前編
読みにくい所や誤字の報告などしてくれるとありがたいです。
感想または質問にはできる限りお答えするので書いてくれると嬉しいです。
ラーファーン王国の最北端に『禽静の森』という隣国との国境を分かつ大きな森がある。
王都から禽静の森までの真ん中あたりに人口400人以上のライザル村と名のついた大きな村があった。
そのライザル村の村長の孫娘クイナがある人物を探して村の端にある草原に向かっていた。
「今日もここにいるかな」
と口には出してみた物の村にいない時は基本的にこの場所にいるのを知っているのでそれ程心配はしていなかった
そして案の定目的人物はその場所にいた
「いた、ふぅ―カイン」
私は一人で剣を素振りする青年の名前を大声で呼んだ
「やぁ、おはようクイナ」
その青年は、笑顔でその声に応じた。
「いつもお弁当、持って来てくれてありがと」
カインは一度、素振りを止めてクイナと一緒に石の上に腰を下ろしていた。
「うんうん、これくらい何ともないよ」
「いつも村の警護してくれてるわけだし」
「そ、それに...私もカインと会えて嬉しいし」
「ん?ごめん最後なんて言ったの」
「うんうん、何でもないよ気にしないで」
最後の言葉は小さかったこともあって聞こえなかったみたいだ
聞こえていなく安心の気持ちがある半分、聞こえて欲しかった思いもあった
私は、カインの事が好きだ
はっきり言って、村にいる男子たちはあまりパッとしない連中ばかりである
それに比べてカインは剣の修行をするため色んな所を旅をしている
村に立ち寄った際その剣の腕を見込んでおじいちゃんが少しの間、衣食住と少しの報酬用意する代わりに村の警護をお願いしたのだ
だから同世代の男の人より少し大人びて見えた、そして一目惚れだった
しかし未だにその想いを告げれずにいる
「ねぇ、カインはいつまで村にいるの」
「そうだね、少なくても今すぐ出ていくつもりはないかな」
「この村のみんなは優しいし、ご飯も美味しいからずっと居たいぐらいだよ」
それならば、ずっと一緒に居てくれればと思ったが声には出さずにグッとこらえる
「それでも、またどこかに行くんでしょ」
できるだけ、精一杯の笑顔でそう問いかける
「ああ、僕はいつか頂剣を超える剣士にならないといけないからね」
そう自信満々に、いつか本当に自分なら成し遂げられると思っている目をして言った。
頂剣ゼガリアル・ルーサー、私でも知っている
いや、きっとこの国に生きている人間ならば知らない方が少ないだろう
昔、両親が寝る前に読んでくれた本の一つに【頂剣と忌姫とドラゴン討伐】という本がある
それくらいこの国には当たり前に浸透していた
その頂剣を迷いなく超えると言ってのけている
「カインならきっとなれるよ」
そう何度か聞いたその言葉に私は、噓偽りない想いを口にした
「ありがとう、クイナ」
果たしてそれは盲目になっているせいか、もしくはそう発言する彼の目がそうさせているのか彼女自身にも解っていなかった。
「そうだ、カインももちろん今日の夜の宴は来るよね」
今日は一年に一度村の平和と神への感謝を願って村の全員が集まってご馳走を食べたりお酒を飲んだりして楽しむ宴がある。
平和と神への感謝を願ってと言っているが、ただ馬鹿騒ぎしたいだけだと思っているが私も楽しんでいるので誰にも言ったことはない
「僕も、参加していいなら、お邪魔したいけど」
「当たり前じゃん、全然来てくれて大丈夫だよ」
「それならお邪魔させてもらおうかな」
「本当ッ」
「ただ、村の見回りをしたいから少し遅れて行くかもしれない」
「唯でさえ普段特に何もできていないからね、村が平和な事はいい事だけど」
そんな事はない、カインはどんなに天気が悪くても毎日村の周りを見てくれている
他にも村で困っている人がいたら、迷わず助けていることを知っている
だから村のみんなもカインには好印象で接している
その事を気にも留めずに言うカインを私は、またひとつ好きになる
「それなら、私と一緒に過ごさない」
「私のやる事も終わってるかもしれないし」
「ありがとう、それならクイナに宴会の作法でも教えてもらおうかな」
「なんだかんだ言ってクイナとが一番せっし慣れてるからね」
(よし)と心の中でガッツポーズをする
「あはは、そんな作法なんてないよ」
「みんなで楽しんでるだけだし」
「それなら、見回りが終わったら村の中央広場に来てきっと私も含めてみんないると思うから」
「うん、わかった絶対行くよ」
「約束だよ」
「それじゃ、私は村に戻るね見回り頑張って」
私は立ち上がりカインにあまり顔を見せないようにした
自分が今どんな顔をしているか判らないからだ
そうして村に向けて走り出した。
それに対して声が掛かる
「クイナ、また後で」
その声に振り返る。
「うん、また後で」
果たして私はいつもどうりの顔でいられているだろうか
「ただいまー」
私は一度家に戻ってきていた
「お帰りなさい」
その声にお母さんが反応して私を出迎えてくれた
「お母さんだけ?」
「そうよ、二人とも宴の準備に出て行ったわよ」
「楽しみすぎてウキウキだったわ」
因みに、私の家族は今は村長のおじいちゃんとお父さんとお母さんの4人で生活している。
「何か良いことでもあった」
唐突にお母さんがそんなことを聞いてきた
「べっ、別に何もなかったよ」
急に聞かれたので少しどもってしまった
それに対してお母さんは笑って答えた
「どうせ、カイン君と今夜一緒に過ごす約束でもしたんでしょ」
その図星に私は何も言えなくなる
その様子を見てお母さんはまた笑った
「とりあえず、一旦椅子に座りましょうか」
そうして、促されるままに両者とも椅子に座った。
「カイン君のこと、好きなんでしょう」
開口一番に核心を突いた質問をぶっこんできた
「うん...」
恥ずかしいので小さく答える
「クイナはどうしたいの?」
その問いに私は考える
私がどうしたいか?
いずれ、カインは絶対に村を出る
そうなればきっとカインとはしばらく会えなくなるかもしれない
いや、もしかしたら一生
その考えが頭をよぎった瞬間、胸のあたりが苦しくなる
私は、私は...
