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代替の理

北方・グランデル地方。

旧王都街道跡。

空は低く、雲が早い。

イリシアが立ち止まった。


「ここから先は、王性残滓の濃度が上がります」


ルークは無言で前を見る。

空気が重い。

呼吸が浅くなる。

(近い)

右手の紋様が、微かに疼く。


「残滓を斬るだけじゃ、止まらない場合があリます」


イリシアの声はいつも通り平坦だ。


「……どういう意味だ」


「器候補同士が接触した場合、王性は“強い方”へ収束する傾向があります」


沈黙。

風が草を揺らす。


「つまり」


ルークの声が低くなる。


「奪えるってことか」


「はい」


即答だった。


「意図的に奪えば、代替は減ります」


空気が凍る。

(ふざけるな)

喉の奥がひりつく。


「俺に、殺せって言ってるのか」


「選択肢の一つです」


イリシアは視線を逸らさない。


「王の器は一人である必要はありません。ですが、最終的には一つに収束します」


(だから削れ、ってか)

右手が熱を持つ。

脈打つ。

期待するように。


――還れ。


胸の奥がざらつく。

嫌悪。

だが同時に、理解。

合理的だ。

自分が全部奪えばいい。

そうすれば――

(終わる)

一瞬だけ、思考が静かになる。

誰も王にならない未来。

自分が全部抱えて、全部消える。


「……最悪だな」


吐き捨てる。

イリシアが問う。


「拒否しますか?」


ルークは答えない。

代わりに、前へ歩き出す。

足取りは重い。

だが止まらない。

(俺は王にならない)

それだけは決めている。

だが。

(王を潰すために王になるなら?)

その考えが浮かんだ瞬間、

心臓が強く打つ。

右手の紋様が、明確に広がった。


「くそっ……!」


押さえ込む。

呼吸が乱れる。


――お前は、我だ。


「違う」


声がかすれる。

イリシアが静かに言う。


「あなたは揺れています」


「うるさい!」


だが否定は弱い。

遠くで雷鳴が響く。

旧街道の先。

崩れた石橋の向こうに、

黒い霧が渦巻いていた。

王性残滓。

濃い。

重い。

そして、どこか懐かしい。

(全部、斬る)

剣を抜く。

刃が低く唸る。


『選べ』


脳内ではなく、

剣そのものが響く。


『斬るか、奪うか』


ルークは笑った。

自嘲だ。


「両方、気に食わねぇな」


黒い霧が形を成す。

巨大な人影。

王のなりそこない。

胸の奥がざわめく。

恐怖ではない。

拒絶でもない。


――共鳴。


「……俺は俺だ」


一歩踏み出す。

その足は、わずかに震えていた。

だが止まらない。

戦いが始まる。

そしてルークはまだ知らない。

この選択が、

アリアの未来にも繋がっていることを。



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