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第三章「黒霧の森を越えて」


「……よかった……生きてる私……」


戦いが終わりを告げて、膝が笑ってしまい地面にへたり込む。全身がまだ震えている。

森の空気は焼け焦げた匂いと、どこか甘ったるい瘴気の残り香が混じっていた。

ソニアさんは倒れた魔獣の死骸に近づき、剣の先で慎重に確認している。


「動かないな。完全に仕留めたみたいだよ」

「す、すごい……。本当に?」

「まあ、なんとかね。倒せて良かったわね」


そう言って笑う彼女の声には、疲労よりも安堵が滲んでいた。

それでも、その笑顔の奥に私にはわからない……何か深い影があった気がする。


「あなた、名前は?」

「え? あ、えっと……サキです」

「サキ、ね。……ふむ、覚えたわ」


ソニアさんは私の名前を一度呟き、ゆっくりと剣を鞘に収めた。


「この森、しばらく危険よ。魔獣の瘴気は連鎖するからね。近くにまだ“巣”がある可能性が高いわ」

「えっ、巣!? つまり、あれよりヤバいのがまだいるってこと!?」

「かもねぇ」


ソニアさんの淡々とした言葉に、私は顔を引きつらせた。そんな、あんなのがまだまだいるなんて。マジで帰りたい。

けど、ソニアさんのさっきの瞳を見て、少しだけ足が止まる。そして、気になるのでソニアさんに問いかけてみた。


「ソニアさんは……奥に行くの?」

「放っておいたら、この森一帯が死ぬ。放っておけないでしょ、この森」


返事は即答だった。

その声には、炎みたいな強さがあった。

けど、なにか不安を感じて思わず私もついていかないとと思った。


「じゃあ……私も行くよ」

「危険よ。あなたの魔法は強いけど、まだ制御できてない」

「でも、置いていかれるのもイヤだし。……それにさ、助けてもらったまま逃げるのなんかズルい気がして」


私の言葉を聞きソニアさんは少しだけ目を見開き、それからふっと笑った。


「へぇ、気が強いのね」

「そんなことない。ほら……震えてるし」

「本当ね……いいわ。じゃあついてきなさい。ただし、死にたくなかったら指示には必ず従うこと。わかった?!」

「りょ、了解です!隊長!」


思わず敬礼してしまう私に、ソニアさんが小さく吹き出した。その笑顔は、さっきよりも少し柔らかい。さっき感じた不安はもう無いように思える。


決意を胸に歩き出す私たちを誘う、森の奥へと続く黒い霧の向こう側から……まだ何かが、こちらを見ている気がした。


そして、二人の影は再び、静寂の森に溶けていった。


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