「カインと一緒に居たい、カインと離れ離れ何て考えたくない」
「わたしは......私はカインに着いていきたい」
私はお母さんに胸の内を明かした
それに対してお母さんはたった一言
「そういいんじゃない」
そう軽く言ってのけた
「いいんじゃないってお母さんはいいの?」
「そりゃ寂しいけどそれで子供の恋を応援しない理由にはなら無いでしょう」
そう、あっけらかんと言ってみせる。
「けど、村長の件もあるし私がいなくなったら困らない」
「おじいちゃんが許してくれるかわからないし」
不安そうに私は語る
「おじいちゃんはきっと許してくれるわよ」
「じゃなきゃ、カイン君をこんなに長く村に留めておく必要がないもの」
「まぁーカイン君の人柄もあるだろうけど」
「えっ」
私は驚く、まさかおじいちゃんがそんな事を考えているとは思っていなかったからだ
実際に弁当を、クイナに届けさせる提案をしていたのは祖父である。
そのことをクイナは知らない、カインとの接点を増やすために気をまわしていたのだ。
「多分おじいちゃんは気付いてるんじゃないかしら......あのひとは多分気付いてなさそうだけど」
「それに、村長の件だけど気にする必要ないわよ」
「別に家が村長をしないといけないわけじゃないし他の人にやってもらえばいいだけよ」
「だから、あなたはあなたの好きなようにしなさい」
ほんの少しの間、無言の空気が流れる
「本当にいいの?」
「ええ、良いわよ」
「村を出て、カインについて行っても?」
「親が子供を縛るものじゃないもの、あなたの自由にしなさい」
その言葉に涙が零れそうになる
「ただし、おじいちゃんとお父さんにはちゃんとあなたの口から説明しなさい」
それに対し少し不安の顔になる
「大丈夫よ、おじいちゃんはきっとオッケー出すと思うから」
「お父さんの方は私が説得するし、いい加減あのひとには子離れさせないと」
その言葉で私は先ほどあった不安が軽くなった
「それと、これが一番大事ね。カイン君が一緒に行ってもいいか確かめなさい」
「もし、ダメならきっぱり諦めること」
「うん、わかった」
私は覚悟を決めてそう答えた
「よし、良い顔ね」
「それじゃ、話は終わり宴の準備をしないと」
そう言うと、台所に向かおうとしていた。
私も宴の準備に行くために玄関に向かった。
「そうだ、クイナ外に行くならログレイさんのこと呼びに行っといてくれない」
「ええ、私あの人のこと苦手なんだけど」
「文句言わないの、はい行った行った」
「はーい...」
玄関の前で立ち止まる
そして振り返って大きく叫んだ
「お母さん・・ありがとうぅ」
そして私は勢いよく外へ飛び出した
その声にお母さんは一体どんな顔でいるのだろうか素敵な笑顔なら嬉しいな
私はお願いされた通り、ログレイさんの所に向かっていた。
ハッキリ言ってあまり気乗りしない
ログレイさんは少し前に薬を分ける代わりにどこでもいいので少しの間、住む場所を貸してほしいとやってきた
いい薬だったので、おじいちゃんはその条件をのんで丁度村の南端に空き家があったのでそこを貸すことになった
ただ私は、少し苦手だ
なぜ苦手なのかと言うと、何を考えているのかわからなくて不気味なのだ
家に来た時、無表情で淡々と話す姿に少しの恐怖心を抱いた
「はぁ~、行きたくないな」
その時遠くの方で声が掛かる
「クイナちゃ~ん」
声がした方を向くとそこには親友がいた
「セナ」
お互い勢いよく走りだした。
そして合流すると笑顔で手を合わせ喜んだ。
「何してたのセナ」
そう、聞くと満面の笑みで答えた
「今は特に何も、ただ今から宴の飾り付けの準備をしよと向かってた最中なの」
「それでクイナちゃんの姿が見えたから一緒にどうかなって声をかけたの」
「いいね、私も行きたいかも..」
と、ここで本来の目的を思い出す
「どうしたの?」
「うんうん、何でもない一緒に行こっか」
「うん」
(まあ、別に呼びに行かなくても大丈夫かな)
(あの人ほとんど村の方に来ないし、お母さんには声をかけたけど来なかったって事にしておけばいいでしょ)
「そいえば、クイナちゃんは今年は誰と過ごすのかな」
「え...それはその」
「うひひ、わかってるよカイン君と過ごすんでしょ」
「......うん」
「えええ、当たったの勘で言ったのに、そっかぁじゃ今年は一人で過ごす事になるかな」
「けど、カイン少しだけ遅れて来るかもって言ってたからそれまでは一緒にいられるかも」
「本当、それならそれまでは一緒にいよう」
「うん」
セナとは本当に気が合う、私の一番の友達
けどもし私が村を出ることになったセナとも会えなくなる
物凄く、寂しいけど私はやっぱりカインと一緒にいたい
だから、カインがいいと言ってくれたら一番最初にセナに話そう
「そういえば知ってるクイナちゃん?ヤジハ村に外獣が出たって噂」
ヤジハ村は禽静の森に一番近い村である。
なのでそれなりに強い人が警護がついていたりする。
「あの村は初中だから、あんまり気にしなくて大丈夫でしょ」
そうして私たちは飾り付けの準備に向かった。
「あははははは」
「わははははは」
「ほら、どんどん飲め」
宴は中盤に差し掛かっていた。
大人たちは大分出来上がっている。
私も成人しているのでお酒は飲めるのだが、今日は控えていた
宴の始めはおじいちゃんが村のみんな向かって一年間の感謝とこれからのこと言って乾杯をする。
それからみんな各々色んな人に挨拶をして回る。
私も村長の孫娘ということもあり多くの人に声をかける、なので拘束時間も長い。
そして今その挨拶がすべて終わったところだ
これからは私も自由に楽しめる
(カインはもう来ているかな?)
セナとカインの二人を探す。
中盤にもなると村の人は半分ほどに減っていた。
挨拶が終わると好きなようにしていいので各自で楽しむ者や家に戻っている者もいる。
残っている者と言えば中央の火柱を囲む形で飲食をしていたり、火柱の近くで踊っていたり様々である。
因みに、私もカインを踊りに誘うつもりだ
そして、今日カインに一緒に付いて行っていいかお願いする
例えどんな結末になっても後悔しないように
「どこにいるのかな二人とも」
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「はぁ、はぁ..これはきっと夢よ、そう全部夢..だって、こんなの...こんなのあり得る訳ない」
わたしは村の中を全力で走っていた
燃え盛る村の中をなりふり構わず駆け抜けていく。
それを邪魔するが如く一つの影が道を塞ぐように飛び出してきた。
「いやぁ..もういや、来ないで」
私は涙すら渇いた声で叫んだ
数刻前
最初に異変が起きたのは一人の若い女性の叫び声だった。
「きゃああああああ」
私も含め宴に残っていた多くの人がその声の方向に視線を向けた。
そこには女性の上に乗りかかり押さえつけている獣がいた。
「何だこいつ」
近くにいた男性が女性を助けるためにその獣に蹴りをかます。
「キキィーーーー」
それを避ける。
「おいみんなで囲んでやるぞ」
女性を助けた男性が周りの男たちに指示を出す。
そして、その男性が獣に攻撃を仕掛けようとした時、鈍い音がした。
次の瞬間、頭から血を流しながら男性がその場で倒れた、その近くで手のひらサイズの石が転がる。
全員がその場で静止した。
何でこんなことが起きたか解らなかったからだ、だが確かに解っていることがある
頭の形が変わる程の衝撃を受けてその男性が死んだ。
故に、動けない。
もし動けば次にあの死体と同じようになるのは自分かもしれない。
その光景を嘲笑うかのように家の屋根の上から唸り声が響く。
「キキ」
それに共鳴するかの如く至る所から声が挙がる。
「キキ」「キキキキ」「キャキ」「キギギキ」「キィーーーーーー」
道、木の上、塀の上、家と家の間、中央広場を囲む形で無数に緋く光る眼光がこちらを見つめていた。
そこから先は、まさに地獄そのものだった。
数十匹という数の獣が中央広場にいる人間に向かって襲い始める。
その中には、例外なくクイナも含まれていた。
「何なの、何なのよこいつら」
中央広場から抜け出そうと必死に走る
あるものは獣に捕まった人助けようとしている者もいるが、クイナにそれほど心の余裕はなかった。
事実、クイナが今無事なのは運である。
「よし、あと少しで抜けられる」
そうクイナが呟いた
だが、あと少しの所でクイナの上に影を落とす。
次の瞬間、クイナの背中に衝撃が加わる。
その衝撃で、前方に転がるように吹き飛ばされた。
少し肌を擦りむいたが、幸いにも軽傷で済んでいる。
顔を上げ、自分が吹き飛ばされる前にいた場所を見た――
「つっ……! お母さんっ!」
そこには、獣に押さえつけられている母の姿があった。
きっとお母さんが私を飛ばしてくれていなかったらあの状況になっていたのは私だ
この混乱のなかお母さんは助けてくれたんだ
「待ってて、お母さん今助けるから」
一歩踏み出そうとした瞬間、怒号にも似た叫び声が発せられた
「私の事はいいから、早く逃げなさい」
その言葉に私は戸惑う
「でも...でも、それだとお母さんが『いいから早く』」
きっと私は酷い顔をしている
そんな私を見てお母さんは微笑んだ
「..行って。」
私は中央広場に一切目を向けず走った
(お母さん、お母さん、お母さん)
最後に見せたあの顔が私の頭にじっとり纏わりつく
本当に見捨てて逃げて良かったのだろうか?
お母さんだけじゃない、あの場所にはおじいちゃんにお父さん、村のみんなそしてセナとカインたちも
もしかしたらあそこにいたかもしれない
だからと言って私に何ができたのだろう?
