エピソード2:呪いのような運命
小屋でガーデラの取り乱しがひと段落した頃──
外からは、まだ騒がしい声が響いていた。
「...騒がしいわね」
「はい。どうしたんでしょうか」
すると、扉越しに村長の声が聞こえる。
「勇者様ーっ! 祝宴の準備が整いましたぞー!!」
「「しゅ、祝宴!?」」
「早く来てくださーい!」
「勇者様のお席はこちらですー!!」
ガーデラとメルザは顔を見合わせる。
「え...どうしよ」
「どうしよって...まあ行くしかありませんね」
ガーデラはまた、ガクガクと震えだす。
「嘘でしょ!?私これから村人に祝われないといけないの!?拒否権とかないの!?」
「無理ですよ...だってガーデラ様が主役なんですから」
村長はドアがたたく。
「勇者様?どうかなされましたか?」
「い...行くしかない」
ガーデラは剣を持ち、扉を開ける。顔は勇者スマイルを作り、服装を整える。
小屋からでたガーデラの姿を見た瞬間、村人たちは歓声を上げる。
「勇者様!さあ、こちらへ!」
「遠慮なさらず!主役なのですから!」
「ささ、美味しい料理をどうぞ!」
「ちょ...ちょっとま..」
ガーデラは両腕を引っ張られ、祝宴会場の中心へ連行された。
会場では村人たちが次々に料理を並べる。
肉、果物、パン、スープ、酒。
「さあ、勇者様!まずはこの鹿肉の丸焼きを!」
「いやこちらのパンを!今日焼き立てでして!」
「このスープも自慢ですよ!」
「え、あ、あのその……」
(多い多い多いっ!!近い近い近いっ!!押すな!寄るな!詰めるな!!
なんだこの密度!? 圧が、圧がやばい!息ができない!!)
村長が大宴会用の大杯を持ってきた。
「勇者様!まずは一杯!」
「えっ!?いや、その……」
(な、なんじゃこりゃ!?でかすぎるでしょ!無理無理無理!!一気飲みは無理!私の肝臓は魔族仕様だが、これは絶対に倒れる!!というかお前ら、そこは女勇者への気遣いとかないのか!?)
「さあさあ!皆、勇者様に続けー!」
「かんぱーい!!」
「か、かんぱ……」
ガーデラは半泣きになりながら杯を傾けた。
(ゥぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!のどが焼ける...なんだこの酒!?強すぎる!こいつら...普段こんなもの飲んでるのか!?ふざけてるだろ!)
「おおっ、良い飲みっぷり!」
「勇者様、強い!」
「惚れてまうわ!」
(黙れ!!褒められても何もうれしくない!)
その後もガーデラは村人たちに囲まれ、休む暇なく話しかけられる。
「勇者様、どんな戦い方をなさるんです?」
「好きな食べ物は?」
「彼氏とかいるんです?」
「え、あ、いや……その……」
(質問が多い!なにここ、尋問所!?ていうかシンプルにプライベートを聞くんじゃない!お願い......五秒……五秒だけ静かにして!!メンタルが...メンタルが死ぬ!!)
メルザは遠巻きに見つめながら、そっと呟く。
「ガーデラ様...お労しいです」
外の夜空に響くのは、村の賑やかな笑い声。
その中心で、一人の“勇者”が静かに精神崩壊していくのだった。
祝宴がようやく終わり、
村の広場が静けさを取り戻した頃。
バタンッ!!
ガーデラは小屋へ戻るなり、力尽きた人形のように床へ倒れ込んだ。
「……地獄って……多分……ああいう場所のことを言うんだろうな……」
(死にかけてる...というか、祝われすぎて精神が死んでいる)
「えっと……だ、大丈夫ですか?ガーデラ様……?」
ガーデラはうつ伏せのまま、頬を床に押しつけ、
魂がどこかへ旅立ったような声で呻いた。
「だめだ……私の精神……まだ鍋の中で煮られてる……あの村人たち……距離が近すぎる……笑顔が怖い……視線が重い……」
「……村人の好意でここまでダメージ受ける魔族、初めて見ました……」
ガーデラが床に頬を押し付けながら呟き続ける。
「……“勇者様、尊い~♥”って言われた……私そんなキャラじゃない……尊くない……魔族だぞ私は……てか尊いって何……??」
うつぶせのガーデラの背中に手をそっと乗せ、メルザは優しくさする。
「と、とりあえず……魔王様に報告しますか?」
その瞬間。
バッッ!!
