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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
離島編
6/10

黒い靄

 あっけなく囚われてしまった二人は周囲を見渡すが、すでに黒い壁で覆われていて、何も見えない。必死に壁を叩こうとする二人だが、叩けば叩くほどその壁は厚くなるばかりだった。

「だめだ。全然ビクともしない」

「僕たち、詰んだんですかね……」

 健は少し絶望したような表情を浮かべる。しかし直は、何度も何度も手が痛くなるまで叩き続けていた。

「それでもどうにかしないと」

「それはそうでしょうけど……」

 突然、地面がとてつもなく呻き声をあげ始めたかと思うと、先ほど押し除けたはずの黒い靄たちが地表から勢いよく湧き出てくる。それらは獲物を見つけた獣の如く、容赦なく二人に襲いかからんとする。

「直さん」

「健くん」

 武器も何も戦う術がない二人は背中合わせになった。対して靄は二人から三メートルほど離れたところで、その周囲を取り囲んでいく。逃げ場は無くなってしまった。それでも直と健は微動だにすることなく、それらと睨み合っていた。

 ふと健の足下に何かが当たったような感じがした。健は足下を見ると、そこに木の棒が当たっていたのがわかった。どうやら何らかの力で、転がってきてしまったらしい。

「これでなんとかできないかな」

 健はそう思って、転がってきた木の棒をのをなんとか手に取ろうと、ゆっくりと動き始める。

「しまっ……」

 それを待っていたかのように、靄は健の腕に巻きついたか思うと、縄のように縛りつけて彼を奥の方へ引き倒そうとする。その勢いで健は倒れ込んでしまい、その反動で文もポッケから飛び出てしまった。

「うわっ!」

 その勢いにつられた直もバランスを崩してしまう。なんとか体勢を立て直そうとするも、今度は前の方に倒れ込んでしまう。その拍子に亮もポッケから飛び出してしまったことに気づかず、直は起き上がって後ろを振り向く。しかし健の姿は、すでにいなくなっていた。

 呆然としている直のもとにも、魔の手は容赦なく襲いかかってくる。それは否応なしに直の身体にまとわりつき動けなくしてしまう。直は抵抗するも虚しく、覆い尽くされてしまった。

「どうにかしないと……」

 直はそう思いながらも慌ててしまい、頭が回らなくなっていく。気づけば苦しさのあまり、そいつとともに、思い切り息を吸い込んでしまった。大きく咳き込みながらも、次第に直の頭ははぼんやりとしはじめる。

「俺、死ぬのかな……」

 直の頭に走馬灯のごとく過去の思い出が浮かび始める。生まれた時のこと、幼少期や学生時代のできごと、そしてこの島に来たときのことが次々に浮かび上がる。辛く悲しい思い出も、楽しく嬉しかった思い出も、今の直にとってはすべて苦痛や無念をもたらすばかりであった。やがて身体中に何か忌々しいものが巡っていくように感じ、痛みが彼の体を蝕んでいく。

「はぁ……はぁ……」

 段々と息が上がっていく直であったが、一気に身体の数箇所を連続して突き刺されたり、無理やり肉体を摘まれ引っ張られたりするような痛みが際限なく続いていく。直は泣きそうになる。

「痛い、痛い……。助ケテ……」

「直さん⁈ 」

 健は直の異変に気づき呼びかける。直も必死で答えようとするも、思うように言葉が出ない。

「オマエノセイダ」

 直は思わずして出した自らの声が、野獣のように低く変わっていることに気づかされた。受け入れられない現実が直を完膚なきまで叩きのめしていく。思わず叫び出すも、段々と呻き声に変わっていった。

「どうしよう。僕のせいで……僕のセイデ……」

 その自責の念に取り入るように、魔の手が健を縛りつけていく。そして忍び込んでいった。健はだんだん心が苦しくなり、その場で倒れ込んでしまった。

 さっき文に乗せてもらった時のことを思い出す。あの輝かしかった景色を前に、黒いものが横切ったかと思うと、一瞬にして業火に焼き払われる島の姿が浮かんでくる。無力な自分、悲しさがより一層彼を蝕んでいった。

「ユルサナイ」

 健もまた直と同じように低く唸るように堕ちていった。そして山井直と山井健という存在は少しずつ闇へと消えていき、全てが飲み込まれていく。


 すると、覆っていた壁が突如一気に崩れ落ちた。そこに佇んでいたのは、かの化狸に似た二頭の大きな魔獣の姿であった。

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