自身の無力感を噛みしめる。
ほんの少し前まで幸せな時間を過ごしていた
みんながいて、セナと一緒にカインを待って
そしてカインと宴を楽しんで最後に旅に着いていくお願いを成功させる
そんな夢を想い描いていた
悪夢にしたって出来が悪すぎる
「はぁ、はぁ..これはきっと夢よ、そう全部夢..だって、こんなの...こんなのあり得る訳ない」
燃え盛る村の中をなりふり構わず駆け抜けていく。
それを邪魔するが如く一つの影が道を塞ぐように飛び出してきた。
「いやぁ..もういや、来ないで」
私は涙すら渇いた声で叫んだ
赤い瞳が私をとらえている
その獣は、全身が茶色の毛で覆われていて今は前の手を地面につけている
体は人間の少年くらいのサイズで私よりも小さい
それでも人ひとりを普通に押さえつけるだけの膂力を持っている
きっと私は何もできない、抗っても負ける
「嫌だ、死にたくない。お母さんが助けてくれたのにこんな所で死ねない」
獣がゆっくりと間合いを詰めてくる。
それに対してクイナがとった行動は
「助けて!誰か、誰でもいい、近くに誰かいたら助けてください。」
大声で助けを呼ぶことだった。
自分の力ではどうする事もできない状況にクイナは助けをもとめた。
しかし、獣はただただ距離を詰めてくる。
そしてクイナに襲い掛かる。
「ギーー」
(あぁもうダメだ。逃げられない最後に会いたかったな...カイン)
獣がクイナに触れるその時、村を燃やしている炎が揺らめいた。
「見つけた。」
言葉と共にクイナを襲おうとした獣の首が宙をまう。
その光景に安堵と歓喜が押し寄せる
死の間際、一番会いたいと思った人が目の前にいる
「遅くなってごめん、クイナ」
「カイン」
喜びのあまりカインに抱き着いた
彼女を落ち着かせるためにカインも優しく抱きしめ返した
数秒抱きしめあったのち二人は離れた
「どうして、カインはここにいたの?」
助けてくれた事は嬉しいがあまりにもタイミングが良かったので尋ねた
「村の東側から北に向かって村の周りを見てたんだ、そして村の西側まで見終わったからそろそろ宴に参加しようかなって思った矢先にこいつらが現れて」
「自分の前に現れたのは殺したんだけど村の方を見たら燃えてるのが見えたから急いで村に入っていった、そしたらクイナの声が聞こえたから助けに向かったんだ」
そこでクイナは自分自身が西側に向かって走っていたことを知る
確かに燃えていて分かりにくいが見覚えのある建物がいくつかある
必死に逃げるあまり自分がどこに逃げているのかすら解らなくなっていた
カインの方を見るといくつかの返り血と所々焦げた箇所がある
この燃え盛る炎の中を走り抜けてきたことがわかる
「そうだったんだ、ありがとうカイン助けてくれて」
「うん、僕も助けられて嬉しいよ」
カインが優しく微笑みかける
その顔を見てクイナは照れてしまう
それがばれないように話をそらした
「これからどうしよう?」
「ここから村の外に一番近いは西側だけど」
カインが自分が来た方を見る
そこには先ほどより激しさを増して広がっていく炎が見えていた
「流石にこの火の中行くの無理だよね」
クイナも同じ方向をみて意見をもらす
「南に向かおう、そっちには大通りもあるから火の勢いもましなはずだ。それにこいつらは恐らく禽静の森から来ている」
先ほど首を切り飛ばし亡骸に視線をやる
「こいつらは一体何なの?」
「走りながら話すよ」
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「さっきの獣は『テットキース』って言う外獣なんだ」
クイナとカインは南側に移動しながら先ほどの獣について話していた。
「テットキース?」
「ああ、奴らは普段、森に生息していて時々人を襲うために森から出てくるんだ」
「森に?けどこの村から一番近い森って禽静の森だよね。それもかなり離れているし」
「うん、だから普通ここまでくることがまずおかしいんだ。それに彼らの種族上これだけの数がいるのも」
そう言うと、カインは苦い顔をする
「それってどういう事?」
カインは少し口ごもりながら話を続けた
「彼らは種族上、メスが存在しない」
その発言にクイナは疑問に思った
クイナ自身、そういった経験はないが生命の営みを知っている
いずれカインとそういう事もするかもしれないと妄想することもあった
故に、カインの先ほど発言の謎に帰結する
「じゃ、どうやって」
どうやって、あの獣はあれほどの数まで増えたのだろ。
オスのみで子孫を増やす事が可能なのだろうか。
「あの外獣は、別の種族に自分の子供を産ませる」
「つまり...人間の女性にだ」
クイナの頭の中が真っ白になる
つまり自分があの獣に捕まっていたら...
お母さんはもうすでに捕まっているそれにセナもどうなったか判らない
「それにもし女性をさらうことができても誰かが助けるかその女性が途中で命を落とすことの方が多い」
「奴らは、命を奪う方法は知ってても、命を生かす方法は知らない...だから、毎年数を減らしてるはずなんだ」
「カイン、お母さんが中央広場にいるの。私を助ける代わりに捕まってだから..だから」
お母さんだけではない、おじいちゃんにお父さん。村の人たちも大勢残っていた
「うん、助けるよ」
カインは強い眼差しクイナをみた。
それはいつもカインが頂剣について語っていた時と同じほど強い意志の目をしているとクイナは思った。
それを見て、クイナは安心するきっとカインならみんなを助けてくれる
「だから、早くクイナを村の外まで逃がさな...クイナ止まって」
カインが私に停止するように促した
カインの言うとおり止まって前方を向くとそこには、4匹のテットキースがこちらの行く手を阻んでいた。
「少し待ってて、3歩で終わらす」
カインはそう言うと少しずつ近づいていった
4匹のテットキースもこちらに気付いたのか警戒していた
カインとテットキースの距離が数メートル程になった時、カインの姿が消えた
それと同時に一番左のテットキースの首が切り飛んだ
カインはどこに消えたのだろうと目で探し見つけた
カインは首を切ったテットキースの後方に立っていた
「一速」
私が見つけたと同様に他のテットキースもカインを見つける
しかし、次の瞬間またカインの姿が消えた、と同時に首を切られたテットキースから
一番近いテットキースの左足と左腕が地に落ちる。
切られた事でバランスが取れなくなったのかその場所で倒れた
それを行ったカインは二匹のテットキースの前でしゃがんだ状態で体の正面を私の方に向けていた
そこに二匹のテットキースがカインの背中に向けて襲いかかった
「カイン、後ろ!」
だがその二匹がカインに届く事はなかった。
カインの姿がまた消える
二匹のテットキースが胴の部分から上下に分かれる。
私はその最後の二匹の後ろの間に立っているカインに目が奪われる
「すごい」
普段の優しいカインしか知らない私は衝撃をうけた
カインが剣の鍛練をしているのは、何回も見ていた
それでも、実戦を見て初めて私はカインの強さを知る
足と腕を切られその場で動けなくなっていたテットキースに止めをさしたカインがこちらに戻ってくる
「カインって、凄く強かったんだね」
戻ってきたカインに向かって正直に思った事を口に出す
「ありがとう、それでもまだまだだよ、僕は」
「世の中には僕なんかよりもっと凄い人たちがいる」
その発言が事実なのかそれとも謙遜なのか剣のことを知らないクイナにはわからなかったが
目の前にいる青年は彼女にとって間違いなく英雄だった。
「それじゃ、急ごうか」
「うん」
その言葉通りに数歩踏み出した私は違和感に気付く
カインが私の方を睨みつけて止まっている
一度腰の鞘に戻した剣の柄に手を置いていた
「…カイン?」
