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餞編

『この世界で一番強いのは誰か?』

と、聞かれたら答えることができる人間が何人いるだろうか。

強さと言っても色々ある。もし仮にこの世で一番の力持ちの物が居たとする

果たしてその物は世界で一番強いのだろうか?

きっとそんなことは最後の一人になるまで戦って見ないと誰にも解らないだろう。


なら、『世界で一番強い剣士は誰か?』と聞かれたら

それでも答えを出す事は難しい。


だが、この世界にはその答えがある。


かつて世界見て廻り

この世界のあらゆる剣術を学びそして修めたとされる男がいる


旅が終わり祖国へ帰郷してからは、その剣が認められ

ラーファーン王国騎士団総団長に任命される


当時、ラーファーン王国では各地で戦いが勃発していたが総団長の任命の知らせが知れ広がるとその戦いも下火になっていった。


また旅の道中編み出したとされる【ゼガリアル流剣術】が新たな王国剣術になり国の剣術を一新させ

総団長に就任してから30年以上無敗を守り続けている。


その彼の技量と伝説を以てして【ゼガリアル流剣術】は"無敵の剣術"と評された。


そんな真実とは思えない話を、現実に墜とした男の名は『ゼガリアル・ルーサー』


親が子供に読み聞かせる寝物語の主人公であり、吟遊詩人たちが彼を題材にして歌を奏でられる者であり

民が、賊が、傭兵が、他国の騎士や王までもが

「ゼガリアル・ルーサーがいるのなら王国には手を出すな」と

羨望と畏怖のその両方を受けて『頂剣(ちょうけん)/ルーサー』と呼ばれ今この時代に存在する"生ける英雄"


その男が死んだ


では何が彼を殺したのか?


彼の死を見たものは皆思った

「ああ、あなたを殺すのが天命であったのならどれほどよかったか」

死体を見れば何に殺されたのかは明らかだった。

仰向けの状態で倒れており、左肩から右側の下にかけて綺麗に一直線に斜めに切られていた。


そう、剣の頂きに立った男はその剣によって殺された。



◇◇◇



ラーファーン王国に聳え立つ王城とすぐ真横にある王国騎士団訓練所を繋ぐ大廊下

その廊下の中央あたりに大きな扉があった。


その扉は国王がゼガリアル・ルーサーが総団長になった際に用意した部屋に続いているとされているものだった。


その扉は普段硬く閉ざされていてゼガリアル・ルーサー以外の人間が入ることは固く禁じられていた。

その部屋に今は数人の人間が待機していた。


そしてまた一人その場所に踏み入ろうとする者がいた。


「よし、行こう」


そう言うと、扉に手をあてゆっくりと開けた。

しかし彼女のその手は震えていた。


それはある種の恐怖であった。

彼女はこの扉の先で起こったことが信じられずにいる

伝令を聞きいたあと衝撃のあまり働かなくなった頭でも最速で準備して扉の前まで到着していた。

だが、扉に到着してからその次の一歩が動かなかった、結果先ほど扉を開けるまで5分以上にわたって微動だに出来ずにいた。


扉の奥は、下に続く階段があり、その先は真っ暗闇であった。

階段をすべて降りた次は真っ直ぐ続く通路になっていて、その奥は僅かに光っていた。

その光に向かって再び歩き出す。


(あの扉の先はこの様な形になっていたのか)


