従兄弟
直は飛行機とフェリーを乗り継ぎ、六科島の小さな港にたどり着いた。
「観光でココに行くなら悪いことは言わねえ。引き返しな」
なんて冗談を言われていた直だったが、特に気にすることなく下船する。そして待合室に入ると、適当に近いところにあった椅子に腰掛けた。直は、ここで従弟の迎えを待つことになっていたのだ。
「と言ってもなあ……」
実のところ、直はその従弟に一度も会ったことがない。唯一わかる手がかりとしては、年齢が同じくらいの高校生ということだけだった。直は待合室の窓から景色を見つめていた。すると何か大きな影が一瞬右から左へと横切った。
「……?」
直は何かと思い、視線をそいつが行った方に向けた。しかし、その先には誰一人いなかった。
「うーん、やっぱり長旅で疲れて……気のせいかな。」
考えてもキリがないと悟った直は、何もなかったと思い直すことにした。次第にウトウトしてくる。そのとき、一人の少年が待合室の方に歩いてきた。彼は直の姿を認めると、そばに駆け寄ってきた。
「あの、もしかして山井直さんですか?」
「そうですけど……」
「はじめまして、従弟の山井健です」
「あ、どうも。はじめまして……」
直が健と目が合った瞬間に、少し身体が痺れる感じがしたのだった。
二人は、とりあえず健の家に行くために海辺に近い道路を歩く。二人の間には沈黙しか流れない。同じ高校生のはずなのに、なんだか少し変な感じがした。なんとか気まずさを取っ払おうとして、直は声をかけようとする。
「えーっと……」
「あー……何を話しましょう……」
共通の話題も出てくることはなく、ただただ時間が流れるばかりだった。
しばらく歩いて集落に入ると、健の住む家に到着する。健は引戸を開けると、
「どうぞ……」
と言って直を招き入れた。家の中を案内した後、健の隣の部屋にある空き部屋に案内される。今回はそこを使わせてもらうことになった。
「まあ、好きに使ってください」
「ど、どーも」
直は荷物を部屋に置くと喪服に着替えようとする。
「荷物の整理が終わったら……」
「大爺さんの家に……行くんですよね? 」
「その前に、この島に祀られている神様にお参りしに行きます」
直は健の言葉に呆気にとられながらも、尋ねてみた。
「亡くなった身内をこれからお見送りするというのに、そんなことして……」
直の様子に少し苛立ちながら、健はハッキリとこう返した。
「直さんは島の外にいた人間ですから、この島の祟りに遭わないためにも、最初にお参りしてもらわないといけないんです」
直はその言葉に少し腹立たしさを覚えながらもぐっと堪えた。実のところ、祟りとか非科学的なものは直は信じていない。しかし健の顔は真剣そのものであった。彼の様子を見る限り、冗談とも嘘とも思えなかった。とりあえず黙って頷くことにした。
「そしたら、ついてきてください」
「はい」
健は直を連れて、近くの祠へと向かう。その最中に健はこの島の伝説について話してくれた。昔々、島民に悪さをする化狸が三匹いて、そいつらを浄化して祠に封印したのが、この六科島の山井家だということ。島の外の人間は、六科島の安寧のために一週間以上滞在する場合は、必ず祠にお参りをしなければ、その化狸の祟りに遭うと言われているということだった。
「まあ本当かどうかは定かじゃないですけど」
「ふーん……」
次第に二人は山道に入っていく。そこからさらに奥に進むと、洞窟らしき場所が見えてくる。
「ここです。この中にその祠があるのでお参りしていきましょう」
「結構、不気味な場所ですね」
そうして二人は、緊張しながらもその中へと入っていった。