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エピソード6:洞窟の招きもの

アリエスの町をドラゴンから救ったガーデラ達。

新たな仲間フランズを加え、

剣の光が示す、次の目的地に向かう。

アリエスの町も見えなくなり、ガーデラ達は方角を示す光を頼りに歩みを進める。


「フランズ、そういえばさ」

ガーデラがふと思い出したように口を開く。

「診療所で傷が治ってから、すぐ出発しちゃったけど……忘れ物とか大丈夫?」


「ふむ、今のところ特にないな」

「もしあるのでしたら、遠慮なくお申し出ください」

メルザが即座に続ける。

「私がすぐ町までお送りしますので」


「...そういえば、メル殿」

「はい、なんでしょうか?」


「あの時も我を連れて一瞬で町まで移動したな。あんな魔法、我は初めて見た。どこで習得したのだ?」

「あれは魔法ではありません。私のスキル――”ポインター・テレポート”で移動したんです」

フランズは腕を組み、首をかしげる。

「スキル?......なんだそれは?」


「え?」

ガーデラが怪訝そうに眉をひそめる。

「あなた冒険者だったんでしょ? 聞いたことくらいあるでしょ?」

「いや、まったく」

即答だった。


「今時珍しいわね...」

ガーデラは歩きながら説明を始める。

「世界にはね、たまに魔法とは違った固有の能力を持って生まれてくる奴がいるの。」

「そういう能力を、まとめて“スキル”って呼ぶのよ」


メルザが補足する。

「スキルにはさまざまな種類があります。物体を生成するもの、体を変形させるもの、中には、命を容易に奪えるほど危険なものも存在します」


「なるほど……」

フランズは低く唸った。

「つまり、生まれ持った”才”……というわけか」


「はい」

メルザは頷く。

「私の“ポインター・テレポート”は、私と、私が展開した魔法陣の中に入ったものを事前に保存しておいた地点へ、瞬時に転送するスキルです」


「ほう……だからあの時、一瞬で診療所まで行けたのか」

フランズは真剣な眼差しでメルザを見る。

「メル殿……そなたも、とんでもない使い手だな」


「い、いえ……」

メルザは少し照れたように視線を逸らした。

「ホント、この子のスキルにはよく助けられてるわ」


晴れ空の下、

三人は歩きながら、言葉を交わし続ける。


それはまだ、戦いでも使命でもない。

ただ、仲間として互いを知るための、穏やかな時間だった。

――だがその距離は、確かに縮まっていた。


しばらく歩き続けると、景色が徐々に変わり始めた。

土の色は赤黒くなり、足元には砕けた石が増えていく。

周りを囲む岩山からは、何かを打ち付ける乾いた音が、断続的に響いていた。


すると、岩の陰を抜けた瞬間、視界が一気に開ける。

谷間に広がる町。

無数の坑道が口を開け、簡素だが堅牢そうな建物が並んでいる。

煤と鉄の匂いが、風に乗って漂ってきた。


ガーデラは剣を抜き、振りかざす。

刃に宿る光は揺らぐことなく町のほうを、一直線に向き続ける。

「あそこね」

メルザは地図を出し、現在地と照らし合わせる。

「あれは...タウロスの町ですね。鉱山地帯に囲まれおり、採掘と武器の生産で知られています」


フランズは腕を組み、町を見据える。

「テラ殿、剣が指し示すということは、あの町で何か良からぬことが起こっていると考えればいいのか?」


「ええ」

ガーデラは短く頷く。

「おそらく、規模はあのドラゴンと同程度...決して、小さな騒ぎじゃないわ」


フランズは顔を険しくし、町をじっと見る。

「ならば....悠長にしている場合ではないな」

ガーデラは剣を収め、一歩踏み出した。

「...そうね、急ぎましょう」


鉱山から音が響く中、三人は警戒を強めながら町へと向かっていった。


町の中は金属をカンカンと叩く音や炭鉱夫たちの声が入り混じっていた。

道行く人の腕には金属片や煤が付いていて、町全体が鉄と火の匂いを帯びている。

町全体は騒がしくも、活気だっていた。


「ずいぶんと賑やかな町だな」

フランズが感心したように言う。

メルザも周囲を見回し、小さく首をかしげた。

「見たところ、何も問題はないように見えますが...」


「おかしいわね...確かにここなはずなんだけど」

ガーデラは剣を抜き確かめるが、光はその場で光るだけ。


その時だった。

「なあ、聞いたか? 例の鉱山の話」

「……ああ、また一人入っていったんだってな。無茶なことするよな」

鍛冶屋の方から、低く抑えた男たちの声が聞こえてきた。


ガーデラ達は即座に視線を向け、二人の男のもとへ歩み寄る。

「あの……すみません」

声をかけると、男たちは少し驚いたように振り返った。

「その“鉱山の話”って、何のことですか?」


「ああ、この先にな。今はもう使われてねぇ鉱山があるんだ」

男は顎で町外れの方角を示す。

「最近、そこに冒険者がよく入っていってる」


フランズが眉を上げる。

「冒険者が?炭鉱夫ではなくか?一体何のために」


「なんでもな、その鉱山にはまだ発掘されてない鉱石が眠ってるらしくてな、換金すればとんでもねぇ額になるって話だ」

「もともと掘ってた炭鉱夫は、もうその鉱山の所有権を手放したから、もしホントにあるんだったら早い者勝ちってことになる。そういう噂のせいで、鉱山に入っていく冒険者が後を絶たないんだ」


