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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
都会編

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14/23

また巻き込まれる

「ちょっ、おまっ……!」

「えっと……」

 翔平は、直と健の姿を見て大笑いする。直と健もその声を聞いて急に顔を赤らめる。しかし直はすぐに思い直して、翔平に警告する。

「お前は逃げろ!」

「高校生にもな……、コスプ……! 可愛すぎだろ! ヒーッ!」

 それも空しく翔平は笑い転げてしまった。黒い化け物は直たちをよそに、翔平の姿を認めていた。それはすなわち標的を彼に向けたということだった。そいつは彼に照準を合わせると、靄を弓矢に変えて射ようとしていた。

「やっ、やめろ!」

 直は何とかしてそいつの動きを止めようとするが、すでに翔平に向けて矢を放ったところだった。

「まずい……!」

「翔平くん!」

 その時、別の窓から三毛猫が飛び出してきた。

「おっ、ミケじゃねえかー!」

 翔平がミケを抱きかかえた瞬間、その矢はミケと翔平を貫通してガラス戸にぶつかる。翔平たちはその場に蹲ると、胸を押さえて倒れてしまう。直たちは彼のもとに向かおうとするも、そいつの手によってまたもや縛り付けられてしまった。二人は翔平たちが黒い化け物によって靄で包み込んでいくただ見つめることしかできなかった。

 

「……なんだこれ?」

「ミャー……」

 翔平は気がつくと靄の中で彷徨っていた。ミケを抱きかかえたまま歩いてみるも、靄で作られた壁から出ることができなかった。

「あのときみたいだな」

 彼は六科島に家出したときのことを思い出す。島民に止められながらも無理やり入ったこと、そして同じように捕まってしまったこと。そして謎の狸に助けられたこと。奇妙な思い出であるものの何だか懐かしく感じた。そして、その壁越しに直と健が捕まっている様子が浮かんできた。そして、二人を目掛けて矢で射ようとしている

「山井たちが……」

 翔平は血相をかいて、ガンガンと壁を叩き割ろうとするもびくともしなかった。手応えのない結果に翔平は打ちひしがれていた。何もできない自分に落胆することしかできなかった。

「へーんしんっ!」

 突然、翔平は大きく声を上げて、戦隊ヒーローのごとくポーズを決める。しかし何も起こるはずもなく、虚しく笑った。

「だよなあ……。そんな漫画みたいな話あるわけないよな」

 ミケは心配そうに翔平の胸にポンと前足を置く。すると、二人の足元から突然光が現れた。それは翔平たちの身体を包み込んでいく。翔平はその光の温かさに、心が満たされていくのを感じた。


 一方、直と健は吊し上げられたまま縛りつけられていた。だんだんとあきらめの表情を見せる二人に、魔物は揶揄うように笑っていた。身動きも取れない以上、何もする気が起きなかった。

「ついに人生終了か……。さよなら人間界」

「まだ諦めちゃダメだよ! 翔平くんを連れ戻さないと!」

 健の説得も空しく、直はもう諦めの境地に立たされていた。そのときだった。突然、黒い靄の中から光が漏れ出し、盛大に放たれていく。遂にはその光によって黒い壁が壊されると、中から一人の少年が現れた。

「っしゃおらあ!」

 そこには、猫耳と二本の尻尾を持った少年が立膝の状態で座っていた。身に纏っていた和服の模様はあの三毛猫のような配色であった。

「嘘だろ……」

「翔平くんが変身した?!」

 またもや翔平に向かって、刃が向かってくる。しかし彼はひらりと躱すと、直と健を縛り付けていた紐を次々に切り裂いた。そして落ちかけた二人を両脇に抱えると、静かに両足で着地する。

「俺が女の子を抱きかかえて救うのが夢だったのにー!」

 直は同級生に、しかもよりによって親友の翔平に助けられたという事実に肩を落としていた。そんな彼を見て、翔平は鼻で笑った。

「残念だったな、山井狸」

「なんか腹立つわ、この生地猫」

 なぜかいがみ合う二人。そんな二人を目掛けて化け物たちは攻撃してくる。

「直! 翔平くん!」

 健の声とともに、ジャンプして攻撃をかわす二人。そして翔平は健を抱きかかえると、大きくジャンプする。

「そのパチンコって、俺でも飛ばせるか?」

「やったことないからわかんない」

 そのやり取りを聞いた直は、妖力によって二人の動きを空中で止める。

「それで俺を飛ばしてくれ!」

「えーっ!」

 健は驚くも、とりあえず言われたとおりにパチンコで翔平を弾いた。そして翔平は勢いよくその魔物に突撃していく。魔物は逃げ出そうとするも、直に動きを止められてしまう。

「とりゃあ!」

 翔平が切りかかる直前に靄が覆うも、いとも容易く断ち切ってしまう。そして本体に切りかかろうとした瞬間。


 ――ボンッ!


 そいつは、煙を立てながら木の棒を身代わりにして逃げ出していた。まるで忍者の変わり身の術のごとく。


 *


「はい、牛乳サービスね」

「ありがとうございます」

 三人は、風呂上がりに番頭さんから牛乳を受け取ると、一気にグビグビと飲み干した。少し疲れている様子に不思議だと思っていたものの、特にそのことを触れずに三人を見送った。

 最寄り駅へ行く道中、翔平は少し興奮しながら二人に話しかける。

「今日はなんか不思議な体験だったなあ。こんなの初めてだよ」

「……」

「……」

 翔平の言葉に直と健は言葉を詰まらせてしまった。今日のできごとについて、二人の頭の中では、ある結論が導かれていた。そうなると翔平に対する申し訳なさでいっぱいになったのだった。

「なんで黙るんだよ……」

「不用意な戦いに巻き込んだ自分たちが許せないんだ」

「……」

直は一向に翔平と目を合わせようとしなかった。そんな彼を見かねて健は爆弾発言をする。

「直は、コスプレ呼ばわりされたのが恥ずかしかったんだよね。家では結構変身してコスプレ楽しんでるから」

「ちっ、ちが! それは健だろ!」

突然の反論に健も慌てて言い返す。その様子がおかしくて、翔平は笑い出した。

「俺は全然気にしてないからな! まさか高校生になって、本当に変身して戦うなんて思ってもみなかったし! こういうの俺好きだし!」

翔平の言葉に直も健も黙ってしまう。ゆっくり歩いていくうちに、三人は最寄り駅についてしまった。そのとき、翔平は別れ際にこんなことを言い始めた。

「いっそ、妖怪退治部でも作って部活にしてみようぜ?」

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