いや違う私の後ろだ
私の後ろにカインがこんな表情にするものがある
恐る恐る私も振り返る、その先に何がいるかも想像すらせずに
「えっ…」
その光景に私は言葉を失う
周りが燃え盛る炎の中、火の手が伸びてない道の真ん中こちら見つめている怪物がいる
見た目は先ほどのテットキースと差ほど変わらないが異常なのは、その大きさだった
二本の脚で立ち、胸に大きな傷のあるその怪物は私やカインよりも遥かに高い背をしている
だが大きさや胸の傷なんかよりも目を引くものがあった
その怪物は右手に剣を持って佇んでいた
「クイナ、一人で村の外まで行ってくれないかい」
カインが動けなくなっていた私にそう声をかけた
その声で私は現状を思い出す
「多分、あれが今回の騒動の原因だ」
「...僕があれを殺す」
怪物を睨みつけながらカインが私にそう言った
「嫌だ」
その言葉に私は否定を漏らした
カインは驚いたのかこちら顔を向けた
「どうしたんだいクイナ?テットキースが怖いのなら多分、大丈夫。南側は数も少ないはずだから遭遇する可能性も低い。それに南側には...」
「だから、一人で逃げてくれ」
きっとカインの言っている事の方が正しい
別に襲われるのが怖くて一人で逃げたくないわけじゃない
「私は、もう好きな人と離れたくない」
「けど・『それに』」
カインが少し焦ったように言い返したけど、その声に私は被せる
「カインは勝つんでしょあの怪物に、だったら勝って二人で一緒に行こう」
半分泣きそう顔と決意に満ちた眼差しでカインを見つめる
カインの返答に数秒の間が開く
「わかったよ」
「それなら早く倒して一緒に逃げよう」
いつの間にかさっきの険しい顔ではなく、いつも通りの穏やかな顔をしていた
そう言うと怪物の方に向けて歩きだした
「ありがとう、クイナ」
背中を私に向けて突然、お礼を言い出した
「僕の夢を信じてくれて。クイナはいつも真剣に僕の話を受け止めてくれていた」
「それだけで力を貰えていた、だからありがとう」
その言葉を紡ぎながらカインは得体の知れない怪物に近づいていく
その足取りは少し軽く迷いなどないかの如く
カインが怪物の少し離れた所で立ち止まり剣を構える
「一速」
カインの姿が消える。
先ほど殺したテットキースと同様に見えない剣で切ろうとした。
だがその剣が肉体に届くことはなかった。
カインの放った袈裟懸けは、横に構えられた怪物が握っている一振りの剣によって止められる。
攻撃を行うため宙に浮いていたカインは着地と同時にもう一度姿を消して怪物から距離をとった。
(一撃で殺せたら楽だったけど防がれるか)
(おそらく、こいつにさっきの戦闘を見られていたかな)
カインが少し様子を見るために離れた位置でもう一度剣を構えた時、怪物が少し笑ったような顔した。
「なっ!」
今度は、怪物の方が消えた。
カインは自身の左側に剣携える、その場所にもう一つの剣が衝突する。
その剣の威力にカインは少し押される。
(こいつ、僕の技を)
カインは苦い表情で攻撃を受ける、対して怪物は顔が歪んでしまうほどの笑みを浮かべていた。
数秒、剣が交じりあったのち同時に両方が後方に移動した。
(もし仮にあの戦闘だけで真似られたのなら、更に上は見せていない)
(そこに、漬け込むしかないか)
(それにしてもたった一回の戦闘を見ただけで僕の技を覚えたのだとしたら、こいつは危険すぎる)
「早く決着を付けよう」
再びカインが技を行い、姿を消す。
それと同時に怪物も合わせたように消える。
姿を現したのは両者が立っていた場所から遥か右側の場所で剣が交じり合っていた。
それを幾度も繰り返す。
響き合う剣戟の音に、着地と剣を受けている時にしか姿を見せない攻防が何度も行なわれる。
そんな終わりの見えない戦いも動きを見せる。
横向きに放った怪物の一撃をカインがしゃがみ躱す。
躱した後すぐに技を使い、怪物の後方に移動し背後をとり、怪物の首に目掛けて二度目の跳躍を行う。
その速度は今までよりも早く怪物に到達する。
それは先ほどの戦闘でカインがまだ見せていなかった奥の手である。
(もらった)
自身の速度に対応できていない怪物の首に自分の剣が届くこと確信する。
だが迷いなく放たれたその剣が血を付ける事は無かった。
カインの放った鋭い一閃が空を斬る。
カインの攻撃に対して怪物は自身の身を屈めていた。
それはまるで先ほど行ったカインの回避にそっくりだった。
そこでカインは自身の過ちに気付く。
だが気付いた時にはすでにもう遅かった。
怪物が姿を消す。
次の瞬間、自身の胸に衝撃が貫く。
「ぶご...そんな二速まで」
口から血が零れる
カインは自分の胸を見る
そこには怪物の剣が胸を貫通してる
その剣はカインの背中から刺されたものであり
その剣でカインは地に足が付かずに浮いている
怪物の首を切ろうとしたためカインは必然的に空中に浮いた状態で攻撃行おう必要があった。
正面に視線を向ける。
(ああぁ……ごめんクイナ)
そこにはこちらに手を伸ばして何かを叫んでいるクイナがいた
しかし、すでに意識が朦朧し始めているカインにその声は届かない
クイナに向けて手を伸ばす
「はぁ、……逃げて……ク、イナ」
嫌、嫌、いや
「カイン!……カインっ……カイン……っ……!」
カインが私に気付いたのかこちらに手を向けて口を開いた
だがあまりにも小さいその声は、周りの炎の音によって搔き消された。
次の瞬間、怪物がカインの胸に刺さっている剣を上に振りぬく
カインの胸から肩にかけて裂け、体が地に落ちる
地面に鮮血が流れ出す
微動だにしないカインの体を見て私の中で何かが事切れた
どうして..
どうして、私からすべてを奪うの
ただ、私は普通に生活していただけなのに
誰が悪いの、私が悪いの、それともあの怪物
......
...
ねえ、教えてよ神様
今日はあなたに感謝を捧げる日なんだよ
その報いがこれなの
ねえ、神様……
目の前で地面が擦れる音がした
その音がなった方を見る
そこにはカインを殺した怪物がいつの間にか、私の前に立っていた
驚いて私は、その場で尻もちを着いて倒れてしまった
その怪物の口が開く
「アア ヤハリイイナ コノ技ハ」
「ソシテ 自身ノ 技デコロサレル物ノ カオハ イツモ格ベツダ」
怪物から言葉が発せられた
(こいつ今、人語を話した?)
クイナに僅かに残された気力が動揺をしめす
(どういうこと、そんな外獣聞いたこない。私が知らなかっただけ?)
(.....いや、違う。今目の前にいる存在が特別なんだ)
(カインの言った通りだった。こいつが、この怪物がすべての元凶だ)
クイナは改めて目の前の脅威を自覚する
(あぁ、けどもうどうでもいい。もう疲れた。カインが死んで家族やセナもどうなったかわからない)
(もう...何も考えたくない)
すでに、希望を持てなくなったクイナを怪物が嘗め回すように見た後
不敵な笑みを浮かべた。
「悪クナイ」
「嬉シク オモエ女 オ前ノ最初ハ コノオレニスル」
「オレノ子ヲ 産メルノダ コウエイダロウ」
その発言に私は反応を示すことが出来なかった
しかし怪物はそんな事など関係ないかのように話を続けていく
「オレノ子ノ 次ハ 別ノ ヤツニ回ス」
「安心シロ コロシハシナイ タクサン 産ンデ モラワネバ コマルカラナ」
「水モ 食事モ 食タベサセテ ヤロウ」
「タダシ 体ハ 動 カセナイヨウニ サセテモラウガナ」
そう言うと、こちらに向けて左手を伸ばしてきた
私は、ゆっくりと瞳を閉じる
それが、私に出来る最後の抵抗だった
先ほどの様に、誰かに助けを呼ぶこともしない
そのような気力は、もう私に残ってすらいない
下の方から、暖かいものを感じたけどもうそれすらもどうでもいい
.........
......
...
