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Mermaid-マーメイドー  作者: shiori@


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9/10

8、芽吹く愛情

「まさか、こんな難解な知識を人間は覚えているなんて……。本当に尊敬します。凄いです」


「先人の知恵だ。我らは移り行く季節の中で日々を送り、自分の年齢を数え、覚えているに過ぎない」


「いいえ、それはとても優れた知見であり、見習うべきことです。

 朝目覚め、昼に活動をして、陽が落ち夜になると眠りまた次の日を迎える。

 そうして一日一日を過ごし、一年を体感することで時の流れを大切になさっている。

 時の流れに想いを馳せることなく、深海で暮らしてきた私達としては、とても尊敬しなければならない生き方です」


 研究熱心なアクアは感心するばかりで夢中になってメモを取ります。 

 そうしてまた、人魚の国に戻ったら教え子達に言い伝えようと考えていました。


 小屋での生活が再開し、アクアは最初に亡くなったお爺さんのことを想って近場で集めた素材を組み合わせて貝殻のリースを作り、墓の前に供えました。


「どうか穏やかにお眠りください……」


 胸に手を当てて、鎮魂の祈りを込めて得意の歌声を披露するアクア。

 心を癒す、澄み切った歌声は海岸に響き渡り、聞き入るナオトにも淡く切ない感傷を歌声を通じて伝えました。


 人の死の儚さと寂しさを知ったアクア。この出来事でアクアは人と関わる事が楽しい事ばかりではないと思い知らされたのでした。


「ナオトさんはもうお爺さんの死を乗り越えられたのですか?」


「一人でも生きていけるという意味では前々から受け入れられてはいた」


「それは本当に立派で凄いことですね」


「だが、この身体に染みついた寂しさは消えはしない」


「そうですよね、私よりも沢山一緒に暮らして来たのですから寂しい気持ちは勿論ありますよね」


「あぁ、今はアクアさんが隣にいるから寂しくはないがな」


「私も人魚の国から離れていても、ナオトさんと一緒なら寂しくはありません」


 一つの命を失い、喪失感を共に分かち合った二人。

 二人は何とかこの寂しさを乗り越えようと、共に協力し合うことを誓いました。


 そうして、二人きりの小屋の中で自然と身体を寄せ合うナオトとアクア。

 海で暮らしてきたアクアの体温は低く、人間からすると冷たいものでした。

 ですが、ナオトはそのことを気にすることなく、大きな身体に包み込んで行きました。


 触れ合う肉体の感触は溶けあうように甘く切なく、想い合えば想い合うほどに、刺激的なものへと変貌していく。


 アクアは逞しいナオトの肉体に触れ、温かい熱を持つ身体を愛おしく感じていきます。


 アクアは深い愛情を持ってナオトを好きになり、ナオトもまた、アクアの魅力に魅入られ、その気持ちを受け止めていきました。


 アーリアが駆け落ちをしたいと願った程の甘味な誘惑を、アクアは痛いほど、幸せを実感しながら理解しました。

 

 人魚の国に帰りたいという思いは遠く離れ、このまま離れたくないという願望ばかりが胸の中を覆い尽くす。

 

 多くの時間を過ごしても、たとえ種族が違っても、二人は仲違いすることなく、前へと進もうと決意を新たにしました。



 翌日になると、ナオトはアクアのためにずっと調べて来たアーリアに纏わる調査報告を話し始めました。


 それによると、行方不明になったアーリアは村の名家である二つの家が迎え入れ、最終的に人魚の加護を永遠のものにするために匣に幽閉してしまったのだと告げました。


 その話だけでは生きているかも亡くなっているかも分からないと知り、アクアは複雑な心境になりました。


「匣とは何なのですか? お姉様はどうしてそんな事に巻き込まれてしまったんですか」


「時が流れ過ぎてしまった。詳しい事は両家の当主に聞かねば分からない。だが匣が隠されているという場所の情報は得られた」


「本当ですか? それなら早く行きましょう」


「場所は両家の管理下にある。迂闊に近づけば捕まって同じ目に遭わされる危険がある」


「それでも行きましょう。救い出せる可能性があるのなら迷っている暇はありません」


 アクアの想いの強さに根負けしたナオトはその願いを受け取り、目的地を目指しました。


 足元まで隠れる長いスカートをした着物を着付けてもらい、赤い傘を持って人力車に乗ったアクア。ナオトはアクアが座席に座ったのを確認して運転を開始した。


 上半身だけであれば、麗しい乙女の姿をしたアクアは怪しまれないように、真っ直ぐ前を向いて傘を持ちます。


 全身に力を込め、苦も無く大きな人力車を動かしていくナオト。

 その逞しい姿に驚き、心配するアクアをよそに、ナオトは民衆から注目を浴びないよう背を向くことなく、迅速に目的地へと向かっていきます。


 そうして日が傾く前に両家が行う儀式の斎場がある、洞窟へと辿り着きました。


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