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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
都会編

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9/23

再会のとき

 夏休みが終わる一週間前、直は夏期講習のために学校にいた。数学の特別授業が終わった後、友人と食堂で昼食をとる予定だったのだ。

「山井ー」

「生地」

 行方不明になっていた生地が戻ってきていた。彼は少し疲れた様子をしていたが、何かと元気そうだった。

「先公に捕まったわ。こってり絞られた」

「あんだけ騒ぎになれば、そうだろうなあ」

 直は笑いながらも心の中で安堵していた。生地は直にヘッドロックを決めながら、拳で直の頭をグリグリとした。

「痛い痛い! 迷惑被ったんだから、今日は驕ってもらうからな。冷やしたぬきうどん」

「はいはい、そう言われると思って用意してますよ」

「そしたらフライドポテトも追加で」

「調子に乗るな」

 そして直は、生地からもう一発グリグリを喰らう。痛がる直をよそに生地は、何かに気づいたのか手を止めると不思議そうに直を見ていた。生地は直の視線に気づくと、何でもないと言って彼を解放する。直は食券を生地から奪い取ると、念願の冷やしたぬきうどんとフライドポテトを受け取る。そして、いつもの指定席で生地と一緒に食べるのであった。

「生地はカツカレーか」

「んだよ。毎週金曜日はカレーって決まってるの」

「自衛隊か」

 軽口をお互いにたたきながらも直は冷やしたぬきうどんに、生地はカツカレーに喰らいついていた。やがて十分もしないうちに二人とも完食してしまう。直は生地からポテトを取られそうになるも何とか死守していた。

「そういえば山井って、冷やしたぬきうどん好きだったっけ?」

「いや? 好きってよりかは、美味くてコスパ良いに尽きるかな。まあポテトと合わせても五百五十円だし」

 生地はふーん。とそっけなく答える。

「でも来年食えるかはわからないぞ」

「あっ、そうだっけ……」

 直たちの通う高校は少しボロい校舎であるが、耐震性が問題視されていた。都会ではあるものの少子化などの煽りを受けて、来年度から近隣の高校と統合されてしまうのだった。生地の話を聞いて、もうすぐ美味しい学食のメニューも食べられなくなるかもしれないという事実に少し寂しさを覚えていた。


その時だった。

スマホの通知が鳴り響いた。

直は驚きながらも、そのプッシュ通知を開く。

「速報です。東京都の小笠原諸島沖にある六科島が噴火しました。繰り返します――」


 *


 直は午後の講習を終えると、用事があると言って一目散に帰路についた。そして家の中に入るや否や、階段を勢いよく駆け上がった。部屋に入ると、緑狸の亮が窓の桟に佇んでいた。

「困ったことになったど……」

「噴火したんでしょ?」

 亮はゆっくりと頷いた。

「島民はみんなすぐ避難できたらしいけどね」

「……」


 ピンポーン―—。


 母が応対したが玄関に出られそうにない。直はお願いされたため、仕方なくゆっくりと立ち上がった。どうせ頼んでいた宅配便だろうと思い、玄関でその客を出迎えた。

「こ、こんにちは……」

「ヤッホー」

 見覚えのあるフォルムと赤い狸。直は彼らを見ると、そのまま静かにその戸を閉めた。


 ピンポーン―—。


 直はもう一度、戸を開ける。

「あ、あの……」

「酷いじゃないか! 何も言わずに閉め――」

 直はもう一度その戸を閉めて、カギをかけた。いるはずのない健たちの姿があったように見えた直は、もう一度目を凝らす。


 ピンポーン―—。


 直は、また戸を開けた。やはり健と赤狸の文だった。

「えっ、えーっと……」

「いらっしゃい、健くん」

 直の父がやってきた。そして直は、背後から父親のゲンコツを喰らうと、その痛さに思わず頭を抱えてしゃがみこんでしまった。亮は優しく彼の頭を撫でていた。その一方で健は、呆気に取られて思わずお土産を手放し、文はそんなカオスな状況に笑い転げていた。

「直、何遊んでるんだ! 早く部屋に案内してあげなさい」

「はーい……って、え? どういうこと?」

 直の頭上には、『?』がいくつも浮かんでいた。

「聞いてなかったか? 噴火で避難勧告出たから、うちで預かることにした」

「学校は?」

「お前と同じ中央高校に通うことになった」

「はい?!」

 直は、思わずよろめいてしまった。健は、直の父に連れられて二階の部屋に案内される。直の奥隣にある空き部屋だった。今までは物置小屋のごとく荷物が積まれていた煩雑とした部屋であったが、机や椅子、学用品やタンスなどがすっきり綺麗に整っていた。

「すみません、何から何まで」

「気にしないでくれ。それに健くんも直と同級生なんだから、気を使わなくてもいいからな」

 そう言って父は一階へと降りていく。父が去った後、二人は思わず顔を見合わせた。

「すみません、てっきり一年生かとばかり」

「こっちも三年生だと思ってました」

 そして二人の間に沈黙が流れる。黙々と荷解きを意外にも打ち破ったのは健の方だった。

「えーっと……、直さん?」

「『直』で……いいよ」

「そしたら、『健』で……」

 そして再び沈黙が流れる。気まずそうにする健に、直は声をかけた。

「とりあえず、町内案内しようか?」

「うん、よろしくです」

そう言って、二人は身支度を済ませて市街地へと出ていこうとする。

「たつるー、僕も行きたいよ」

「ちょっとお留守番しててね」

文はそう言われて不機嫌な顔をする。健はため息を吐きながらも、どうすべきか迷ってしまっていた。そんな彼に直はすかさずフォローに入る。

「せっかく亮もいるんだ。仲睦まじく再会を――」

「嫌だい! どうせ見えないんだから、一緒に行くんだい!」

駄々をこね続ける文に思わず二人は耳を塞ぐ。亮は見かねて、文の肩を叩いた。

「フミ、久々に会ったことだし、少し遊ぼう。直の部屋におもしろいものがあるからさ」

「まあ、スケちゃんが言うなら……。留守番してるよ」

渋々納得した文。二人は、文を亮に任せて家から出ていった。

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