一体、どれほどの時間がたっただろう
目を閉じているからか時間が長く感じる
いっその事、目を開けたらすべて夢なんじゃないかと思ってしまう
だけどそんな都合のいい話はない
私の肌に伝わる熱は、耳に聞こえてくる音の情報は目を閉じる前と何も変わらない現実を突き付けてくる
しかし、幾ら待っても一向にくるはずの手の感触がこない
恐る恐る、私はゆっくりとでも確実に瞼を上げる
開いた目が映し出した光景は何も変わっていなかった
燃え盛る炎に、私の前に立つ怪物、そしてその怪物からこちらに伸ばされた手
だが、一つだけ違う所があった
こちらに伸ばされた手は私に触れる前で止まっていた
そして、こちらに向けられていた下劣な笑みの顔は、冷たい顔をして正面を向いている
その時、私の後ろで足音がした
その音に反応して後ろを振り返った
そこには、一人の人物がいた
「ログ…レイさん」
私が苦手だと思っていた男性が右手に持っている剣を肩に乗せ、私と怪物から少し離れた場所でこちらを眺めていた
「あー、少し待っててくれ今思い出すから」
そう言うとログレイさんは、顎に手をあて目を閉じ首を傾げながら考えだした
数秒の思案したのち目を開けた
「思い出した、思い出した。あんた村長の所にいた娘さんだろ」
「あの時は、助かった。あのままじゃ野宿するしかなかったからな」
まるで久しぶりに知り合いに会ったかのように軽く言い放った
この状況が当たり前かの様に。この人には、私の後ろの怪物が見えていないのだろうか
以前、家に来た時とは、少し雰囲気が違っていた
「それと......カインか」
私たちの遥か後方に視線を向けて少し暗い顔をしながらカインの名前を呼んだ。
私は驚いた
どうやら私の知らないところで、カインと交流があったらしい
その時、灰が混じった砂埃が私に飛来する
私の頭上を飛び越えてログレイさんの方へ移動し、少し離れた位置に着地した
そこで、ようやくログレイさんは怪物に目を向ける
「はぁ..クソ猿の次は、デカ猿かよ」
「それにしても。剣なんか持って、剣士の猿真似でもするつもりか」
ここで今まで、黙っていた怪物が喋り出す
「オ前 ドレダケ 殺シタ」
その言葉に、怪物にさほど興味を示していなかったログレイさんが一瞬、驚きを表す
「お前、喋れんのかよ」
その問いにを面倒臭いそうに答えた
「どんだけ殺したかって、んなもん一々数えてだれるかよ。クソ猿の数なんて」
「逆に聞くけど、お前今まで殺した人の数覚えてんの?」
怪物がニヤリと笑う
「イイヤ。知ランナ」
怪物の姿が消えた。
カインの技を使った。ログレイさんに攻撃を仕掛けるために
(カインでも、勝てなかったあんな怪物に勝てるわけがない。きっとログレイさんも殺される)
そうなる未来を私は、思案する
だが、現実は違った。
ログレイさんが体を左側に傾ける、そしてそのまま右手に持っていた剣を前へ突き出した
次の瞬間、ログレイさんの顔の横を剣が通り抜ける
反対にログレイさんの突き出した剣は攻撃と同時に姿を見せた怪物の横腹を掠めていた
「ちっ。ぎりぎりで躱されたか」
怪物が後方へ跳躍し、ログレイさんから距離を取った
「腹にぶっ刺すつもりだったんだがな」
剣呑な顔をしながら呟く
「それにしても今の技は...カルタッタだが」
「いいや、少し違うな。足の使い方からして……カインやつか」
ログレイさんがそう断言する
「それ、カインに教えてもらったのか?」
怪物に対してログレイさんがそう質問する
それ対して怪物はたった一言で返す
「ミテ 学ンダ」
「なんだそりゃ」
呆れた様に言った
「はぁ、じゃお前これの名前も知らないのか」
「知ラン。興味 モナイ」
ログレイさんはさらに呆れた顔をしたのち、語り出した。
「それなら教えてやるよ。この技はな、ある部族の使っている歩法をカインが自分に合わせて改良したものだ」
「元々は、デンシル国にある南の山岳に住むヒラミシェル族っていう名前の部族が狩りを行うために使用していた縮地でな」
「その山岳は高低差が激しくて、おまけにそこに住む生き物はほとんどが素早いと来た。そこで狩りを行うためには一瞬で長い距離を詰める必要があったわけだ」
「一定の距離を一足で基準の速度で移動する。それが出来て半人前、連続で使えるようになってようやく一人前として狩りに出られる」
「で、だ。ある時別の部族と戦いになった、初めの方は優勢だったんだが段々と相手の部族の方も対応してくるようになって少しずつ圧されていった」
「このままじゃ負けるってなった時、どうしようか部族全体で考えた。そこである一人が言ったんだ『ならもっと速く動けばよくね』って」
「今までは狩りで連携を取るために速度は合わせていたんだが戦いになるとそうも言ってられなくなる」
「それで誕生したのが、ヒラミシェル族戦闘武踊・カルタッタだ」
「一速の倍で二速、二速のさらに倍で三速。確か歴代最高は五速だったけな」
するとログレイさんはその場でステップを踏み出した
「本来は、槍や小剣だったりの軽い武器を使ってカルタッタをするんだがな」
「直接聞いた訳じゃないから俺の憶測だが、カインの奴はカルタッタを爪先で行うことで魔力を集中させて速度と連続使用を出来るようにしてそこに旧王国剣術を組み合わせした感じだな。その分バランスを取るのが難しくなるが」
「相当努力したんだろうよ。あの年で、あれだけ戦えたんだ大したもんだよカインは。それを簡単に真似するお前もな」
次の瞬間、ログレイさんの姿が消えた
今度は、ログレイさんが怪物相手に距離を詰めていた
私には、その姿を捉えられていないがその動きはカインや怪物と少し似ていると思った
つまり、ログレイさんが先ほど話していたカルタッタ?
をログレイさんも使えるということなのだろう
ログレイさんが怪物の左腕に攻撃をした
それを怪物は難なく剣で受け止める
鈍い金属音が響き渡る
反撃に怪物が剣を振るう
ログレイさんもその剣を受けきった
さっきは一度距離を取ったが今回は両者共にその場に留まった
そのまま、お互いに剣を振るう
ログレイさんの体格は私よりも大きいが怪物には及ばない
それでも体格差など物ともせずに真正面から互角に剣を打ち合っている
まだ余裕があるのだろうか
ログレイさんが語りかけるように話始めた
「このカルタッタの一番厄介な所は、全てにおいて予備動作が同じな点だ」
「例えば、相手が一速に慣れ始めた段階で急に二速を使ったとする」
「するとどうだ、一速から何の前触れもなく倍の速度で迫ってくる敵、そんなの対応が遅れるに決まってるわな」
「一速も二速も体の動き自体に違いはない。せいぜい足に込める魔力の量が違うぐらいだ」
ログレイさんが喋りながらでも激しい剣の応酬は続いていた
すると怪物の方から後ろに下がるとそのままカルタッタを使い再び攻撃仕掛けた
「二速か。カインを殺したんだ当然使えるってか」
怪物は剣を上に掲げていた
それをログレイさんに向けて振り下ろす
だが、ログレイさんは既に自分の剣を上に掲げて守りの態勢になっていた
次の瞬間、ちゃんと剣で守っていたログレイさんの体が後方に吹き飛んだ
そのまま地面を転がりながら、離れた場所で停止した
(え?ログレイさん死んだ)
止まってから地面に寝そべって微動だにしないログレイさんを見てそう思った
だがカインの時ほどの絶望感はわかなかった
元々怪物にいいようにされる結末だったのが想定してなかったログレイさんの介入でそれが少し伸びただけ、結局結末は変わらない
怪物に視線を向ける
不思議なことに怪物は未だに、動かなくなったログレイさんの方をじっと見ていた
その時、笑いが木霊する
「あは、あはははははははははははははは。はぁ、油断した」
「...いや、これは言い訳だな。あいつの、ガンガッツ対人剣が完璧だった」
ログレイさんがゆっくりと起き上がりながら質問する
ログレイさんは無傷だった
「剣の振りに対して防御してきた時に、自身の腕を思い切り引く事によって相手の剣と自分の剣を透かして、がら空きなった体にそのまま攻撃する。対剣士用に作られた剣術だ」
「まったく、こんな野蛮な技どこで覚えた」
「イチバン ハジメニ 襲ッタ村ノ 剣士ガ ツカッテイタ」
「それも見て学んだってか?化け物が」
笑いながら言う
先ほど地面を転がったせいだろう。体に大量の砂が付いていた
それを手で払いながら言葉を交わす
「どうだった俺のカルタッタの説明をちゃんと聞いてたか」
「アレダケ ウルサク 喋ッテイレバ イヤ デモ耳ニハイル」
「オレノ イケンハ カワラン 興味ナイ」
「そっか」
「まあ、お前ほどの才能があればそう思うのも無理ないか」
「見ただけで出来る、その間に過程など存在しない。だから仕組みが何かはどうでも良くなっちまうわな」
今度は、怪物のほうが問いかけた
「ソンナ コト ヨリモ 左手ニ モッテイタ 剣ハ ナンダ?」
「左手なんのことだ?」
ログレイさんが左手の平を見せて何も持っていないとアピールする
実際に、私から見てもログレイさんの左手には何もない
「トボケルナ オレノ 突キヲ フセイダ ハズダ」
それに、対して悪戯っぽい顔をしながら言う
「そうだな、俺に勝ったら教えてやるよ」
その言葉を最後にお互い言葉を発っせずに無言になる
炎によって発生した突風が両者の間を吹き抜ける
その少しの沈黙を私、あるいは怪物とって驚愕の問いによって破られた
「なあ、デカ猿。お前、名はあるか」
その声色は純粋で、まるでこれから友になる者に名を訪ねるかの様だった
流石の怪物もすぐには言葉を返さない
「いや、ほら名前だよ名前。わかんない」
続けざまにに言う
そこでようやく怪物も喋りだした
「名ハ ナイ」
「オレ以外ニ 名ナド 呼ブ 頭ハ ナイノデナ」
「ダガ ソウダナ コレカラ コノ世界ヲ 統ベル ノダ 名ガ ナケレバ フベン トイウモノカ」
怪物が嗤う
「エニマス コレカラ オレハ 真王エニマス ト名乗ル」
両手を広げて高らかに宣言する
「オレガ コノ世界ヲ 手ニシタ 暁ニハ 人間ヲ家畜トシテ 飼ッテヤロウ」
「オスハ 餌トシテ メス ニハ ワレラノ 子ヲ ウマセ続ケサセヨウ」
そんな最悪の未来を想起させる
この怪物なら本当にやって見せる恐怖がある
「エニマス。いい名だ」
あの言葉を聞いた後の第一声がそれだった
「なあ、エニマス。お前、剣は好きか?」
「コレハ タダノ 道具ニ スギン コノオレガ 頂点ニ タツタメノナ」
ログレイさんが一瞬だけ悲しそうな顔をする
しかしすぐに元の顔に戻った
「そうか。けど勿体無いぞお前、剣を振るうんだ、どうせなら楽しまねーと」
ログレイさんが剣を構え直す
「来いよ」
「お前に、頂点の剣を見せてやる」
男に向かってエニマスは駆け出した。
なぜだ、なぜ。なぜだ?