ガーデラが勢いよく起き上がった。
あまりの速さにメルザがのけぞる。
「じょ、ジョーダンじゃないそんなこと!!」
肩をわなわな震わせ、顔面蒼白のまま叫んだ。
「魔王様には“調査”という名目で来ているのだ!!その結果が──」
「……結果が?」
「『側近が勇者になりました』なんて報告したら……!」
ガーデラは両手で顔を覆い、震えながら続けた。
「最悪……魔王様に消される!!!」
小屋の空気が一瞬で凍り付く。
「ま...まさか、そこまでは流石に...」
「いや、ありうる!魔王様は冷静だが冷酷でもある……“役に立たない側近は捨てるべき”と言いかねない……!!」
ガーデラは髪を抱えて座り込み、床の上をぐるぐると転がりだす。
「……ああ……どうしてこんなことに……どうして……私が勇者なんかに……勇者なんかに~~……」
しばらく嘆いた後、ガーデラはゆっくりと立ち上がった。
「こうなったら...」
「ガーデラ様?」
「メルザ!外に出るわよ!」
「は、はい!...しかし、なにゆえですか?」
「剣を破壊する!」
「え...ええ!?」
ガーデラはドアを開けるとあしばやに外に出ていった。
「ちょ、ちょっとガーデラ様!」
月が雲に隠れた深夜。人気のない平地には、ガーデラとメルザ以外誰もいない。
「ホントにやるんですか?」
「当然よ!剣が無くなれば私はもう勇者じゃない!これまで通り、魔王様に使える側近として魔王城に帰る!」
ガーデラは勇者の剣を地面に突き刺すと、一歩引いた。
手のひらに魔力を集中させると、紫色の稲妻がバチバチと音を立て始めた。
メルザが息をのみ見守る中、ガーデラは腕を突き出す
「砕けろ!」
瞬間、手のひらから雷の弾が放たれ、剣に勢いよく直撃する。
あたり一面に土煙が舞い上がり、地面がえぐれた。
……だが。
剣は微動だにせず、むしろ「何か?」と言いたげに月光を反射していた。
「......え?」
「む...無傷!?」
「は...はは。少し手加減しすぎたかしらね」
今度は両手を構え、魔力を集中させる。
「吹っ飛びなさい!!」
両手のひらから、雷が一直線に放射された。
ドゴォォォン!!
風が吹き荒れ、大気が震える。
......しかし。
「....は?」
剣:無傷。
ガーデラは深呼吸をし、ガーデラはその場に立ち尽くす。
「ふ~ん、そっか~。そうだよね~、勇者の剣だもんね~。ちょっとやそっとじゃ壊れないよね~あははははは」
「が...ガーデラ様?」
「ふざけんなこのクソ鉄塊がああああああ!!」
歯を食いしばり、魔力を限界まで高めていく。雷が空中で圧縮され、やがて一本の槍のようになる。
全身を稲妻が走り、髪が逆立ち、空気が震える。
「あ、これまずい!?」
メルザは瞬時に防御魔法を展開する。
「私の前から...消え失せろおおおお!!!」
槍はすさまじい速度で剣に直撃した
ズガァァァァァン!!!!
