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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
離島編
7/10

戦闘

「……ちゃん、スケちゃん! 」

「ん……、一体何が……」

 文がぽんぽんと亮の肩を叩く。亮がむくりと起き上がる。彼らの目の前には、大狸たちが威嚇し合いながら戦っていた。真っ黒に染まった空、今にも飲み込もうとする荒波、ひび割れていく地面、破壊されていく岩。より戦況が悪化していることは、この惨状が嫌というほど物語っていた。

「これって結構まずいんじゃない……」

「……」

 怯える文をよそに、亮は大狸たちの様子を窺っていた。二頭の大狸をよくよく見ると、見たことのある装いが施されていたことに気づいた。

「まさか……。直と健か……?」

「本当⁈ たつるー、いっけー! あたるを倒しちゃえー!」

 文は嗾けるかのように大狸となった健に檄を飛ばす。亮は文の頭をポカンと一発叩く。文は頭を抑えながら涙目を浮かべる。

「いてて……」

「何、呑気に応援しているんだ! そんなことしている場合じゃないど! ……これは大変なことに……」

 亮は念を使って二頭の状態を確認した。

「二人とも自我を失って、互いを敵と思って戦ってるど……」

「潰し合って共倒れを狙っているわけだね。相手もなかなかだね」

「倒れていなければ……、避けれたはずだったのに……」

 二頭の咆哮が鳴り響く。それは二匹の心をより一層虚しくさせた。特に亮は肩を落としたまま、表情が固くなってしまっていた。

 そんなことはつゆ知らず、大狸になった二頭は互いに攻撃しあう。尻尾を身体や顔に打ちつけたり、その反動で近くの岩を粉々にしたりする。相手に思い切り体当たりを仕掛けたかと思うとそのまま押し倒す。そして後ろからマウントを取って噛み付く。そして同じようにやり返す。かつての優しい二人からは想像できないような、その凄惨な応酬に二匹は思わず言葉を失ってしまった。

「グアッ……」

「ギャアー!」

 もはや二頭には、まるで人間だったことを覚えてない。獣のごとく互いに威嚇しながら、本能で戦っている様子に呆然と立ち尽くす二匹。

「また失ってしまうのか……」

 そのとき、二頭の互いの拳が相手の右頬に打ち付けていく。その反動で二頭は、足を滑らせてバランスを崩した。

「グゥ……」

「ギャォ……」

 二頭はともにその反動で後方に倒れ込む。そして悶えながら頭を抱えるようにしていた。

「今しかない……!」

 亮は両手を二頭に向けて突き出し、念を思い切り込めた。

「止まれ!」

 二頭は最初のうちは悶えのたうち回っていたが、突然身体の自由が効かなくなったのを感じたのか、今までよりも大きな声で暴れるように鳴き始める。

「文、今だ! あれを打ち込め!」

「えいっ!」

 文はを二人に向けて玉を打ち込んだ。それは弧を描くように飛んでいき、ついには二頭の口の中に入っていった。そのまま二頭はその玉をごくりと飲み込んだ。

 すると、二匹の大狸は光に包まれていく。それは、だんだん姿が小さくなっていき、やがて人間ほどのサイズになる。かの二頭がいた場所には、直と健が倒れていたのだった。文は健の姿を認めると、涙目ながらも彼のもとに駆け寄る。

「大丈夫? たつる?」

「あれ? 文ちゃん……?」

「よかったああ! 」

 文は泣きながらも健に身体をすり寄せる。健はそんな文の頭を優しくさすった。亮はその様子を見て心をほっと撫で下ろす。亮は直の姿を認めるとゆっくりと直のところへ向かった。

「なんか夢……? みてたような気がする」

「それは後だ。まずはあやつを……」

 直は亮を見つけると、彼を抱き寄せて思い切り抱きしめた。

「強いぞ。やめろ男のくせに気持ち悪い」

「それでもいいから。ちょっとだけ……」

 亮は見上げると、直の目からも一筋の涙が流れていた。亮は少し複雑な気持ちになりながらも、身体を直に委ねた。

「やられちゃった」

「……悪いのはこちらの方だ」

 気がつけば亮もまた涙を一筋流していたようだった。そこから感じる暖かさが直の胸を伝っていく。

「助けてくれてありがとう」

 直も亮の頭をポンポンと叩いて、背中をゆっくりとさする。

「あんなの倒さなきゃいけないのが、弱くて何もできない自分が怖いんだ……」

「……戦ってくれんか? 今度は一緒に……」

 直は少し黙ってしまう。亮はどうしても顔を上げることができなかった。少しの間の後、亮の顔を無理やり上に向けた。

「それなら怖くないね」

 直はニコッと笑いながらゆっくりと頷くと亮を肩の上に乗せて、対面にいた健のもとへ歩いていく。健も直たちの姿を見て、文とともに歩き始めた。

「直さん、亮ちゃん」

「健くん、文」

 二人は同時に右手を差し出すと互いに手を握りしめ、同時に二匹もまた手を合わせようと思い切り前に伸ばしていた。二人が握った手の感覚が、いうことを再度思わせてくれていた。

「やっぱり、手ってあったかいんだな」

「優しいからですよ。きっと」

 二人は少し笑みを浮かべながらも、そのまま倒すべきものに目を向ける。

「次は絶対負けません。直さんたちが一緒なので」

「一緒に倒して、笑顔で帰ろう」

 決意した二人の目は、先ほどよりも少し輝いていた。

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