「実際に鉱石を持ち帰った人はいるんですか?」

メルザが静かに尋ねる。

「……それがな」

声が低くなる。

「帰ってきてねぇんだ。鉱山に入った奴らが、全員」


「全員……?」

ガーデラの喉が、わずかに鳴った。

「一人も、ですか?」


男は肩をすくめる。

「ああ、今まで何十人って冒険者が入っていったが、誰も帰ってきてない。不気味なもんだろ?」

「だから俺たちも口では止めるんだが、聞かねぇ奴がほとんどだ。」


「ついさっきも、冒険者が一人鉱山のうわさを聞きつけて、俺たちに場所を聞いてよ、やめとけって言っても引き下がらないから結局教えちまった」


「……テラ殿」

フランズが低い声で言う。

「恐らく、剣が示しているのは……」

ガーデラは頷いた。

「その鉱山のことでしょうね。”冒険者が行方不明の理由を調べる”そんなところでしょうね」


「その鉱山の場所を、詳しく教えてもらえませんか?」

男は一瞬、訝しげにガーデラを見た。

「なんだい?おたくらも金がほしいのか?」


「いえ、冒険者が行方不明になる理由を調べに行きます」

男は少し感心したように笑ったが、すぐに表情を曇らせた。

「へぇ、お姉ちゃん勇気あるね。......ただ、気を付けろよ。」


男は声を潜める。

「俺もこの前、気になって鉱山まで行ったんだ。だが……なんつーかよ、嫌な予感がしてな、入り口で、引き返したんだ」

「……あれは、ただもんじゃねぇ」

その一言が、胸に重く落ちた。


しかしそんな中、フランズは胸を張り、いつもの調子で言い切った。

「なあに、誰かが調べねばまた人が消えるだけだ。我々が原因を突き止めてくれる」

その言葉に、メルザも小さく頷く。

「はい、これ以上被害を出すわけにはいきません」


二人の言葉を受け、ガーデラは男をまっすぐに見据えた。

「そういうわけだから、教えてもらえます?」


男はしばらく黙り込み、三人の顔を順に見た。

軽口を叩いていたほかの冒険者とは違う、真剣な目だった。

「...わかった。そこまで覚悟があるんなら大丈夫だろ」


男は町の外れを指差した。

「町を出て、東の岩山を越えた先だ。そこに例の鉱山がある」

男は最後に、念を押すように言う。

「引き返すなら、入り口までにしとけよ。それ以上奥は……本当に、嫌な感じがする」


「ええ、そうさせてもらいます。ご忠告、ありがとうございます」

男たちに軽く頭を下げると、三人は鍛冶屋を後にした。


ガーデラ達は教えてもらった情報を頼りに、鉱山にたどり着いた。

中から人の気配はなく、ただ風が岩肌を撫でる音が響く。


「静かだな...不気味なほどに」

フランズが腕を組み、洞窟の奥を睨む。

その傍らで、メルザは静かに地面へ手をつき、淡く光る魔法陣を展開していた。


ガーデラは剣の柄に手を当てる。

「フランズ」

「なんだ?」


「洞窟で冒険者が消える理由は、大きく分けて二つあるわ」

淡々と、事実だけを述べる声音だった。

「一つは、内部がいびつに入り組んでいて、出口を見失うもの」

フランズは小さく頷く。

「もう一つは――」

ガーデラの声が、わずかに低くなる。

「洞窟内に棲みついた魔物によるもの」


「なるほど……」

フランズは顎に手を当て、坑道を再度見据えた。

「つまり、道が整備されているはずの“鉱山”で、冒険者がまとめて消えているということは...」

「そう、必然的に後者になる」