なぜ、この男を殺せない
速さも力もおれの方が上のはずそれなのになぜ押し切れない
すでに、数えるのもやめるほどの剣戟をおこなっている
おれの姿を見るなり逃げ出した男の技を出した。全て捌かれた
森に迷い込んできた老人が放った一閃を出そうとした。振る前に止めらる
弓使いの女を最後まで守っていた剣士の駆け引きを仕掛けた。一つも引っ掛からない
子を沢山産んで最後には殺してくれと懇願してきた女剣士の高速の突きを放つ。当たる事無く避けられた
高い壁に覆われた襲った人間の集落の中で一番大きい場所を守っていた大漢が使った剣術を押し付けた。正面から受け止められた
あの技も、この技も、今まで見てきた全ての剣が防がれる
なぜ。この男の使っている剣がわからない
これまでは見ただけで全ての剣が扱えた
なのにこの男の剣だけは真似できない
同じ動きをすることは出来る
だがそれだけだ
同じ動きをするだけではこの男の剣には成らない
根本的に何か別の今まで見てきた剣とは違う違和感
それが解らない
なぜだ?おれがこの状況を嬉しいと思っているのは
怒りや焦りなど微塵も感じない
ただ、ただまだこの男の剣を見ていたい
いつぶりだろう。こんな想いを抱くのは
...ああ、あの時だ、この剣を手にした時
長い間、退屈な時間を過ごしたせいで
今まで忘れていた
おれはこの剣を知っている
まだ剣も人の言葉も知らないころ
それはおれが群れの長になったばかりで
しかし、着実に群れの数を増やしていた
そんな時、森の縄張りに四人の鎧を着た人間がやって来た
その時のおれは、餌が迷い込んだぐらいの感覚でその四人を襲った
その結果、数百いた数の群れが半分以上殺された
森の中という、圧倒的な有利な場所で在りながら
身代りを使ってようやく殺せた一番最後まで戦っていた人間の死体の前で立ち尽くす
胸にはその時つけられた大きな傷から大量の血が流れる
そんな事など気にも留めずおれは、その人間が使っていた剣を手に取る
群れの大半が死んだ、すぐに処置した方がいい傷を負った。それがどうした今は余韻に浸らせてくれ
この時おれはこの剣に焦がされた
ああ、そうだ思い出した
ようやく見つけた、この剣だ
未だに残る胸の傷が疼く
多数の剣士と戦ってきた
だが、あの人間と同じ剣を使う者は現れなかった
もっとだ、もっと魅せてくれ
お前の剣を
この状況を唯一外から見ていたクイナは思った
(何なのこいつら)
(何で、そんな笑顔なの)
(村が燃やさせて、好きな人が殺されて、私はこんな思いをしてるのに)
(それなのに。これじゃあ、まるで私が)
燃え盛る炎を前にして楽しそうに剣を振るう二つの姿はまるで
そうまるで宴で踊っているようだった
(私が変みたいじゃない)
「キキ 楽シイ」
自然と口角が吊り上がる
「アア 楽シイナ」
今目の前で戦っている男も応じる
「ああ、そうだろう」
一匹と一人の修羅が笑う
エニマスのギアが更に一段階上がる。
攻撃を仕掛けるため、再びカルタッタを行う。しかしそのカルタッタは今までとは比較になら無い速度に達していた。
それは悔しくも、使い手であるカインですら到達していない領域であった。
足に力と魔力を込められる。
右手に構えた剣を両手で握りカルタッタの速さも乗せて下から剣を振り上げる
完璧に捉えられたその斬撃は届く寸前で挟まれた剣に防がれた
「はっ、ここに来て三速かよ」
最早、認識すら困難に達した速度の攻撃をギリギリで弾いた。
(勝った)
男の姿が見てエニマスは勝利を確信する。
(先の攻撃を無理に防いだせいで態勢を完全に崩している)
(右手に持った剣は、離してはいないが完全に外側に流れて、足に至っては片足しか地面についていない)
(この剣をこのまま振り下ろせば、その態勢なら逃げれまい)
(例え、剣による防御が間に合ったとしもこれまでの剣戟で本気で切りに行けば押し切れる事はわかっている)
(今までは、反撃を恐れて全力を出していなかったがその心配はもうない)
(ああ、惜しいな。結局この男の剣は解らなかった)
(もっと、見ていたいがこの男はここで殺しておかなければ必ず邪魔になる)
(きっとこの男以外に他の使い手はいるはずだ、今度はそいつから学べばいい)
(去らばだ、おれの記憶蘇えらせ名を考えさせた男、お前のことも忘れるまでは忘れない)
剣を振り下ろす
(なっ―)
振り下ろされた剣に対して男が取った行動に戸惑う。
それは避けるでも逃げるでもなく、こちらに向かってきた
(どういうことだ。なぜ近づいてくる)
(ガン・・ガッツたい人剣、を恐れた?もしくは先に斬撃を当てるつもりか)
(無駄だ、おれのほうがはやい)
命を奪うために放たれた剣は確実に男に下された。
だが、その剣が斬ったのは男でも男が手にしている剣ですら無かった。
男の僅か左に逸れて大地を割っていた。
地面に突き刺さった剣のガードの部分に片足を掛けそのまま跳躍する。
その勢いのままエニマスの首を切断した。
首が血を振り蒔きまがら飛んでいく。その後地面に落ちたあと転がっていった。
それは、本当に一瞬の出来事だった
決して目を離した訳じゃない
それでも何が起こったかわからなった
怪物によって振り下ろされた剣は今度こそログレイさんを殺すと思った
けど、そうはならなかった
あまりにも自然で、それが当たり前かの様にログレイさんに当たる事無く怪物の剣が逸れた様に見えた
そう見えただけで実際にどうかなんて私には判断できないけど、ログレイさんは迷うことなく怪物の命を絶った
怪物の頭がこちらに向かって転がってくる
私に顔を見せるよう停止した
私の目と怪物の緋い目が合致する
怪物の顔は笑っている
それは剣を振り下ろす前と同じ表情だった
ああ、そうか。こいつも何が起こったかわからなったんだ
ただ、自身の勝ちを確信してそのまま死んだ
今この場所で全てを把握しているのはきっとログレイさんだけだ
「まさか、こんな形であんたを弔うことになるとわな..副団長」
顔を上げる。そこにはログレイさんがいつの間にか立っていた
ただ、その視線は私に向いていなく
死してなお、殺される前と同じ態勢の怪物の死体に向いていた
その視線が今度は、私に向く
「おう、大丈夫だったか...えーと…悪い名前まで覚えだせないは」
笑顔を貼り付けたまま私にそう聞いてくる
「どうして」
果たしてその言葉は何について言ったのか、それはクイナ自身にも分かっていなかった。
どうして勝てたのか?あなたは何者なのか?どうして助けたのか?なんでそんなに笑顔なのか?