夜空は一瞬昼のように明るくなり、轟音が響き渡る。
メルザは必死に防御魔法を維持する。
爆煙が上がり、剣が突き刺さっていた場所には巨大なができた。
ガーデラは前かがみになり、肩で息を荒くしながら次第に笑みを浮かべてく。
「はあ、はあ、はは...あはは...」
目の前の穴の中には剣の姿はどこにもない。
「が、ガーデラ様...これは流石に」
「ははははは...あははははははははは!思い知ったか!剣ごときが私にたてつくなんて100年早いのよバーカ!」
勝利を確信し、空を仰ぎ、高笑いをする。
「消えた!終わった!私の...勝ちだああ!!!」
その瞬間
ガラガラッ
穴の中から音が聞こえた。
「......あ」
メルザは穴の中で光るあるものを見つける。
ガーデラは一瞬で真顔に戻る。
「あの...ガーデラ様」
「いやよ」
空を見上げたままガーデラが即答する。
「...ありますよ...あれが」
「見ないわよ。私は」
次第に声がよわよわしくなる。
そして、観念したかのように穴のほうを見下ろした。
穴の中にはまるで意思を持ち自らを主張するように剣が穴の中央に刺さっていた。
「.......」
ガーデラは顔を引きつり、その場に立ち尽くしす。
「...ガーデラ様、大丈夫ですか」
「大丈夫...まだ何とか...心は折れてない」
か細い声で答えるがガーデラの
魔族としての誇りは、完全に粉々に砕かれていた。
破壊が不可能だと悟った、その時から。
ガーデラの戦いは――剣との物理的距離へと移行した。
「……壊せないなら、捨てればいいだけよ」
人気のない断崖。ガーデラは海に向かって思いっきり投げ捨てた。
月光を受けて弧を描き、剣は海へ落ちていった。
「よし……これで……」
...しかし
「ガーデラ様、後ろ!」
「え?」
振り向くとそこには、地面に突き刺さった剣があった。
「え!?ちょ、いつから!?」
メルザは何も言わなかった。
今度は森の奥。
深く、深く、魔法で地面を抉り、剣をその中に放り投げた。
「よし、埋めるわよ!」
ガーデラとメルザは土を戻し、完璧に平らにした。
「……これなら流石に……」
...しかし
ズボッ!
土の中からまるで植物のように剣が顔を出した。
あまりの光景にガーデラは唖然とする。
「......わあ......生えた」
「...フフッ」
「メルザ?」
「な、何でもありません」
再び平地に戻る。
「いい?もう帰ってこないで...絶対に...わかった?」
怒りと疲労が入り混じった瞳で剣を凝視する。
(はたから見たらやばい奴だ...)
ガーデラは魔力を込め、剣を空の彼方へ投げ飛ばした。
「......よし、飛んでいった。間違いなく飛んでいった」
「はい...ですが恐らく...」
瞬間
――ズン。
背後の地面に、何かが刺さる音。
「「………………」」
ふたりは、ゆっくりと振り向いた。
そこにあったのは見事な角度で突き刺さる...剣。
それは、何も語らない。
だがそこには、絶対的な意思があった。
逃がさないという意思が。
ガーデラは膝から崩れ落ち、声を震わせる。
「....ねえ...私魔族なのよ?」
剣は沈黙。
「魔王様の側近なのよ?」
沈黙。
「……勇者とか、向いてないの」
沈黙。
「……聞いてる?」
沈黙。
そして。
ガーデラの肩が、小さく揺れた。
「……やだ……やだやだやだやだ!」
剣を両手で押し返すようにしながら、距離を取ろうとする。
「来ないで……!来ないでよ! 近づかないでよ!」
だが、どれだけ離れても、気づけば剣は手の届く場所にある。
「ガーデラ様、お気を確かに...」
メルザが声をかけるがすでに手遅れだった。
「うわああああああああああああああ!!」
ガーデラは地面に座り込み、子供のように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくり始めた。
「なんでぇ……!なんで私なのよぉ!」
拳で剣を叩く。
「もっとそれっぽい人間とかいるでしょぉ……! 正義感あふれる村人とかぁ……!」
嗚咽混じりに叫ぶ。
「私はぁ……魔王様の側近なのぉ……! 世界を救うとか知らないのぉ……!」
その光景にメルザはかける言葉を失う。
(うわあ、完全に壊れちゃったこのひと)
剣は、相変わらず静かにそこにあった。
泣きじゃくる魔族。
離れる気のない勇者の剣。
こうして、史上最もやる気のない勇者が、誕生したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
どうも、作者の一二三四 五六です。
思ったよりも一話での物語の進みが遅いことに不安を感じています。
「じゃあぎっちり書けばいいだろ?」と思う人がいると思いますが、文字がぎちぎちに入ったり、あまりにも長かったりする小説ってちょっと読みにくいと思いまして...
なので、遅くてもあまり一話に詰め込みすぎないようにしています。
進みの遅さは、投稿頻度で補っていこうかと思います。(安定しにくいけど)
今のところそんな感じです。
今後とも、側近勇者をよろしくお願いいたします。




