9、追い求めていたもの
「ここからは人力車では入れません、お手をお願いします」
誘導するナオトに促されるまま、差し出された手を取るアクア。
地面の上では上手に立ち上がることが出来ず、不安定な体勢になるアクアを優しくナオトは支えた。
人力車を降り、内部構造が検討も付かない不気味な洞窟の前に立つ。
周りに人気はありませんでしたが、流石にアクアも不安を拭えませんでした。
「本当にこのまま入ってもいいのでしょうか?」
「直接彼らと交渉しても、部外者である我らにこの洞窟に入る許可は下りないだろう。この先に行くか行かないかの判断は君に委ねる」
「それほどに持ち主にとって大切な場所ということですよね」
「当然、儀式は部外者立ち入り禁止だからな。両家にとって守らなければならない場所に変わりないだろう」
「でも、お姉様がここにいるのなら黙って立ち去るわけにはまいりません」
「なら決まりだ。何があろうと俺は君を守り抜く」
手を繋いだまま、先導するナオトに導かれ、洞窟の奥へと進んで行く。
薄暗くジメジメとした薄汚れた洞窟の中には蝙蝠たちが飛び回り、侵入者に向けて立ち去れと告げているようだった。
やがて鳥居が姿を現し、その先には儀式を執り行う斎場が実在していた。
洞窟の奥に隠された秘密の祭壇。その姿に恐れを抱きながら、中へと入って行った二人は匣の捜索を始め、苦労の末に身体を丸めた人が入れるほどの大きな木箱を発見した。
「開いてもいいですか?」
「勿論だ、ここまで来て躊躇う理由などない」
「分かりました。匣を開きます」
緊迫した空気が流れる中。姉の行方を探し求めて来たアクアは緊張した面持ちで蓋を開けた。
だが、恐る恐る開いた匣の中に封じられていたのはアーリアではなく、赤ん坊のミイラだった。
「そんな! お姉様じゃない……」
「どういう事だ……人魚を生かしておくための匣ではなかったのか」
失望感と共に茫然と立ち尽くすアクア。
一体、何故こんなものが匣の中に隠されていたのかナオトにも見当がつかなかった。
「いけませんね……祭壇に上がるだけでなく、禁忌まで侵すとは。匣の秘密は守らねばなりません。ですが新たな人魚を供物に捧げて下さるなら、命まで刈り取る必要はないでしょう」
嫌悪感すら抱く、不気味な声色で唐突に話しかけてきた着物姿の男。それは全ての元凶である両家の当主の一人だった。彼の背後には刃物を握った取り巻きが何人も鋭い目付きをして侵入者であるナオトとアクアを睨み付けていた。
「くっ! 付けられていたのか」
「いけません! この人達、危険な匂いがします」
匣の探索に夢中になり、後を付けられていたことに気付けなかった二人。
じりじりと開いていた距離を縮め、逃げ場を塞いで包囲して来る男達。
犯した罪の大きさを表わすように、彼らは容赦がなかった。
「密かに人魚の秘密を探っていたようですが痕跡を残してしまってはいけませんよ。そのおかげで新しい生贄を連れて来てくれたようですが」
「お前達などにアクアは渡さん!」
「威勢が良いのは立派ですが抵抗は無駄です。冥土の土産に人魚伝説の真相についてご説明いたしましょう。その匣の中身についても」
逃げ場を失い、絶体絶命の危機を迎えたアクアとナオト。
新たな獲物を前に嘲笑を浮かべる当主は隠されてきた恐るべき真相を話し始めた。




