レッツ「感想欄」見学!
もしかしたらフィクションじゃないかも知れません。
「みなさーん! 目的地に着きましたよー!」
女性バスガイドの声が聞こえ、俺はゆっくりと瞼を開ける。周囲が少しざわついていると思いつつ、締め切っていたカーテンを開け、風景を眺める。
そこには目的地の感想欄という場所に到着していた。
「……ここで今から、見学をするのか」
独り言を呟いた後、俺はクラスメートの後に続いてバスを降りる。チラッと女性バスガイドの方へ視線を向けると、和やかな表情を俺に向けていた。まあ、ビジネススマイル、だよな、と思いながらバスを降りた。
女性バスガイドの後に続いて、俺たちは感想欄の中へ入っていく。
一見静かな雰囲気を纏っていると思ったが、よく見れば檻の柵を強く掴んでこちらを見ていた。猿のような顔つきだったが、どうやら俺と同じ人間のような存在だった。
「はい皆さん! こちらを見て下さい!」
と言われ、俺は女性バスガイドに言われるがままに右へ視線を向けた。そこには、律儀にパソコンの前に座っている存在が確認できた。檻の前には褒め達者な感想をする存在、と記載されていた。
「先生ー! これはなんですかー?」
誰かが言った。質問を受け取った女性バスガイドは次のように言った。
「こちらは感想欄に上手く褒め言葉を書き込む存在になります。彼らは常日頃からパソコンの前に律儀に座って画面を眺めて、気に入った作品があれば感想を書き込む習性があります」
ほお、それは立派なものだな、と思いながら。俺はふと疑問に思ったことを口にしていた。
「先生、質問良いですか」
「はい、なんでしょう?」
「その習性って、別の見方で考えたら気に入らなかったら感想を書き込まない、ということでしょうか?」
「まさしくその通りになります。面白くなかった、気に入らなかった作品には感想を書き込まない習性になるので、見方を変えれば厄介な存在になるかも知れません」
ふーん、そうなんだ、と思いつつ、先の人達が動いたので、私は彼らの後に続いていく。
また動きが止まり、女性バスガイドの声が聞こえる。今度は左に視線を向ければ、柵を掴んで身体を揺すっている凶暴そうな存在が居た。
「こちらは?」
と担任の先生が訊ねた。
「こちらは気に入らない作品に対して、アンチ的な感想を送りつける存在になります。彼らも常日頃からパソコンと向き合っていますが、気に入らない作品といつも向かい合っているのか、背骨を曲げながら座っていると言われています」
へえそうなんだなあ、自分の気に入らない作品にアンチ的な感想を送りつけるなんて可哀想だなあ、と思いながら、俺は悲愴感のある目線を彼らに向ける。その俺の感情を受け取ったのか、彼らは更に凶暴となり、柵を先程よりも強く揺らし始めた。
「怖いな」
俺は独り言を漏らしながら、また歩き始めて列についていく。
こうして女性バスガイドによる案内を受けながら、この感想欄を歩いて行くと、突如として列が止まる。
どうしたんだろう、と思って俺は周囲を見渡す。
檻の中に居ない。先程まで彼らのような存在を確認できたはずなのに……と疑問に感じていると、どこかで悲鳴が聞こえた。
「なあ、一体何があったんだ?」
俺は不安げに前のヤツに話しかけた。だが、そいつはこちらに顔を向けたが、表情を一切変えることなく、ガクガクと震え始めた。
「どうしたんだよ。この先で一体何が起きたって言うんだよ」
俺の声は震えていた。すると、話しかけた目前のヤツは気味の悪い笑みを浮かべてこう言った。
「知らなかったの?」
と。
「知らないよ。知らない知らない。何が、一体何が起こるって言うんだよッ──!」
焦燥感に駆られながら俺は話すが、唐突として目の前に居たヤツが消える。あれ、と思って周囲を見渡すと、周囲の檻の中にヤツがいた。
パソコンの前に座ってキーボードを叩いてやがる──!
そう思った時、俺は肩を叩かれる。
嫌な予感が広がる中、ゆっくりと正面に顔を向けた。得体の知れない何かがそこに立って、笑みを浮かべていた。その顔貌にはどこか見覚えがあり、脳裏にある光景を掠めた。
「……まさかッ!」
そうか。そうなんだ。俺たちは女性バスガイドに騙されて、この感想欄に閉じ込められてしまったんだ。どうしよう、どうすればここから出られる。どうすればここから一体──。
俺はおもむろにポケットから携帯を取り出す。だが、掌からスルリと携帯が零れ落ち、しまった、と思わず口から溢してしまう。
その場にしゃがみ込んで携帯を拾おうとした瞬間、肩をもう一度叩かれる感触がした。ゆっくりと目線を上げれば、先程と同じ得体の知れない何かが笑みを浮かべていた。
「やばい。食われるかも知れない」
覚悟を決めて歯を食い縛った時、優しく温かい感触に包まれた。
なんだろうこの感覚、まるで実家に帰ってきたような安心感が胸の内で広がっていく。このまま寝てしまいたいぐらい、温かく、優しい。ああ、このまま誰かに抱きしめられたら良いな──。
※感想、お待ちしております。