せいとかいちょう
――コンコン。
「はい、どうぞ」
里太郎の声に応じて生徒会室のドアが開く。そこには直の姿があった。
「突然すまんな」
「いいよ。僕も煮詰まってて気分転換にもなるし」
里太郎はそう言いながら、椅子に腰かけるよう直に促す。直はゆっくりとそこに腰かけると辺りをゆっくりと見渡した。
「珍しい?」
「生徒会室なんて滅多に入らないからな。こんなペーペーな人間は」
「いやいや、毎月来てるでしょ? 学級委員長さん」
直の言葉に里太郎は乾いた笑い声をあげる。そして委員長会議で使う資料を直から受け取ると、自分の席についてそれらに赤入れしていった。その間、直は暇を持て余しながら、勝手に冷蔵庫から取り出した飲み物に口をつけた。
「こんなもんでいいかな」
数分後、里太郎はニコニコしながら直に資料を手渡す。そんな彼とは対照的に直の表情はどんよりとしていた。
「うげっ、赤入れがたくさん……」
「まだまだ少ない方だよ。山井はちゃんとした文章書けてるし、誤字脱字もないから気楽に見れるよ」
直はもう一度資料の赤の多さに圧倒されたままだった。里太郎の顔をチラッと窺うと、
『じゃ、これ直してきてね』
と声が聞こえてきたような気がした。
「学生の本業は勉学だろ……って、学年一位はそんな心配ないか」
「……そんなことないよ」
里太郎は少し声を落としながら、寂しそうな顔をして返事をした。
「……そっか。まあ謙遜するのもお前らしいがな」
直はそう言って、生徒会室を出ようとした。
「やっぱり本当の僕なんて、誰も見ようとしないんだ……」
――ガチャ。ガチャ。
「あれ……、開かない?!」
「やっぱり君も、みんなと同じなんだね……」
その声とともに、鋭い矢が直のすぐ横を通過する。おそるおそる振り向くと、そこには黒の装束を纏った狸耳の少年がいた。
「……」
その少年は無表情のまま、もう一度直を目掛けて次々に矢を放つ。直は辛うじてその矢を避けながら、彼との間合いを取った。
「直!」
緑狸の亮が直に飛び込んできた。そして光に包まれるとともに、かの狸耳つきの装束姿に身を変える。その光景にかの少年が少し驚きの表情を見せた。
「山井が変身した……?!」
彼の言葉に表情を変える直。そしてこう尋ねた。
「……里太郎なんだな」
彼は表情を少し緩めると、こう答えた。
「うん、そうだよ。さすが学級委員長の山井直だね。その様子だと全部察してるんじゃない?」
「やっぱりお前が……」
「そうだよ。僕が全部やったのさ。刑部様のお陰で僕は強くなれたんだ」
里太郎がそう言うと黒い狸がヒョコっと現れた。そして里太郎の肩に乗っかると直たちの様子を窺っていた。思わずたじろぐ直であったが、彼の肩に乗っかった亮が声をかける。
「この人間をどうするつもりだ、黒狸よ」
そいつは不敵な笑みを浮かべながら、こう答える。
「うるせえな三下ども。こいつと利害が一致しただけだ」
里太郎はそいつの頭を優しく撫でてやると、再び直に矢を向ける。
「君は僕のことなんて何にも知らないんだよ。だって、今まで誰にも見向きなんてされなかったからね」
「お前は生徒会長としていつも――」
「みんなそう言うけど、結局離れていくんだ! 結城里太郎として見てもらったことなんてない! ただの中央の生徒会長としてしか見てくれないんだ!」
そして弓から手を放す里太郎。直は両手を掲げて、放たれた矢の動きを辛うじて止める。
「限られた人じゃ意味がないんだよ。多くの生徒が、大半が、全員が! 認めてくれないなら、頑張っても意味がないんだよ」
一瞬、直の手の力が緩む。そして矢は勢いを残したまま、直の装束を掠っていった。その状況に直は身体を震わせるしかなかった。そんな彼をよそに里太郎はゆっくりと近づいてくる。
「山井、多数決の原理ってどういうものか知ってる?」
「……多数の意見をもって、集団の意見とするってやつだろ」
直の答えに、里太郎は頷いた。
「今までは無視されがちだったけど、刑部様の力で僕のみんな賛同してくれるようになったんだ。やっと僕の物語が始まったんだ。だから――」
里太郎は直を小突いた後、倒れこんだ彼の喉元に矢を近づける。
「ハッピーエンドを迎えるまでは、誰にも邪魔させない」
直は身動きが取れなくなった。しかし能力で里太郎の動きを止め、彼の手をはたいて矢を彼方へ投げつけた。
「俺は里太郎みたいに頑張ったことがないからわかんないけど、今のやり方は間違ってると思うぞ」
直は里太郎の胸倉を掴み、平手を彼の頬を目掛けて勢いよく振りかざした。その瞬間、頭に一発の衝撃を受ける。
「痛っ……!!」
その後、直は横方向に吹き飛ばされた。そしてゆっくりと起き上がると、目の前には仲間だったはずの犬耳つきの装束姿の少年が、スパナのようなものを持って佇んでいた。
「こっ、駒井……?!」
「こいつに手を出すなら、俺は許さない」