当然だが、彼女はこの部屋に初めて入る。

いや最早部屋と呼んでいいのかわからない作りをしているがそれはこの際些細なことであろう。


そんなことを考えながら進んで行くと少しずつ光が大きくなり始めた。

今までが暗闇なのも相まって光の先がどうなっているのか見えないが彼女は迷う事無くその光を進んだ。


目が光に慣れるまで、しばし立ち止まる

そうして少しずつ認識できるようになっていった。

完全に慣れた目でその光景を目にした彼女は驚いた。


そこには騎士団の訓練場と見間違えるほどの広さの空間が広がっている。

壁は石壁になっているがそこには綺麗模様が空間すべての壁に描かれていた。

地面は壁とは違って所々小さい穴が開いていたりする、まるで何かを突き刺していたかの様だった。


驚いた彼女だが、何事もなかったかのように空間の中央にいる人だかりに目を向けた。


丁度その時その集団の中の一人がこちらに気づいたようだった




「おう、副団長遅い到着じゃねぇか」

「お前が一番最初に着いてると思ってたんだがな」


そうこちらに声を掛けたのは第三騎士団団長だった。


私はその声が発せられた場所に急いで移動した。


「第一騎士団副団長"カーラ・エスタ"、ここに到着しました」


その言葉と共に一礼をした。


「相変わらずお堅いね」


「おい」


第五騎士団長が茶々を入れてきたがそれを第二騎士団長が咎めた。


当たり前である、今ここには第二から第五までの団長が揃っている

さらに国の高官たちもここには集まっている

その中で、私の立場は最も低い


だが、それでも早くこの場で確かめねばならないことがある。


「それで、伝令のお話は本当なのでしょうか」


私はそんな事があって欲しくないと願いつつ恐れながら聞いた

その問いに第二団長は何も言葉を発せず奥に視線だけ向けた


私は数人の横を通りながらその視線の先に向かった

そこには両手を胸の前に綺麗に重ねられて地面に仰向けで倒れ伏せられている老人がいた。

その両手の下には古く色褪せたリングがあった。


「師匠」


ああ見てしまった

知ってしまった

否定していたかった嘘であって欲しかった


だが、認識してしまった以上これは現実なのだ


私の師は。

ゼガリアル・ルーサーは死んだのだと



「それで何故、頂剣殿は殺されたのだね」


一人の大臣がもっともな理由をこの場に尋ねた。


その問いに第二団長が答える。


「さぁ、殺された理由は流石に解りかねますがどうやって殺されたかは予想は付きます」


「それは?」


「剣です、それも不意打ちなどではなく真正面からによる剣撃です」


戦いに関わることの少ない内政官などからどよめきが起きる。


私もその見立てで正しいと思っている、だがしかし


「俺も同じ意見だな、槍でこんな切り後はできね」

「何よりも気味悪いのは死体が綺麗すぎる事だ」

「他の槍ならわからねぇが、少なくとも内の槍術じゃねぇな...だが」


第三団長が最後の言葉を言おうとした時


「あり得ません」

私の声がこの空間に響き渡る


私は第三団長の言葉を遮ってでも発言を抑えられずにはいられなかった。


「師匠が...師匠が正面からの、それも剣士相手の戦いに負けるなんて"あり得ません"」


私は自分の立場など忘れて普段なら絶対に言わないであろう言葉を語気を荒げて発言した。


私の言葉を皮切りに沈黙が流れた

普段の私からは発せられない言葉に驚いたせいだろうか

それとも、みなも思っているのだろうか"あり得ないと"

そう思わせるだけの事実がゼガリアル・ルーサーにはあるのだ


その沈黙を終わらせる声が私も通ってきた入口の方から聞こえた


「待たせてすまない、皆のもの」


その言葉が発せられた瞬間、ここにいるすべての者が一斉に膝をつけた。

この国で最も尊敬される存在が、今まさにその場に現れたからだ。

ラーファーン王国の現国王、リオナルド・ラーファーン、その人である。

彼の後ろには、第一騎士団団長と数人の従者たちが、静かに従っていた。


「うむ、楽にしてよい」


その言葉と共に立ち上がり全員が道を開ける形で少し移動した。

その道の中央を王は進んでいく。

第一騎士団長は私たちの方に合流し従者の者たちは少し離れた所で待機していた。


そして、遺体の前に到着した王は、そのまま数秒の間、眺め続けた。

すると今度は、その場でしゃがみ込む。

まるで道に落とした物をじっくりと探すみたいに近づいた。

そのまま再び、数秒の時が流れた。


その光景を、場にいるすべての者が息を呑んで、物音一つ立てずに見守り続けた。

緊迫の空気漂うなかようやく王が言葉をつむいだ。

だがその声はあまりにも人に聞こえない程小さな独り言だった。


「そうか往ったのだな、ゼル」


その瞬間、今まで少し寂しそうな顔をしていたが一瞬どこか納得した顔をした。

その顔は本当に一瞬の変化であった、たった一人を除いてこの場にいるすべての者がそれに気づかないほどに

そしていつもの王の顔を取り戻す、立ち上がり全員の方に向き直った。


「これより王命を伝える」

全員に緊張が走る


「頂剣ゼガリアル・ルーサーは殺された...だがこの事は公表しない」

「ゼガリアル・ルーサーは寿命ののち急死したこととする、またこの事は時期を見て私が判断し公表する」

「それまでの間、ここにいる者たち以外には悟らせないように心掛けよ」

「また、空席となった総団長には第一騎士団団長エスダルオ・ラマスを任命する」

「第一騎士団副団長カーラ・エスタ、そなたを次の第一騎士団団長に就かせる心して努めよ」

「新副団長は二人で話し合って決めるがよい」


「「は」」

私と団長が同時に答える


「こちらも私が時期を見て正式な任命式を行う、それまでは普段どうり生活せよ」


「そして」

リオナルド王が私に視線を向けた


「ゼガリアル・ルーサーを殺した者と国宝の捜索をカーラ・エスタそなたに一任する」

「他に知られてはいけないため秘密裏に動いてもらうが構わぬか」


「問題ありません」

その問いに私は迷いなく一礼して答える

平然を装うているが私の胸の内は歓喜していた


「何か情報を掴んだ者は、彼女に速やかに伝えるように」

「他に意見のあるものはいるか」


「「「「「王の意向のままに」」」」」

今日一番の声が響き渡る


「では、今宵はここまでとする」

「細かい話はまた後日場所をもうける」


そう言うと入口に向けて歩き始めた。

その後ろには、大臣たちが静かに従いながら続いていった。


私は最後に出るため待機する

その間、もう一度師匠の方を見た

従者たちが遺体を運びだすために周りで準備をしている


その姿を目に焼き付けるこの気持ちを忘れないためにそうして私も出口に向かって歩み始めた


(待っていてください、師匠――貴方の敵は、必ず私が討ちます)


その想いを胸に彼女は前を向く、誰か解らぬ師の復讐相手にこの剣を突き立てんがため

そんな彼女の強く燃える心の内に数滴の疑問が漂っていた。




師匠、貴方どうして負けたのですか


一体、誰に負けたのですか


どうして


「そのような、穏やかな顔をしていらっしゃるのですか」





こうして今日、この日ひとりの英雄の伝説が王都にて幕を下ろした

そしてもう一人、この日王都から姿を消した者がいた。






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