今日の出来事は既にクイナの許容を超えていた、それら色んなことが合わさってこぼれた言葉がそれである。
「ん?さっきの技のことか」
ログレイさんが説明を始める
「あれはな、上段の振り下ろしに対してのカウンター技でな」
「振り下ろした相手の剣に自身の剣先が接触した時、本当にほんの一瞬だけ押し返す力を加える」
「そうする事によって相手はほぼ無意識に近いレベルで更に剣に力を込める」
「あとは返す力を無くして、薙がすために横方向に力を流せば相手は制御が効かずに剣が地面にぶっ刺さるって訳だ」
「これが、ゼガリアル流剣術 第五異剣・上殺死だ」
「まぁ、口で言うのは簡単なんだが、これが滅茶苦茶難しくてな。実さ――」
ログレイさんがまだ喋り続けているけどその声は私の耳には既に届いていなかった
その言葉を、ゼガリアル流剣術と聞いた瞬間、私はある日の記憶を思い出す
それは何気ない幸せの日常、きっともう二度と味わうことのない日々
「ねぇ、ルーサー様って実際にすごいの?」
剣の鍛練をしてるカインに向かって私は、質問した
その質問にカインは鍛練を止めて少し困った苦笑いをしながら答えた
「そうだね。僕たちの年齢だともう物語とかじゃないと聞かないから。特に剣を知らないクイナにはもっと縁の無いことだしそう思うのも無理ないかもね」
「実際に、僕も彼の人が剣を振っている所を見たことがないし」
「けどね、彼の作った剣術がその全てを物語っている」
真剣な表情でそう告げるカイン
「ゼガリアル流剣術。彼の名を冠したその剣術は王国騎士団の第一騎士団でのみ教わることができる」
「実を言うと、数年前に一度たまたま入団試験があったんだ。僕も受けたんだけど結果はご覧の通り」
「その時、監督をしていたのが女性の人で、その人と少しだけ手合わせして負けたんだけど...綺麗だった」
「僕が今まで見てきた剣術の中で一番美しいと思った」
そう言うカインの言葉に少し嫉妬したのを覚えている
顔も名前も知らないそのひとに
「今のカインなら勝てる?」
「どうだろ。僕も昔より強くなってるからね」
「まぁけど、多分負けると思うよ」
「てな感じで失敗するとこっちが死んじま『どうして』」
わかっている。これが見当違いの八つ当たりだってことが、それでもこの理不尽を簡単に受け入れられるほど私は強くない
「どうして。もっと早く助けてくれなったの」
一度漏れだした言葉は止まらない
「もっと早く来てくれたカインは死なずにすんだかもしれない」
「カインに聞きました。ゼガリアル流剣術は騎士団でしか教えられないって」
「あなた騎士団の人でしょ。そんなにすごい人なら最初からあなたを頼ってた」
「大体、初めから知ってたんじゃないんですか。外獣が来ること、じゃないとあなたがここにいる理由の説明が..っつ‼」
私の目の前にログレイさんの剣が突き刺さった
その剣の刀身が鏡のように私の顔を映している
その顔はあまりにも酷い顔をしていた
ログレイさんの顔を見る
先ほどの笑っていた顔はなくただ私を見つめている
殺されると思った
別にそれでも構わないとも、だって私にはもう何も残されていない
「あーまぁ、何だ俺が言うのもあれだけど。今日あったことは災害かなんかにあったもんだと思った方がいい」
そんなことを言うログレイさんに私はさらに怒りを覚える
「ふざけないで!あれが豪雨やアルテリアと一緒だっていうの」
「そうだ」
冷静にそう肯定した
「確かに今日起こった事は自然の災害みたいに理不尽で私たちを蹂躙した」
「けど、明確に違う所がある。それは悪意だ」
「あいつらはあの怪物は私たちに、人間に悪意をもって行動していた」
「それでも一緒だって言うの」
「ああ、そうだ」
「お前の言う通りあいつらは悪意を以てこの村を襲った。けどそれはあいつらにとって当たり前なんだ」
「人間を殺すのも食べる事も、あいつらには普通で自然にそれを行う」
「決して内に入らず交わる事のない、だから外獣なんだ」
ログレイさんが優しくも強い眼差しを私にむける
「だけど、お前は生き延びた。この俺ですら死にかけた今日をだ」
「もしくは生き延びさせてもらったのかも知れないが」
「少なくともお前のために戦った男を俺は一人知っている」
お母さんとカインの顔が思い浮かぶ
今、私が怒りをぶつけているこの人にすら私は助けられている
「だったらお前が今することは俺に何か言うことじゃ無くて、そいつらの分まで生きることなんじゃないか」
「残酷だが。もし、それが無理ならこの場所に残って燃えればいい」
「安心しろよ。ちゃんと生きてたら案外良いことなんてすぐやってくるもんさ、経験上だがな」
ログレイさんが顔を上げ正面をむいた
その顔は一瞬だけ笑ったように見えた
「そうだ。あんたたちに悪いと思ってることがあったんだ」
「実を言うと、一つだけ嘘をついていることがある」
「別にこれを聞いたからって何か変わるわけでもないし、お前とこの先関わる事もないからすぐに忘れてもらって構わないが」
「俺――」
それから私はあの人が歩いてきた南側に向かった
別れ際に逃げるなら自分の来た方に行けと言われ
そう言うと怪物の頭を持ってそのまま燃え盛る村の奥に進んでいった
今は村の南大通りを走っている。あと少しで村を出る事ができる
既に燃えてテットキースか村の人のか判らないが地面を見れば大量の血の跡が残されている
村を出る。だけどまだ足は止めない、正確には止めるタイミングがわからない
ただ走り続けた、走って、走って、走って、村の炎の灯りがかなり小さくなった所で私の足が限界を迎える
両足が絡まり転がり倒れる
もう立つことも出来ない足で膝をついて体を起こす
あれだけ暑かった炎の熱も今はもう届かない、あるのはただ冷たい風が吹くのみ
その夜風が私の体と意識を現実にさましていく
「しねばよかった...私もあの中で死ねばよったんだ」
両腕で自身の腕を抱きしめながら震える。
生き延びてどうするの
村も、家も、家族も、友達も、好きな人もない
「もう無理だよ....」
「....クイナちゃん」
私の名前を呼ぶ声がする
その声は夕方頃まで聞いていたはずなのにどこかひどく懐かしく思えた
私の名前を呼んだ方向に顔を向ける
声の主と目が合う、そしてその名前を唱えた
「セナ」
そこには泣きそうな顔の、いやもうすでに泣いているセナとその後ろには松明を持ったセナの両親が立っていた
「クイナちゃーん」
泣きなが私に向かって走ってくる。そのまま両腕で私に抱き着いた
「よ゛か゛っだ。いぎでて」
セナに続いてセナの両親もゆっくりとこちらに近づいてきた
「セナ...無事だったの」
「う゛ん゛、グイナじゃんごそぶじでよか゛っだ」
「でも、どうやって」
セナと両親を見てみる
多少の擦り傷や汚れはあるがほとんど無傷と言っていいレベルだった
「それはね」
セナのお母さんから説明がはいる
「うちの人が宴で酔っちゃてセナと私でこの人を家まで届けてたの」
隣にいるセナのお父さんが恥ずかしそうな顔をする
そうかだからセナを中央広場で見かけなかったんだ
「家の中で少し休憩して、この子がクイナちゃんが中央広場で待ってるからって言って外に戻ろうとした時に…外獣が家の中に襲ってきたの」
「何とか全員で家を出ることは出来たんだけど、その後に囲まれちゃってもう駄目ってなった時に」
「剣を持った男の人が現れて周りいたあの獣を全部切っちゃたの」
まだ少し泣いているけど回復したセナがお母さんからの説明を奪った
「本当にすごかったんだよ、一瞬で全て切ったあとに南のほうは安全だからそっちに逃げろって言ってすぐ居なくなっちゃったの、何してるかわからなったけどかっこよかったなー」
あの人だ。あの人がセナを助けてくれたんだ
ついさっき聞いた言葉を思い出す。
(安心しろよ。ちゃんと生きてたら案外良いことなんてすぐやってくるもんさ、経験上だがな)
「で、村を出たら他の人たちもいてその人たちと一緒に避難してたの。そしたら遠くの方からクイナちゃんぽい声がしたから走って‥きゃあ、どうしたのクイナちゃん?」
私はセナの体を抱きしめ返した
セナの温度が私に染み渡る
