな」

「そういうことですわね」


あっさりした口ぶりだった。


ガイルは頭をぽりぽりとかく。


「なんでそこまでして」

「愛妾の娘ですから」

「あー……」


それ以上は聞かなくても、だいたい察した。


ガイルは大きく息を吐く。


「……仕方ねえ。隣国の国境まで送ってやる」

「まあ! 本当ですの?」

「ここに置いてく方が面倒そうだ」


リゼットはぱっと顔を輝かせた。



道中、リゼットは妙に楽しそうだった。


「冒険者というのは、どんな魔物を倒すのです?」

「いろいろだ」

「ドラゴンも?」

「たまにだな」

「すごいですわ!」


いちいち目を輝かせながら話しかけてくる。

ガイルは、変な女だと思った。


追放された元王女だというのに、怯えている様子もなければ、恨み言を口にするでもない。

危機感が薄いのか、妙に肝が据わっているのか。


ふと、リゼットが道端の草を見て足を止めた。


「……これは」


摘み取った葉を指先でひねり、香りを確かめる。


「どうした」

「傷薬に混ぜると、腫れが引きやすい草ですの」

「そんなのまで分かるのか」

「ええ、薬草の知識はそこそこありますのよ」


そう言ってリゼットは胸を張った。

ふと、彼女は周囲を見回しながら首をかしげる。


「この辺り、いつもこんな感じですの?」

「そうだ」

「どうしてですの?」

「国が防衛費をケチってるからだよ。魔物を間引かねえせいで、隣国側の街道まで潰れてる」

「まぁ。それは隣国もお困りでしょうに」

「……知らないのか?」


ガイルが呆れると、リゼットは頷いた。


「わたくし、王宮の隅に押し込められておりましたの。許されたのは、物語や薬草の本くらいでしたわ」


言い方は軽いが、笑って済む境遇ではないだろう。

だが、本人がそうしている以上、ガイルも深くは踏み込まなかった。


やがて、隣国の砦が見えてきた。


ガイルは門番に事情を説明した。


「元王女を拾った」


その一言で、門前は大騒ぎになった。


ほどなくして砦の守備隊長が現れ、事情を聞くと深く息を吐いた。


「で、お前はどうしたい」

「保護をお願いしたいですわ」    

「つまり、お前は我が国に亡命したいと」

「はい」

「断る」


即答だった。


リゼットは目を瞬かせる。


「まあ」

「『まあ』じゃない」


守備隊長は腕を組み、リゼットを見据えた。


「元王女など抱え込んで何の得がある。そちらの国との面倒事が増えるだけだ」


さらに続ける。


「だいたい、こっちは前から迷惑してるんだよ。おたくの国で増えた魔物が、国境を越えてこっちに入り込んでくる。向こうは満足に討伐もしない。こっちで手を出せば越境だと文句をつけてきて、正直たまったものじゃない」

