10、残虐なる愚行
当主の話によれば、愛する人に会うために島を訪れていたアーリアを歓迎していた日々がしばらく続き、人魚の肉が不老長寿を実現する秘薬であると知った両家はアーリアを手に入れようと画策を始めました。
種族の異なる自分を受け入れてくれる人々と交流する中で段々と警戒心が薄れて行ったアーリアは恋仲になった男性を人質に取られ、両家の手に掛かり身を捧げることになってしまったのです。
穢れのない美しいアーリアに群がり、残虐の限りを尽くす者達。
悲鳴を上げるアーリアに目もくれず、削ぎ落したその肉を分けて食べ、赤い血液を集め、島の住民達に人魚の加護であると振舞ったのです。
分け前であるアーリアの血を飲み健康となった人々。しかし、不老長寿になる者は誰一人としておらず、ただの迷信でしかなかったのです。
肉を削ぎ、調理をして宴のように盛り上がっていく最中、ついに息絶えたアーリアは脆くも泡となって消えてしまいました。
そして、その後には愛する男との間に産まれた赤ん坊だけが残され、両家は真実を隠すために赤ん坊を匣の中に仕舞い、人魚が眠る匣として真実を隠蔽したのでした。
*
信じ難い真相を耳にして貧血症状を起こし、青ざめた表情に変わるアクア。
アーリアはもうこの世にはいない。その悲しみだけではなく、信じていた人間達の残酷な非行に頭の整理が追い付いてこなかったのです。
再び、人魚の肉と血を手に入れようと立ち塞がる男達。
ナオトは何とかアクアを守り抜くために死力を尽くす覚悟を決め、放心するアクアの身体を抱えたまま男達に突進していきました。
「逃がすな! 何としても人魚を捕らえよ!」
激昂するナオトの怒りの拳にあえなく倒れ込んでいく男達。
当主は声を荒げて必死の形相で男達に呼びかけますがナオトは何人の男達が迫ろうと倒れる事はありません。
「ナオトさん!」
「この程度の相手、恐れることはない!」
最後の一人を足蹴りで吹き飛ばし、当主を睨みつけるナオト。
「こんなことをして。許されると思うたか」
睨み合う当主とナオト。一人では襲い掛かって来る様子のない当主の姿を見て、ナオトはここから脱出することを最優先に考え、アクアの手を取った。
「残念ですが、ここに長居するべきではありません。行きましょう」
「はい、ナオトさん……」
息を切らしながらも、持ち前の身体能力と底力で洞窟内を駆け抜け、ついに二人は洞窟を抜け出し、海岸へと辿り着きました。
「外に出られましたね」
暗い洞窟から眩しい光が注ぐ、海岸へとやってきたアクアは一安心して声を漏らした。しかし、ナオトは油断することなく次の言葉を発した。
「追手がすぐにここにも来るでしょう。残念ですがここでお別れです。人魚の国にアクアは戻ってくれ」
ナオトの言葉に別れを惜しむアクアですがこれ以上、迷惑をかけ続けるわけにもいかず、海に飛び込み、ナオトの姿を目に焼き付けようと振り返りました。
「必ずまた会いに行きます。だから、命を大切にして死なないでください」
「勿論だ。愛しているアクア、俺はお前を心から愛しているぞ」
「はい! 私もです。ナオトさんにまた会える日まで愛し続けると誓います」
別れを惜しみ、アクアは胸が苦しくなりながら、必死に声を張り上げました。
二人はこうして言葉を掛け合い、互いの気持ちを確かめ合うと、再度別れを受け入れたのでした。




