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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
高校編 ② 敵は学友にあり?

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やまのい

 ある晴れた日の生徒会室。直たちは奥側にある物置スペースからガラクタたちを取り出していた。埃を被ったそれらを、次々とゴミ袋へと突っ込んでいく。

「里太郎、港山の文化祭っていつだっけ?」

「今週末」

「……港山って何?」

 健の言葉に里太郎は思わず手を止めて、彼をじっと見つめる。彼の頭上にはてなが三つほど浮かんでいるのが見えた。

「えっと……、来年、うちと統合するところ」

「統合……?」

「そういや制服ってどうなんの? 買い換え? 学校も移転するって言うし、まさかこのままってことは――」

 固まる健をよそに、翔平が勢いよく里太郎に質問攻めにする。

「基本的には、今の制服をそのまま使うことになるって話みたいだよ」

 里太郎の答えに健は少し安堵したようだった。しかし、翔平は少し不服そうな顔をしていた。

「新しく学校建てるんだろ? ここの制服デザイン古いし、一新されるって言っ――」

「お金倍かかるから、在校生で買う人はいないよ? ほら、買ったところでさ……」

 翔平は少し考えこむと、神妙な顔をして言葉を返した。

「……浮くのは、嫌やな」

「でしょ?」

 翔平は静かに元の場所に戻り、倉庫の整理を再開する。そんな中でも直は、周りにあるガラクタをただひたすらにゴミ袋に入れていく。心なしか表情に余裕がなくなっていくようだった。

「直……?」

 健たちは、直の様子を窺うことしかできなかった。しかし直は彼らのことを気にも留めず、ひたすら押し込めていく。


「…る、あたる! 直!」


 健の大声に、直は思わずひっくり返った。

「なっ、何?」

「それ、里太郎くんの上着……」

「……あっ」

 特注サイズの上着をまさに、ごみ袋に入れようとしていたところだった。里太郎は直から上着を勢いよくひったくる。

「危ない危ない、気をつけてよね」

「ごめん」


 里太郎は溜息をつきながら、呆れた顔をした。

「まさか、俺の制服捨ててないだろうな? 山井」

「捨ててない捨ててない」

 そう言って直は翔平に上着を投げ渡す。


「山井、やーまーのーいー」

「ん? 何?」

「ちび山井は行くってさ。お前は?」

「どこに?」

「港山」

 健は目を見開きながら翔平を見つめている。しかし直は振り向きもせず、

「……俺はいい。用事あるし」

「つれねえ奴だな。緑のタヌキ野郎」

「……ナンパ猫野郎と同類に思われたくないから」

 直は、そのままゴミ袋を手に取って生徒会室を後にした。翔平はため息混じりに彼の姿を見送った。


「おーい、あたっちゃん」

 科学室のそばを通ったとき、白衣姿の豪太が出て来た。

「なんだよ、『あたっちゃん』って。呼んだことないだろ」

「名字被りはめんどくせえんだよ……。佐藤とか鈴木ならまだしも。『やまのい』なんてそうそういないってさ」

「マッドサイエンティストのパトラッシュめ……」

 訝しげな表情を一瞬見せるも、何かを思い出したかのようにポケットから何かを取り出した。彼の掌には、不格好な緑の信楽狸の姿があった。

「みんなからもらった妖獣の毛で糸を量産して作ってみた」

「……黒魔術とか使ってないよな?」

「科学の力を舐めとるのかお前は」

 直はそう言いながらそいつを手に取ると、隅々まで見渡していた。

「さすが家庭科最下位」

「嫌なら返せ」

 直は豪太に取られまいと、腕を彼方へ伸ばす。豪太は苛立ちを多少覚えたものの、敵わないと悟ったのかすぐに諦めた。

「とりあえず、これならあいつら……大丈夫だろ?」

「……」

 直は黙ってそいつを見つめていた。

「山井二号は、『なんかヒーローの変身グッズみたいだね』だってさ」

「……島でもテレビ入るのかよ」

「バカにしないでよって怒られた」

 豪太の口から乾いた笑いが出てくる。

「なんかさ特殊なにおいがするんだよな。《《あいつ》》さ」

「……変な嗅覚が働いてんな」


 *


「港山の文化祭行ってきた。お土産」

 健が帰ってくると、袋の中から肉じゃがの入ったタッパーを取り出した。

「なんで肉じゃが……?」

「メイド喫茶で売ってたの」

「……はい?」

 直の脳内はショート寸前。ただ唖然と佇むことしかできなかった。そんな彼をよそに、両親と健は持ち帰ってきた肉じゃがを少しずつつまんでいた。

「直も食べたら? 冷めちゃうわよ」

「……いらない」

 少し寒気を感じた直は、ひっそりと自室に戻っていった。机のパソコンを立ち上げ、ソフトを開くと、その画面をただ見つめていた。

「またお絵描きか」

「……うるさいな、タヌキ」

 緑狸の妖獣・スケが、机に飛び乗った。腕に寄りかかる彼を、直は少し鬱陶しく払い除けようとする。それでもスケはビクともしなかった。

「……」

「……」

 黙りこむ主と狸。すると突如パソコンから通知音が鳴った。メール受信のポップアップ。それをクリックすると、直が投稿したイラストに「いいね!」がついたことを伝えられた。

「見た目によらず、こんなかわいらしい絵を描くんだなあ」

「……まだまだ、こんなんじゃ」

 机から離れようとした途端、健と赤狸の妖獣・フミが部屋に入ってきた。目が合う二人と二匹。少し胸騒ぎを感じる。

「……これ。肉じゃが。さっきの」

「あ、はい……」

 健が話を切り出して、手に持ってた肉じゃがを渡す。

「机、置いといて」

「うん」

 そう言って直は部屋を出ていく。健は少し溜息をつくと、言われたとおりに直の机に肉じゃがを置いていった。

「二種類あるな」

「うん、一つは文化祭でもう一つは……」

「たつるが作ったん――!」

 フミの元気な声が部屋にこだまする。健は思わず赤狸の口を両手で塞いだ。緑の狸は、肉じゃがのにおいをスンスンと嗅いでいる。

「日本男児が料理やらお絵描きやらするとは……、甚だ嘆かわしい」

「健の料理ってめっちゃ美味いんだよ! スケちゃんの殺人料理と違ってさ!」

「そんなんだからお前は……!」

 狸たちが部屋の隅で争っている中、健は直のパソコンの画面に見入っていた。少しパソコンをいじっていると、彼の過去の投稿が一覧で出てきた。

「……」

 健は、息をのみながらも黙ってそれらを一つ一つ眺めていた。


「何してんだ?」

 健が声をする方に振り向くと、直が直立不動で立っていた。

「別に、調べ物で借りただけ」

 健は、少し気まずそうに赤狸を連れて出ていこうとする。

「あたるの絵、もっと見せてよー!」

 フミの無邪気な言葉に、直は健を再び見た。

「……見たのか?」

「……うん」

「勝手にみるなよ」

 冷静を保ちながらも、直の言葉が氷柱のごとく冷たく鋭く、健の身体や心を突き刺していくように感じた。

「でも、あの絵は――」

「いいから!」

 直は語気を強めて、直とスケを勢い良く押し出すと、思い切りドアを閉めて鍵をかけた。健はしばらくの間、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

「……肉じゃが、捨てないで食べてよ」

 それだけが精いっぱいだった。それだけ言って、健は自室へと戻っていった。

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