「……この鉱山の中には、“何か”がいる」


一瞬の沈黙。

坑道の奥から、ひやりとした風が吹き抜けた。


だがフランズは不敵に笑い、肩を回す。

「...ふ、ならばそう急に討伐せねばな!」

胸を張り、いつもの大仰なポーズを取る。

「完全復活した我の力を、大いにふるってやろうではないか!」


ガーデラは口元だけで微笑んだ。

「そう、頼もしいわね。期待してるわ」

「ああ!任せておけ!」


そのやり取りを終えたところで、メルザが立ち上がる。

「テラ様、入り口付近を保存しておきました。これで万が一の時、いつでもここに戻ってこれます」

「ありがとうメル」


光を失った坑道を見つめ、静かに息を整える。

「よし、それじゃあ...いくわよ」

三人は足並みを揃え、

冒険者が消えた鉱山の闇へと、踏み込んでいった。


鉱山内はすでに鉱石が採りつくされ、ただ湿った岩肌から落ちるしずくがぽちゃん、と響くばかりだった。

壁に取り付けられたたいまつが不気味に洞窟を照らす。


そんな静まり返った洞窟の中で――

「お?」

突然、フランズが間の抜けた声を上げた。


その視線の先には、この場に不釣り合いなほどのキラッキラの宝箱。

フランズは疑う様子もなく、一目散に宝箱に駆け寄る。


「あ、ちょっとフランズ!開けちゃダメ」

ガーデラが慌てて制止するが、

フランズはすでに宝箱の前でしゃがみ込み、興味津々といった様子だ。

「どうした?なぜ止める?」


メルが横から静かに口を挟む。

「ミミックという魔物を知っていますか?」

「ミミック?」

「洞窟では定番の魔物です。宝箱の姿で冒険者を待ち伏せし、開けようとした瞬間、襲いかかってきます」


「なに!?」

フランズは思わず宝箱から一歩身を引いた。

「では……こいつらが冒険者を」

「いや、それはないわ。ミミックは殺傷能力のない低級の魔物。そこら辺の冒険者なら簡単に倒せるわ」


フランズは再びしゃがみ込み、宝箱をじっと観察する。

「そうか....しかし、こうして見ても宝箱にしか見えないな」


「よし!」

ガーデラは急に胸を張った。

「この際だから、私がミミックの見分け方を教えてあげるわ!」

フランズは目を輝かせる。

「おお!それはありがたい。ぜひとも頼む!」


ガーデラは指を立て、得意げに続ける。

「いい?ミミックはね、体が後ろに倒れると起き上がるのに苦労するの。だから宝箱を後ろに倒そうとして抵抗を感じたら、それはミミックってわけよ!」

「ほうほう、なるほどな!」


ガーデラは宝箱の上に手を置き、豪快に後ろへ引っ張る。

「こんな風に――!」


ガタンッ。


拍子抜けするほど軽い音とともに、宝箱はあっさりと後ろへ倒れた。

抵抗み、呻き声も、動きもない。


洞窟には、再び静寂だけが戻った。

「ん?」

「テ...テラ様」

「......」


ガーデラはそっと宝箱を起こし、その蓋を開ける。

中は空っぽだった。

光も音もない、ただの空の箱。

「ただの普通の宝箱ですね……」


ガーデラは、くるりと背を向けると、

壁際までスタスタと歩いていき――

そのまま、静かにしゃがみ込んだ。


「あああああああテ、テラ様!」

メルザが慌てて駆け寄る。

「大丈夫です!元気出してください!仕方ない、そう仕方ないですよ!ここんなとこに宝箱があるなんて普通はありえないんですから!ま、まったく誰なんですかね。ここに宝箱を置いた人は。」


