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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
離島編

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囚われの身

「「ハッ!」」

 亮と文は手を合わせた途端、それぞれ煙に巻いていく。気づけば二人の目の前には、二匹の大型狸が佇んでいた。

「早く乗れ」

「僕に捕まって」

 二人は言われるがまま彼らの上に乗っかる。二匹はそれを確認すると空に向かって駆け上っていった。

「ちょっ、まっ、怖い怖い! 降ろして!」

 健が必死に文に捕まりながらも声を上げた。文はとりあえず近くの空き地に降り立ち、健を地上に降ろした。文は心配そうに彼を見つめた。

「ごめん、高いところ得意じゃないんだ」

 健はそう言って、文の右の前脚に寄りかかった。文は左の前脚で健の身体をさする。健は少し心がポカポカしたような感じがした。

「もう大丈夫。だから僕を信じて」

「……うん」

 健は再び文の上に乗り、目を瞑りながらも空へ飛び出す。飛行機の離陸をも超える速度。文の勢いは止まらない。健は目を瞑りながらも、必死に化狸の背中にしっかりとしがみついた。少し早さに慣れたとき、文は健に話しかけた。

「ちょっと景色を見てみなよ」

 健はおそるおそる目を開ける。生まれ育った六科島の景色が目の前に広がっていた。見下ろした街並みや灯台に照らされた海沿いが、健の心をいつの間にか虜にしていた。

「……この島、こんな顔してたんだね」


 しばらくして健たちは海岸に降り立った。辺りを見渡す彼らは、直たちが砂浜で騒がしく言い争っているところを発見した。

「身体が少し重たいぞ、降りなさい」

「余計なお世話だ。この姿になったせいで大きくなっただけだし。お前のせいだ」

ヒトのせいにするでない、直」

「なんだと」

 歪みあう彼らをよそに、健たちは駆け寄る。

「直さん、遅れました」

「スケちゃん、お待たせ!」

 健たちに気づいた直たちは軽く咳払いをしながらも、何事もなかったかのように出迎えた。すると亮が何かを感じたのか、突然走り出してしまう。

「亮? どうしたの」

「結構近いぞ……」

 亮は直を乗せて岩陰のほうへ向かう。健たちも彼らの後に続いて走り出した。その道中、直は目の前に何かが横切るのを見る。

「また黒いのがよぎった気がする」

「あの黒い靄みたいのは怪異の分身で、あれをやっつけないといけないんだ」

「口から光線とか出せないの?」

「漫画の見すぎだ」

 直は一蹴されるも健たちとともに海岸の近くにある岩陰にたどり着いた。目の前には洞穴のようなものがあり、そこからいくつもの黒い靄が、限りなく噴出していたようだった。

「あそこに行けば、怪異は止まるんですかね」

「分からないけど、あそこが一因なのは確かみたいですな」

 突然、二匹はぽんっと音を立てて元の小さい姿に戻った。亮も文も充電切れ寸前のスマホのごとくバタンキューしていた。二人はそれぞれ化狸たちを持ち上げると、肩の上に捕まらせる。

「お疲れ様、文ちゃん」

 健が文の頭を撫でながらそう呟く。そして二人はその洞穴に向かって一歩ずつ歩き始めようとする。しかし、二人ともなかなか二歩目が踏み出せなかった。

「どうしたの、健くん」

「直さんこそ」

 お互いに足が震えていたことに気づく。得体の知れないものと戦わなければならない。何も術を知らないまま立ち向かわなければいけないのが怖かった。二人は互いに手を取ると、反対方向に引っ張りあっていた。

「行かせてください」

「いや、今は引き返しましょう」

「それはできないです」

健は声を大きく上げて抗議する。健に手を振り払われ、直は思わず離してしまう。

「私情に任せて動いちゃだめ。まずは自分たちの身を守るのが先じゃないかと」

「僕はこの生まれ育った島を守りたいんです」

健は声を振り絞りながら、こう続ける。

「さっき文ちゃんに乗ってるときに、勇気を出して、高い空から見た島を見たとき、夜でも綺麗だって思ったんです。だから……」

そのとき、ポッケに携えていた小さな化狸たちから、それぞれ赤色と緑色の一筋の光が発せられる。それらは互いを指し示すように差し違えていた。

「これは……、亮も一緒に行けって言ってるな」

 こうして二人は手を取り合いながら、二歩目、三歩目とゆっくり前へ進んでいった。二人を襲うように立ち込める黒い靄は、彼らが構わず突っ切ろうとすると、手で振り払わずとも勝手に避けていったように見えた。

 ようやく洞穴の入口近くまで来たとき、直はふとその奥を覗いた。数人がそこに倒れているように見えるが、そのうちの一人の顔を見た直は、思わず声を上げた。

「生地……? 」

 直は思わず彼の元へ駆け寄ろうとする。

「私の領域に立ち入るではない……」

 不気味な声とともに、黒い魔物が直の前に立ちはだかる。周囲の靄を固めて大きな盾を作ると、彼の前に突き出し、その身を跳ね除けた。直は勢い余って尻餅をついてしまう。

「痛てぇ……」

「直さん、大丈夫?」

 健は直のもとに駆け寄って手を差し伸べる。直はその手を借りつつも、なんとか立ち上がることができた。

「情けないな。私情に任せて動くべきじゃないって言ったばかりなのに」

「そんなことないよ」

そう言って健は、直についた靄のようなものを振り払っていた。

「お前たちよ。我に刃向かった罰を受けるがいい」

そう言って、魔物は二人に向けて衝撃波のようなものを発射していく。二人は身構えて防ごうとするも、あることに気づいてしまう。

「そういえば、技ってどうやって出すんだっけ……」

「あ……、聞くの忘れちゃった……」

 その黒い衝撃波は容赦なく無抵抗になった二人に命中した。そして魔王は、倒れた二人を閉じ込めるかのように、カプセルのようなもので覆い被せたのだった。

「馬鹿者め……。こやつらをどう調理してやるか……。そうだ」

魔王は雄叫びを上げながら、二人が閉じ込められた空間に向けて念を送ったのだった。

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