それだけで私を満たしていく、心を暖かくしてくれる
「私、わたし...い゛ぎててよかった」
今日もう何度目かわからない涙をながす
「うん、うん。そうだねくいなち゛ゃん゛」
そうして私たちは二人で抱きしめあいながら泣きあった
しばらくして落ち着いたあと他の村の人がいる場所に合流した
そこには、50人以上の人たちがいて顔を見るなり私のことを心配して声をかけに来てくれた
そこでみんなと話していると、遠くの方から音が聞こえてきた
初めは、みんな警戒したけど
ある一人がこの音は馬の駆ける音だと言うとその警戒も薄まった
王都のある方角から十数個の灯りが見えて近づいてくる
その灯りが段階大きくなって音もよりはっきり聞こえるようになってきた
そして私たち集団の前で停止した
「王国騎士団、第一騎士団ここに到着した」
その口上を聞いて私たちは本当に助かったんだと自覚する
「着くのが遅くなってしまって申し訳ない」
馬から降りて私たちにそう謝罪してきた
「村の者はここにいる者で全てか」
「いえ、まだ村に大勢の人がいるはずです」
誰かが叫び声でそう言う
「そうか。ではカルバン、ハルテリス、ウッド、ボルカーは私と共にここに残り、傷の手当てと護衛を行う」
「他の者は村の中に入り鎮圧にかかれ」
「いいか、第一優先は村民の命だ。助けれそうならば全て助けろ」
「「「「はっ」」」」
「私も第五騎士団が合流したのち突入する」
「では、行け」
十数人の人たちが馬に乗って村の方に駆けていく
もしかした私の家族も助かるかもしれない
そんな希望すら今は抱けるようになっていた。
「ここにいる者は安心してもらっていい」
「第一騎士団副団長カーラ・エスタの名に懸けてここいる全ての命は私が守る」
「怪我人はこちらで預かろう重症な人から先に手当てする」
「比較的、怪我が少ない者はすまないが話しを聞かせてほしい」
「何分、今回の件に関しては情報が少なすぎるので村で何が起こったか知りたい」
すると集団の中から一つ声が上がる
「おれは宴から家に帰る途中であの変な奴に襲われて逃げてる最中に知らねえ男に助けられたんだ」
次に一人の女性が声を発した
「わ、わたしもその、宴から帰ってるところを襲われて。わたしの場合は囲まれちゃて逃げられない状態で襲い掛かってきたんだけど、なにか、その上手く説明できないのだけど鞭みたいな物で全部倒してたの」
その説明に先ほどの男性が反応する
「ああ、おれの見たやつは普通の剣使ってたぞ」
「ひぃ、だからうまく言えないのよ。そもそもあの時はわたしも慌ててよく覚えてないし、けど男性の人だったと思うわ」
「私は家の中で襲われたよ。寝ようと思って布団にいたんだけどそしたら上にあの獣が乗っかってきて抵抗してたんだけど気付いたらいつの間にか大人しくなってて、見てみるとそいつの首に小さい剣が刺さっててその剣を見て初めてそこに人が居ることに気付いたの、物音一つしなくて全くわからなったよ。あ、ちなみに男の人だったよ」
「俺は気付いたら目の前にいた奴らが全員死んでて誰がやったのかは姿が見えなかった」
「わたしは、」「俺は、」
他の人たちも次々に自分の身に起こったことを言っていった
その話で共通しているのはある男の人に助けられた事とその人から南側に逃げるように促す言葉だった
ただ同じ人に助けられたとは思えないほどに状況が違った
まるでそれぞれ別の武器を持った複数人が村の人たちを助けて回っている様だった
それに凄く私は既視感を覚える
それは昔よく聞いていて私たちが当たり前のように受け入れたことだ
でもそれを否定する
だって有り得ないことだから
年齢が違う、見た目が違う、何より私はあの人の名前を知っている
それでも私の口から零れてしまう
だってそのお話が余りにも似ているから
「ちょう..けん」
私の誰にも聞こえないと思っていた呟きにカーラさんが反応した
「あなたは?」
カーラさんが私の方に向いて聞いてきた
「わた、しは..私はライザル村の村長の孫娘のクイナです」
「村長のお孫さんでしたか、クイナさんはどうやってここまで来たのか教えてもらえないだろうか」
私は村で起こったことを始めから話した
「今日は村の中央広場で暁信祭の宴を行っていて私はその場所に残っていたんです」
「そしたら、いつの間にかあのテットキースが中央広場を完全に囲んでて、私は何とか逃げ出すことができたんですけど、その後にまた襲われちゃって」
「うん、他にその中央広場から来たものはいるか」
誰からも声が上がらないつまり中央広場からここにこれたのは私だけということになる
「すまない、続けてくれ」
「はい。また襲われたんですけどカインに助けてもらって。あ、カインって言うのは村の護衛をしてくれていた私と同じ年の青年なんですけど、その場はカインが来てくれたんですけど...」
あの怪物の顔を思い出す。未だに、私の頭の中で恐怖としてこびりついている
「普通のテットキースはカインが殺したんですけど。けど、あいつがあの怪物がカインを、カインを」
「落ち着いて、クイナさん。大丈夫です、ゆっくりでいいので教えて下さい」
カーラさんが近づいて私の手を握ってくれた。
「クイナちゃん、だいじょうぶ」
近くにいたセナも心配している
そこで私は落ち着きを取り戻す
「大丈夫です、話します。セナもありがとう」
「テットキースの二倍以上の大きさがあって、そいつは剣を持ってて私たちの前に現れたんです」
「カインが言うにはそいつが元凶だって言ってました。私もそう思います」
「それで、そいつを殺すためにカインが戦ったんですけど、負けて逆に殺されてしまいました」
「噓、カイン君、死んじゃったの」
それを聞いてセナが衝撃を受けている。カインを知っている他の人も悲しそうな顔をしている。
「その怪物が私のほうにも来たんです。そしたらそいつが喋りかけてきて」
「喋りかけてきた?それは人語ということか」
「はい。あの外獣って喋れるんですか」
「いや普通は有り得ない。王都にならもしかしたら記録書があるかも知れないが、少なくとも私は聞いたことがない」
「そうですか。それで私のことも襲おうとしてきたんですけど..そこにログレイさんがやって来て」
「ログレイさん?」
セナが首を傾げる。どうやらあの人のことを知らないみたいだ
逆に数人の人は思い出したかのような納得した顔をしている
恐らく名前を聞いてようやく助けてくれた人物が分かったのだろう
「で、その怪物をそのログレイさんと言う人物が殺したと」
驚いた顔でカーラさんを見る
「でないと、あなたがここまでたどり着いた理由が説明できない」
「出来れば、その人物の特徴を教えてほしい」
「えーと、髪の毛は茶髪で身長は多分、180くらいだと思います」
「あと、右腕に腕輪をしていました」
それはよく覚えている。古びた見た目の中で唯一金色に輝いてた
それだけはまるで王様が身に付けていそうな物だった
そして最後にあの人が教えてくれたことをカーラさんに伝える
もしかしたら、あの人のことを知っているかもしれない
また会えるかもしれない、もし会えたなら今度は感謝を伝えたい
あの時あなたに当たってしまったことを謝りたい
そんな希望を込めて
「俺、実はログレイって名前じゃないんだ」
「ローツ。ローツ・グレイス、それが俺の本当の名前だ」
その名前を口にした瞬間、寒気を覚える
全身から冷や汗が溢れ出す
まるで、まだあの村の中にいるかのようだった
いやそれ以上の死の予感を感じさせる
それを発しているのは目の前にいるカーラさんだ
思わず、目を閉じる
鉄の音がする
私の横に疾風が巻き起こる
「ギッギギーー」
目を開けて振り返って村の方を見る
そこには一匹のテットキースと一刀で切断しているカーラさんの姿が見えた
剣を振り抜くカーラさんと血潮が飛び散るのを見て
安堵からか、もしくは今日色んな事を見たからだろうか
思わず思ったことを正直に口に出す
「きれい…」
今すぐ目の前の燃え盛る炎の中に飛び込みたい思いを押し込めながら、じっと正面を見つめる
「ようやく見つけたぞ...」
「待っていろ、ローツ」
「必ずお前を」