共鳴
ちょっと話が難しいかもしれません。後書きにちょっと難しい設定をまとめておくので良かったら見てください。
黒い霧は完全に形を成していた。
王冠を歪に模した影。
空洞の胸。
顔のない巨人。
王性残滓――上位個体。
空気が震える。
イリシアが後方へ下がる。
「共鳴域に入ります。感情の安定を」
「無茶言うな」
ルークは剣を構える。
右手の紋様が、はっきりと広がっている。
(近い)
巨人が腕を振り下ろす。
地面が割れる。
ルークは横へ跳ぶ。
衝撃が身体を打つ。
(重い……!)
ただの力ではない。
圧。
王であろうとした意志の残骸。
剣を振るう。
斬撃が霧を裂く。
だが、消えない。
再構築する。
「くそっ……!」
胸の奥がざわつく。
巨人がこちらを見る。
目はない。
だが視線はある。
――還れ。
脳に直接響く。
足が一瞬、止まる。
景色が歪む。
崩れた王座。歓声。戴冠の瞬間。
知らない記憶。
「違う!」
頭を振る。
剣が唸る。
『拒むな』
「黙れ!」
巨人が踏み込む。
衝突。
刃と霧が軋む。
その瞬間。
共鳴した。
胸の奥が熱を帯びる。
恐怖ではない。
怒りでもない。
理解。
(こいつも……なりそこなっただけか)
王になれなかった残滓。
世界に淘汰された可能性。
その事実が、ほんの一瞬だけ同情を生む。
それが、隙になった。
紋様が強く発光する。
視界が白む。
イリシアの声が遠い。
「収束が加速しています!」
(奪えば、終わる)
思考が静かになる。
霧を取り込めばいい。
全て自分に集めればいい。
それが最短。
右手が自然に前へ出る。
巨人の胸に触れかける。
霧が吸い込まれ始める。
甘い。
満ちる感覚。
空白が埋まる。
(これなら――)
「やめてください!」
イリシアの声が届く。
いつもの平坦な音ではない。
わずかに掠れている。
息を飲んだ直後の声。
ルークの視界の端で、イリシアが一歩踏み出していた。
白銀の髪が乱れている。
常に整っているはずの前髪が、風に崩れていた。
瞳が、わずかに見開かれている。
感情の揺れ。
言葉を選ぶ余裕がない。
説明ではなく、制止。
観測ではなく、拒絶。
王性の霧が、彼女の外套を掠める。
それでも退かない。
一歩、さらに近づく。
ルークの伸ばした腕を、掴みかけて――
止まる。
触れれば、共鳴する。
それを分かっているから。
だが距離は、もうほとんどない。
「戻ってください」
今度は低く、はっきりと。
その目は、
“記録する者”ではなく、
“止めたい者”の目だった。
「それは……“完成”に近づきます」
言葉が刃のように刺さる。
完成。
王としての。
心臓が大きく跳ねる。
(完成……?)
その瞬間。ルークは気づく。
自分は今、
“終わらせる”ためではなく、
“満たす”ために手を伸ばしていた。
ぞっとする。
「……ちがう」
力任せに霧を振り払う。
斬る。
吸収ではなく、断絶。
剣が深く食い込む。
巨人が軋む。
共鳴が断ち切られる。
轟音。霧が崩壊する。
静寂。
残滓は散った。
荒い呼吸だけが残る。
右手の紋様は、まだ消えない。
だが拡大は止まっている。
イリシアが近づく。
「今のは危険でした」
「分かってる」
声が低い。
震えはない。
だが内側は冷えていた。
(俺は今、欲しがった)
奪うことを。
満たされることを。
否定したはずの衝動を。
空を見上げる。
雲の切れ間から、わずかな光。
「……俺は王にならない」
小さく呟く。
イリシアは静かに答える。
「あなたは、まだ選んでいません」
その言葉が残る。
まだ。
風が吹く。
旧街道の先、さらに北。
「強い反応が続いています」
イリシアが告げる。
「次は、単なる残滓ではない可能性があります」
ルークは歩き出す。
(全部奪えば、残るのは俺だけだ)
その事実に、背筋が冷える。
逃げ場がなくなる。
王を拒む道が、閉じる。王が生まれる。
「……ふざけるな」
ふと、王都の少女がよぎる。
もし自分が奪う道を選んだら。
拳を握る。
「行くぞ」
声は静かだ。
だがその奥で、
選択はまだ揺れていた。
なぜ「全部奪う」のは危険か
第2話で出た設定:世界は常に“代替”を用意する。
これはつまり、王の器は“保険”であり“逃げ道”。
もしルークが他の器を全部奪ったら――
◎王性は全部ルークに集中する
◎収束が加速する
◎ 王の完成が早まる
つまり、
代替がいなくなる=王を止める選択肢が消えるってことです。
全部奪うことは、善悪関係なく“収束を加速させる”行為として危険なんです。
他にも難しい設定があったらコメントしてくれると嬉しいです。