必死にフォローする光景を、フランズは遠くからただ眺めていた。

「なんか....不憫だな」

ぽつりと零れた一言が、

静かな洞窟に妙にしみ込んだ。


しばらくした後、ガーデラ達は洞窟の奥へと歩いていく。


すると――

またしても、先ほどとよく似た宝箱が置かれていた。

しかし今度は、ふたが開けられたままにされていた。


「また宝箱か...これは偶然ととらえるべきなのか?」

フランズが警戒する中、メルザがそっと近づき、中を覗き込む。

「見てください。ほんの少しですが、小さな金の欠片があります。恐らく、中には相当のお宝が入っていたと思います」


「つまり……」

ガーデラが静かに続ける。

「誰かが、持ち去ったということね」

「やはり冒険者か?」

フランズが低く唸る

「まあ必然的にそうなるわね...さっきの宝箱も多分中身が入っていて、誰かが持っていった。そんな感じね」


三人はさらに奥絵と進んでいく。

すると、宝箱を見かける頻度が増えてきた。


一つ。

二つ。

三つ。


気づけば、周りにはいくつも宝箱が置かれてる状況になっていた。

ガーデラが思わず立ち止まる。

「ちょっとちょっと...いくら何でもありすぎでしょ」

フランズが周囲を見渡す。

「これだけあると、かえって不気味だな」

「はい、しかも度の宝箱にも持ち去られた痕跡があります。恐らく冒険者が持っていったかと」


ガーデラが視線を洞窟の奥へ向ける。

「こうなってくると、もう確定ね。誰かがここに宝箱を置いて、冒険者をおびき寄せている」

「しかも、より奥へ行くように」

「いよいよただ事ではなくなってきた...というわけか」

その言葉に、誰も否定しなかった。


その瞬間、


ドゴン! ドゴン!


洞窟全体を揺るがす、重く鈍い衝撃音が響き渡った。

まるで岩壁そのものが歩き出したかのような重さ。

空気が震え、天井から小石がぱらぱらと落ちてくる。


ガーデラたちは反射的に身構える。

「なんだ!?何が起こってる!?」

「気を付けて!何か近づいて来てる!」

「お二人とも!あれを!」


メルザの指差す先――

洞窟の奥から砂煙を上げながら、フードの少年が転がり出るように走ってきた。

息を荒くし、振り返ることすらできず、何かに追われるように必死で走っている。


次の瞬間、“それ”が姿を現した。

ガーデラ達は目を凝らし、それを見た。

「あれは...ミミック?」

そう呟いた声は、すぐに喉の奥で凍りついた。

「な……なに……あれ……?」


そこにいたのは確かにミミック。

古い木製の箱が裂け、牙の生えた蓋がガバリと開いて、紫色の舌を垂らしている。


——しかし。

宝箱の下から“身体”が生えていた。

灰色の皮膚に覆われた、異様に細長い手足。

節くれだった骨が皮膚を突き破りそうなほど浮き上がり、関節がピキピキと音を立てている。

そしてその四肢が、地面を叩きつけるようにして凄まじい速度で這い寄ってくる。


フランズが呆然と呟く。

「あれが...ミミック?とても低級の魔物には見えんぞ!」

メルザの声が、かすかに震える。

「あんなミミック、私たちも見たことありません!」


長い手足が岩を叩き、石が弾け飛ぶ。

宝箱からは甲高い唸り声のような「ギィィィェェェ……」という不気味な叫びが漏れる。


「フランズ、気をつけて!」

ガーデラが剣を構える。

「どう見ても、普通のミミックじゃない!」

フランズも魔力を高め、炎が揺らめく。


不気味な影が、三人へと迫る。

――こうして、

鉱山の最奥で、異形の魔物との戦闘が幕を開けた。


自動車学校を卒業しました。

お読みいただきありがとうございました。

どうも、作者の一二三四 五六です。

ついに冬休みが終わってしまいました。

さらば冬休み...学生としての最後の冬休み。

これから、学校が始まるので、投稿頻度が落ちると思います。

「ただでさえ遅ぇのにまだ落ちるのかよ」と言われる方がおられると思いますが、

身を削って、何とか投稿し続けられるように頑張りますので、

どうかご了承のほどをお願いいたします。

そんなわけでこれからも側近勇者をよろしくお願いいたします。

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