7、過ぎ去りし日の無常
人魚の国へと戻り、旅の思い出を図書館で書き残しながら、人間達の優しさを仲間の人魚達へ説くアクア。
ですが、根っこから人間を嫌うセイレーンはアーリアの行方を突き止められなかったと知り、やはり人間は危険であると警告します。
アクアは反論して人間との交流の大切さを説くも、頑なに警告を繰り返すセイレーンと喧嘩になってしまい、ついに仲違いとなってしまいました。
セイレーンを説得するためには行方不明となった姉を見つけ出し、連れ戻す過程が必要不可欠になる。そう考えるようになったアクアはセイレーンの警告を無視して再び島を訪れる決心をしました。
深海の図書館の館長として、精神面でもしっかりとした大人へと成長を果たしたアクア。それは尊敬する姉が帰って来なくなり、教わるより教える機会の方が遥かに増えて行ったことが関連していたのでした。
もう泳ぐのが苦手なひ弱な人魚ではなくなったアクアは今度は迷うことなく、親子が暮らす島へと辿り着きました。
ですが、悲しい現実がアクアを襲います。不幸なことに年月が流れ、お世話になったお爺さんは他界してこの世を去っていたのでした。
「あんなに元気にお魚釣りをしていたのに……。
もう、お会いすることができないなんて」
迎えてくれたナオトから悲報を聞き哀愁を抱くアクア。お爺さんがいつも使っていた小舟は飼い主が亡くなった事実も知らず物言わず静かに朽ちている。悲し気に波音を立てる船場でただアクアは思い出の小舟を眺めていました。
「あの頃から既に高齢であったことに変わりはない。十年も経ったのだ。親父は長生きをした方だ」
悲しみを押し殺し、言葉を絞り出すナオト。ナオトの言葉でより一層、悲しみが込み上げてくるアクアは、十年という時の流れに興味を抱きました。
「十年とは一体何なのですか? 私にはどうしてお爺さんが死ななければならなかったのか、よく分かりません」
「老衰だよ。人間は長い時間を生きられないのが定めだ。歳を重ねれば重ねる程、食べ物が腐って行くように人間も腐って行くんだ」
「もっと詳しく教えて下さい。お姉様からも教わった事はありますが正確に理解出来た試しがありません。人を蝕む時間とは一体何なんですか?」
平均して三百年生き続ける不老長寿に極めて近い存在である人魚にとって、人間が当たり前に運命付けられている寿命という概念は簡単に理解できるものではありませんでした。
それに加えて、深海で暮らす人魚の国には時間という概念がありません。時が静止している事はなくとも、太陽光が入らない、季節の変化すら感じられない深海では時間を図る意味も手段もなかったのです。
アクアは小屋に戻ると、ナオトからカレンダーを手渡され、時間の概念について詳しく教わりました。
約三十日掛けて月が満ち欠けを繰り返すことを一か月、この満ち欠けを十二回繰り返すことが一年であることを教わり、午前と午後に分かれた一日の流れについても詳細に教わりました。
全ては人魚の国にはないもので、アクアは当然自分の年齢を当然知りません。人魚と人間との間で時の流れに感覚的な差異が存在する理由はここにあったのだとナオトとアクアはようやく腑に落ちました。