「まあ、そうでしたの」


リゼットは素直に頷いた。


「では、交換条件はいかがでしょうか?」

「なんだ?」

「わたくしの名を使って、討伐隊を組むのです」


守備隊長の眉が動く。


「アルフェリア王国の元王女が、国境の魔物討伐に協力を申し出た――そういう形にするのです」


穏やかな口調だった。

けれど、その場にいた誰もが黙った。


「そうすれば、人も金も動かしやすいのではありませんか?」


ガイルは思わずリゼットを見た。

ぽやぽやした変な女だと思っていたのに、こういう時だけ妙に頭が回る。


守備隊長は暫く黙り込んだあと、やがて笑った。


「……なるほど。元王女の政治利用か」

「ええ。どうせ捨てられた身ですもの」


守備隊長は腕を組んだまま、わずかに顎を上げた。


「面白い。やってみるか」



その後、隣国は大規模な討伐隊を編成した。


名目は――アルフェリア王国元王女、リゼットの協力による国境討伐。


「わたくしもついていきたいですわ!」

「やめとけ」

「でも、わたくしの名を使うのでしょう?」

「名を使うのと本人が行くのは別だ」

「そんな」


だが、出発の日。

気づけばリゼットは討伐隊の最後尾にまぎれこんでいた。


「お前、何してる」

「端で見ているだけですわ」

「帰れ」

「もうここまで来てしまいましたもの」

「無理やりついてくるな」


砦へ戻すには微妙な距離まで来ていた。

結局、ガイルが目の届く場所に置くという条件で、リゼットの同行は認められた。


そこで意外なことが起きる。


「その傷でしたら、この草が効きますわ」

「こっちの煙は魔物よけになりますの。乾かした葉を混ぜるとよろしいかと」


薬草の知識が、思いのほか役に立ったのだ。


討伐隊の兵たちは最初こそ半信半疑だったが、実際に役立つと、見る目が変わっていった。


「少なくとも、その辺の貴族よりよっぽど役に立つな」


リゼットはそれを聞いても、ただ嬉しそうに笑うだけだった。


討伐は予想以上に進んだ。

魔物は徹底的に間引かれ、長く封鎖されていた隣国の街道は再び使えるようになった。


もともとその街道の先には、鉱山があった。

魔物の被害がひどくなってからは長らく放棄されていたが、隣国は以前から再開の機会をうかがっていた。


安全が戻ると、隣国はすぐさま調査と採掘を再開した。


そこで採れたのは――レアメタル。


それは長年、隣国がアルフェリア王国に依存していた資源だった。



――討伐を終えた、その帰り道。


「お前はこれからどうするんだ」


ガイルがそう聞くと、リゼットは少し考えた。


そして、にこりと笑う。


「ついて行ってもよろしいかしら?」

「なんでそうなる」

「だって、行くあてがありませんもの」

「砦に残れよ」

「もう、わたくしの役目は終わったそうですわ」

「……だろうな」


政治に使える間は重宝されても、いつまでも保護してくれるとは限らない。

その辺りの現実も、ガイルにはよくわかっていた。


リゼットは小首をかしげる。


「だめですの?」

「面倒ごとしか増えねえ気がする」

「でも、薬草の知識はありますわ」

「変な騒ぎも連れてくるだろ」

「……たぶん、少しだけ」


少しじゃないだろ、と言いかけて、ガイルはやめた。


しばらく黙った末、盛大にため息をつく。


「……好きにしろ」

「まあ!」


リゼットは、ぱっと顔を輝かせた。


こうして、元王女と冒険者の奇妙な旅が始まった。



――数か月後。


アルフェリア王国は混乱に陥っていた。


王妃の鋭い声が、謁見の間に響く。


「どうして討伐など許したのです! 止められなかったの!?」


 家臣のひとりが、苦い顔で頭を下げた。


「止められませんでした。隣国は『アルフェリア王国の元王女が、国境の魔物討伐に協力を申し出た』という名目を掲げましたゆえ」

「リゼットが……!?」

「はい。それを我が国が表立って非難すれば、元王女を切り捨てたうえ、国境の魔物被害すら放置していたと、諸国に認めるようなものです」

「あの娘が……生きていたなんて……!」


 王妃は扇を握る手に力を込めた。


「隣国はレアメタルを自国で賄えるようになり、余剰分は他国へ流しております」

「なんですって! あの国はもともと交易に強いのよ。

そこへ鉱石まで持たれたら……」

「はい。すでに幾つかの国が、隣国との契約へ乗り換えております」


しばし、重い沈黙が落ちた。


やがて王妃は、低く吐き捨てた。


「……生かしておくんじゃなかったわ」


アルフェリア王国の崩壊は、そう遠くではなかった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
これ、元王女の姉が発端だけど姉と女王は別って事かそれとも同一なのか… ①女王(姉) ②女王(姉の母) ②だとしたら姉が空気だから女王に便秘薬頼まれた方がいい気がする。
元王女様、この調子で王宮でも色んな人たちの役に立って、擁立派ができてたのかもしれませんね。 で、追い出された、と。 本人、意図せず祖国にザマァしてますが、これからも気にせず我が道を楽しく進んでいきそう…
王妃様、排除でなく懐かせて駒にするのが一番だったのでは?まぁ、懐かせるにはだいぶ跳ねっ返りで難しい人材だったけど。
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